12. カナ、カナンにもの申す(空知支部予選二回戦)
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栗川高校二回戦の翌日、カナンはちょっとしたヒーローになっていた。
なんとノーヒットノーランを達成したのだ。
打者29人に対して15奪三振、1エラー1四球の完封劇。
打線も繋がりを見せ、5対0での快勝劇だった。
試合後の取材がわんさか来た、とカナも聞いていたので少し期待していたら、道新の地方版に、デカい写真付きで記事が載っていた。
久々の準決勝進出。
相手は、アンビシャスハイスクール。
平成になってから創立され、野球部が出来てまだ十年足らずの新鋭校である。
しかし道内有数の名将、佐崎監督の指導の下、創部三年めで甲子園出場。
その後もしばしば全道でも活躍する強豪校だ。
今までの栗川はアンビシャスに勝つどころか、10点差以内に抑えれば善戦、という有様だった。
しかし、今年は――
「今年はカナンがいるからな。先に点を取った方が勝つような勝負に持っていけりゃ、ひょっとするぜ」
フクローが断言した。
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今までニコニコと見守っていた佐藤監督が腰を上げて、カナンへのアドバイスが少しだが多くなってきた。
一、二回戦で計3個のエラーがあった野手陣は、ノックの増量と連携プレーの再確認が言い渡された。
そして、視聴覚室でミーティングを行い、二回戦でのアンビシャス高の映像を流し、相手の研究もする事にした。
「で、どーなったのさ?」
いつもの三人での帰り道、カナがフクローに訊く。
相変わらずセルフトレーニングに丹精を入れているカナは、ミーティングには参加しなかった。
「うん。やっぱバッターのレベル、相当高い。今までみたいにはポンポン三振取れないだろな」
フクローが淀みなく応える。
「真ん中高めのボール球に手を出してくれりゃあ楽なんだけど、さ」
「アレは並のバッターだと、バット出ちゃうっしょ」
なにしろ、カナンのストレートは長身から落差を付けて、しかもベース手前で浮き上がってくる。
真ん中高めのボール球がゾーン内に見えてしまうが、つい手を出すと間違いなく空振りする。
それはシートバッティングで、カナも経験した。
「そ言えば、カナはあのボールに手ぇ出さないな?」
「んー……説明できねっけど、何となく分かっちゃうんだよねえ……」
理由は、カナにも分からない。
カナの身体に残った香奈が、教えてくれるのだろうか。
150km/hになろうとするカナンの速球や、縦横無尽のカーブに、非力な筈のカナが何とか付いて行けている。外野に届く打球こそないが、ヒット性の当たりはちらほら出ていた。
「カナンもカナも、成長してんなぁ……俺も見習わなくっちゃ」
フクローが長いため息を吐いた後、カナに向かって微笑んだ。
「今のカナンなら、打ち捕れる投球パターン、何個も持ってるからな。今までビビって甘くなってたインコース、ズバッと突けるようになってるし、ストレートを見せてカーブを決め球にだって出来る。カナンがアンビシャス抑えられるかどうかは、冗談抜きで俺のリードに懸かってるさ」
「頼んだぞ、キャッチャー。俺が打たれたらフクローのせい、な」
カナンが笑いながら、フクローの腕を小突いた。
ああ、ピッチャーはそのくらいの考えで良いと思う――カナは苦笑した。
「この野郎……またビデオ見返して、相手のクセ少しでも掴んでおくさ。したっけ、また明日」
「したっけな」
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フクローと別れてしばらくは、カナンとカナは無言のまま並んで舗道を歩いた。
「カナン」
「ん」
カナの唇が、アヒルのように尖っている。
「カナンお前さ、香奈の頃、おばあちゃんたちの手伝いしてたか?」
「え?」
確かに間柴の祖母は、店の仕事に家事にと、ひっきり無しに動いてる人だった。
カナンのきょとんとした顔に、カナが遠慮なくイライラした視線を向ける。
「カナが手伝いしたら、おばあちゃんもお母さんもお姉ちゃんも、えらい驚いてたさ。カナのユニフォーム手洗いして、ついでに全部洗濯して、余り物でチャッチャと夕ご飯作ったら、天地ひっくり返るくらい感激してたさ? おばあちゃんもお母さんも店やってて、ゆるくないのに、なしてお前、そんな事もしなかった?」
カナになった加南の、女子力の高さに驚嘆するカナンだったが、カナの厳しい目つきを見るとそんな事は言っていられなかった。
「――いや、おばあちゃん、ボケ防止になるから任せてくれって、いつでも……」
「それを真に受けてどーすんのさっ!!」
カナがスタタッと走り込んで、カナンの前に仁王立ちになった。
少し前に見た光景だが、今日は国道を横切らないので車には轢かれないだろう。
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「おばあちゃんはな、今までずっと、子ども食わせて、孫食わせて、散々働いてきた人だぞ? デカくなった孫が楽さしてやんないで、いつやるのさっ?!」
以前の加南なら考えられないくらいの、強い口調だった。
「店の事だって、そうさ。ズボンの裾上げくらいだったら、カナだって出来るから……」
「えっ? カナ、裾上げ出来んのっ?!」
やれやれといった感じで、カナが腰に手を当て、首をブンブン振る。
「中二の夏から一年ちょっとで、背が30cm伸びたからさ……自分でミシン掛けて、その度に制服のズボン伸ばしてたけど?」
「そう――でしたか……」
いきなり敬語になったカナンが、大きな身体をちいさく縮こまらせた。
「なあ、カナン」
「はいっ」
カナの言葉に、カナンが直立不動になる。
「穂波の家も共働きだから、両親が忙しいのは分かってるよな?」
「はいっ、そのとおりでありますっ」
畏まった態度のカナンに、思わず苦笑のカナである。
「家のこと、きちんとやってっか?」
「いやぁ――それが、そのぉ……」
ポリポリと頭を掻く、カナン。
「開土が、なぁ……兄ちゃん初めての大会でエースだから、大変だから俺がやるよ、って……」
カナンの声が、だんだんに小さくなる。
「開土だって、中学入ってサッカー、初めての大会控えてるんじゃないかい?」
「いや、その……ごめん、これからはきちんと、やるから……」
「分かればいいっしょ、分かれば」
カナの表情がようやく和らぎ、鼻から息をふう、と吐いた。
「料理のレシピ、いくつか書いといてやるから。開土の好物中心にさ」
「ありがとな、カナ」
カナンも頭を掻きながら、バツが悪そうにようやく笑った。




