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22. 認定試験・二日め 実技試験その2


 一夜明けて、カナたち5人はすっかり仲良くなっていた。

 朝の円山公園を横断して、みんなで球場に向かう。


 札幌の六月は、春もたけなわ。新緑の季節である。

「爽やかだねえ」

「周りにお洒落な店も結構あったし――今度は遊びで来たいな……」

 千砂さんの呟きに、カナを除く3人がうんうん、と肯く。


 これでも中身は男だからな。

 ショッピングとかスイーツとか、そっちの方面にはあまり心が動かない。

 もっとも、香奈の頃も野球ひと筋の生活を送っていたようだから、入れ替わりがなくても似たような反応だったかも知れない。


 昨年も認定試験を受けた遥乃さんの話では、残った実技試験は、バッティングとピッチング。

 まずマシンを使って全員で打撃練習を行い、その後は投手と野手に別れる。

 投手はブルペンで、ボランティアの男子選手相手にピッチング開始。

 野手は、これまた男子の打撃投手が投げるボールを、順番に打つ。


「で、最終試験は実戦形式の紅白戦なんだけど、受験者が去年の倍だからねえ――去年とまったく同じかどうかは、ちょっと分からないな」

 昨年の受験者は8人で、合格は三年生ひとり。

 その唯一の合格者は、札幌地区で二回戦止まりだったがセカンドのレギュラーとして活躍し、北海道の高校野球史にしっかりと爪痕を残した。


 ちなみに6人が札幌の高校で、それ以外は遥乃さんと、旭川からの三年生だけだった。

「泊まったとこも、ビジネスホテルの個室で、夜はずっと独りで――だから今年は、賑やかで楽しかったな」

 そう言って遥乃さんは、気持ち良さそうに新緑の木々を見上げた。




 認定試験二日めの日程が言い渡される。

 遥乃さんが話していた通りで、初めは全員でマシンを使ったバッティング。その後は投手野手に分かれて、ボランティアの男子選手と一緒にピッチングとバッティングの試験だった。


 そして今年の最終試験は、受験生17人を3チームに分けて、5イニング二試合ずつの巴戦を、午前後半から午後いっぱいかけて行う事となった。


「まあ、そうなるっしょ」

 菫さんがカナに話し掛けてくる。

 女子選手たちの得意ポジションはセカンドとファーストに集中している事、技量の足りない選手がいきなり捕手をやるのは不可能な事などから、女子だけ9人でチームは組めない。

 ショートやセンター、キャッチャーといった要のポジションに男子選手を置き、サポートしてもらうのが常套手段だそうだ。


 まずは全体でアップ、そしてキャッチボール。

 今日は男子選手もいるので、カナだけあぶれる事はない。

 カナは菫さんと組んで、和やかにキャッチボールをした。


 パシン。

「香奈ちゃん、球筋安定してるね。ピッチャーやってたせいかな」

「あざぁす」

 打たせない投げ方をする必要はもはや無いので、フォーシームの握りから素直に投げている。


 パシン。

 菫さんもキャッチボール、結構上手い。

 先輩を褒めるのは失礼にあたるような気がして、にっこり笑って嬉しそうに捕り、コメントの代わりにした。


 アップの後は、マシンを使ったバッティング。二列に分かれてスピーディに行う。

 速球の設定は125km/h。高校男子なら並以下の速さだが、女子ではともするとパワー負けする球速だ。

 2球だけ予告なしに、カーブが混ざる。


 まずはピッチャーから。

 遥乃さんはバッティングがあまり得意じゃない感じだったが、五月女姉妹はコンコンと快音を響かせていた。

 モデル体型で力強さは感じないが、ふたりとも振りがシャープでミートが巧い。

 野球センスが図抜けているんだろうな……そう再認識させるバッティングだった。


 20球ずつ打って、ピッチャーは上がり。ブルペンでの投球練習に向かう。

 野手陣では、クマゴロ……じゃなかった、葉月さんのパワーが半端なかった。


 ガキーン。

 凄い音がして、マシンの投げる球だとフェンス越え連発。

「ひえー」

「ピンポン球みたいって、こういうこと言うんだね……」

 菫さんもカナも、自分の細腕をさすりながら、高くアーチを描いた打球を見上げていた。


 カナはいちばん最後、菫さんと同時だった。

 左打席に入り、可能な限りバットを短く持ち、オープンスタンス気味に構える。

 さ、集中だ。


 マシンからボールが排出される。

 左打ちに変えていちばん苦労したのが、押し手である左腕の動きだった。

 巧く左肘を畳みながら、利き腕である右腕と均等に力を込め、連動させる。

 そうしないと変化球には対応出来ないし、第一カナの筋力だとパワー負けしてしまう。


 外角に125km/hのストレートがやって来た。

 タイミング良くバットを出す。

 スイングはレベルからややダウン気味、ボールの上を叩いてゴロを転がすイメージだ。

 フライを上げては、カナの俊足が活かせない。


 コーン。

 流し打った打球は、三遊間方向へ鋭く転がっていった。




 マシンでのバッティングがひと通り終わった処で、今度は野手12人がひとりずつ、シートバッティングを行う。

 人数が多いので4人ずつ三組に分かれ、代わり番こで守備に就く。

 カナは千砂さんと同じ最後の組で、男子選手と一緒に、レフトを守った。千砂さんはサードだ。


 シートバッティングの守備は、ほぼカバーリングに終始した。

 なにしろ、ほとんど外野に打球が飛んで来ない。

 ボランティアで投げている打撃投手の球速は、マシンより若干速い程度で、しかも外角球主体だったが、やはりマシンとは勝手が違うようで、ほとんどの人が振り遅れか、球威に押されていた。


 唯一、外野にスコンスコン飛ばしていた葉月さんは、左バッターで引っ張り専門らしく、打球はライトにばかり飛んで行く。

 カナは、ふらふらと飛んで来た浅いフライをひとつ捕ったのと、千砂さんが大きく弾いたボールをカバーで拾っただけだった。

 ショートを守っていた藻岩もいわ高校の三年、西にしさんの守備がかなり巧いのに気付いた。



 二番めのグループの打撃では、カナたちは休憩。

 菫さんもボールの球威に若干押され、ショートゴロを乱発していた――もっとも菫さんの足なら、それで内野安打を狙えるかも知れない。


 横目でブルペンを見る。ピッチャーたちは投げ込みの真っ最中だ。

 遥乃さんは右のオーバースロー。見たところ、ストレートは110km/h前半だろう。

 五月女の双子は、真綾が右のアンダー、沙綾がかなり珍しい左のアンダースロー。

 ともに流れるようなフォームで、キレのあるクセ球を投げているようだった。


 最終組のシートバッティングとなり、カナの番が来た。

 外寄りにストレートが来て、踏み込んでバットを合わせる。

 カキン。

 やはりと言うべきか、マシンの時より手応えが重い。

 振り遅れこそなかったが、勢いのないショートゴロだった。


 現在ショートを守っている三年女子は、そのゴロを待って、定位置近くで捕った――あのタイミングと女子の肩では、カナの足なら楽々セーフだろう。


 ――この感じなら、最終試験では、この打球で通用するかな……

 打球自体の情けなさにも関わらず、カナは大きく肯いて、再びバットを構えた。


 やや苦戦したシートバッティングだったが、一球だけ良いバッティングが出来た。

 内角に来たカーブを、ドンピシャのタイミングで叩く。

 打球は低いライナーとなって、一二塁間を抜けていった。

 逆にクリーンヒットは、このひとつだけであった。


 シートバッティングが終了すると、全員集合したカナたち受験生に、最終試験の概要や、チーム分けが言い渡される。

 A、B、Cの3チームで、おそらく戦力やポジションが均等になるよう、配慮されている。

 カナはAチーム。Bの真綾、Cの沙綾とは別チームで、人知れず胸を撫で下ろした。

 ――変に絡まれて、集中を乱したくはないもんなぁ……


 Aチームだけひとり少ない5人。

 ピッチャーは遥乃さんひとりで、セカンドの内野手が三人。千砂さんと、先ほどの西さんもAチームだった。

 葉月さんがBチーム、菫さんはCチーム。

 午前中にまず、AチームとBチームが試合をして、昼食休憩に入る。

 午後に入り、A対C、B対Cの順に試合を行うスケジュールだ。


 早速、Aチーム対Bチームの試合が行われる。

 カナはパチン、と両頬を掌で叩き、これからチームメイトとなるみんなの輪に入っていった。


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