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1001番目の男  作者: ノーマー=Z=クアーズ
第1章 ヒトトナリ
9/28

9番目 big miso day

 1年。

 魔法を学びだして、初めて魔法を使えるようになるまでにかかる平均的な時間だ。

 1カ月。

 才能ある人間がこれくらいで済む。

 10日。

 上田の予想習得期間だ。

 マリアのみたてでは、もう少し短いらしい。何の根拠があるのだとは思うが、マリアたちは、確信めいた発言を繰り返していた。しかしながら、そんなことは上田には関係なかった。急ぐ気持ちもない。慎重に事を進めていくつもりだ。結果として、帰還があれば良いのである。

 ところで、今日は12月28日。異世界では年末。年内最後の日だ。暦の上では、明日から新しい1年が始まる。今日中に成功できれば、キリが良い。そんな風に上田は思っている。

 そうは言ってもやはり、一応上田も色々と考えてはいた。魔法を使うにあたって、何を考えなければならないのか。

 マリアたちはイメージという言葉を繰り返していたが、それがさす範囲は曖昧でつかみどころがない。色、形、におい、音、その他イメージされ得るものは様々だ。挙げていけばきりがない。であれば、考えるべきはもっと根本的な、イメージを創りあげるためのイメージではないのか。そこで思い出したのが、魔法への理解だ。魔法によって引き起こされる現象の前に、魔法そのものを知るべきだと考えた。思えば、それこそが以前から上田が抱いていた疑問だった。その解決なくして次に進むことなどできるはずもなかったのである。

 そうして3度の講義を経て、原理の表面を理解した。魔法発動の大まかなプロセスは解った。後は聞いた通りに行うだけ。

 だが、それが難しい。解っていても、できない。そんなことはよくあることだ。しかし、やらなければならない。

 上田は立ち上がり、 胸の前で両手を合わせ、そしてゆっくりと離していく。肩幅程度までに開くと、静かに目を閉じる。

 イメージする。

 炎。燃える、焼けるように熱い。焼ける。

 ――そう言えば、あのチョコチップクッキーは美味しく焼けていた。メイドが作ったのだろうか。この世界に来てからどうも、甘いモノが余計に美味しく感じる……。

 いけない、雑念にとりつかれてしまった。今はもっと集中して、イメージを練る必要がある。ほかのことで、邪魔していてはだめだ。

 より深く。意識の底へと沈んでいく。今度は些事にとらわれたりはしない。

 燃焼。

 酸素は充分にある。

 どんどん温度を高めていく。

 あとは……、燃やすもの。

 これが、魔素だ。

 体の中を巡る熱い何かを感じる。血ではない、もっと強い。そして熱い。

 力。

 力を感じる。その力の奔流を導いていく。逆らわず、行く先を示してやる。



 両手の間、胸の前、全てを灰に。俺には、それができる。

 そうして、こんなくだらない世界など、焼き尽くしてしまえば良い。ぶち壊してやろう。

 上田が目を開くと、そこには燃え盛る炎が渦巻いていた。

 ――しかし、これではまだ足りない。



 大みそか、夜。

 用事から帰って来ていたマリアとともに、上田は夕食をとっていた。

「初めての魔法は、どうでしたか?」

 マリアが微笑む。

「できたと思ったら何時の間にかベッドの中で、状況を把握するのに苦労しました」

「あら、では魔法の使い方も、まだよくわかりませんか」

「いいえ。それだけは、……上手く説明できませんが、よくわかりました」

 そう上田が言ったのを聞いて、メイドが口をはさむ。

「全く、それがせめてもの救いです。次からは、あのようなことがないよう注意して下さいませ。すぐに消火しなければ、火事になるところだったのですから」

「すみません」

「ふふ、まあいいじゃないですか。第一段階はクリアできたことですし。……それにしても7日か、まあ、想定の範囲内ですかね」

 上田、マリア、メイド。それぞれがそれぞれの思惑を持ちながら、年内最後の夜は更けていった。

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