王国は意外と広いんですね。
あけまして…の第一弾が3月になってしまいました。
愚痴ですが、年末は本業が忙しく、年明け早々も忙しくてどうしようかと思いつつ過去エピソードを読み直しながらミスを修復する作業をしておりました。
国境にある砦への旅は特に問題なく進んでいた。
ゆっくりではないが全力疾走ということなく、俺たちの騎士団は目的地への道のりをただただ進んでいた。
そこそこ整備されている街道を土煙を上げながら。
街道脇にある農地や人家では、騎士団が通るたびに人々が作業を止めて頭を下げていた。
それに応える形で王子が馬車の中からニッコリと笑いながら手を振っている。
頭を下げてるから見えないよね、とは言えないが、突っ込みたくてしょうがなかったわ。
『突っ込んじゃえばいいじゃーん』
とカバンの精は言うけどね。
『僕は、カバンの精じゃありませーん!』
と逆に突っ込んでくるし。
5日ほど進んだがまだまだ目的地は遠いらしい。
なんでもこのスピードで進んでいけば15日ほどで着く予定らしい。
…あれ? 結構慌ててる感じだったんですけど?
俺なんて家に帰る暇もないくらいで出発させられたのに。
で、聞いてみたら
「あの後、連絡が来てさ。向こうの国境の砦に集結している軍隊の数がはっきりしない上に集まった軍隊の半分くらいが帰っていったみたいって連絡も来てさ」
…なんだろ? 陽動? にしてはまだこっちの用意が整っていないうちに半分が帰ったって…
何かあっちの国もゴタゴタしてるってこと?
「噂じゃあ隣の王国、クラウバー・ジップル王国ってんだけどよ。元々は2つの国だったんだけど、くっ付いて一つになって周りの国々に対抗しようってことだったんだけどよ。最近は上の方で実権を巡ってゴタゴタしてるって」
「そうなんだよ。元々はクライバー王国とジップル王国っていう2つだったんだけどね。クライバーの王子とジップルの姫が結婚して一つになったのさ」
「それっていつ頃の話しなんです?」
「確か…100年ちょっと前って教わったよ。現在は合わさってから3代目ってことだけど、この3代目がちょっと曲者でさ。王妃、側妃が30人以上いてさ、子供も50人を超えてるって」
「ゲッ! マジです? お家騒動必至じゃないですか!」
「そう、その通りなんだよね」
「西の性欲王」
おっと、メアさん、真顔でそういうことを言わないでください。
「で、うちのワルター王子は南の性欲おう イテェ!」
リック君が言い終わらないうちにメアさんの物理的なツッコミが炸裂した。
…まぁね、王子、休息する村々で、夜な夜な伽をする娘が出入りしてたっけ。
それも複数… その度にメアさんの機嫌が悪くなるんだけどね。
でもまぁ、夜伽をした娘たちは皆、満足そうだったのが救いっちゃあ救いかね。
しかも何人かの娘は
「王都の屋敷で働きなさい」
って言われてたしね。
ん? ってことは、王子の周りにいる女性って、ほとんどが王子の〝お手付き〟ってことですか?
…うーん…羨ましい…か? 後々揉めそう。
いやいや、そういうのがないようにあの執事さん達が取り仕切ってるんだろうか。
この国も、なんかヤバいんじゃないの?
かたや〝癇癪持ちのワガママ王子〟でもう一方は〝女好きハンサム王子〟
…ここにいても将来的に大丈夫か? …早めに隠居しようかな。郊外に土地買って。
そんなこんなで王都を出て11日目。
クライバー・ジップル王国との国境に一番近いって言われている大きめの街に着きました。
人口は約5000人くらいでエーレシュタート王国では中くらいの街だそうだ。
ここは村とは違い宿屋もあるし狩猟ギルドや商業協会の支部とかもある。
もちろんエファンゲーリウム教会もあるそうだ。
食堂や肉屋、パン屋や八百屋っぽいのもあった。
あ、木桶とかを扱ってるっぽい店もある。
なんでもこの街は、周辺の村々から日用雑貨や武器や農具などを買いに来る客や、逆に農作物や森で獲った肉とかを売りに来る人が多いんでそこそこ発展しているんだそうだ。
その上、国境にある砦の後詰をするための基地もあり結構賑やかだ。
我々は街中の食堂で遅めのランチを取るために本隊と別れた。
本隊はそのまま後詰の基地まで行きそこで一泊する予定だ。
俺と王子、リックくんとメアさん、そしてお付きのメイド2人と護衛の騎士4人はこの街1番の食堂で昼食を取り、そのまま街の領主の館へと赴く。
「お待ちしておりました、ワルター王子」
領主館の門に着くと、そこには初老の執事っぽい男性と背の高いがっしりとした体格だが貴族っぽいキラキラした服を着た男性がいて我々を出迎えてくれた。
そのまま二人が案内する形で領主観に続く前庭をゆっくりと歩いていく。
王子と領主はにこやかに雑談をしながら進むが我々は特にやることもないので綺麗な庭を眺めながらその後に続く。
館の玄関につき、執事っぽい男がドアを開くと中では館の中の人が総出で出迎えてくれた。
…総出でってのは、俺の想像だけどね。
王子は紹介される領主の妻や子供、騎士などと挨拶を交わしている。
…こういうのはやっぱやらないといけない〝儀式〟なんだろうね。
しかし、文句のひとつも言わずにニコニコと握手を交わし続ける王子も凄いと思うわ。
俺だったら…顔が引き攣っちゃうだろうな、途中で。
料理長からメイド長までも挨拶をし、ひと段落したところで領主の男がチラリと俺を見た。
そして王子に何か耳打ちする。
すると、王子の表情が明らかに曇る。
王子は俺の方を向き苦笑いをしながらチョイチョイと手招きした。
「なんでしょう」
内心、『厄介ごとが起こったんだろうな』と思ったが、俺は努めて表情を出さないようにしながら近づいて行った。
「王都で問題が発生したようだ。男爵の力を借りたいとの父の依頼だ。すぐに王都に戻ってくれ」
「へ?」
おっと、変な声が出てしまったよ。
「プッ」
王子もつられて吹き出した。
「いやぁ、すまんすまん。男爵、変な声を出さないでくれよ」
「いやいや、王子、後ちょっとで目的地に着くって時に〝戻れ〟って言われたら誰だって変な声、出ますよ」
あはは、と笑いながら王子は俺の肩をポンポンと叩く。
「気持ちはわかるが… ま、それはそておき、急いで戻ってくれないか」
俺は変顔をしながら、
「王様の依頼でしょ? 絶対厄介ごとじゃないですか」
と言った。
「…」
おっと、王子の横で領主がメッチャ驚いてるわ。
それに王子も気付き、また表情が苦笑いに変わった。
「グレゴリー、いいんだ。男爵は親父殿の…直属、いやお気に入りの部下なんだよ」
「はっ! いやっ! …しかし… いや、わ、わかりました」
領主さん、納得いかないんだろうけど、無理やり自分の中で折り合いをつけたんだろうね。
そうだよね、こんな最低クラスの貴族である男爵が、王子とタメ口をきいてる上に王様を〝厄介〟呼ばわりしちゃってるしね。
反省、反省。
「では、急いで戻ります。えーっ…と馬か馬車をお借りしてって感じでしょうか? ちなみに俺は馬には乗れませんよ」
すると王子がニヤリを笑う。
お? これはイタズラが成功した時の子供の顔っぽいぞ。
「ふふ、男爵、なんとこの領主館には〝転移魔法陣〟が設置されているのだよ!」
「おぉっ!」
なななんと! 魔法の世界ではお馴染みの〝転移魔法〟ですかぁ!
…え?
「…ん? あれ? 王子、だったら」
〝だったらそれを使ってここまで来ればよかったのに〟って言おうとしたら
「実はね、転移できるのは一回に一人と決まっているんだよ」
と王子に先に答えを言われてしまった。
「一回に一人、ですか?」
「そう。正確には、1立方メートルに収まる大きさのものって感じかな」
1立方メートル? 高さと幅と奥行きが1メートルづつの空間、ですか…
え? 俺、入れる?
「俺、入れますかね?」
「大丈夫大丈夫、多少窮屈だけど大丈夫だよ」
「あの、笑顔が怖いんですけど」
「残念だが、オレは入れなかったんだ」
振り向くとリックくんが満面の笑みで俺を見ていた。
「ちなみに私も無理だったよ」
おっと、領主さん、心に余裕ができたのか参加してきたよ。
「それにね、発動に必要な魔素量も結構かかるんだよね」
「その点、変態魔導師ならオッケー」
ついにメアさんまで。
「では、ご案内いたします」
そう言って領主さんがニッコリと笑い我々を前へ進みましょうと促した。
あ、拒否権は無いのね。
「王子、戻るのはやぶさかではないのですが…いいのですか?」
「うーん… 良いか悪いかよりも、あの感じで送り出された男爵を呼び戻すってことは…」
王子の表情がちょっと曇る。
「よっぽどの事が起こったんだろうね、身内か大事な部下の身に」
あぁ、やっぱり〝治療〟ですよね。
「…教会には?」
「知られたくない事故か…何かあったんだろうね」
「事情の説明は?」
「全くなしさ」
王子が両手を軽く広げて戯ける。
「王命…怖いっすね」
「あははは。これからはもっと頻繁に呼ばれることになるかもよ」
なんて笑ってるけど、王子の表情は硬かった。
そうこう言ってるうちに案内されたのは地下室の一番奥にある鉄の扉の前だった。
「……」
領主さんが何やら呪文を唱えつつ鍵穴にデッカい鍵を差し込みガチャリと音がするまで回した。
そして鉄の取手を引き、重そうな扉を開く。
中は間接照明を使ったちょっと洒落たバーくらいの明るさの部屋で、壁も天井もなんの装飾のない白壁だ。
床は板張りで広さは四畳半ってところか。
その部屋の真ん中に小さめの絨毯が敷かれており、その模様はどうやら〝転移魔法〟を発動する魔法陣のようだ。
測ったわけではないがこの絨毯、多分一辺が1メートルなんだろうな。
さらに壁から紐が4本ピンと張られており、それが部屋の真ん中にある絨毯の1メートル上に四角い空間を作り出している。
つまり、この紐より下で絨毯からはみ出ないようにして転移魔法を…ってこと?
うーん…なんか想像してたのよりチャチイな。
あ! なんだ? 今気づいたけど、入り口の横に電話機がある!
ダイヤルはないけど、これはどう見ても〝黒電話〟だ!
昭和を感じる。
「あの魔法陣の上に乗ってもらうんだけど、さっき言った通り高さも1メートルまでなんであの紐の下にしゃがんでもらう形になるよ」
部屋の真ん中をじっと見る。
…確かにリックくんだとはみ出ちゃうね。
はみ出たまま転移魔法を行使したらどうなるんだろう。
いやいやそれより俺は…余裕でいけそうだね。
メアさんも余裕だろう。
王子は…ギリかな?
「で、これから転移する旨を向こうにも伝えなくちゃいけないんだけど、それがこの魔道具」
そう言って王子が〝黒電話〟を指差した。
そして徐に近づき受話器を取り
「ワルターだ、こっちの準備は整った。そちらは?」
と喋る。
「……」
まんま電話だね。
これも〝転生者〟の知恵かね?
「男爵、魔法陣に乗って」
おっとっと、妄想に耽ってる場合じゃなかった。
「はい」
俺はそう言って絨毯の上にしゃがみ込む。
えーっと…正座は変だな。
体育座り…いやいや後ろにコロンと転がるわ。
では、片膝をついて…片方を立てて、頭を下げて…っと。
…あれ? この格好をしたら素っ裸にならんといかんのじゃないか?
「じゃあ、魔素を魔法陣に注ぎ込んで」
「はい」
俺は〝ダダンダンダダン ダダンダンダダン〟と心の中で呟きながら絨毯に魔素を流し込んだ。
なんか〝働く意欲〟ってやつが著しく低下しております。
心の合間を見つつ小説は続けていきたいと思っていますのでよろしくお願いいたします。




