第69話 故郷
「ねえ、燃さん。」
美穂が燃に話し掛ける。
「何?」
歩きながら燃は首だけ振り向いて答えた。
「もう駅から降りて3時間は歩くけど、まだなの?」
燃達はあの後寝台特急に乗り、一日かけてここまできたのだ。
どうやら美穂はくたびれているようだ。
「ああ、まだだ。もう少し歩く。」
そう言うと燃は再び前を向いて歩き出した。
「え〜・・・もう疲れたよ・・・」
美穂がその場でしゃがみ込む。
辺りは人気がなく、だいぶ田舎の方にきていた。
「なあ、燃。これはいくらなんでも歩きすぎじゃないのか?」
今までの道のりを考え、光太郎が口を出した。
歩くと言っても、相当の速さで歩いている。
それで3時間も歩いているのだ。
さらに日照りが強くただでさえ体力を奪われているのだ。
疲れて当たり前である。
「もう少し我慢してください。本当にもう少しですから。」
燃は美穂を助け起こしながらそう言った。
ー10分後ー
三人は大きな柵の前に出た。
その柵には破られた後があり、『立ち入り禁止』と書いてある看板が括り付けられている。
「おい、燃・・・まさか目的地って・・・」
驚いた顔で光太郎は柵を見上げる。
「その通りです。一年前に村人が全滅した町です。」
そう言って燃は破かれている穴から柵の中へ入る。
「お・・・おい!!毒は大丈夫なのか?確か毒がばら撒かれたんだろう?」
光太郎が慌てて燃を引きとめようとする。
「大丈夫です。あの毒はもともと小型のミサイルから噴出されたもので着弾後3秒で町全体に広がって10秒後には普通の空気と同化してしまうものなので。」
「じゃあ、もうそこの町に毒はないのか?」
光太郎が心配そうに聞く。
「はい。だから立ち入り禁止にする意味はないんですけどね・・・」
そう言って燃は再び歩き出した。
光太郎と美穂も慌てて柵の中に入る。
しばらく歩くと小さな町に出た。
「うっ・・・」
「あっ・・・」
光太郎と美穂は町の光景を見て思わず声をあげた。
その町は死の町と化していたのだ。
買い物の途中だったのか、買い物かごを腕に提げたまま倒れてミイラ化しているもの、ゴルフグラブをもったまま倒れているもの、他にも色々と倒れているがそのどれもがミイラ化した死体であった。
「これは予想外に酷いな・・・」
辺りを見回しながら光太郎が言った。
「ああ・・・」
美穂は脱力しその場で倒れそうになったが、光太郎に支えれられた。
「おい!大丈夫か!?」
光太郎が慌てて呼びかける。
「あ・・・うん。ちょっと貧血が起きただけ・・・」
美穂の顔が青ざめている。
「おい燃!ちょっと休憩させてやってくれ。」
そう言って光太郎が燃を見る。
しかし燃は気付いていないのか、全く反応せずにただひたすら近くの白い建物を眺めている。
「・・・・・・燃?」
光太郎もその建物を見る。
名前の標識には『大蔵』と書いてあり、その隣には小さく『大蔵病院』と書かれていた。
「え?・・・ああ、休憩ですね。分かりました。じゃあ少し休憩にしましょう。俺は少しこの辺を見て回ってきます。」
気付いたように燃はそう言って、辺りを見回しながら歩き出した。
「ああ・・・ここはあいつの町か・・・」
光太郎はそう言って辺りを見回す。
この町は一年前、毒ガスの被害にあった場所であると同時に燃がすんでいた場所でもあるのだ。