第68話:大地を駆ける音速の銀蛇(と、王都を一瞬で一網打尽にする超電磁誘導突撃列車・リニア)
「……エレン、聞こえる? 合併によって領地が数倍に広がったのはいいけれど、我がシルバーストーン第一コンビナート(第24話)から、山頂の温泉(第30話)、中間地点のエイドステーション(第26話)までの移動時間が、これまでの『お気楽スローライフ』のタイムスケジュールを根底から破壊するほど長期化しているわ……」
「聞こえるわアリス。というか、共有されている私の大腿四頭筋も、いくら『シルバーストーン・レジェンド(第19話)』が最高級クロモリロードバイクとはいえ、毎回汗だくになって往復する非効率さに、怒りの乳酸を限界突破で貯留させようとストライキを宣言しているわ。汗をかかずに、ビール(第6話)や大量の新作漫画(第32話)を『瞬時に』移動させる物流と交通のインフラ、これこそ新章の最優先課題よ!」
アストレア公爵領と隣領の合併により、一気に大領地となったシルバーストーンQOL巨大観光特区。
コタツ(冷風ドライモード)でアイスを貪りながら、銀髪の双子は脳内の専用回線で、次なるインフラ開発――すなわち、異世界初の「超高速リニアモーターカー」のDIYに向けて完全同期していた。
前世は三十代の理科教師、成瀬健一。
どれだけ土地が広くなろうとも、移動時間を妥協することなど、時間を何よりも愛する趣味人として許されない。
「いい、エレン。電磁気学において、磁界の中を動く電荷が受けるローレンツ力 Fの公式はこうよ」
F = q(E + v ×B)
アリス(理論・設計・数理担当)が、かつてライデン瓶(第35話)でハックした蓄電技術と、ドラムFAX(第41話)の電磁石の原理を脳内ボードに展開する。
「電磁石を軌道(ウッド&チタン製)に等間隔に配置し、極性を超高速で切り替えることで推進力を生み出す『リニア誘導モーター(LIM)』を設計したわ。エレン、私の3Dタイミングチャートの通りに、軌道側の電磁石の極性をミリ秒単位でスイッチングする魔導回路を敷設して!」
「ラジャー、アリス! 軌道の削り出しと組み立ては私のフィジカルにお任せあれ! ついでに、摩擦抵抗を極限までゼロにするために、車輪の軸受に第48話の『水晶ベアリング』を仕込んで、さらにスライムジェル(第26話)の境界潤滑と、水車(第36話)の廃熱をドラフト効果で噴射する『半浮上アシスト高速客車』に仕上げてあげる!」
エレン(実技・精密加工・物理担当)の指先が、ガラクタのチタンプレートとアイアンウッドを前にパチパチと凄まじい放電を始めた。
キィィィィィィィン!!!!!
鼓膜を引きちぎるような超高周波の魔力放電カッター。
エレンは、アリスが脳内で算出した「超高速電磁極性スイッチング」の配線図に完全同調し、チタン製の軌道を数キロにわたって大地に敷設し、コンマ数ミクロンの精度で電磁石のコイルを巻き上げていく。
一人が「ローレンツ力&誘導電流シミュレーター(ソフト)」、一人が「超高速ナノ電磁石成形&軌道アッセンブル(ハード)」。
双子の超絶同調により、わずか数日のうちに、領地を一直線に貫く、ギラギラと銀色に輝くチタンのレールと、窓が大きくコタツが完備された流線型の美しい金属客車が爆誕した。
◇
数日後。
アストレア公爵領の合併に抗議しに、王都から実態調査のために送り込まれてきた、生真面目すぎる「王都重装騎士団長」と、すっかり双子の「お掃除お庭番兼デバッガー」としてお揃いのサウナハット(第51話仕様)を被って馴染んでいる元隠密アルド、そして堅物令嬢騎士イゾルデは、領地を横断する高台の崖の上から、その「銀色の軌道」を見下ろしていた。
「……アルド。何だあの、大地を不気味に切り裂くように伸びる、ギラギラと輝くチタンの『巨大な筒(軌道)』は……!?」
騎士団長が、腰の剣をガタガタと震わせながら絶叫する。
アルドは、のんきにたこ焼き(第60話)を摘まみながら微笑んだ。
「ああ、あれですか。双子様が『移動が面倒だ』と仰って、今朝パパッと作った、めちゃくちゃ乗り心地の良い、中にコタツとビールサーバーが完備された等速列車ですよ。快適なんですよね、あれ」
「嘘を言うなあああ!!!」
イゾルデが血相を変えて割って入る。
「馬車より速いあの自転車(第28話)を作った双子だぞ! そんな温厚な乗り物なわけがない! ……あ、見ろ! 奴らが、あの『客車』とやらに乗り込んだぞ!」
軌道の上、スタート地点に静かに鎮座する『シルバー・ブレット(半浮上式高速客車)』。
車内では、アリスとエレンがコタツに足を突っ込み、キンキンに冷えたクラフトコーラ(第42話)を片手に、のんきに笑っていた。
「エレン、電磁誘導推進システム、起動よ。ライデン充電最大、極性スイッチング……オン!」
「スイッチ、オォォォン!!!」
ガチャン!
その瞬間、物理法則のメルトダウンが起きた。
キィィィィィィィィィン……!!!!!
「「――ひょおおお! 加速Gが重力加速度gを完全にバグらせてるわ!!」」
アリスが計算したローレンツ力と、エレンが敷設した超高速極性スイッチングが完璧に作動。
摩擦抵抗を水晶ベアリングとスライム境界潤滑で極限までゼロにされた客車は、一滴のエンジン音も魔力爆発音も立てず、ただベアリングの「キィィィィン……」という超高音の風切り音だけを大気に響かせ、
時速800kmという、音速に迫る狂気的な弾丸スピードで、大空を滑るように無音で爆走し始めた。
「な、ななな……何なのだ、あの質量を無視した超高速の突撃兵器は……!?」
騎士団長は、あまりの「超物理」の光景に、持っていた愛剣を落として床に叩き割った。
彼の視界には、銀色の巨大な金属の塊(客車)が、一条の光の矢となって、大地を引き裂くチタンのレール(砲身)から超音速で射出され、一瞬にして地平線の彼方へと消え去っていく姿が映っていた。
イゾルデも、恐怖のあまり顔面を土気色にし、その場で膝をついた。
「ま、間違いない……! あのチタンのレール(砲身)から、大気中の魔力(静電気)をチャージして、あの金属の巨大弾丸(客車)を王都に向けて超音速で射出・強襲する、国家殲滅電磁投射砲――『レール・キャノン・リバイアサン』だ……!!!!! あれを撃ち込まれたら最後、王都のいかなる魔法防壁も、鉄壁の城門も、一瞬にして塵にされるぞォォォ!!!」
ただの「移動時間を3分にするための、コタツ付きリニアモーターカー」なのだが、王都の騎士たちにとっては、ペダルを踏むだけで王都を一瞬で更地にする、最悪の長距離超兵器にしか見えなかった。
あの巨大なチタンの筒が、今まさに王都の方向(※ただのエイドステーションへのルートです)を向いている。
「お、お赦しください、双子の魔王様……! 王都を……我が国をどうか狙撃しないでくださいぃぃぃ!!!」
騎士団長とイゾルデ、そして限界を突破したスパイアルドまでもが、戦う意志を1ミクロンも残さず、
全員が持っていた武器を投げ捨て、ただのビールと漫画を載せて時速800kmで爆走するリニアに向かって、涙を流して地面に頭を擦り付け、ひれ伏し続けるのだった。
◇
わずか3分後。
領地の西端、エイドステーション駅に「フワッ」と完全等速無音で着地・停止した『シルバー・ブレット』。
ドアがからくり機構(第36話)で自動で開き、お肌ツルツル(第40話)の姿で、冷たいクラフトコーラを片手に出てきたアリスとエレン。
「ぷはぁー、やっぱり汗一つかかずに、一瞬でエイドステーションに移動して飲む冷たいコーラは、大脳新皮質のQOLを極限突破させるわね、アリス」
「ええ、エレン。リニア誘導モーター(LIM)と水晶ベアリングの数理モデルの完全勝利よ。これで私たちの領内移動QOLは、年中無休で『音速の快適帝国』として維持されるわね」
「「ふふふふ……」」
窓の外では、月明かりの下、新たに雇用されたアルドが、ガシャガシャと走る木製お掃除ロボ(第36話)と肩を並べ、
「あのリニアのコタツ、実に通気性が良くてQOLが高い……」
と、幸せそうな笑顔で、木製のレールに詰まったわずかな落ち葉を掃き清めていた。
新章を迎えたシルバーストーン領には、目に見えない「極限の電磁気学・摩擦損失低減技術」と、王都の騎士たちを国家崩壊レベルの絶望に陥れる「王都を一瞬で塵にする、恐るべき超高速電磁キャノンの噂」が、優しく、そして最高にお気楽に広がり続けるのだった。




