第71話:漆黒の釜に舞う黄金の星(と、脳の理性を一瞬で焦がし醤油で破壊する魔導熱粒子弾メテオ・チャハン)
「……アリス、聞こえる? 私の脳内QOL防衛ガイドライン(栄養部門)が、この連日のWEB在庫管理とFAX(第41話)仕分けによる過酷なデスクワークによって、深刻な『炭水化物、塩分、およびアミノ酸不足』を検知して大規模なデモを起こしているわ……!」
「聞こえるわエレン。というか、同一の意識を共有している私の前頭葉も、デスクの紙に文字を書くたびに、前世の駅前の町中華から漂っていた『焦がし醤油とラードの狂暴な匂い』を幻嗅して、理性のダムが決壊寸前よ! 手早く作れて、一口で脳を至高のトランス状態へ導くあの『黄金パラパラチャーハン』と『ふわとろ卵スープ』を今すぐ台所でDIYするわよ!」
シルバーストーンQOL巨大観光特区。合併と自動インフラ化によって暇になったはずが、大企業並みになった特区の在庫管理(データ処理)に追われ、コタツ(冷風ドライモード)で抜け殻のようになっていた銀髪の双子は、脳内の専用回線をかつてない「町中華への渇望」で同期させていた。
前世は三十代の理科教師、成瀬健一。
その知識と、異世界で開花したチート能力を駆使して美味しいものを貪る双子にとって、ベチャッとした家庭のチャーハンなど万死に値する敗北。
「いい、エレン。チャーハンのパラパラ感はね、お米の表面のデンプン質が加熱されて粘り気(アルファ化)を出す前に、卵黄の薄いタンパク質膜で一粒一粒をコーティングする『黄金の衣コーティング技術』が必要よ。さらに、チタン製極厚中華鍋(第64話仕様)の熱容量Cをハックするわ!」
C = m c
「食材を投入した瞬間に鍋の温度が低下するのを防ぎ、常に摂氏190℃の高熱をキープすることで、米の表面の水分を一瞬で相転移(蒸発)させてパラパラの極限状態へ導くの。私が米粒の流体力学的な『三次元放物線軌道(パラボラ軌道)』を計算してAR投影するから、その軌道に合わせて鍋をぶん回しなさい!」
「最高ねアリス! フライパン内での空気抵抗による急速冷却も考慮した、完璧な高熱スイング……フィジカルの出番だべ!」
二人の『二心同体』が、極上のチャーハン作りに向けて完全同期した。
アリス(理論・設計・分子計算担当)が、米粒が放つ水分蒸発量と、卵の熱凝固性タンパク質の相転移スピードを脳内でミリ秒単位でシミュレート。エレン(実技・精密加工・物理担当)が、そのシミュレーションデータをダイレクトに受信し、エプロンをキュッと締めて調理台の前に立つ。
黄金の衣プロセス
まずは具材の精密下処理と、アリス特製の「黄金コーティング」だ。
「豚バラ肉100gを正確に2cm幅にカット! ねぎ半分をみじん切り、レタス大2枚はひと口大にちぎって! そして、卵2個を割りほぐしなさい!」
「お任せあれ! 『精密魔力スライス(4,000 rpm)』!」
トトトトトトトトト!!!
エレンの右手が残像となって動き、まな板の上でねぎが秒速で極小みじん切りへと粉砕されていく。
さらにアリスは、ボウルに温かいご飯2杯分を入れ、ごま油大さじ1を回しかけた。
「エレン、まずはごま油でお米の表面を疎水化(水を弾くコーティング)するの。そこへ溶き卵を一気に投入し、菜箸でご飯の塊を潰さずに、分子レベルでほぐしながら一粒一粒に卵液を均一に絡めなさい!」
「了解! 『極小・超高速攪拌ホイップモード(3,600 rpm)』!」
エレンが菜箸を信じられない超高速で往復させ、ボウルの中でご飯がダマにならず、完全に黄色い「黄金の衣」を纏った均一な状態へとハックされていく。
続いて、フライパン(チタン極厚中華鍋)の加熱だ。
油はひかずに、エレンが魔力サーモスタットで中華鍋を摂氏190℃に急激過熱。豚バラ肉を入れて塩をふり、ジュワァァァ!と香ばしく炒めて一度取り出す。
余分な脂をペーパーでふきとり、ごま油大さじ1を入れて再び強火にかける。
「エレン、今よ! 黄金ご飯、一気に投入! スイングプロセス、起動!」
「スイッチ、オォォォン!!!」
ゴババババババババババッ!!!!!
キィィィィィィィィィン!!!!!
エレンが中華鍋を振った瞬間、台所から凄まじい高圧排気音のような大音響が響き渡った。
エレンの両腕は、今や120,000 rpm並みの超高速往復スイングと同調。チタン鍋の中で、黄金の米粒たちがアリスの計算した流体力学の放物線軌道(パラボラ軌道)を描き、一粒一粒が宙を舞いながら、大気中で急速冷却を防止されつつ瞬時に表面の水分を相転移(蒸発)させていく。
一人が「米粒の三次元放物線軌道シミュレーター(ソフト)」、一人が「超高速スイング&高熱制御」。
双子の超絶同調により、わずか4分で、ご飯は一粒一粒が完全に独立した「黄金の星(パラパラご飯)」へと変貌を遂げた。
「仕上げよ、エレン! 豚肉、ねぎ、おろしにんにく小さじ2を加えて炒め合わせなさい!」
「オッケー! 全体が混ざった、一度火を止めて……フライパンの真ん中を空けるよ!」
アリスが引き出しから取り出したのは、王都のギルバート商会から取り寄せた「本つゆ(濃縮4倍)」だ。
空けた真ん中に、本つゆ大さじ1をダイレクト・シュート!
ジュワァァァァァァァァァン!!!!!
再び中火にかけた瞬間、本つゆがチタンの上で一瞬で沸騰し、醤油の焦げた、
人間の理性を分子レベルでダイレクトに破壊し、胃袋を一瞬で双子の操り人形にするような、あまりにも暴力的で香ばしい香りが、爆風のようにリビングへと吹き抜けた。
「レタスを入れてさっと炒め、塩、黒こしょう少々でフィニッシュよ!」
「出来上がりぃぃぃ!」
◇
その頃。
コタツ(ドライ除湿モード)の温もりですっかり骨抜きにされていた、王都特務監察官の堅物令嬢イゾルデ。
彼女は、台所から響く「ゴババババ!」という不気味な高圧爆音と、窓の隙間から覗く、黄金の星(米粒)が空中を高速で舞い踊る不気味な光景に、全身の毛穴から冷や汗を噴き出させていた。
「お、おい……アルド。あ、あいつら、今度は台所で、一体どんな邪悪な儀式を……!」
「イゾルデ様、ですから諦めてください。あのお嬢様方は、お腹が空くとおそろしい兵器を――」
その瞬間。
台所の換気口から、焦がし本つゆと、にんにく、そして炒めた豚肉の、
嗅いだ瞬間に対象の満腹中枢の防衛障壁を強制突破し、口の中に唾液の津波を引き起こす「極上の匂い」が、イゾルデの鼻腔をダイレクトに貫いた。
「ぐ、ふっ……!? お、美味しい……いや、なんだこの匂いは……! 匂いを嗅いだだけで、私の、私の騎士としての高貴な理性が、焦がし醤油の焦熱で一瞬にして炭にされていくぅぅぅ!!」
イゾルデは、口からよだれをダラダラと流しながら、その場にスライディング土下座をしてひれ伏した。
「ま、間違いない……! あの空中を高速で舞い踊る黄金の星……あれは、超高速で放たれる魔導熱粒子弾――『メテオ・チャハン・ボム』の軌道シミュレーションだ……!!!!! あの焦がし醤油の暴力的な香りを浴びた者は、一瞬で理性を破壊され、双子の美味いものの奴隷(コタツの永久住民)にされるのだァァァ!!!」
ただの「豚バラレタスチャーハン」なのだが、王都のエリート堅物騎士にとっては、王都の全戦士を一杯で無力化する「最悪の精神破壊兵器」にしか見えなかった。
令嬢はよだれを垂らし、目をハートマークにしながら、コタツの上へと崩れ落ちるのだった。
◇
「さあ! できたてのパラパラチャーハンと、ふわとろ卵スープよ! コタツでハフハフ食べなさい!」
アリスが特大のお皿をコタツの中央にどんと置いた。
黄金色に輝くお米の間に、シャキシャキのレモン色に近いグリーンレタスと、ジューシーな豚バラ肉が顔を覗かせている。
イゾルデもアルドも、もはやマナーなどかなぐり捨ててスプーンを握りしめ、一気に口へと放り込んだ。
ハフ、ハフハフ……! ズ、ズゴッ……!
「「ーーーーーっっっっっっっふ、ふおおおおおおおおお!!!!」」
口に入れた瞬間、パラッ!とお米が一瞬でほどけ、
卵の優しいコクの後に、豚肉のジューシーな脂と、にんにくの旨味、そして焦がし本つゆの芳醇な和の塩気が、大脳新皮質を完全支配した。
レタスの「シャキッ」とした心地よい食感が、熱々のパラパラ感の中で最高のアクセントを奏でている。
「なんという美味さだ……! お米が本当に一粒一粒独立して、口の中で黄金の星のように踊っている! そしてこの焦がし醤油のコク! 没落貴族シルバーストーン特区、本日をもって、チャーハンの虜として完全にQOLを支配されました!」
イゾルデがハフハフと涙を流し、冷たいエール(第30話仕様)を喉にグビグビと流し込みながら絶叫する。
「へへ、だから言ったでしょう、イゾルデ様。このメテオ・チャハン、お尻のサドルカバー(第26話)並みにQOLが高いんでさぁ!」
アルドも鼻を真っ赤にして、チャーハンを猛烈な勢いで口に運んでいた。
「「ふふふふ……」」
お互いのツルツルキューティクル(第40話)の髪を揺らしながら、
「QOLの完全勝利ね、アリス!」
「ええ、エレン。黄金の衣コーティングと、放物線軌道の完全物理ハックよ!」
と、大はしゃぎでハイタッチを交わす小さな双子。
窓の外では、月明かりの下、ガシャガシャと木製のお掃除ロボ(第36話)が、静かに台所の床にこぼれたわずかなお米の粒を掃き清めていた。
領内には、目に見えない「極限の高分子化学・流体力学技術」と、隣領の貴族たちを「一口食べるだけで魂がとろけて双子の奴隷にされる、恐るべき悪魔のメテオ・チャハンの噂」が、優しく、そして最高にお気楽に広がり続けるのだった。




