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第148話 もう1人の彼女でした


「ただいまー! あー楽しかった!」

 

 気持ちの良い朝の散歩を終え、我が家へ帰宅するとまずは白花が大きな声で誰もいない家中に帰宅を知らせながら、靴を脱いで玄関に上がる。

 すると、リビングまでの短い廊下をやや小刻み気味に駆ける月白色の背中に杏が声をかけた。


「白花〜まずは手を洗っておいで〜!」

「はーい!」


 白花が杏に言われた通り、リビングの入り口を通り過ぎてその奥の洗面所へ向かう。もちろん俺と杏、そしてはなたも全員が手洗いとうがいを済ませてリビングに戻ると、時刻は正午を回っていた。


「もう昼か……皆、お腹空いてないか?」


 俺の問いに真っ先に手を上げたのは白花だった。


「空いた!」


 白花に続いて杏とはなたが同時に手を上げた。


「「同じく!」」


 杏とはなたが見事に声を同調させる。普段犬猿の仲の2人はそれが気に入らなかったらしく、「真似しないでよ」と言わんばかりに互いを睨み合う。


「どうやら……今日の昼食も勝負した方が良さそうね……?」

「らしいですね? まぁ、豊さんのお祖父さん直伝のレシピを習得した私の圧勝でしょうけど?」

「望むところよ! 好きなものを1品ずつ作ってどっちが豊に気に入ってもらえるか……で勝負内容はいい?」

「異論はありませんとも」


 勝手に話がまとまった所で杏とはなたが再び外出の支度を始めた。


「ふ、2人と何処に!?」


 慌てた俺が尋ねると、マイバックを持った杏が答えた。

 

「買い出し!」

「お、俺も行こうか?」

「豊はお留守番! メニューは出来てからのお楽しみってことで!」

「そ、そうか……」


 そして杏は次に白花へ視線を向けた。

 

「代わりに白花、着いて着て!」

「えっ! 私も豊と一緒にお留守番してたい!」

「白花を豊と2人きりにさせたらなにしでかすかわからないもん。ほら、おやつ買ってあげるから手伝って?」

「お、おやつ!? うぅ……」


 おやつと言う単語に白花は明らかに動揺を見せた。いつもながら思うが、外見は美しく、大人びた女性なのに心はまるで無邪気な子供のようだ。

 そんな揺らぐ白花に杏は考える隙を与えなかった。


「ほら、いくよ! 一緒に豊が喜びそうな料理、考えてくれると嬉しいなぁ……」

「……!! わかった! 私も行く! 豊、待っててね?」

「あ、あぁ……」


 すぐに3人は俺1人を残して買い物へ出かける。さて杏達が帰ってくるまで俺は何をしようか? 


 きっと彼女達が帰ってくるまで時間はそうかからないだろう。その間に出来る事を頭の中で模索する。。


「……とりあえず掃除でもするか」


 思い立った俺はポツリと呟くと、早速リビングに掃除機をかけ、テーブルを拭く。


 ――その最中の事だった。


「……どうか、お願い――」

「……え?」


 今家には俺以外誰もいないはずなのに、突如女性の声が聞こえた。咄嗟にテーブルを拭く手を止めた俺は当たりを見渡すが、誰もいない。


「……気のせいか」


 再びテーブルを拭き始める。


「……どうか、お願い――さい――まで――」


 聞き間違いでは無かった――。


「誰だっ!?」


 再びリビングを見渡すが、俺の瞳に人影は映らない。きっと疲れているのだろうと視線をテーブルへ戻そうとした瞬間、背後に人の気配を感じ、咄嗟に振り向く。

そこにいたのは窓際で弱弱しく光を発する1人の女性が俺を見つめていた。


「……っ!? き、君は!?」


 目の前の女性の容姿に言葉を失った。

 肩に届かないながらも髪の色は月白色、そして瞳の色は青……その他にも鼻の形や体格、全てがある人物と酷似……いや、まったく一緒だった。

 そんな人物など……俺の知る中ではもちろん1人しかいない。


「……白花?」


 そう言うと、目の前の女性は首を振った。


「いいえ……私は白花ではありません……いえ、訂正しましょう。私はあなたが呼ぶ白花であって、そうでないものと言った方がいいのでしょうか? もしくは、あの子のお姉さんのような存在と言ったほうが良いのかもしれません」

「ど、どういう事だ?」


 意味不明な回答にますます混乱する俺。すると目の前の彼女は胸の辺りで祈るように手を組んだ。


「時間がありません……初対面の貴方に頼みがあります。どうかあの子……白花と一緒にいてあげてください。最後の時まで……」

「……最後の時?」


 彼女の口から出た「最後の時」という言葉に胸がギュッと締め付けられるような感覚を覚える。


「最後ってなんだよ!? もしかして白花の異変についてなにか知っているのか!? 教えてくれよ! 白花になにが起きているんだ!?」


 突如家に現れた見知らぬ人物。本来ならば警戒すべき相手なのだろうが、正直この短時間でそんなことはどうでも良くなっていた。

 なりふり構わず詰め寄る俺に彼女の表情には悲しさが満ち溢れ、決していい返事が返ってこないのだとすぐに悟る。

 

「……そうね。貴方は知るべきよね……」


 1度目を伏せてそう呟いた彼女は浅く息を吐くと、再び俺と目を合わせた。


「もうすぐ……あの子……白花はこの世から消えます」


 

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