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1001番目の男  作者: ノーマー=Z=クアーズ
第1章 ヒトトナリ
15/28

15番目 らしさ

 ゆっくりと太陽が沈んでいく。日の入りまで、あと1時間もないだろう。街道を少し外れ、小高い丘を作る崖の下、上田たちは雪を取り除いて、テント設営に勤しんでいた。おぼつかない動きの上田にジョーの指示が飛ぶ。

「杭はしっかり打てよ。今は晴れてるが、夜はどうなるかわかんねえからな」

 1本、2本と杭を打ち込んでいき、ついに最後の杭も打ち終え、上田は顔を上げた。夕日が目に飛び込んでくる。太陽だけでなく、雪原が鏡の役割を果たしているせいで余計にまぶしい。

「いやあ、やっと終わったなあ。外は寒いし、早く中に入りましょうや」

 そう言うとゲイリーはそそくさと入っていってしまった。上田たちもそれに続く。

 改めて中を見てみると結構大きい。全体の形としては、だいたい5m四方で高さが1.5mの直方体の上に、鈍角のピラミッドがのっている感じだろう。4人が横になっても多少の余裕はありそうだ。

 ふと額に滲む汗を上田がぬぐう。

(あれ? 汗?)

「お? 気付いたか? こん中は分厚いコート無しでも大丈夫なように魔術が効いてるんだ。そうでもなきゃ、こんな時期にお外でおねんねなんかできっこねえからな」

 言いながらジョーは上を指さす。はっきりとは見えないが、天井部分には確かに魔方陣が描かれていた。

 鞄の中を探りながら、何気なくジョーは言った。

「もう一つ確認事項だが、見張りを1人外に出すからな」

「ああ、なんだか腹が痛いような……」

「痛いような……」

 マクニース兄弟の三文芝居を無視してジョーはさらに言った。

「それと、見張りは3人の中からだ」

 この場合の3人という括りは、ジョーとマクニース兄弟たちのことだろう。当然上田に疑問がわく。

「あれ? 僕はしなくてもいいのかい?」

「ああ、ソータはしなくていい」

「でも一緒に旅をしているわけだし、分担で良いと思うけどね」

 上田は思ったことをそのまま口に出すが、ジョーはそれをはっきりと否定した。

「いいや、ソータにはやらせねえ」

「いや、ジョー。その言い方だと語弊があるでしょ」

 確かに頑ななジョーの態度は、普段の皆を平等に扱う彼らしくない。ゲイリーがそのことについて補足を加える。

「ったく、それじゃあなんかいじわるしてるみたいでしょうが。……あのね、俺たちはあくまでソータの護衛。見張りなんてのは、身辺警護の一環みたいなものさ。さっきはつい小芝居なんかしちゃったけど、これは仕事だから。俺もバディもそのことに不満なんてないよ。つまり、ソータも負い目を感じることはないってことさ」

 確かにその通りだ。これまでは、意識することも、またその必要もなかったが、守る側と守られる側、彼らと上田の間には、そういう関係がある。

「そうか……、そうだね。じゃあ、よろしく頼むよ」

 眉間をこすりながら上田は了承した。

 ただ、認めはしたものの、上田は多少の不安を抱えていた。なるほど見た目にはジョーたちは屈強な戦士といったところだ。しかしながら、実際のところ、彼らがどこまでやれるのかということは未知数だった。そんな彼らに身を任せ、予想外に快適なテントの中で、すやすやと眠ってしまっていても良いものなのだろうか。果たして急に敵が現れたとき、上田を守る盾として機能するのだろうか。

 ここまで考えて、上田の思考はさらに飛躍した。

(敵とはいったい誰、もしくは何なのだろう?)

 チンピラやゴロツキの類だろうか。

 旅の前、あまり治安は良くないと、そうマリアは言っていた。しかしこんな寒い時期に、しかも町からも街道からも外れた所でせっせと働くものなのか。労働などの義務を、勢いそのまま放り投げてこその彼らではないのか。傍若無人で、難きより易きに流れるのが彼らのアイデンティティではないのか。幸か不幸か、上田の知人にそういったことを生業とする人はいないため、はっきりとしたことは、わからない。

 では、人以外、動物のことだろうか。

 元の世界では、狼など雪の中でも活動する肉食獣もいた。異世界で馬やその他小動物などを見た限りでは、ほとんど生態系も変わらないように感じる。案外これで正解かもしれない。狼などは群れで行動することだし、それらに独りで対抗するのは難しい。

 ……だがしかし、すっきりしない。確信が得られない。それどころか、疑念ばかりがつのっていく。

 ジョーたちは、ただの道案内にしては明らかに役不足だ。道なんて、ルートKを真直ぐ北上していくだけである。そもそも、実力不明とはいえ、あの見た目で弱いなどそうそういないし、また、弱いと思う人もそうそういないだろう。そんな彼らが、護衛へと任命された。しかも、危険があるかもしれないという言葉まで添えられて。これはもう外敵の存在を、半ば確信的に予想してのことではないのだろうか。疑惑がさらに膨れ上がっていく。

 しかしこの件に関しては、考えて考え過ぎということもない。なぜなら元の世界に戻る前に死んでしまっては、元も子もないからだ。見えない敵を相手に戦うことはできない。まずは敵をみつけなければならない。実際に危機が訪れる前に。

 ――危機が訪れる。

 この言葉はつい最近耳にした。クルーニンガンの路地で助けたフードの女性が口にしていたはずだ。確か3日以内にと言っていた。今日、明日、そして明後日が予言の範囲内だ。上田たちの旅はもう少しで折り返し地点というところまで差し掛かっており、終わりもそう遠くはない。旅の途中で上田たちを襲うのであれば、あと3日、4日がタイムリミットだろう。つまり、本当に上田たちを狙う敵がいるのだとすれば、あながち間違った予言でもない、ということである。信じる信じないはおいといて、可能性としては無きにしも非ず。備えあれば憂いなし。そうとわかれば、護衛であるジョーたちにも話しておかなければならない。

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