第103話:虚空へ消え去る不浄の魔水
「……アリス、聞こえる? 私たちのQOL(生活の質)メーター(衛生環境部門)が、この領地が王都を超える巨大特区(第61話仕様)に成長したにもかかわらず、屋敷の奥に残るあの『ただ地面に穴を掘っただけの原始的な便所(ボットン便所)』の不衛生さと悪臭に直面して、かつてない悲痛なサイレン(バイオハザード警報)を鳴り響かせているわ……!」
「聞こえるわエレン。というか、共有されている私の大脳皮質も、どれだけ温泉サウナ(第51・102話)で身体をととのえ、すき焼き(第128話)で胃袋を満たしても、最後の排泄フェーズがこれでは、美少女双子としてのアイデンティティが分子レベルで崩壊しているとストライキを宣言しているわ。前世の日本の至宝にして究極のQOLインフラ――『全自動サイクロン温水洗浄トイレ』を今すぐDIYして、お尻の尊厳を完全ディフェンス(保護)するわよ!」
シルバーストーン巨大観光特区のリビング。
完璧に除湿されたドライコタツ(第65話仕様)の中でハチミツレモネードを啜りながら、銀髪の双子は、脳内の専用回線をかつてない「便座熱」で同期させていた。
前世は三十代の理科教師、成瀬健一。
食や睡眠、交通をハックした双子が、この人類の尊厳に関わる衛生インフラを妥協したままにするはずがない。
「いい、エレン? 少ない水で不浄の物質を一瞬で消し去るにはね、流体力学における『サイフォンの原理』のハックが必要よ。流体のエネルギー保存を示すベルヌーイの定理の式はこれよ!」
P + 1/2ρv² + ρgh = constant
「(ここで圧力をP、水の密度をρ、流速をv、高低差をhとするわ! S字トラップ配管の内部を水で完全に満たし(充水)、大気圧と高低差によるサイフォン効果を急激に発生させることで、便器内の不浄をゴゴゴッ!と完全に無音・一瞬で真空吸引して下水へ送り出すのよ! さらに、界面化学を応用し、水洗直前に便器の水面に第40話の液体石鹸の極薄スライムバブル(泡シールド)を自動展開させ、落下衝撃による水跳ね(おつり)と悪臭分子の揮発(拡散)を物理的に100%封殺するわ!)」
「最高よアリス! お尻の尊厳を守る、防汚・防臭の物理結界ね! だったら、私の『超精密魔力クラフト・3次元セラミック削り出し(120,000 rpm)』で、ピカピカに輝く白い陶器の便器と、お肌に優しい摂氏38.5℃の温水を一定圧で噴射するチタン製極細ノズルを物質化してあげる!」
エレン(実技・精密加工・物理演算担当)の指先から、バチバチと精密な魔力放電が散る。
アリスが脳内CADで算出した「サイクロン管路の圧力損失」と「泡シールド展開バルブ」の3次元設計図に重ねるようにして、エレンは白い陶土を一瞬で滑らかな陶器へと焼き上げ、真鍮製の自動給排水バルブを完璧な精度で組み上げていった。
一人が「流体力学&サイフォン内圧シミュレーター(ソフト)」、一人が「高精度セラミック成形&極細チタンノズルアッセンブル(ハード)」。
双子の超絶連携により、レストルーム(トイレ)には、不気味に青白く光るLEDインジケーター(第39話仕様)を備え、便器内が「もこもこの白い泡」で美しく覆われた、異世界初の『全自動サイクロン温水洗浄トイレ・サイフォン・スプラッシュ』が爆誕した。
◇
「よし、エレン。システム・オールグリーン(稼働準備完了)よ。……だけど、機械の本当の耐久性と快適さを保証するためには、適切な被験者によるデバッグが必要ね」
アリスが不敵に笑い、コタツからニュッと顔を出した。
ターゲットは、サウナハット(第51話仕様)を被ってコタツでおでん(第71話)を貪っていた、専属お庭番アルド、そして元聖騎士のイゾルデの二人だ。
「おい、イゾルデ様、アルド。私たちの最新インフラのデバッグ(実体験)の時間よ。別棟のレストルームへ突撃しなさい!」
「お口を開けて、じゃなくて、お尻を乗せてととのう(第61話仕様)のよ、イゾルデ!」
エレンが楽しそうに指令を出すと、イゾルデは「ひ、ひぃっ!?」と顔を引きつらせてコタツの布団をギュッと抱きしめた。
「お、お言葉ですが双子様! いかにQOL完全降伏(第73話)したとはいえ、わたくしはアストレア公爵家の気高き令嬢! そのような、不気味に青白く光り、中がもこもこの泡で満ちた白い陶器の玉座に自ら進んでお尻を乗せるなど、聖騎士としてのプライドが、お尻から物理的にハックされてしまいますわ!!」
「大丈夫だべ、イゾルデ様。お嬢様方の作るものは、最初は不気味でも、使えばただの天国(QOL)だべ。俺が最初にお尻を捧げて(デバッグして)くるべ!」
アルドがサウナハットを揺らしながら、お気軽な足取りで別棟へと入っていった。
数分後。
ガチャン、とドアが開き、戻ってきたアルドの顔を見て、イゾルデは息を呑んだ。
「……ア、アルド? その顔は一体……!?」
そこには、これまでの任務の疲れや、お掃除ロボのメンテナンス(第86話仕様)による疲労が完全にフォーマット(第62話仕様)され、
まるで天上の天使に抱きしめられたかのような、魂がとろけた恍惚の笑顔を浮かべるアルドの姿があった。
「イゾルデ様……、あれ、やべえべ。お尻が……お尻が温温の便座に包まれて、ボタンを押した瞬間、摂氏38.5℃のお肌に優しい温水がピンポイントで噴き出して、お尻が完全に『ととのい(第51話仕様)』の向こう側へスライドしたべぇぇ……。もう、あのボットン便所には、1ミリも戻れんべ……」
「な、何ですって……!? あの不気味な真鍮ノズルから噴き出す水は、お尻を温めるための極上の温水洗浄ですって!?」
イゾルデの対抗心(負けず嫌い)に火がついた。
「わ、わたくしもアストレア公爵家の令嬢! お尻の快適さ(QOL)において、泥棒隠密に負けるわけにはいきませんわ! 交代よ、アルド!」
イゾルデはスウェットの裾をまくり、決死の覚悟で別棟のレストルームへと突撃していった。
◇
数分後、再びガチャンとドアが開く。
スルスルと戻ってきたイゾルデは、スウェットの襟元をギュッと握りしめ、顔を真っ赤に染めながら、
「ふにゃあああああん……! お尻が……お尻が完全にQOL完全降伏(昇天)ですぅぅぅぅぅ……!!!」
と、コタツの上にへなへなと崩れ落ちた。
「な、何あれ凄すぎますわ……! 便座に座った瞬間に、電熱インナー(第37話仕様)の技術でじんわりと温められ、サイフォンの原理による無音の強力吸引が不浄を一瞬で消し去るの! そして、あの泡シールドのおかげで、水跳ね(おつり)の冷たい衝撃が物理的に1ミリも発生せず、お尻に当たる温水の柔らかさはまるで春の陽だまりのよう……! 聖騎士のプライドが、お尻から完全にハックされてしまいましたわ……!!」
「だべ? お嬢様、この『温水洗浄トイレ』、おでんを食べながら飲むビールの後に使うと、これ以上ない極上の安寧を運んでくれるべ! QOL最高だべ!」
「本当にねえ、アルド。お尻が洗われるあの瞬間、人生のすべてが肯定されるかのような温かさがあるわ……」
「おやおや、アリス、エレン。僕たちも使ってみたけれど、これは本当に素晴らしいインフラだね。王都のいかなる高級宮廷の便所をも凌駕する、まさに『お尻の楽園』だよ」
「本当にねえ、エドワード。お尻がポカポカ温かくて、五臓六腑が……じゃなくて、女子力(QOL)が極限突破するわねえ」
父エドワードと母レイラも、温水洗浄トイレを体験し、完全にお尻の尊厳をハックされてコタツの中でとろけていた。
だが、この「お尻の快適革命」は、ただ使って終わるわけではなかった。
「アリス様、エレン様! この最高のお尻の快適さを前にして、ただだらだらするだけなんて、QOLへの深刻な冒涜ですわ! さあ、これ(カードゲームSSC、第32話仕様)を出しなさい!」
イゾルデがスウェット姿のまま、目を血走らせてカードの束をコタツの上に叩きつけた。
「今夜は、この新設された『全自動温水洗浄トイレ・サイフォン・スプラッシュ』の優先使用権、そして明日の『お掃除ロボのメンテナンスお休み権(第86話仕様)』を賭けて、アストレア公爵家の名誉をかけた『第一回シルバーストーン・コタツ・お尻ととのいデュエル大会』を開催しますわよ!!」
イゾルデが冷たいビール(シルバーストーン・エール)をグイッと煽って宣言する。
「望むところだべ、イゾルデ様! 俺の『ハンス・ビートダウン(第32話仕様)』デッキで、そのトイレ使用権とお休み権は全部俺がいただくべ!」
アルドがサウナハットを揺らしながら手札を広げる。
「お父さんも混ぜておくれ! 娘たちのチャリの最高級チタンボルト(第28話仕様)を賭けて、このお父さんが無敗のプロデューサーこその、至高のデッキ構築を見せてあげるよ!」
エドワードも、ウイスキー(第110話仕様)を握りしめて参戦。
「私のターン、ドロー! トラップカード発動よ!」「いや、それには『ピザ窯の烈火(第32話仕様)』でカウンターだべ!」
「ぎゃあああ! わたくしのトイレ優先使用権がぁぁぁ!!」
深夜のシルバーストーン特区の屋敷から、夜な夜な響き渡る、大爆笑とカードを叩きつける「バチバチ!」という楽しげな大歓声。
そこには、かつての没落の影など微塵もなく、ただ、美味しいお酒と極上の温水洗浄トイレ、そしてゲームに熱狂する、異世界で最も賑やかで温かい「お気軽コタツBar」の光景が広がっていた。
「「ふふふふ……」」
コタツの特等席で、お互いのさらさらツヤツヤの髪(第40話仕様)を優しく撫で合いながら、ハチミツレモネードを片手にその様子を眺める小さな双子。
「計画通り、お尻のハックとゲームで、今夜もみんなを完璧にコタツの底(だらだら仲間)に引きずり込めたわね、アリス」
「ええ、エレン。サイフォンの原理と温水洗浄ノズルのデバッグは完璧ね。明日からはお使い(第92・93話仕様)も、お掃除ロボのメンテナンス(第86話)も、みんなもっと楽しそうに(QOLの高い状態で)バイトをこなしてくれるわ。科学と、私たちの趣味の完全勝利ね」
窓の外では、月明かりの下、ガシャガシャと走る木製のお掃除ロボ(第36話)が、静かに庭の雪を掃き清めながら、コタツから漏れ出る香ばしいおでんの匂いと楽しげな笑い声を、優しく、そして最高にお気楽に、世界中に広げていくのだった。




