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Lily  作者: もんかる
14/14

侵攻の流れへ13話

 勇者が死んで800年。

 同時に、平和を手に入れて800年。

 人間界スピカニカは徐々に不穏な空気が漂い始めてきた。

 カーリンロードからやってくる魔物に怯える村々。

 汚職まみれの汚い政治家たち。

 権力を失いつつある王族。

 そして、魔王は生きているのに勇者はいないという危機感。

 人間界スピカニカの人々はみんな思っている。どうして魔王は人間界スピカニカに魔物を送ってくるのか、と。

 事実はどうあれ、その不満は段々と高まり、魔王討伐の意が世論となりつつあった。


「ったく、めんどくせーな」


 ぽりぽりと頭を掻きながら、着崩した軍の制服でずるずると歩くコルテッタは大きくあくびをした。


「そういうことを城内で言うもんじゃないですよ」


 コルテッタの横を歩くエイミーは小さな声で忠告した。


「いやいやいいんだよ。だってめんどくせーに決まってんだろうが。なにが魔王討伐だよ。魔物が魔王によって送り込まれてるなんて誰が決めたっつー話だろ」


 身長は決して大きい方ではなく、着痩せするようで細く見えるが、その内側の肉体はとても鍛え抜かれたものになっている。顔も整っており、民衆からはその強力な魔法と剣技から勇者の再来ともいわれており、強い軍人に付けられる二つ名はその美しい銀髪から『銀狼』と呼ばれている。それがコルテッタ少将である。


「でも文句言ったってやるんでしょう?」

「そりゃな。ただし、相手の力は未知数すぎる。今回の先遣隊では俺が直接指揮を執って進軍するつもりだよ」

「少将自ら!?」


 驚きの顔をするエイミーの階級は少佐。コルテッタ専属の補佐官として先の内乱鎮圧で活躍した。眉目秀麗にして、強力な魔法使いである。

 内乱によって王族の力はほとんど失われ、軍部が権力を掌握した。内乱自体は鎮圧したものの、大きな爪痕を残したと言っても過言ではない。


「あの門を開くってんだから、気合い入れないとダメっしょ」

「確かに、カーリンロードはもう800年も開いていませんからね」

「あーあー、こんなことは勇者にやってもらいたいねぇ」

「勇者……ですか」

「いったいどういう条件の下で生まれるのかねー」

「あれ、そもそも魔王はまだ封印されているんじゃないんですか?」


 800年前、勇者カーリンは魔王を封印して人間界スピカニカに平和をもたらしたとされている。それが人間界スピカニカの正当な歴史なのだ。


「封印されているから魔物をこっちの世界に送り込んでくるってのが上層部の見解でね。封印されてるなら叩くのは今しかないって思ったんっしょ」

「なるほど……」


 全ては空想。机上の空論から作られた真実を建前として、コルテッタは進軍しなければならないのだ。いや、現実を確かめるためと言えば間違いではないのかもしれない。


「そういえばお前さ、カーリンは女だったって知ってるか?」

「はい?勇者カーリンは凛々しい男の人だと習いましたけど」

「まぁ、確かに教科書にはそう書いてあるんだよ。でもな、うちの書庫で見つけた本によれば、カーリンは慈悲の心を持った聖女だったって書いてあるんだ。どう思う?」


 にひひと笑うコルテッタに対して、エイミーは呆れた表情を作る。


「コルテッタ少将のお家は確かに古くからこの世界にある有数の名家だったかもしれませんが、まさかそんな裏の歴史があるだなんて信用できませんよ」

「そっか。ま、俺は俺のご先祖様を信用しようと思うんだけどなー。その本には他にも色々とおもしろいことが書いてあるんだよ」


 はぁっとため息をつくエイミー。


「それでも、あなたは魔界ヴィルゲニスに攻め込むのでしょう?」

「まぁな」


 様々な思惑が交差する。

 いつまで経ってもやめることのない、小さな村の生贄制度。

 王家の力を再興させようと企む者たち。

 人間界スピカニカに絶対の平和をもたらそうとする宗教。

 そして、魔界ヴィルゲニスへ進行するという全ての意志に、世界は反抗できない状態まで来ているようだった。


「いやぁ、空が青いねー」


 刻は迫る……。

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