第67話 理由
真っ暗な校舎。
真っ暗な教室。
真っ暗な階段。
そして真っ暗な廊下の中、一人で歩く倉田信吾の姿をした燃の姿があった。
「しまった・・・一人で来るんじゃなかった。」
燃は一人後悔をしていた。
前に話したとおり、燃は暗いところが苦手なのである。
恐る恐る廊下を歩く。
夜の学校の廊下は不気味だ。
何も気配がないのに何かがいる気がする、そんな感じがする。
「正直、戦いよりもきついな・・・」
独り言でもしていないとやっていけないのだろうか。
辺りを見回しながら燃が恐る恐る歩く。
燃が教室のドアの前を通り過ぎようとした瞬間、そのドアが勢いよく開いた。
「見つけた!!・・・って、あれ?どうしたの?そんなところで座り込んじゃって・・・」
そこに立っていたのは石田由香里であった。
燃は驚きのあまり、尻餅をついている。
「い・・・いや、何でもない・・・」
なるべく悟られないよう、燃は平静を装いながらそう言って立ち上がった。
由香里はじっと燃を見つめている。
疑っているのだろうか。
「わっ!!」
突然、由香里は燃の後ろの方を指差し、大きな声をあげた。
燃はビクッと反応して咄嗟に後ろを向く。
「へ〜。君って意外と怖がりなんだねぇ。」
そんないやらしい声が聞こえ、振り返ると由香里がニヤニヤ笑っている。
「・・・・・・で?何か用かな?」
出来るだけ平静を装いながら燃はそう訊いた。
かすかに頬の筋肉が引きつっている。
やはりからかわれて腹を立てているのだろう。
「用って・・・・・・何かあったかな?」
由香里は腕を組み、考えながら言った。
「『何かあったかな』って・・・まさか何も用がないのにここに来たのか?」
呆れた顔で燃が言った。
「用・・・?用ならあるよ。君に会いにきた。それが用事。」
「何で?」
燃がぶっきらぼうに答える。
「何か理由がないと・・・会いに来ちゃだめなの・・・?」
そう言って由香里が瞳を潤ませる。
これが普段の由香里を知らなかったら、おそらく燃も可愛いと思ってしまっていただろう。
しかし・・・
「アホ。」
燃はそう言って頭に軽くチョップを食らわせる。
残念ながら燃はいつもの由香里を知ってしまっているのだ。
「痛っ・・・何するのさ?」
「チョップ。で?本当の理由は何だ?」
燃は適当に流して再び訊いた。
由香里は文句を言いたそうな目をしていたが、無駄だと悟ったのか、深くため息をついた。
「本当の理由は君が夜の学校でなにしているのか知りたかっただけだよ。」
「・・・・・・それは教えられないな・・・」
しばらく間をおいて燃がそう言った。
こうなることは予測できていたのか、由香里は全く動揺していない。
「そうか・・・やっぱり・・・でも、私が君の弱みを握っているということを君は忘れていないかい?もし断れば君が荒木燃だってことばらすよ?」
由香里がそう言った瞬間、時が止まったように燃が固まった。
「お前・・・卑怯だぞ?」
しばらくしてから燃がそう言った。
「卑怯で結構。で?教えてくれるの?くれないの?」
「・・・・・・分かったよ。だけどこのことは他言無用だ。そしてこの話を聞いたらすぐに帰れよ?」
燃は諦めたようにため息をついてからそう言った。
「OK。OK。」
そう言って由香里はにっこりと笑った。