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第124話:焦がしざらめと黄金の繭

「……アリス、聞こえる? 私たちのコタツ(除湿ドライモード・第65話仕様)が、このウイスキー(第110話仕様)と芋焼酎お湯割り(第111話仕様)という『至高の酒類』を手に入れて以降、今度は『それを極上に引き立てるおつまみ』の不在に、かつてない深刻なバグ(QOLの飢餓)を検知して激しい警報を鳴らし続けているわ……!」

「聞こえるわエレン! ビールにおでんも最高だけど、このウイスキーの重厚なスモーキーさを120%解放(マリアージュ)させるには、あの、サクラの薫風を纏って黄金色に輝く『燻製(スモーク)』が絶対に不可欠よ! ターゲットは、お口の中でとろりと溶け出すカマンベールチーズ、そして噛み締めた瞬間にあご出汁の旨味とサクラの香りが爆発するウズラの燻製卵よ!」


シルバーストーンQOL巨大観光特区のリビング。

ポカポカのコタツの中で、銀髪の双子は、脳内の専用回線(テレパシー)をかつてない「燻製(スモーク)熱」で同期させていた。


前世は三十代の理科教師、成瀬健一。

その知識をこれでもかと無駄遣いし、お気軽極楽に「お家Bar」を完成させるため、双子の超絶同調(デュアル・コア)が再び火を噴いた。


「いい、エレン? 燻製の命はね、煙の温度管理と、食材表面の水分コントロールよ。サクラチップの有機熱分解によって発生するフェノール化合物は、食材の表面に水滴が付着していると、水と反応して『不快な酸味(タール臭)』に変化してしまうの。これを分子レベルで完全にブロックし、高熱によるチーズの溶け出し(熱崩壊)を防ぐ、完璧な『ポータブルスモークポット(チタン製)』をDIYするわよ!」

アリス(理論・設計・分子化学担当)が脳内の黒板に、木材(リグニン)の熱分解温度と水分の界面吸着平衡の数式を書き殴る。


「カマンベールチーズの断面から内部の脂質が流れ出さないよう、底面には熱伝導を緩やかに遮断するアルミホイルを敷くの。さらに、燻製中の温度は『絶対に摂氏80℃以下』をキープしなさい。80℃を超えるとチップが焦げて、焦げ臭が食材に定着してしまうわ。エレン、私のリアルタイム温度シミュレーションに合わせて、魔力の火力を精密にコントロールして!」

「最高よアリス! 焦げ臭をシャットアウトする、80度リミッターね! 私の『超精密魔力クラフト・3次元切削(120,000 rpm)』で、完璧な密閉性と排気スリットを備えたチタン製スモークポットを成形してあげる!」


エレン(実技・精密加工・物理演算担当)の指先から、バチバチと精密な魔力放電が散る。

アリスが脳内CADで算出した「対流熱循環スリット」の3D設計図に沿って、エレンはガラクタのチタンプレートを一瞬で美しい円筒形のスモーカーに成形し、真鍮の温度センサーバルブを完璧に組み上げていった。


一人が「高分子熱分解&界面水分吸着シミュレーター(ソフト)」、一人が「ナノ精度放電カッター&高精度魔力サーモスタット(ハード)」。

双子の超絶連携により、コタツの横には、ピカピカに磨き上げられたチタン製スモークポットと、ウズラ卵用の特製チタン網が爆誕した。


◇


さっそく、アリスが構築した「極上燻製レシピ」がスタートした。


「エレン、まずはウズラ卵の水煮12個をジプロックに入れなさい! そこに、コンビナート(第24話)で極秘に精製した『あごだしつゆ』30cc、水90ccを注ぎ込み、冷蔵庫で1時間漬け込むのよ!」

「了解! 時折袋をコロコロ転がして、出汁の分子を均一に浸透させるよ!」


1時間後、エレンがお肉カット用の神速ペーパーさばきで、卵の表面の汁気をキッチンペーパーで「フッ……」と完璧に拭き取る。


「次は乾燥プロセスよ! チーズ4個と一緒に燻製網の上に並べ、室温で『1時間半(1:30)』完全に乾燥させなさい! チーズを常温に戻して燻製時の温度差による結露を防ぎ、表面の水分を完全に相転移(蒸発)させて、酸味の発生を100%封殺するの!」

「オッケー! カマンベールチーズの下には、溶け出し防止の極薄アルミホイルをバッチリ敷いておいたよ!」


1時間半後、網の上の食材は完璧にさらさらに乾燥。

エレンがスモーカーの底にアルミホイルを敷き、その上に「サクラチップ15g」、そして隠し味の「ざらめ小さじ1」をのせて、コンロ(地熱床暖房バイパス仕様)にセットした。


「エレン、まずはふたを開けたまま中火にかけなさい! ざらめが熱分解を起こしてカラメル化(第73話仕様)し、サクラの煙と混ざり合って、お肉や卵の表面に美しい黄金色の『ツヤ』をコーティングするわ!」

「煙が立ってきたわ! ふたを閉めて、弱火で正確に『9分(9:00)』加熱、ホールド!」


アリスが脳内の温度計で、内部温度を正確に「78.5℃」でロック。エレンが指先から微小な魔力熱を送り込んで温度を0.1℃単位で微調整し、80度の焦げ臭境界線を完璧に死守する。

9分後、エレンが素早く火を消した。


「そのままふたを開けずに、正確に『5分(5:00)』、余熱で煙の分子(フェノール類)をお肉に定着(パック)させなさい!」

5分後、フタをパカッと開けると、もうもうと立ち上る白い煙の向こうから、

サクラのチップと焦がしざらめの、

お腹の底から涎が洪水のように溢れ出す、この世のものとは思えないほど香ばしく甘い、極上の「薫風」がリビング全体へと大爆発した。


仕上げに皿に取り、さらに30分間乾燥させて、余剰な水分をキッチンペーパーで完全に吸い取れば――。

お皿の上には、ざらめの効果でまるで黄金の繭(まゆ)のようにきらきらと輝きを放つ、半熟の燻製ウズラ卵。

そして、表面はパリッと香ばしく、中はとろっとろに溶けた、至高のカマンベールチーズの燻製が完成していた。


◇


「……ま、待って。何ですか、この、コタツの除湿空気を一瞬で塗り替える、悪魔的なまでに芳醇で香ばしい香りは……!」


コタツの中でハチミツレモネードを啜っていた監察官イゾルデ。

そして、隣でサウナハット(第51話仕様)を被ってすっかり馴染んでいるお庭番アルド、さらには父エドワードと母レイラ。

一同は、大皿の上に積まれた「黄金に輝く燻製たち」を見て、目を爛々と輝かせ、スプーンとグラス(ウイスキー&日本酒)を握りしめた。


これまでは「兵器と勘違いして土下座する」のがお決まりだったが、今の特区の面々には、そんな野蛮な妄想(※ただの大誤解です)をする余裕すら、お腹の虫が許さなかった。


「もう我慢できませんわ! いただきます!」

イゾルデが、スプーンで黄金の燻製ウズラ卵をすくい、おちょこに注いだ極上日本酒(第109話仕様)と共に口へ放り込んだ。


サクッ……ジュワァァァッ!!!


「――っっっっっっっふ、ふおおおおおおおおお!!!!」


口に入れた瞬間、イゾルデの口の中で、あごだしつゆの旨味がサクラチップの香ばしい薫風を乗せて大爆発した。

「なんて、なんて美味しいの! サクラの深い香りと、焦げのない綺麗な出汁の旨味がお口いっぱいに広がり……、そこへこの温かい熱燗を流し込むと、お米の甘みとスモーキーな香りが鼻腔を抜けて、脳内QOLが完全大崩壊(グランド・スラム)ですわーーーっ!!」


「こっちのチーズもヤバいでさぁ! 表面がサクッとしているのに、中からカマンベールがとろぉりと溶け出して……ハイボール(第110話仕様)が、ハイボールの炭酸が無限に喉を焼くべぇぇ!!」

アルドも涙を流してカマンベールチーズを貪り食う。


「エドワード、この燻製、ウイスキーのロック(第110話仕様)とも抜群の相性ねえ」

「本当にねえ、レイラ。これをおつまみにして飲むお酒は、人生のすべてを肯定してくれるような温かさがあるよ」

父エドワードと母レイラも、グラスをカランと鳴らしながら、完全におうちBarの虜になっていた。


だが、この「極上の夜会(おうちBar)」は、ただ飲むだけでは終わらなかった。


「アリス様、エレン様! この最高のお酒と燻製を前にして、ただだらだらするだけなんて、QOLへの深刻な冒涜ですわ! さあ、これ(カードゲームSSC、第32話仕様)を出しなさい! 今夜は、この残りのスモークカマンベールチーズを賭けて、アストレア公爵家の名誉をかけた『第一回シルバーストーン・コタツ・デュエル大会』を開催しますわよ!!」

イゾルデがスウェット姿のまま、目を血走らせてカードの束をコタツの上に叩きつけた。


「望むところだべ、イゾルデ様! 俺の『ハンス・ビートダウン(第32話仕様)』デッキで、そのカマンベールは全部俺がいただくべ!」

アルドがサウナハットを揺らしながら手札を広げる。

「お父さんも混ぜておくれ! 娘たちのチャリのパーツ(チタンネジ)を賭けて、このお父さんが無敗のプロデューサー(第17話仕様)の力を見せてあげるよ!」

エドワードも、ウイスキーをグイッと煽って参戦。


「私のターン、ドロー! トラップカード発動よ!」「いや、それには『ピザ窯の烈火(第32話仕様)』でカウンターだべ!」

「ぎゃあああ! わたくしのカマンベールがぁぁぁ!!」


深夜のシルバーストーン特区の屋敷から、夜な夜な響き渡る、大爆笑とカードを叩きつける「バチバチ!」という楽しげな大歓声。

そこには、かつての「敵対関係」や「没落の影」など微塵もなく、ただ、美味しいお酒と極上の燻製料理、そしてゲームに熱狂する、異世界で最も賑やかで温かい「お気軽コタツBar」の光景が広がっていた。


「「ふふふふ……」」


コタツの特等席で、お互いのさらさらツヤツヤの髪(第40話仕様)を優しく撫で合いながら、ハチミツレモネードを片手にその様子を眺める小さな双子。


「計画通り、おつまみとゲームで、みんなを完璧にコタツの底(だらだら仲間)に引きずり込めたわね、アリス」

「ええ、エレン。これでお使い(第121〜123話)も、お掃除(第86話)も、明日からはみんなもっと楽しそうに(QOLの高い状態で)バイトをこなしてくれるわ。科学と、私たちの趣味の完全勝利ね」


窓の外では、月明かりの下、ガシャガシャと走る木製のお掃除ロボ(第36話)が、静かに庭の雪を掃き清めながら、コタツから漏れ出る香ばしい燻製の匂いと笑い声を、優しく、そして最高にお気楽に、世界中に広げていくのだった。

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