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第九話

やっと書き上げる事が出来ました。

今回は長くなりました。

一話だけではなく、全体を所々修正を入れています。

誤り等がございましたらすみません。


※近い内に一旦この作品を改稿させていただきます。



 主が立ち去った後、静まり返った広場の中で臣下達は自身の胸の内にある感情を各々口にする。



「ソラ様が帰って来たアル」

「かえってきた! かえってきた!」

「やっとお戻りになったね、ソラ様」

「この時をどれ程待ちわびたか」

「そうでござる」



 それは喜び。


 マオの歓喜に満ちた言葉を皮切りに臣下達は次々と頬を緩ませる。

 

 それに伴って広場の空気が愉悦に緩んだ空気に包まれる。


 自分達を創造した絶対的忠誠を尽くすべき主が一人とはいえ帰って来たのだ。

 例え自分が専属警護の任に就いていない主と言えど、その共通の喜びは当然ある。

 それに帰って来たのが“あの”ソラなのだ。

 それがさらに拍子を掛けているというのもある。


 サブギルドマスターであるソラのギルドでの仕事は全てのNPCの管理だ。


 ギルドメンバー全員が、特にNPC達の面倒を全て任されているソラが手塩をかけて大切に育ててきたのだ。

 毎日甲斐甲斐しく自分達の世話を一生懸命見てくれているソラの印象は、NPC達にとっては他の主よりもずっと良い。


 他のギルドメンバーもそうだが、それによって特にソラが全てのNPC達からより強い忠誠心と好意を抱かれるのはある意味当然と言えた。


 それは、未だ虚空を眺めて自身の主が消えた場所を寂しげに見つめているエルヴィアもそうだ。


 いや、ソラの専属警護の任に就いているエルヴィアだからこそ、自分を創造した主だからこそ、それが他の者よりも一段と、桁外れに高いのは当然の理だ。


 現にエルヴィアが己の主の帰還に、この場にいる他の誰よりも喜んだのだ。


 その一途なまでの、狂気にも近い深い想いで。



 エルヴィアは歓喜のあまり陶然とした表情で、色のついた深い溜め息を吐く。


 どれ程待ち焦がれたか。


 忠誠を尽くすべき至高の主の中で自分が一番に忠義を尽くす主が、最愛の人がようやくこの地に帰って来たのだ。


 最愛の主がいないこの一年間。


 本当に辛かった。


 たったの一年と思うかもしれないが、エルヴィアにとってこの一年はあまりにも長かった。長すぎた。


 永遠とも言えるようなこの一年は、彼女にとって身が引き裂かれそうなくらい辛かったのだ。

 とても一言では足りない、言い表せない深い悲しみは、どれ程彼女を苦しめたのか本人しかわからないだろう。

 大袈裟だと言うかもしれないが、それほどまでに己の主の帰りを四六時中毎日待ちわびたのだ。


 そして、一年間待ち望んでいたそれが今日叶った。


 少しでもその傍に居たい、その顔を見ていたい、その声を聞いていたいと思うのは至極当然の事であった。

 今すぐにでも追いかけたいという焦燥感にも似た気持ちにかられるが、彼が休むと言った以上、主の意志を最優先に考え、自身の身勝手な私情は抑えるべぎだと、己に何度も強く言い聞かせる。

 そうでもしなければ自分を抑え切れないからだ。

 今のエルヴィアはいつ自分の気持ちが爆発してもおかしくない状態だ。


 エルヴィアは己を落ち着かせるようにゆっくりと深呼吸を何度も繰り返す。


 そして、ようやく落ち着きを取り戻し、気持ちを切り替えたところへマオの疑問の色を含んだ言葉が耳に入ってくる。



「でも、どうしてソラ様はあんな姿をしているアルか?」



 不思議そうな表情を浮かべながら発したマオの言葉に皆一同にわからないといったように首を傾げる。


 それは全員が共通して思っている事だ。


 最後に見たソラの姿から今の姿は当時の面影が微塵も無い。


 銀髪碧眼の幼女、それが今のソラの姿だ。


 さらには性別まで変わっており、もはや当時のソラの姿から今の姿は何一つとしてその面影が消失してしまっている。



「何らかの魔法で外見を変えられている……訳ではなさそうだね」

「忍術によるものでは?」

「にんじゅつ! にんじゅつぅー!」

「いや、きっと至高の方々しか使う事が出来ないニート拳法の秘術の類いアルよ!」

「何か深いお考えがあっての事だとは思うのですが……」



 うーんと全員が頭を悩ます。


 実は期間限定クエストを受ける為にアバター変更をする際、凝りに凝って作成してしまい変な方向に出来上がってしまった姿とは、幸いにもこの場にいる者は誰一人として知らない。



「関係ないわ!」



 そこへ今まで会話に入っていなかったエルヴィアの凛として透き通った鋭い声が響く。



「姿かたちが変わろうとも、私の“愛”は変わらないわ!」



 そこは忠誠心と言わないだろうか。


 全員が共通してそんな表情を浮かべるが、誰もその事を指摘する者はいなかった。

 中にはいつもの事だというような穏やかで涼しい態度をする者もいた。



「それにしてもソラ様のあのお姿、とても可愛かったね」



 クロードの言葉に皆一同がその通りだと頷く。



「とっても可愛かったアル!」

「然り。それに美しくもあるでござる」

「とても愛らしく美しいお姿でしたね。まさに美の結晶という言葉が相応しい」

「その通りね。まさに美の結晶という言葉はソラ様にこそ相応しい言葉だわ」



 その姿を思い出しているのか、エルヴィアはとろんとした目をして頬を赤く染める。

 可愛いもの好きの風魔も顔の下半分を覆う布製のマスクの下で頬を緩める。



「抱き締めて頭を撫でたいでござる……」



 ポツリとこぼした風魔の言葉にエルヴィアは怒気を含んだ鋭い視線で、風魔を睨み付ける。



「何を言っているの? それは許されざる行為だわ。“私だけ”の特権よ。ソラ様の専属警護の任に就いている“私だけ”に許されるね」

「ちょっと待つアル」



 私だけという言葉を強く強調するエルヴィアにマオが自分もソラと触れあいたいと割って入る。



「ソラ様はエルヴィアだけのものじゃないアル。“マオ”と“カンナ”のものアル。それに、それは職権乱用アル! 認められないアル」



 そんなバチバチと火花を散らして睨み合う三者にクロードが仲介に入る。



「三人とも気持ちは分かるけど、一旦落ち着いたらどうだい?」

「おー! わたしおちつくー!」

「火蓮に言った訳じゃないんだけど……」



 にっこりと口をつぐんで胸を張る火蓮にクロードは困ったように微笑む。


 そうしている内にもさらに状況は悪化していた。

 よく見てみると三人ともお互いの額がぶつかる程の距離で睨み合っていた。


 もう収拾がつかないような危ない状況の中でバルフェルが全員に聞こえるような澄んで響く声を掛ける。



「さて、ソラ様のご帰還をニート城にいる全ての者達に報告する必要があるのですが?」



 途端に場の空気が変わり、皆の表情も真剣なものに切り変わる。


 それがどれ程重要な事か、それは即座に反応したその姿勢により分かる。


 何故なら自分達が絶対の忠義を尽くすべき主がわからないなど、あってはならない死にも値する不敬だからだ。それを教えなかった者も同罪だ。


 自分を生み出してくれた主を見間違えるなど、彼らからしたら最も恥じるべき愚行だ。


 それが分かっているからこそ、バルフェルはソラの帰還という言葉を選んだのだ。最優先で伝えるべき情報と共に最もこの場を抑える力を持つからだ。


 誰一人として微動だにしないその姿と真剣な面立ちは、先ほどの事が嘘のようだ。



「私は第参の間、第肆の間にその事を伝えに行きます。クロードは第弐の間に。マオと風魔、それに火蓮は第壱の間に」



 ピリピリとした真剣な空気に包まれている中で、バルフェルもまた真剣な表情を崩さないまま各員に指示を出す。



「それと第伍の間には……」

「私が行くわ」



 バルフェルが言い淀みその先を言う前にエルヴィアが口を開く。


 第伍の間・神天地は他とは別格の領域。


 バルフェルが言い淀んだのもそこにあるのだ。

 第伍の間には他の警備兵の出入りがほぼない。


 厳密な計算により選抜された選ばれし精鋭で屈強な警備兵のみで構成されるそこは、至高の主の許可を取らなければ入ることの許されない。まさに、神の領域。


 普段なら緊急時以外は主の許可を得なければ入ることが許されない神聖な領域だが、ソラが帰って来たという特別な理由がある今ではそれが許される。



「ではエルヴィアに任せます。各警備隊の隊長にソラ様のご帰還を早急かつ正確に伝えるように」



 各員の顔を見るバルフェルの視界にエルヴィアの若干複雑そうな表情が入った。



「おや? どうしましたエルヴィア」



 バルフェルがエルヴィアに訝しげに声を掛ける。



「いえ、何でもないわ。ただ……、姉さんに会うのが……ちょっと……」



 言いにくそうに”姉さん“と言った言葉にバルフェルは察しがつき、なるほどと合点がいったというように頷くとニコニコと愉快そうに微笑む。



「咲夜(さくや)のあなたに対する溺愛ぶりは、ニート城でも随一ですからね」

「別に嫌ではないのだけれど……、もう少し周りの目を気にして欲しいわ」



 エルヴィアはため息混じりにこの場にいない自分の姉の姿を思い浮かべる。



「それでは私は煉獄の警備長阿煉(あれん)と奈落の警備長メルクビューラに、ソラ様がご帰還なさった事を伝えに行きますので、先に失礼します」



 バルフェルは同僚の各員に別れの挨拶をすると小走りで走り出す。



「僕も霊山の警備長アグアノスにソラ様のご帰還を伝えに行きますね」



 バルフェルに続きクロードもその後を追うように走り出し広場を後にする。



「マオ達も樹海にいるネーベローラに伝えに行くアル。カンナ、火蓮、行くアルよ」

「了解したでござる」

「おー!」



 マオと風魔、それに火蓮もバルフェルとクロードと同じように広場を後にし、最後に残ったエルヴィアも広場を後にしようとする。



「ソラ様………」



 背中に生えている一対の漆黒の天使の翼がバサリとはためく。



「ソラ様の傍にはこの私が」



 エルヴィアは狂信や狂愛といった性格の持ち主という設定だ。


 ソラがエルヴィアを創造した当初、始めからそうなっていたその性格を特に気にしたりはなかった。むしろ堕天使という事もあり、ソラ個人の堕天使ならこんな性格もあるんじゃないか? という印象に基づき、ほんの遊び心でそれに似たような性格をさらに追加してそのままにしておいたのだ。


 ゲームである以上、それが別段どうこう言ったものではない。あくまで設定なのだから。


 しかし、現在ではそれをただの設定と捉えるのは間違いがある。


 ソラは取り返しのつかない過ちをした事にまだ気づいていない。



 つまり、何が言いたいのかというと。



「必ず居座るわ」



 エルヴィアはヤンデレなのである。しかもかなりヤバイ方向の。



「ソラ様の、“正妃”の座は誰にも渡さないわ。ふふ……」



 これから先、ソラはその本当の意味(こわさ)をその身で理解する事になる。




◇ ◇ ◇




 大変な事になった。


 ソラは大量の冷や汗をかきながら絶望にも諦めにも似たような表情で硬直する。


 まさか尿意を催すとは。


 用を足したい時は一旦ログアウトをする必要があるのだが、現在それが出来ない以上ここでやるしかない。

 予想はしていたがまさか本当に起こってしまうとは。

 生理現象は当たり前なのだがまだゲームの中という感覚がごく僅かに残っている中で考えると、どうしても違和感が残る。

 しかし、こうして起こっている以上そのゲームの中という感覚が薄れていっているのをソラは感じる。


 

 そして、何よりも厄介なのは体格が変わったせいで自分と物との距離や細かい作業などの感覚が分からない事だ。


 今までは異常事態であまり気がつかなかったが、自室に入ってこうして落ち着いて色々と考えて身体を動かしてみると不憫があることに気がつく。


 身体がここまで大幅に変わったのだ。むしろこれまでよく気がつかなかったものだと呆れてくる。


 部屋という空間の中で歩くというのは、予想以上に歩きにくいものだ。


 ここまでの道のりで若干の違和感はあったが、色々と部屋の中で意識して動いて回ると改めてそれが強く浮き出てきてしまい、どうしても四苦八苦してしまう。


 特に細かい手先の運動や目線の距離感覚が上手く掴めない。慣れてしまえば楽なのだろうが、それまでが大変だ。



 そして、ソラが一番懸念しているのが戦闘だ。


 グリーンベアとグリーンウルフの時の戦闘はそこまで意識をしていなかったが、それを強く意識してしまった現状では、どうしても不安が生まれてくる。


 意識をしていないのとしているのとでは、様々な物事が違って見えてくる。


 例えば道端でアリの行列がいたとしよう。


 何も意識せずに見ればただのアリの行列だ。


 しかし、意識をしてそのアリの行列を見てみたら、そのアリの一匹一匹の体格の大きさや形といった様々な違いや、さらにその口に生えている牙に何かくわえている物がないかなど、意識をして見る事で見えなかったものや見落としているものが次々と見えてくる。


 それを今のソラに当てはめて改めて見てみる。


 先ほど述べたように指先の運動や感覚、身長の変化による目線の高さやそれによる距離感覚。


 歩行時の足の歩幅や平衡感覚、手足の長さや胸囲、腰回り、肩幅、細かい事まで言えば身体を動かす運動の感覚、動く度に揺れる腰まで伸びる髪、さらには発声やそれによる声のトーンなど数えだしたらキリがない。


 元々男の身体と女の身体とでは勝手が違うのは当たり前だ。

 それにここまで年齢に差があるとなおさらその違和感が大きい。


 そして、この身体になって最大の難関は。



「ぐおぉぉ」



 トイレである。



「ちきしょー! 何でこんなアバターを作ってしまったんだ。あの時の俺を殴ってやりてぇー」



 現実逃避も現状では全く意味を成さない。


 トイレの前でゴロゴロと転がりながら奇声を上げる姿は、傍から見てもかなり危ない姿だ。



「死ぬぅー! 色んな意味で死ぬぅー!」



 ソラの頭の中の悪魔が囁く。


―――やっちゃいな! 。


 それをしてしまっては男として色んな何かを失う。とは言え、もうすでに無くなっている男の魔剣があるのだがそれを認めてしまうのも同然だ。


 ソラはそれを認めたくなくて精一杯意識をしないようにしていたが、やはり無理があった。


 下腹部からくる馴染みのこの感覚を感じた時、ソラの頭を中心に全身を雷のような衝撃と緊急信号が駆け巡ったのだ。


 ヤバイZE。


 ロリコだったらこんな時どうするのか? どうしたのか?。彼もソラと同じ条件にいる者同士だ。彼ならばきっと………いや、簡単に想像が出来てしまう。



『大丈夫じゃ。こんなのはただの生理現象、仕方の無い事じゃ。それにいつかは通る道、対処のしようがないのじゃ。つうか、早くやれよ』



 みたいな事を言うのは火を見るより明らか、むしろこの場にいたなら鼻息を荒くして手伝ってやろうか? と言い大変な事になっていたかもしれない。


 あー、と頭を抱えているところへ頭の中の天使も囁く。


―――やっちゃえ、俺様が許す。


 おいおい天使! お前もか!。


 頭の中で繰り広げられる一方的な激しい口論をしている内に、遂に我慢の限界が来てしまったようだ。


 ソラは諦めにも似た覚悟を決めると意を決してトイレの扉を開けて中に入る。


 暫くして水の流れる音が小さく響いた後、中から暗い表情をして俯いたソラが出てくる。


―――終わったZE。色んな意味で。


 ハイライトが消えた虚ろなその瞳には一体何が映っているのだろうか。


 恐らく何も映っていない。


 別に悪いことをした訳ではないのに、何故か罪悪感にも似た気持ちが胸の中で渦巻く。


 やっちゃったなおいと、頭の中の悪魔と天使が仲良く肩を組みながら豪快に笑う。


 ソラはそんな変態コンビを追い出すかのように頭を振るうと、気持ちを切り替えて部屋の中を見回す。


 各ギルドメンバーの自室は家具や壁紙の色など、個人の好きなように変える事が可能だ。


 ソラは床の約八割を占める豪華な紅い絨毯の上を、裸足でトコトコと歩く。


 何故裸足なのかというと部屋の中を靴を履いたまま歩くのはどうしても違和感があるので、先ほどこの部屋に入る前に脱いだからだ。


 ソラは部屋の中を見回してどこも変わったところが無いのを確認すると、自室にあるいくつかの部屋の内、寝室の扉を開く。


 若干疲れを感じる身体でキングサイズの天蓋付きベットの側まで歩み寄ると、ふと自分の服装を見下ろす。


 特に目立った汚れは無いがそれでも僅かな砂埃等の汚れは付いており、その状態で真っ白なシワの一つもない綺麗な布団に入るなど、あまり潔癖症ではないソラでも抵抗感を感じた。


 ソラは億劫そうにローブを脱ぐと、その下に着ている物も脱ごうと手を掛けたところでピタッと手だけではなく身体全体が止まる。


 しまった!。


 慌てて近くに置いてある身体全体が映る長方形型の縁(ふち)全体が金で出来た、色とりどりの宝石を埋め込んだ豪華な装飾が施された姿見をサッと素早く見る。


 そこには、これから服を脱ごうとそれに手を掛けている最中の銀髪碧眼の幼女がこちらを驚いたように凝視している姿が映し出されていた。


 慌てて姿見から目を離すと、それと同時に服に掛けている手もサッと離す。


 二回目の大変な事になった。


 ソラは顔を真っ赤に染め上げながら途方にくれるように虚空を眺める。


 あぁ……、どうして自分はこう難関が何度も来るのだろうか。


 自分以外誰もいないはずの部屋に「このロリコン変態野郎!」「やってしまうのか!」「早く脱げよ。ハァハァ」などの罵声等の幻聴が聞こえてくるような感覚に陥る。


 一難去ってまた一難。


 しかも、そのハードルは先ほどと同等か、もしくはそれ以上に高い。


 自分が何かとんでもないレッテルを貼られたような気がしたソラは頭を抱えて羞恥に悶えている。そこへ、どこから来たのかまた悪魔と天使が頭の中で同時に囁く。


―――ユー、ヌイジャイナ。下着は拾ってやるぜ。


 ロリコだったらこんな時どうするのか?。


 いや、きっと『脱ぐぜ! 思いきってな!』とか言うに違いない。



 もう、どうにでもなれと半ば自棄も入ったように吹っ切れるところで、突如妙案が思い浮かぶ。


 メニューウインドウで装備の変更をすれば良いのではないか?。


 それなら、わざわざ一つ一つ脱がなくてもほんの一瞬で着替える事が可能だ。


 これだ!。


 我ながら実に素晴らしい名案じゃないかと、ソラは自画自賛する。


 自分が時々恐ろしくなるぜと、盛大なドヤ顔をしながらメニューウインドウを開き装備の変更をする為、ステータス画面へと指を動かす。


 しかし、そこで違和感が生じる。


 ステータス画面の防具の装備スロットに黒獄蝶のローブが消えていたのだ。


 ソラは怪訝な表情を浮かべると、床に無造作に投げ落ちている先ほど脱いだ黒獄蝶のローブを数秒見つめてそれを拾い上げて羽織る。


 そして、防具の装備スロットを見ると、今しがた羽織った黒獄蝶のローブが装備されている事が確認出来た。


 これは新しい発見である。


 装備を変更する場合はステータス画面からでないと不可能なのだが、先ほどの様にステータス画面からではなくとも、リアルのように普通に脱いだり着たりしても装備の変更が可能という事だ。


 そもそもゲームの頃では出来なかった装備―――ローブを“脱ぐ”、または“脱げる”という行為が出来た時点で気づくべきだった。


 ソラはもう何度目になるか数えるのも億劫な衝撃に、自分の中にあるゲームの中という感覚がさらに薄まるのと同時に、これはゲームではなくリアルなのだという感覚が強くなるのを感じた。


 これならば防具に限らず、ひょっとしてアクセサリーや“武器”にも同じ様な事が出来るのではないだろうか。


 あの時、この身体で始めて剣を抜こうとした時、大幅に身体全体が変わったせいで腕の長さが足りずに結局抜けずに終わってしまった。


 しかし、現在ではゲームの中にあった数々の規制という縛りに所々綻びが生じているのではないだろうか。


 ならばもっと色んな打開策や解決策などの様々な突破口や選択肢を見出だす事が出来るかもしれない。


 数々の可能性に胸の内が高まっていき衝撃がまだ治まらない。


 しかし、今はそれよりも早く休みたいという欲求の方が勝り、装備の変更を再開させる。


 暫くどの装備にしようかと悩みながら探して、ようやく見つけて決めたそれを早速装備する。

 瞬時に黒獄蝶の装備から新しく変更したその装備に変わる。


 真っ白なTシャツに黒の短パン。


 そう、これこそかつてPEOの全世界の全てのプレイヤー達を震撼させる爆発的大人気―――にならなかった、ネタ装備。


 “いつもの格好”という防御力皆無な最弱防具だ。


 素晴らしい。


 よくこんなネタ防具を今までアイテムボックスの中に入れていたものだ。


 後ほど時間がある時にアイテムボックスの中身を一度整理した方が良さそうだ。


 ソラは欠伸を一つして両目を手の甲で擦るように拭うと、トテトテと早歩きでベットに近づいてよっこいしょっと、よじ上るようにして上がる。


 そして、吸い込まれるように倒れこむと柔らかな反発力と身体を優しく温かく包み込む布団の中で、静かに瞼(まぶた)を閉じるのであった。


 意識が暗やみに落ちる瞬間「あっ、風呂」と唐突に思い出したが、時すでに遅し。


 ソラは深い眠りへと入ったのだった。



お読みいただきありがとうございます。

予定では次話かその次ぐらいから、拠点を出て旅に入りたいと思っています。

誰を連れていくのかは一応決めています。

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