プロローグ。
二つの影が躍り出る。
金の髪を靡かせながら鎧に身を包んだ小柄な少女はその重さを感じさせない動きで刃を振るう。
その刃を事も無げに防ぎ、鈍い七色の光を纏った拳を振るうは黒衣の大男。
豪奢な造りの部屋内で二つの影は今も激しく舞っている。一つの影は涙を流し、一つの影はそれに気付きながらも拳を振るう事を止めない。そんな二つの影を見ているボロボロな女性が痛々しそうに小さな声で問いかける。
「なんで……。なんで、っすか……。」
それを耳聡く拾った大男は口端を吊り上げ、聞く者に畏怖を与える声で答える。
「決まっている。余が、魔王だからだ!」
「っ……。」
魔王と名乗った大男へと注がれる二つの視線。その視線に乗った絶望に、魔王は愉快そうに笑んだ。
俯く少女に魔王は掛けるべき言葉も無く、ただ待っている。己との戦いを再開する瞬間を。
「…………。」
「闘いたくないだと?ふん、歴代の勇者共が聞いたら恥知らずだと罵られるのだろうな。よいか今更そんな戯言は通用せん、殺しに来い勇者よ。でなければ、ここで死ね。」
少女の言葉を一蹴し無残にも振り下ろされる七色の拳。
それをかわす素振りすら見せずに目を閉じる少女。しかし、その拳はボロボロになった女性からの魔力弾によって軌道がずれた。
ほう、と感心したような呟きと共に魔王は女性へと目を向ける。女性はよろよろと立ち上がると薄く笑い、手を魔王へと翳している。魔力はほとんど底を付いているが後一回なら精霊へと譲渡する分は確保出来る筈だ。
「やらせ、ないっすよ……っ。勇者ちゃんには、まだまだ、やるべき事が、あるっすからね」
「事勿れ主義のお前がここまでするか。変われば変わるものだな。」
まるで知り合いに軽口でも叩くかのように魔王は言った。
しかし場は依然とピリピリとした緊張感に包まれており、油断など許されない状況なのは明らかだった。そんな二人のやり取りをただ呆然と見ていた少女は悲しみを湛えた瞳で魔王を見る。
「遅かれ早かれ、こうなる運命だったのだ。お前に護るべきものが出来たのならなおさらだ。」
「……。」
少女は何も言わずただ黙って魔王の言葉を聞いている。
少女には確かに護るべき人達が居る、救うべき世界がある。
だが、それは……本当に護りたい、救いたい者を蔑ろにしてまで為す事なのか彼女にはわからない。
「ここでお前が駄々を捏ねても意味など無い。勇者としての責務を果たせ、愚か者。貴様は救国の英雄となり村を再建するのだろう?」
「っ……。」
剣を構える少女。
復讐から始まった彼女の旅は魔王を討てばひとまずの終わりを迎える。
目尻に溜まった涙が一滴、床に落ちる。それが会戦の合図といわんばかりに少女は踏み込み魔王に刃を振り下ろす。
それを懇親の一撃と見て取った魔王も懇親の一撃を繰り出す。
両者の一撃は光の濁流となってその場の一切を塗り潰した。




