29. 空知支部予選・代表決定戦 (vs夕奈月深北)
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栗川の一回戦勝利から中三日おいて、空知地区の代表決定戦、三試合が行われる。
参加校数が少ない事もあって、ほぼ下馬評通りの組み合わせとなった。
まずAブロックは第1シードの滝川北と、深川南。
Cブロックは第3シードの2校、アンビシャスと東岩見沢。
そして栗川の属するBブロックでは、菫さんたちの連合チームが勝ち上がってきた。
菫さんの夕張谷高校野球部は、部員4名。
同じく部員が9人に届かない月形商、深川北、そして部員入部で野球部復活した奈井江の4校で、連合チームを作っている。通称は夕奈月深北。
ちなみにこれらの4校はいずれも、栗高の生徒数130人より、さらに生徒数が少ない超小規模校だ。
実は栗高も、部員が足りない時には、しばしばこの連合のお世話になっている。
10年近く前から連合の中心になっている、月形商の佐内監督がまとめ役だ。
昨年、一昨年の栗高は、この連合の一員だった。
連合チームについては、やはりと言うべきか三年の先輩方が詳しかった。
「平日はそれぞれの高校で練習やって、土日に球場借りて、合同練習するのさ。練習のノウハウもしっかりしてっから、油断してると足元すくわれるぞ」
栗川と同日に行われた連合チームの一回戦を観戦した一年部員たちは、彼らの戦い振りを思い出して、大いに肯いた。
けして弱くはない中堅校相手に6対2と完勝、投打ともにかなりの実力を有していると考えて良い。
事実、歴代の連合チームの中でも、最強に近いという噂だった。
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「ピッチャー、コントロール良かったですよね」
フクローが中心になって、先輩方の話を聞く。
何と言っても、連合を組んだ元チームメイト、情報はいくらでも持っていた。
「夕張谷の寺谷だな。三年だ」
指が長くてフォークボールを投げる事まで知っている。
深川北の三年に、ピッチャーがもうひとり居るそうだ。
攻撃の要は、月形のメンバーが担っている。
「特に4番が凄かったすね。身体は大きくなかったけどホームランも打ってたし」
「ああ。あれは二年なんだ」
噂の4番打者は、月形商二年の長谷川流為さん。
走攻守揃った左投げ左打ちの外野手で、長打力もかなりあるという評判だ。
「あいつは……ちょっと生意気だったな」
「な」
三年の石井さんと小林さんが、目配せし合う。
中心選手の広田さんはともかく、他の三年は上級生として、思う処が少なからずあったらしい。
「カナン、フクロー、ぜひ長谷川に一泡吹かせてやってくれ」
先輩方がふたりの背中や尻を、ポンポン叩いた。
確かに向こうの中軸に好き放題やられては、試合に勝てない。
投げるカナンだけでなく、フクローのリードも重要になるだろう。
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代表決定戦、カナはカナで、菫さんとの再会を楽しみにしていた。
菫さんは月形の女子マネージャーと話していたが、カナの姿に気付くと、微笑んでゆっくりと手を振った。
ジャージの下に見えている肋骨固定のコルセットが、痛々しい。
完治までには、あと十日ほどは必要との事だった。
「と言うことは――完治してから再試までに、二週間くらいしかない、てことですか?」
「沙綾は辞退するんだってさ。再試受けるのあたしだけになったから、日程を調整してくれるそうだから、ゆっくりケガ治すさぁ」
なんでも沙綾は、ケガの具合が思わしくなく、復帰に時間がかかる、という建前だったが――本音はひとりで追試を受けたくなかったらしい。
「真綾と一緒に合格したい、てはっきり言ってたらしいよ。まあ、そういう生き方もあるんでないかい」
月形の女子マネさんも紹介された。
山本奈月さん、二年生だ。
名前がチーム名と同じですねと驚いてみせたら、偶然じゃなかったらしい。
月形町生まれで母親が奈井江の人だから、そういう名前になったのだと、健康的な笑顔で話してくれた。
「香奈ちゃんは選手と思えないほど、こまくてめんこいねえ」
「これで凄い子なんだから。足なんか男子並に早いし、守備とバントの名手だよ」
「いやいやぁ、こまくてめんこいからっ、油断してて下さいー」
奈月さんは大袈裟に笑ってくれたが、菫さんには、笑うと肋骨に響くからやめてくれって諭された。
「今回あたしは、スタンド応援。秋季こそは、ベンチに入ってみせるよ」
サバサバした顔で、菫さんが話す。
あ――そっか。奈月さんが記録員でベンチ入りするから、菫さんの入る枠がないんだ。
「香奈ちゃんの事は個人的に応援するからね、けっぱれ」
「ありがとうございます」
「したっけ今日は敵だから、大っぴらに応援は出来ないけどねえ」
ケガの療養中でも、菫さんは相変わらず大らかで明るかった。
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試合は、序盤から動いた。
一回表をカナンが三者凡退で切って落とした、裏の攻撃。
カナはファーストストライクのストレートに、バットを合わせていった。
カキン。
タイミングは合っていたのに、打球は前に飛ばず、バックネットに突き刺さるファール。
練習ではカナンの豪球にも付いて行けたのに……本番の試合では、勝手が違う。
現時点でのカナのスイングスピードでは、少なくともミート重視のバッティングでは、男子の投げるストレートに完全に振り負けしている。
カナはこの大会で、それを痛感した。
この場面で、カナに出来る事はふたつ。
ひとつは、空振りを怖れず強振する。
もうひとつは、変化球に的を絞り、直球は何とかカットで切り抜け、内野安打か四球を狙う。
1番打者、身長147cmのカナがやるべき事は、もちろん後者だ。
相手ピッチャーの寺谷さんは、変化球を投げてくれなかった。
明らかにストレートだけで、カナをねじ伏せに掛かっている。
そして現在のカナに、それを撥ね除ける力量は無い――くー、悔しい。
ただ……球種は分かってるし、タイミングも掴んだ。
しかもコースが、だんだん真ん中の甘い処に集中してきた……これはイケるかも。
2ボール2ストライクからファールで粘った七球め、カナは狙い定めたセーフティバントを敢行した。
コンッッ。
2ストライクからのバントは、誰も読んでなかっただろう。
フェアゾーンに転がしさえすれば、そしてキャッチャー前でさえなければ、ヒットになる自信があった。
三塁前に転がしたバントは、そしてその通りになった。
カナ、バントヒット成功。栗高は先頭打者が出塁した。
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カナの走力と走塁技術は、連合チームの守備力では歯が立たなかった。
初球、いきなりセカンドに盗塁を決める。
その後、ランナーを意識しすぎた寺谷さんは、硯に対して四球。
完全にこっちの思う壺である。
そして仕上げに、フクローへの初球、カナは三塁へ単独盗塁を行った。
これは完全に相手の意表を突いたらしく、キャッチャーの悪送球を誘う。
こうしてカナは、悠々と先制のホームを踏んだ。
「怖ろしいヤツだな……こうされたらヤだな、てこと、全部やってくれたっしょ」
カナンが苦笑いしながら、カナとハイタッチを交わす。
「それ、褒め言葉かい?」
「うん」
カナに引っ掻き回された寺谷さんは、立ち直るのに時間が掛かった。
フクローのタイムリー二塁打で、2点め。
広田さん四球の後、北野さんがレフト前にタイムリーを放ち、結局初回で4点を先制した。
二回表。
連合チーム屈指の強打者、長谷川さんに対して、カナンはギアをひとつ上げたようだった。
フクローも、今日のカナンの調子なら、抑えられると踏んだのだろう。
ストレートを三球続けて、ゾーン内のギリギリいっぱいに投げさせた。
結果は、三球続けて空振りの、三振。
バットに擦らせもしなかった長谷川さんをマウンドから見下ろすカナンの姿は、長谷川さんよりも遥かに生意気な後輩だった。
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二打席め以降のカナであるが、バントヒットを警戒された超前進守備を敷かれた。
こうなると、緩い当たりでの内野安打さえも、難しくなる。
普通に打ったが、ピッチャーゴロ。
とうとうカナはまともなスイングを捨てて、可能な限り身を屈め、四球狙いに専念した。
結果は、1三振1四球、1進塁打。
可もなく不可もない。
点差の開き始めた連合チームは、途中から全員出場させる方針に、転換していったようだ。
「連合チームの監督って、難しそうだな――他校の生徒にも、気を使わなくちゃなんないんだ」
フクローの呟きに、佐藤監督が腕組みしながら深く肯いた。
「勝つだけが、すべてじゃないからな……佐内さんはそこの匙加減、上手えんだ」
カナンのストレートはどんどん走り、三振と凡打の山を築く。
またも外野まで、ほとんど打球が飛んで来ない。
バットを短く持った長谷川さんが、センター前に打球を運ぶのが、やっとだった。
結局カナの守備機会は、二試合で当たり損ねの浅いレフトフライ、ひとつきりだった。
六回裏、栗川が10点めを取り、コールドゲーム成立。
「ほんと去年とは別のチームだな。見違えたっしょ」
連合チームの主将から、本戦でも頑張るよう、エールを送られる。
こうして栗高は、北北海道に移ってからは初めての、空知代表の座を勝ち獲り、七月中旬に旭川で行われる北北海道選手権大会への出場を決めた。




