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第八話

やっと専属NPCを全員出す事が出来ました。専属NPC以外にもまだまだ主要なNPCは出てきます。

NPC達だけの会話の部分も出す予定です。

また、一話の一部分を少し変更させていただきました。

今回は少し長めです。

誤り等がございましたらすみません。

 

 難攻不落といわれるニート城。


 その構造は一言で言えば巨大迷宮だ。


 城内はまるで迷路のような途方もない複雑な構造をしており、侵入者を容赦なく錯乱させる。転移系や致死性のある危険極まりない数多のトラップはもちろん、屈強な兵士達を何百何千と配置しており、城の主への道筋を断固として全力で阻む。


 そして更に奥へと進むと、ここまでの道筋は全て余興だと言わんばかりの今までの苦難を超える圧倒的な壁にぶち当たる。


 それは五つある別次元の異空間だ。

 ここからが本番、正念場といえるニート城最大の防衛ラインだ。



 第壱の間・樹海、第弐の間・霊山、第参の間・煉獄、第肆の間・奈落、第伍の間・神天地。そして、最終防衛の間となり最後には玉座の間となる。



 ギルド抗争においてニート城はこれまで一度として落とされた事がない。


 第肆の間・奈落まで突破された事はあるがその先、最強クラスのNPCが守る第伍の間・神天地で全ての敵はねじ伏せられる。突破はおろかその最強のNPCすら倒せないというニート城最強の守護神は、一人でもいればそれだけで上位のギルドに入れる。


 それは期間限定で登場する超高課金ガチャの一つで、千人に一人出るか出ないかの超低確率で入手出来るNPCだ。


 その最強クラスのNPCは神の名を持つ。


 神竜、神獣、神魔。


 リアル・ニート・デイコーゼはこの三種類の内、神獣三体、神魔一体を入手している。


 その計4体の神が第伍の間・神天地を守っているのだ。

 

 まさに鉄壁、完璧といえるニート城最強の防衛ラインだ。




 さて、ソラは広場に転移すると周りを見回す。


 ソラが言う広場とは第壱の間・樹海の前にある大広間の事を言い実際ギルドメンバー全員もそう呼んでいる。


 広場の中は例え五十人ぐらいの人が戦闘行為を行ったとしても十分なスペースが確保出来るほどの広さを有する。天井には巨大なクリスタルのシャンデリアが眩い光を放っている。左右には黒曜石のような黒い輝きを放つ石柱が何十本と立ち並び、ソラの背後には樹海へと繋がる五メートルはあろう黒い両開きの扉がある。



「広場の場所って、わかるかな?」



 広場といってもそれはあくまでギルドメンバーの中だけだったので、この場所の事を差しているのがマオ達にわかるかどうか、ソラは不安に思った。

 あのとき、転移する前に確認しておけば良かったと後悔をするが、それは杞憂で終わる。



「あっ! ようじょだ! ようじょだ!」



 ソラの真上から突如、まだ幼い子供のようなかん高い声が降りかかる。


 何か似たような展開が数十分前にもあったなと思いながら、ソラは声のした方を向く。


 身長十五センチほどの身体全体に炎を纏わせた少女。赤を基調とした花柄の刺繍が入った白いワンピースを着ており、背中からは紅蓮色の炎で出来た翼を生やしている。肩まで伸びる赤髪のショートカットには赤を基調とした黒の装飾が施されたリボンを着けている。三歳か四歳に見える可愛い顔は天真爛漫というような笑顔を浮かべ、赤い目は好奇心にも似たキラキラとした輝きを放っている。


 リアル・ニート・デイコーゼ唯一の生産職を取っている豪宴覇山ごうえんはざんの専属NPCにして火の超位精霊、火蓮かれんだ。


 火蓮は火の粉を撒き散らしながら、ソラの周辺をぐるぐると飛び回り楽しそうに笑う。



「あなたはソラさま? ソラさまなの?」



 火蓮はソラの正面に浮きながら来ると不思議そうに小首を傾げる。



「そうだ。信じられない様な事だが、俺だ。マオから何か聞いてないか?」



 ソラの言葉に火蓮は少し考え込むような表情をしてから、ぱっと笑顔になると答える。



「わすれたー!」



 ガクッとソラは思わずずっこけそうになる。


 こんな性格だったけと、ソラは内心で思う。いや、それよりも何でこんな設定にしたんだと、ギルドメンバーの豪宴覇山ごうえんはざんに内心でぼやく。


 これなら火蓮の姉妹である水風土の超位精霊の内、誰か一人でも一緒に呼んでおけば良かったと、ソラは元気に飛び回る火蓮の姿を見て痛感した。


 ソラは姿勢を正して気持ちを切り替えると火蓮に向き直る。



「マオに何て言われてここに来たんだ?」



 火蓮は真剣な顔つきで考え込む。


 今度はどうやら安心してよさそうだ。

 しばらく考え込んだ火蓮はぱっと笑顔になって顔を上げると口を開く。



「なんだったっけ?」



 逆に聞かれても困るんだが。

 

 このままだと埒が明かないと感じたソラは質問を変える事にした。



「火蓮の他に広場に来てる者はいないか?」



 ソラが皆を呼ぶようにと言った皆とは、専属NPCを差す。

 それは広場と同様にNPCと言えば、ギルドメンバー全員が専属NPCを言うからだ。何故なら配置したらほとんどそのままの拠点NPCとは違い、一緒に行動する事が多い専属NPCの方が自然と彼らに定着してしまったからだ。 


 それをマオがわかっているのか不安に思うソラだが、またしても杞憂に終わる。



「あっ! ふうまだ! ふうまだ!」



 火蓮がはしゃぎながら元気に指を指す。 その方向に視線をやると、そこにはふわりと黒い霧のようなものが出現していた。その黒い霧は人の形を象ると一気に晴れる。



にん!」



 そこから現れたのは十六ぐらいの黒髪黒目の少女だった。すらりと伸びた肢体とそれをすっぽりと全身を覆う黒い忍び装束。腰の半ばまで伸びるポニーテールに顔の下半分を覆う黒い布製のマスク。しかし、そのマスクの下からでもわかる端整な白雪のような白い肌の顔は、可愛らしさと美しさの両方の美を持っていた。



「遅れて申し訳ないでござる」



 頭を下げて謝罪をする彼女の名は神無月風魔かんなつきふうま


 バゲーンの専属NPCでその正体は完全な透過能力等を持つ、真なるトゥルーシェイドだ。


 ちなみにマオの妹である。



「おや? 姉上にソラ様がいると聞いたのでござるが?」



 風魔は困惑したようにソラと火蓮、それから周りを見る。

 どうやらマオから今のソラの容姿について詳しく聞いていないようだ。



「ああ、俺だ。風魔」



 ソラは口で説明するよりはこれの方が早いだろうと、指に嵌めているギルドサインが入った指輪を風魔と火蓮に分かるように見せる。


 それを見た風魔と火蓮は目を見開くと風魔はマスクの下からでもわかる驚愕の表情を、火蓮は口をポカンと開けて二人ともそれぞれが驚きの感情を露にする。



(なんかこの反応慣れてきたな)



 風魔と火蓮が固まっている状態を苦笑い混じりで見ている中、そんなソラ達の近くにある石柱の一つから二つの人影が出てくるのがソラの視界に入った。


 その二つの人影は此方に近づいてくるとその全貌が明らかになる。


 まず、ソラから見て左側の人影は黒いオーソドックスな執事服を完璧に着こなした二十歳ぐらいの青年だ。真っ白な髪とその髪と同じぐらいの病的な程白い肌はシミやシワの一つもない。血のように赤く染まった瞳と息を呑むような端整な顔には温厚そうなニコニコとした笑顔を浮かべている。

 紳士的な王子様を連想させるような印象を受けるが、見ようによってはまるで内なる獣が潜んでいるかのような雰囲気を感じさせる。


 彼の名は、クロード・ジャド・アスティル。


 ゲーム内でも結構有名なオカマであるバッチ恋の専属NPCにして、全アンデッドの頂点に君臨する吸血鬼始祖である。


 

 次にクロードの隣にいるソラから見て右側の人影は、二十代半ばぐらいの燕尾服を着こなした男性だ。漆黒の髪に相手を射抜くように細められた切れ長の藍色の目にはメガネが掛けられている。日に焼けたような肌にクロードに負けず劣らずの端整な顔。

 紳士的な印象を受けるがその姿は切れ者という雰囲気を感じさせる。



 彼の正体はミスター・ぼた餅の専属NPCで、超位悪魔のバルフェルだ。


 

 クロードとバルフェルはソラ達に十分に近づくと、両者ともソラが嵌めている指輪に視線をやると驚愕の色を示す。



「マオの言葉は真実だった様ですね」



 誰よりもいち早く我に返ったバルフェルは跪くと深く頭を下げて臣下の礼を取る。



「ソラ様のご帰還、誠に恐悦至極に存じます」



 頭を下げておりその表情は見えないが、その声色は言葉の通り本当に喜んでいる事が分かる。


 続いてクロードもバルフェルと同じように跪くと深く頭を下げて臣下の礼を取る。



「僕もソラ様のご尊顔を拝む栄誉にこの身が歓喜に内震える所存です」



 クロードに視線を移すと必死に抑えているのだろうが本当に震えているのが分かる。この様子からバルフェルと同様にクロードもソラの帰還に心の奥底から喜んでいる事が伺える。



「拙者もまた同感でござる」

「わたしもー」



 風魔と火蓮に視線を戻せば、風魔も同じく跪いて深く頭を下げると臣下の礼を取る。

 火蓮は空中に浮きながら身体に纏う炎を激しく揺らめかせながら盛大に火の粉を飛ばしている。

 二人共バルフェルとクロードと同様に嬉しい様子だ。


 だが、本当に自分がソラ本人だと認識しているのか不安に思ったソラはバルフェルに尋ねる。



「本当に俺がソラ本人なのか疑わないのか?」



 アリスとマオ、それから火蓮と風魔は指輪を見るまでソラか同じギルドの一員かどうかさえ分からなかった。


 しかし、バルフェルだけは詳しくは知らないがいくらマオから伝えられた事とはいえ、あまり疑う様子もなくソラ本人だと認識した。

 いくら仲間の情報と指輪を嵌めているとはいえ、はたして本当に信じているのか。



 バルフェルはそんなソラの不安を払拭するかのような、体の芯まで響く真剣な声で答える。



「確かに私もマオから聞かされた時は疑いの心を持ちました。しかし、我らは至高の方々によって創造された存在。自分を生み出してくれた偉大なる主を確認した上で、己の主を見誤るというような失態は決して犯しません。ロリコ様より証明された経緯はマオから聞きました。マオを含めた我らは至高の主に関しての虚言などは断じて吐きません。それに、その指輪が何よりの証拠でございます」



 その言葉には完全な、確固たる意思と忠誠心に満ちた声色をしており、ソラを息を呑む程に圧倒させた。


 未だ臣下の礼を解かないバルフェル達だが、その光景は自分の主に捧げる一点の曇りもない敬意と忠誠心を感じさせる見事な姿だった。



 ソラは自分が震えているのが分かった。


 何故? どうして震えているのか?。


 それは歓喜によるものなのか、それとも全く別のものなのか。


 わからない。


 ソラは自分自身に問うが、この感情を上手く言葉で言い表せれない。


 しかし、これだけは分かる。



「面をあげてくだ………、あげよ」



 ザッと一斉に全員の頭が上がる。

 

 その動きはまるで始めから打ち合わせでもしていたかのようだった。



「俺は正真正銘ソラだ。それはロリコさんより証明されている。そして、皆ありがとう。信じてくれて」

「感謝の言葉なぞおやめください。我らの主を信じるのは至極当然の事でございます」

「そうですよソラ様」

「その通りでござる」

「そうだー! そうだー!」



 バルフェルに続き全ての女性を虜にしてしまうような柔和な微笑みを浮かべるクロード。

 真剣な表情で言う風魔と太陽のようなニコニコとした笑顔で言う火蓮も次々と同意をする。


 ソラは臣下達の言葉に思わず破顔する。


 そして、その表情を見た臣下達は全員が顔を赤くする。老若男女問わず全ての人を虜にしてしまうようなその表情に、バルフェルでさえ今のソラの顔から目が離せない程に魅了される。


 ここにロリコがいたなら、ソラの顔を見て鼻血の噴水を出していただろう。『最高だぜ』とか言いながら。



 そこでソラはマオがまだ来ていない事に気がつく。そして、ここにはいないアリスとユリウスを除いたもう一人の最後の専属NPCの存在に。


 ソラは気持ちを切り替えるように表情を元に戻して正面を見据えると、バルフェルとクロードが出て来た石柱の辺りから二つの人影が出るのを捉える。



「ソラ様ー! お待たせしたアルぅー!」



 二つの人影のうち、こちらに駆けてくる一つの正体はマオ。



「遅かったな、マオ」



 マオは一足早くソラ達の前に来ると頭を下げる。



「申し訳ないアル。最後にエルヴィアを呼びに行っていたら遅くなってしまったアル」



 ソラはもう一つの遅れて来る人影に視線を向ける。

 十分に視認が出来る距離まで近づくとその全貌が明らかになる。


 それは純白のドレスを纏った非常に美しい女性だ。その美貌は美の女神すら霞む程、非の打ち所が無い絶世の美の持ち主だ。腰まで伸びる艶やかな黒髪に、金色に輝く瞳。すらりと伸びる肢体と豊満な双丘。そして、背中からは漆黒の天使の翼を一対生やしている。


 彼女こそソラの専属NPC、堕天使のエルヴィアだ。



「お待たせして申し訳ございません。ソラ様がご帰還なさったと聞いたのですが?」



 エルヴィアは十分な距離に近づくと頭を下げてから回りを見回す。

 その目は困惑と多少ながら血走ってもいた。


 そこでソラは指輪を見せようとしてはたと止めて、メニューウィンドウを出す。


 何故かはわからないがこっちの方が良いと思っての行動だった。


 指を動かしリンクシステムという項目を選ぶ。


 このリンクシステムは専属NPCとの絆を表し、自身の相棒である専属NPCを選び変更する項目だ。



 ソラは数多あるNPCの中からエルヴィアを選択する。


 その直後、妙な感覚を感じたソラは首を傾げる。


 まるで何かと繋がった様な、例えるなら弛んでいた糸がピンッと張る様な感じだ。


 ソラはエルヴィアを見る。


 すると驚くことに、エルヴィアの瞳から留まることを知らない量の涙が次々と流れ、頬をつたっていく。


 その突然の変化にエルヴィアを除いた全員が驚愕の表情をする。



「ーーーあぁ」



 そして、当のエルヴィアは両手を胸に当てて目を見開いたままソラを見つめる。



「……間違いない……ソラ様。やっと会えた……私の大切な……愛しき人……」



 エルヴィアは泣き声にも似た震える声で呟くと、跪いて深く頭を下げる。



「ソラ様のご帰還、喜悦至極でございます」



 その声色に含まれた感情はこの中で誰よりも深みと心があった。



「全員立ってくだ……立て」



 ソラの言葉に全員が一斉に反応して立ち上がる。



「皆……ここに集まってくれた事に感謝する」



 立ち上がって顔を上げた事により全員の顔が露になる。その表情は歓喜の色が見えるが全員が真剣な面立ちだ。特にエルヴィアは歓喜の色が他の者よりも一層強い。



「ここに皆を呼んだのは俺が戻って来た事を皆に知らせたかったからで……だ。そして、今の容姿を皆に確認してもらいたかったからで……だ」



 ソラは敬語になるのを必死に抑える。


 何となくだが、主が臣下に敬語を使って話すのは良いのか? と思ったからだ。別に良いのだろうが、この場面でこの状況で使うのはあまり似合わないと心のどこかで唐突に感じたのもあったのだ。



「詳しい事はまた後ほど。とりあえずそれだけは先に伝えたかった。わざわざ足を運んでもらって悪かった。俺は部屋に戻って休む。何かあったら部屋まで来てくれ」



 ソラは急いでメニューウィンドウを出し、転移門の項目を選ぶと転移をする。


 その瞬間「ソラ様!」と自分を呼ぶ声が聞こえたような気がしたが、ソラはそんな訳ないかと特に気にはしなかった。


 ソラが何故急いで転移門を開いたのかというと、実は早くあの場から離れたかったからだ。


 それは酷く心配させてしまい申し訳ないという何とも言えない罪悪感とそして、あの空気による居たたまれない雰囲気だ。


 ただの男子高校生の自分にいきなり臣下の礼を取って来たのだ。

 

 いくらなんでも動揺をしてしまうのは無理もない事だろう。

 ソラは偉い王様でもなければ身分の高い貴族でもない。

 ただの平凡な男子高校生なのだ。


 これから毎日そうなのかと思うと気が重くなってくるのをソラは感じる。



 そして、転移した場所はマオと別れたジョナサンの自室の前。


 ソラはジョナサンにも今の自分の容姿を見せておこうと若干重い足どりで扉の前に来ると、背伸びをしてドアノブを握る。



「ジョナサ」



 扉を開けようとした時「はっふぅん! もっとだぁぁぁ! もっと激しくぅぅぅ、ユリウスぅぅぅー!」と、より過激になった世界が広がっていた。



「………………」



 ソラは無言で扉をゆっくりと音を立てないように閉める。



「もう寝よ」



 ソラは疲れたように溜め息をつくと自分の自室に向かうのだった。




お読みいただきありがとうございました。




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