第58話:艶やかな髪を揺らす風の精(と、脳髄の水分を直接沸騰させて脳を蒸発させる超音波熱風照射ヘどバンヘルム)
「……アリス、聞こえる? 私の頭皮環境が、この異世界特有のジメジメした湿気と、私たちの長すぎる銀髪のせいで、深刻な『カビと雑菌の温床危機』に直面しているわ……!」
「聞こえるわエレン。というか、共有されている私の大脳皮質も、風呂上がりに髪を乾かすためだけに、重いタオルで20分も頭をゴシゴシ往復させるという超非効率な時間消費に、かつてない怒りのパルスを送信しているわ。第40話の極上石鹸で手に入れたこのツヤツヤのキューティクルを、湿ったまま放置して寝るなんて、QOL(生活の質)に対する深刻なテロ行為よ!」
シルバーストーン家のリビング。
地熱床暖房コタツ(第30話仕様)でぬくぬくと温まりながらも、風呂上がりの濡れ髪をタオルで巻いた銀髪の双子は、脳内の専用回線をかつてない「時短・乾燥熱」で同期させていた。
前世は三十代の理科教師、成瀬健一。
その知識と、異世界で開花したチート能力を駆使して「お気楽なQOLの極み」を追求する双子にとって、ヘアドライという毎日の重労働は真っ先に自動化されるべき不条理だった。
「いい、エレン。髪の水分を瞬時に蒸発させるにはね、熱力学における『蒸発潜熱』と、流体力学における『コアンダ効果』の完全な融和が必要よ。髪の水分質量m、水の蒸発潜熱を L ≈ 2257kJ/kg とした場合、必要な熱量Qはこうよ」
Q = m L
アリス(理論・設計・分子計算担当)が脳内の黒板に熱力学の公式を書き殴り、共有視界に「髪に沿って風を均一に収束させる3D風路設計図」を投影する。
(エレン、風を頭皮に沿って引き寄せるために、ベルヌーイの定理 P + 1/2 ρv² = const に基づくコアンダ効果を応用した、微細な流路スリットを設計したわ。この通りにアイアンウッドを極限まで滑らかに削り出して!)
(オッケー、アリス! 私の『超精密魔力クラフト・3D流路切削モード(120,000 rpm)』におまかせあれ! さらに、第35話のライデン瓶の静電気を使って、お肌と同じ弱酸性のマイナスイオンを発生させ、静電気による表面電荷を中和する回路も組み込んじゃうね!)
エレン(実技・精密加工・物理演算担当)の指先が、ガラクタ置き場から引きずり出してきた真鍮のプレートと、フカフカの羊毛フェルトを前に、パチパチと頼もしい魔力火花を散らした。
キィィィィィィィン!!!!!
エレンの指先から、大気を引き裂く凄まじい超高周波の魔力刃。
アリスが共有視界に透過投影した「流体力学コアンダ・スリット」の等高線図に沿って、エレンは木材とチタンをコンマ数ナノメートル単位の精度で研ぎ澄まし、組み立てていく。
一人が「極限流体・熱移動シミュレーター(ソフト)」、一人が「ナノ精度放電カッター&組み上げ(ハード)」。
双子の超絶連携により、わずか数時間で、不気味に輝く真鍮のパイプと、羊毛フェルトで内張りされた禍々しいヘルメット型の「全自動ヘアドライキャップ(乾燥ヘルメット)」が爆誕した。
さらに、アリスは熱源として、庭の太陽光温水タワー(第46話)の廃熱ダクトをハック。ドラフト効果(煙突効果)によって超高速の温風をヘルメット内へダイレクトに送り込む「ポータブル温風シュート」を接続した。
◇
「よし、エレン。ヘアドライ・シーケンス、起動よ! 温風バルブ、全開! マイナスイオン・ライデン瓶、クラッチ接続!」
「スイッチ、オォォォン!!」
ガチャン、とエレンがヘルメット(乾燥キャップ)を頭に被り、起動レバーを倒す。
次の瞬間、シルバーストーン家の台所から、世界の理を完全に無視した「音響と振動」が爆発した。
キィィィィィィィィン!!!!!
バリバリバリバリバチバチバチッ!!!
「「――ひょおおお! 脳が! 脳が揺れるユーロビート(第38話)と同調しているわ!!」」
温水タワーからの超高速温風が、コアンダ効果によってエレンの頭皮に均一に収束し、髪の水分を一瞬で蒸発させていく。ヘルメットの内部では、ライデン瓶から誘導されたマイナスイオンの青白い静電気火花が「パチパチパチ!」と不気味に弾け、髪の毛の表面電荷を中和してキューティクルをピタッと保護する。
さらに、エレンは乾燥効率を極限まで高めるため、ヘッドホン(第38話)から流れるバッキバキの爆音ユーロビートのリズムに合わせ、
「ハッ! セイ! ホー!」
と、激しく頭を上下に振り(ヘッドバンギング)、ヘルメット内の温風を遠心力で均一に拡散させ始めた。
アリスも室内で、全く同じ温度と静電気の数値を脳内で共有しながら、「完璧な乾燥効率よ!」とカクカクと激しく頭を振り、大はしゃぎで高笑いしていた。
◇
その頃。
シルバーストーン家の庭の物陰。
前回の「アルマゲドン・グリッド(第50話)」の恐怖からなんとか這い戻り、這々の体で双子の監視を再開していた隣領の超一流隠密は、
その窓から覗く、この世の終わりとしか思えない「不気味な光景」に、恐怖で全身の骨が砕け散るのを感じていた。
「お、おい……嘘だろ……。あ、あいつら、今度は台所で、一体どんな地獄の殺戮兵器を起動しているんだ……!?」
隠密の視界には、
窓の向こうで、頭部を不気味な真鍮のギヤと、血で汚れたような茶色の毛皮(※ただの羊毛フェルトです)で覆われた、禍々しいヘルメットを被った少女の姿。
そのヘルメットから、
「キィィィィィィィィン!!!」という、脳髄を物理的に直接沸騰させて引きちぎるような、凄まじい金属の超高速ファン回転音が鳴り響いている。
さらに、ヘルメットの隙間から、パチパチ、バリバリと青白い電磁の火花(※ただのマイナスイオン放電です)が激しく弾け、
ヘルメットを被らされた少女は、あまりの苦痛(※ただのユーロビートのノリです)からか、
白目を剥くような凄まじい形相で、頭を前後左右に「ガッ! ガッ! ガガガガガッ!!!」と、人間とは思えない速度で激しく振り回している(ヘッドバンギング)。
「ひ、ひぃぃぃっっっ!!!???」
隠密は、あまりの「生体兵器」の光景に、耳から血を流す妄想に囚われ、その場に失禁してへたり込んだ。
「あ、あれは……人間の頭部にあの不気味な真鍮の装置を被せ、超高周波の熱風と電磁波で『脳髄の水分を直接沸騰させて脳を物理的に蒸発させ』、奇怪なヘッドバンギングをさせて発狂死させる、生体洗脳熱風兵器――『ブレイン・メルト・ヘルム』だ……!!!!! あの激しい頭の振り方は、脳が沸騰して発狂している犠牲者の末路に違いない……!!!」
ただの「お風呂上がりの時短ヘアドライ」なのだが、隠密にとっては、大陸中の人間の脳を一杯で沸騰させて蒸発させる「最悪の生体拷問兵器」にしか見えなかった。
あのヘルメットが他国に実戦投入されたら最後、国中の騎士たちが頭を激しく振りながら、ヨダレを垂らして双子の足元にひれ伏して脳を溶かされるのだ。
「お、お赦しください、双子の魔王様……! おらの脳髄を……どうか沸騰させないでくださいぃぃぃ!!!」
隠密は、あまりの「洗脳ヘルメット」への恐怖と、窓から漏れ出る爆音ユーロビートの不気味な重低音振動に脳のキャパシティが完全に崩壊。
白目を剥いて泡を吹き、失禁したまま新雪(または草むら)の中へと真っ逆さまに卒倒し、そのまま気絶して夜の闇の中へと逃げ去っていくのだった。
◇
数分後。
「ポチッ」とスイッチを切り、ヘルメットを脱いだエレン。
そこには、一滴の水分も残さず、さらさら、ふわふわ、ツヤツヤと輝き、まるで銀色のシルクのように美しく風に揺れる、完璧な極上ヘアーが完成していた。
「ぷはぁー! わずか1分で完璧に乾いたわ、アリス! 髪が空気のように軽くて、キューティクルが『QOL完全降伏!』って叫んでるよ!」
「素晴らしいわエレン! コアンダ効果による風路設計と、マイナスイオン中和の理論値が完璧に実証されたわ。これで私たちの毎日のバスタイムQOLは、年中無休で完璧な『天使の輪帝国』として維持されるわね!」
「「ふふふふ……」」
お互いのさらさらツヤツヤの髪を優しく揺らしながら、大はしゃぎでハイタッチを交わす小さな双子。
窓の外では、月明かりの下、ガシャガシャと木製のお掃除ロボ(第36話)が、静かに台所の床に落ちたわずかな羊毛の繊維を掃き清めていた。
領内には、目に見えない「極限の流体力学・界面化学技術」と、隣領の貴族たちを「被せられた瞬間、脳を沸騰させられてヘッドバンギングしながら発狂死する、恐るべき悪魔の洗脳ヘルメットの噂」が、優しく、そして最高にお気楽に広がり続けるのだった。




