第111話:真空の球体に湧き立つ透明な魔水
「……アリス、聞こえる? 私たちの胃袋、ラーメン(第57話)に餃子(第88話)、たこ焼き(第60話)という極上ジャンクフードの波に溺れて完璧なQOL(生活の質)に達したはずなのに、私の喉が、炭酸ビールやウイスキー(第110話)の炭酸の刺激の陰から、『もっとすっきりと、かつ芳醇な大地の香りをダイレクトに楽しめるお湯割り』を求めて、砂漠のオアシスのように渇きを訴えているわ……!」
「聞こえるわエレン。というか、同一の意識を共有している私の大脳皮質も、ポカポカの除湿コタツ(第65話)に入りながら、あのふわりとサツマイモの香りが漂う『極上芋焼酎のお湯割り』をキュッと煽り、ハフハフと熱々おでん(第71話)を胃袋に流し込むゴールデン・コンボの不在に、かつてない甚大な不満アラート(怒り)を鳴り響かせているわ。でも、この世界の既存の蒸留方法(常圧蒸留)じゃ、沸騰時の高熱(摂氏100℃前後)のせいで原料のデンプンやデリケートなエステルが熱変性し、雑味や焦げ臭が出てしまう。これでは、透き通るような洗練された香りは1ミリも引き出せないわ!」
シルバーストーンQOL巨大観光特区のリビング。
冷え冷えのハチミツレモネード(第26話)をストローで啜り、もっちもちのお肌(第76話)をコタツの温風にさらしていた銀髪の双子は、脳内の専用回線をかつてない「焼酎熱」で同期させていた。
前世は三十代の理科教師、成瀬健一。
ビール、日本酒、ウイスキーときて、焼酎をハックしないなど趣味人の美学が許さない。
「いい、エレン。沸騰温度を劇的に下げるにはね、気体の圧力と相転移(沸点)の関係を記述する、熱力学の真髄――『クラウジウス・クラペイロンの式』をハックするのよ!」
アリス(理論・設計・分子計算担当)が脳内の黒板に、相平衡の微分方程式を積分した数式を書き殴る。
ln(P₂/P₁) = -ΔHvap/R(1/T₂ - 1/T₁)
「ここでPは蒸気圧、Tは絶対温度、ΔHvapは蒸発エンタルピー、Rは気体定数よ! かつてハイパーループ(第97話仕様)や除湿エアコン(第65話仕様)で開発した真空排気技術を応用し、釜の内部を極限の低圧である『0.1気圧(約10kPa)』まで強制排気してごらんなさい。クラウジウス・クラペイロンの式に基づき、アルコールの沸点は通常の摂氏78℃から、人間の体温とほぼ同等の『摂氏40℃前後』まで急降下(沸点ドロップ)するわ! 火を一切使わず、温泉の余熱程度のぬくもりだけで『冷たい沸騰』を起こし、原料のサツマイモや麦のフルーティーな香りを分子レベルで壊さずに抽出する、異世界初の『減圧蒸留システム』を物質化しなさい!」
「最高よアリス! 大気圧をぶん殴って沸点をドロップさせるのね! 私の『超精密魔力クラフト・一体成形(120,000 rpm)』で、真球度カンストの透明チタン蒸留球(第13話仕様)と、電磁駆動式高真空ポンプをものの数分で削り出してあげる!」
エレン(実技・精密加工・物理演算担当)の指先から、バチバチと精密な魔力放電が散る。
アリスが脳内スパコンで計算した「真空シールドと気液平衡の熱対流」の3D設計図に沿って、エレンはガラクタのチタンプレートをプレスし、厚さ1.5cmの、内部が完全に可視化できる美しい「透明チタンの球体」と、それを一定の温度で揺らす「温泉水循環ヒーター」を瞬時に物質化していった。
一人が「熱力学相平衡・高真空排気シミュレーター(ソフト)」、一人が「ナノ精度放電カッター&3D積層組み立て(ハード)」。
双子の超絶同調により、台所のコンロの上には、不気味に青白く輝くLED魔石(第39話仕様)の調圧メーターをチカチカと明滅させ、真鍮の真空バルブが「シューーーーーッ!!」と不気味な高圧吸引音を響かせる、未来的な『真空減圧蒸留球・ドライスパイダー』が爆誕した。
◇
さっそく、アリスが構築した「極上減圧焼酎シーケンス(レシピ)」がスタートした。
「エレン、一次仕込み(米麹と酵母、第109話仕様)は完璧よ。二次原料の『サツマイモ(異世界カブ亜種)』を、澱粉質を最大限に糖化させるために、エレンの神速包丁(4,000 rpm)で1センチ角のサイコロ状に超高速カットして!」
「ラジャー! お肉カット(第67話仕様)で鍛えた私の包丁さばきをなめないで!」
トントントントントントン!!!
エレンの手が残像となって動き、まな板の上でサツマイモが秒速で極小のサイコロへと粉砕されていく。
これを蒸し上げ、一次もろみ(アルコール発酵中)に投入して発酵させること数日。
「もろみの発酵完了、アルコール度数約14%よ! 減圧蒸留球に『もろみ』を投入して、ふたを密閉、真空ポンプ、起動よ!」
「スイッチ、オォォォン!!!」
ガチャン、とエレンが真鍮の真空レバーを倒す。
次の瞬間、台所の奥から、世界の理を完全に無視した「大音響と怪奇現象」が爆発した。
シューーーーーーーーーーーッ!!!!!
ドボボボボボボボボボボボボッ!!!!!
「「――きたわっ!! 本当に火を一切使ってないのに、ドボドボ沸騰し始めたわ!!」」
アリスが計算した高真空排気システムが完璧に作動。
チャンバーの内部気圧が0.1気圧まで急激に吸い尽くされ、クラウジウス・クラペイロンの式に従って沸点が摂氏40℃まで急降下。
コンロには火が一切点いておらず、ただぬるい温泉水が循環しているだけ(摂氏 40℃ 前後)であるにもかかわらず、
透明なチタン球体の内部では、ドロドロの白いもろみが、まるで地獄の釜のように「ドボボボッ! 泡泡泡ッ!」と、物凄い勢いで激しく、そして冷たく沸騰を始めたのだ。
真空バルブからは、大気圧を限界まで吸い尽くす「シューーーーッ!」という凄まじい高周波の負圧吸引音が、台所中に鳴り響き、
球体の頂部から伸びる冷却蛇管の先から、不気味に、そして一滴の濁りもなく透き通った「透明な魔水(本格焼酎原酒・度数約40%)」が、
「ポタ……ポタ……ボタボタボタッ!!」
と、もの凄い勢いで真鍮の容器へと滴り落ち、極上のフルーティーなサツマイモの香りが、一瞬にしてリビングを支配していった。
◇
「よし、エレン。蒸留プロセス完了、減圧バルブ、クラッチパージよ!」
「スイッチ、オフ!」
カチャ。
エレンが真空クラッチを切ると、不気味な高周波音がスッと引いていき、透明チタン球体の「冷たい沸騰」が静かに静止した。
その手元には、一滴の雑味もなく、大根やサツマイモの華やかでフルーティーな香気が完璧に閉じ込められた、アルコール度数約25%の透明に澄み切った「シルバーストーン本格芋焼酎・減圧仕込み」が、ボトルに完璧に満たされていた。
「……アリス、聞こえる? 私たちの胃袋、前夜のウイスキー(第110話)の熱気と、コタツBarの極上おつまみの余韻で完全にQOLの頂点にいるはずなのに、肝心な『水』が足りないわ……。あの、軟水化したはずなのに、コンビナートの配管の微細な金属汚染のせいか、ほんのりと鉄の味がする。このままじゃ、私たちの繊細な味覚が、このままでは台無しよ!」
「聞こえるわエレン。というか、共有されている私の大脳皮質も、あの雑味のある水でお茶を淹れるなんて、ティータイムの美学(QOL)に対する冒涜だと激しく警告しているわ。……不純物ゼロ、ミネラル分だけを完璧に溶かし込んだ、前世のあの『クリスタルのような純水』が恋しい。ならば解決策は一つ……! 水の蒸気圧と沸点の関係(クラウジウス・クラペイロンの式)を完璧にハックして、沸点ドロップ現象で低温抽出された『究極の透明な魔水』をDIYするわよ!」
シルバーストーンQOL巨大観光特区のリビング。
完璧に除湿されたドライコタツ(第65話仕様)の中でハチミツレモネードを啜り、ツルツルのお肌(第76話仕様)を揺らしていた銀髪の双子は、脳内の専用回線をかつてない「純水渇望熱」で同期させていた。
「いい? エレン。水の沸点はね、気圧が下がれば下がるほど低下するの。クラウジウス・クラペイロンの公式( dP/dT = L/TΔV )に基づけば、鍋の中を0.1気圧まで減圧するだけで、お水は摂氏40度くらいでボコボコと沸騰し始めるわ。これなら、高温による『不純物の再溶出』を一切防ぎながら、ピュアな水分子だけを蒸留できるのよ!」
アリス(理論・設計・分子科学担当)が脳内で相平衡の数理モデルを構築し、共有視界にAR投影する。
「最高よアリス! 加熱による熱変性を防ぐための、まさに『低温沸騰・水力ハック』ね! だったら、私の『超精密魔力クラフト・3次元切削モード(120,000 rpm)』で、0.1気圧の真空にもビクともしない、完璧な真球のチタン製真空蒸留チャンバー(球体)を削り出してあげるわ!」
「頼んだわエレン! チャンバーの気密性は10⁻³Paを死守よ。分子レベルの隙間も許さない!」
エレン(実技・精密加工・物理演算担当)の指先から、バチバチと凄まじい物理圧を伴う魔力が放たれる。
エレンは、前世の記憶にあるバチスカーフのような、継ぎ目の一切ない美しいチタンの球体を、まるで粘土をこねるかのような神速で削り出し、高気密バルブを完璧に組み上げていった。
◇
数時間後。台所の隅。
コタツから覗く一同の目の前で、不気味に青白く光る「透明なチタン球体」が、不気味に「シューーーーッ!」と高音の負圧吸引音を響かせていた。
内部では、たった40℃のぬるい温泉水が、まるで激怒したマグマのようにボコボコと、しかし静かに沸騰し、そこから透き通った水蒸気が抽出されていく。
コタツに入っていたイゾルデは、その超高度な光景にただ呆然としていた。
「……あの、お二方。普通の人間は、汚れた水を布で濾すのが精一杯ですわ……。なぜ、あのような『空飛ぶ銀の球体』を庭から召喚して、お湯を沸かすのですか……?」
イゾルデは、震える手でおでん(第72話仕様)を摘まみながら、ため息をついた。
「ただの蒸留器よ、イゾルデ。これがあれば雑味が1ミリもない『純水』でコーヒーが淹れられるの。没落貴族の暮らしには必要でしょう?」
アリスがにやりと笑う。
「あの……私、普通の井戸水で充分です……」
アルドもコタツの底から顔を出し、呆れ顔で呟いた。
「アリス、さっそくお湯割りよ! 摂氏80℃のお湯と、焼酎を『6:4(ロクヨン)』の黄金比率でマリアージュ(混合)しなさい!」
「ええ、エレン。お湯割りにすることで、お湯の対流と温度伝達(第71話仕様)によって、焼酎のアルコール成分とサツマイモの香気エステル分子が一瞬で大気中に揮発し、鼻腔をダイレクトに潤すわ。」
だが、アリスが差し出した、この純水で淹れたお湯割りを一口飲むと、その表情は一変した。
「……なっ! なんだこの喉越しは……!? 雑味がなくて、お酒の香りが直接脳の神経をハッキングしてくる……!!」
イゾルデが、温かいお湯割りを喉に流し込んだ。その瞬間。
――フワァァァァァァァッ!!!
「QOL完全大崩壊ですぅぅぅぅぅん!!!???」
イゾルデの口から、およそ王都の最高監察官とは思えない、魂の底からとろけた奇怪な絶叫が漏れ出た。
「な、何これぇぇぇ! ひと口含んだ瞬間、お湯のぬくもりと共に、サツマイモの信じられないほど華やかでフルーティーな甘い香りが、鼻腔をダイレクトに、爆風のように突き抜けていくわ! 普通のお酒にあるような、あのツンとした雑味やアルコールのトゲが1ミリも存在せず、お口の中がクリスタルのように澄み渡っていく……! そして、このコタツのサラサラドライな快適さに、お湯割りのぬくもりが重なって、全身の細胞が『QOL完全降伏!』って叫んでコタツの底へドロドロに溶けて沈んでいくぅぅぅ!!」
「だべ? このお湯割り、カレー(第54話)の後に飲むと、スパイスの辛さを優しく洗い流して、無限にコタツから出られなくなる悪魔の水(QOL)になりやすぜ! 旦那、おかわりだべ!」
サウナハットを被ったアルドも、涙を流してお湯割りを煽り、完全にコタツの一部として溶けていた。
二人は驚異的な手つきで、その「究極の純水お湯割り」を大量生産。
そして、ゲーム(第32話仕様)に熱狂する夜が始まった。
「さあ、この極上純水お湯割りを飲んで、次のデバッグ(※ただのゲームです)に行くべ!」
「はぅ……、この水、雑味が1ミリもなくて、お酒の香りが脳を直接ハッキングしてくるわ……。QOL完全降伏(昇天)ですわぁぁ!」
こうして、特区の夜は、今日も今日とて大絶叫と大爆笑の中で幕を閉じていくのであった。




