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1001番目の男  作者: ノーマー=Z=クアーズ
第1章 ヒトトナリ
16/28

16番目 最後の夜(仮)

 光る石に照らされるテント内にいるのは、3人だけ。バディは見張りとして外にいる。大切な話はゲイリーが知っておけば良い。そう言って、外へ出ていったのだ。

 上田はクルーニンガンの路地で見たこと聞いたこと、そこから推測されることを、淡々と、そして事務的に語った。

 もそもそと、塩味の利いた干し肉を食べながらも、黙って聞いていたジョーが感想を言う。

「なるほど、そんなことしてたんだな。やっぱ、ソータはそこそこやれるんじゃねえか」

「いや、そこじゃあないでしょうが。大事なのは俺たちの危機でしょ」

 金髪たちとの戦闘に興味を示したジョーだったが、今重要なところはそこではない。自分たちに迫っているかもしれない危機の可能性について、もう一度上田が説明する。

「その危機なんだけど、旅の最中を狙うなら、予言も全くの的外れってことでもなさそうなんだ」

 ゲイリーは真剣な顔をして聞いている。しかし、隣に座るジョーは、さきほどから歯の間に挟まった干し肉のことで忙しいらしい。顔にたくさんのしわを刻みながら、指が入りやすいように口をできるだけ大きく開くことに苦心している。

「ちょっと、ジョー。……ったく、きちんと聞きましょうよ。命にかかわることかもしんないんだよ?」

「うるせえなあ。……おっ」

 口に指を入れたまま、聞き取りづらい声で喋るジョーだったが、ふいに声をあげた。

「いやあ、とれたとれた。ようやくすっきりしたぜ」

 ジョーは心底すっきりしたようで、まさにつきものが落ちたといった感じだ。

 ゲイリーは対照的に、目を細めて抗議の態度を示している。

「もうちょっと、緊張感というものをねえ……」

「なんで緊張しなきゃいけねえんだよ。それに話だって聞いてるよ。あれだろ? まだ襲われるって決まったわけじゃあねえんだろ?」

 上田は言葉を選びながら、ゆっくり話す。ジョーたちから何か有用な情報が得られるかもしれないと思った。

「うん。真偽ははっきりしないね。ただ……、色々と不自然なところを感じたから。予言にも……、それからジョーたちにもね。だから、一応報告しておこうと思ったんだ。」

「へえ、不自然ねえ」

 上田の探るような目つきを感じたのか、ジョーは口角を上げた。

「どこまでだ? どこまで気付いた?」

「ちょっ、ジョー。いいのか? 黙っておいた方が……」

 ゲイリーは何かを心配しているようだ。

「構いやしねえよ」

 しかしジョーは一向にそれを意に介さない。ならばと、上田もそれに乗ることにした。

 一呼吸おいて、2人を順繰りに見つめながら喋っていく。

「まず、君たちはあまり多くのことを知らない。違うかい?」

「ふん、面白いこと言うなあ。……続けてみろ」

「次に、やはり君たちの仕事は、僕の護衛だ」

 一旦上田は言葉を切ったが、2人とも口を開かないで、じっと上田を見ている。表情の変化は見えない。わずかに頬の筋肉が動いているように見えたくらいだ。

「最後に、襲撃者が誰かはすでに判明している」

 言い終えて上田は油断なく2人を見つめた。

 対するゲイリーとジョーは、聞き終えてお互い顔を見合わせると破顔した。それも声を出して。

「ったく、ようやくソータのことがわかってきた気がするよ。ねえ?」

「ああ、そうだな。それにしても……。かー、多分バディでも笑っちまうぜ」

 急に騒ぎ出した2人に上田はついていけない。それどころか、一方的に笑われていることに対して、不愉快にさえ思いだした。

「いったい何なんだい? 笑っていないで説明してほしいんだけど。いや、君たちにはその義務があるはずだ」

 眉間に手をやりながら、上田が2人をせきたてる。そのポーズが持つ意味も普段とは多少違うのかもしれない。

「わかった、わかった。ちゃんと説明するさ。ジョーが」

「俺かよ。こういうのはお前じゃねえのか?」

「だってソータを乗せたのは、ジョーでしょうよ」

 煮え切らない2人の姿に、いらだちがさらにつのる。

「あのね、どちらでもいいんだ。そんなことは問題じゃあない。とにかく、何を、どういうつもりで、馬鹿みたいにはしゃいでいるのかをきいているんだ」

「悪い、悪い。いや何、ソータが真面目すぎるって話だ」

 上田にはまだ要領がつかめない。

「深く考え過ぎなんだよ。話し半分でいいのさ。確かにいろんな情報から、見えない真実を明らかにしようとする姿勢は重要だ。でもな、やりすぎは良くねえ。やりすぎると、囚われちまう。本当のことは、案外近くにあるもんだぜ」

 ジョーは手を動かしながら、殊更大げさに語って見せた。その姿が上田をよりいらだたせた。

「うん、言いたいことはわかるよ。でも、そういうことを僕はきいているわけじゃあないんだよ」

「ジョー。ソータの言う通り、それとこれとは話が別でしょう?」

 まあ聞け、そう言って2人をなだめてジョーは佇まいを正した。

「……ノーサ・ベリカは平和な国で人々は慈愛に満ちている。マリアからはそう聞かされていたんじゃねえのか? そして旅も寒さ対策さえ怠らなければ、大して厳しいもんじゃあねえ。にもかかわらず、マリアの『ソータは大事な人』発言に、危険を示唆する言葉。加えて俺らみたいな実力者を護衛につけたこと。これらの矛盾にどうしてもソータは違和感をぬぐい切れなかった」

 確認するようにジョーは上田を見る。しかし返事も待たずに話し続けていく。

「そしてそこからこう考えた。『自分を狙うものがいる』と。けど、それがいったい何なのか、ソータにはわからなかった。それでも何か、正体はわからないままでも、敵は存在している。この考えはどんどん強くなっていく。……もしかしたら、ここでソータに危険を知らせたフードの女のような奴がいたのかもしれねえな」

「いや、さっきそう聞いたでしょうが」

 ジョーは自分に酔っているのか、ゲイリーのつぶやきなどお構いなしだ。

「それから、考えに確信を強めたソータは俺たちに話しながら、ふと気付く。俺たちが、ジョーたちがお飾りの護衛じゃねえとしたら、襲撃者のことは知らされているんじゃあねえか。でも、俺たちの様子から推測すれば、あんま詳しいことは知らねえようだ。……これがソータの考えたことのすべてだ」

 もはやジョーは上田に確認するそぶりすら見せない。

「それで、だ。答え合わせをしようか。俺たちは正真正銘ソータの護……」

「はいはいはいはい。もうやめだ、ジョー」

 気分良く語っている途中で、ゲイリーは手を振りながらジョーを止めた。

「全然関係ないでしょうが。放っておけばベラベラと……。ソータがきいてるのは、そういうことじゃあないでしょうよ」

「あー、もう。わかってねえなあ、お前らは」

 仕方がないといったような風に両手を広げると、ジョーは肩をすくめた。

「……それじゃあ、解説してやるよ。まず、ソータは馬鹿じゃあねえ。物事を筋道だてて考えることに関しちゃあ、中々のもんだ。ただ、今回はそのことがあだになっちまったんだ。ソータの言う通りおそらく敵はいる。俺たちは詳しいことは知らねえが、マリアなら正体を知ってるかもしんねえ。けど、そんなことは関係ねえんだよ。変に勘ぐる必要もねえ。記憶を失くして不安になってるのもわかるが、何も考えず守られときゃあ良いんだよ。何せ俺たちが護衛なんだからな」

 語り口は相変わらずだ。ただ口元に浮かぶ笑みは、軽薄さからではなく彼の自信に由来しているように見える。ジョーは、本当に強く、そして頼りになる存在なのかもしれない。そう思わせる何かを感じさせた。

「ったく、ジョーは回りくどい言い方をするんだから……。要は、物事を疑いすぎるばっかりに、今さら護衛かどうか確認なんかするソータの臆病さ。……もとい、慎重さに驚いただけさ」

 上田はようやく理解した。悪い癖がでていたようだ。しかし、まだ気になっていることがあった。

「なるほどね。……でもさ、ゲイリーは何を心配していたんだい?」

 上田がゲイリーに視線を向ける。ゲイリーは、ちらと天井辺りを見たようにみえた。

「ああ、ん……。ソータってさ、記憶喪失なんでしょ?」

「うん、そうだね」

 そういう設定だ。

「それにさあ、体格は良いけど身のこなしは、全然なってないんだよな。だから、戦闘があったとしても、どの道俺たちはソータをそれに加わらせるつもりはないのさ。ん、であれば、余計なことを言って不安を煽るような真似はしたくなかったんだ」

「それと記憶喪失に何の関係があるんだい?」

「……やっぱ、そこからか……」

 上田としては、当たり前のようにわいてきた疑問だったが、ゲイリーにとっては違うようだ。今度は間違いなく目をそらした。

「忘れたんなら憶えといてよ。……戦うってことは、多かれ少なかれ魔法が関与するってことさ。ガタイが良くても、多少頭が良くても、魔法の知識がなきゃ、戦闘は難しい」

「要は、だ」

 順を追って話をしていくゲイリーに、ジョーが割り込んだ。

「ソータは足手まといってことだ」

(なんだそんなことか)

 思わず笑みのこぼれた上田を見て、ゲイリーをを指さしながらジョーが言う。

「ほれみろ。変に気を使うことなんか、なかったじゃねえか」

「いや、でも、普通は……」

「馬鹿だなあお前は。記憶なくして、エイシャ系で、聖女に特別扱いされて、なんかマッチョで、なのに魔術師見習い」

 ジョーは上田の異常性を、丁寧に指で数え上げていく。そして叩きつけるように言い放った。

「んな男が、普通なわけあるかよ」

「ご、ごもっともです」

 言っていることに、間違いはないのだろうが、失礼ではある。

「そろそろ交代」

 タイミングが良いのか悪いのか、見張りの交代を告げにバディが中へと戻ってきた。

 バディと一緒に出入り口から光が入ってくることはなく、反対にテント内の光が外の闇に吸い込まれていく。

「とにかく、僕は気を使うつもりはないし、君たちも同じで良い。ただ仕事を全うしてくれさえすれば良い。だから……、僕は寝るよ」

 上田はそう言って横になり瞳を閉じた。


 それから夜が明けても、結局異変は何も起きなかった。これまで通りの底冷えする朝だ。

 上田たちは日の出とともに出発し、日が沈む前に、ノックザドールという村へ寄った。

 街道本流との分岐点にあった立て札には、『KnockTheDoll』と表記されていた。ノックの綴りがKから始まっている。やはりこの世界で使用されている言語は、英語か、あるいはそれにかなり近いものに違いない。上田の提唱する並行世界説も、かなり真実味を帯びてきたと言えるかもしれない。

 村の小さな宿で一晩を明かす。狭い部屋に硬いベッド。快適さで言えば、テントが優っていた。もちろん安全を考えれば、逆の評価ではあるが。


 何はともあれ上田たちはノックザドールを出発した。

 昨日まで晴れていた空も、今では雲がかかりすっかり冬の空だ。ジョーとマクニース兄弟も、空模様をそのまま映したかのような顔をしている。

「ったく、クレアモリスで遅れなかったらもう少しゆっくりできたのになあ」

「文句言ってる暇あったら、もっとスピード出せよ」

 ゲイリーの愚痴に、ジョーがさらに愚痴をかぶせた。

「ところで、あとどれくらいなんだい?」

 2人の様子を見かねて、上田が話題を変えようとする。

「なんでお前だけピンピンしてんのさ」

 だがゲイリーは上田にも食ってかかろうとしている。

「うるせえうるせえ。もう少しの辛抱だ。今日野宿して、何も問題が無けりゃあ明日には着くはずだ」

 みな疲れから、気が立っている。こういうときは、そっとしておくに限る。


 静かにしておいたおかげか、馬車は快調に進んでいき、16時頃、上田たちは街道を外れて野営地探索にとりかかった。

 街道脇に広がる林の中へ入り、開けた場所を探す。襲撃者のことを考えると、遮蔽物の多い場所の方が好都合なのだ。とはいえ、今日で予言の日から3日め。予言では今日を乗り切れば終わりのはずだ。しかし、道中変わったことといえば、年明けから1週間以上が過ぎ、街道の人通りが多少増えたていどのものである。誰かにつけられている気配も上田は感じなかったし、ジョーたちも気にするそぶりはみせなかった。今になって考えてみれば、上田の心配はもはや馬鹿ばかしくもある。わけのわからない女性の言葉に、ああも踊らされてしまうとは。何が予言だ。詐欺師でも、もう少しましな言い方をするに違いない。考えるとにわかに腹の立ってきた上田は眠ることにした。

 朝目を開け、もうひと踏ん張りすれば、リュジュアックだ。

 マクニース兄弟は、すでに隣で寝息を立てている。それを除けば静かな夜だった。


 翌朝、上田を起こしたのは、マクニース兄弟の漫才でもなく、ジョーの笑い声でもなく、聞きなれない甲高い音だった。

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