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異世界転移したこの世界で、私は「王」になった(仮)  作者: カレンナカレン


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民への挨拶


紗蘭が朝目覚めると、視界に入ってきたのは豪華な食事と、忙しなく動き続けている女官たちだった。

紗蘭が起き上がると、翡翠が「おはようございます、紗蘭様」と軽く一礼をする。

その言葉が合図かのように、女官たちは一斉に整列し、一礼をする姿に、紗蘭はここが夢ではなく現実であったことを実感した。

「毒味はしておりますので、お召し上がりくださいませ」

「美味しそうだけど、量多くない?」

品数は20種類以上、きれいに盛り付けられているが、一つ一つがかなり多かった。

「みんなで食べない?残すと食品ロスにつながるから。」

「食品ロス…?は分かりませんが、王である紗蘭様とお食事をさせていただくなど滅相もございません。また私たち女官は別にお食事がありますのでお気になさらず。」

翡翠は顔を下に向けながら丁重に断ったが、紗蘭は納得していない様子で、腕を組みながらなにかを考えていた。

「分かった、じゃあ王命って言ったら食べてくれるかしら?皆、お箸とお皿持ってきて。」

女官たちは戸惑っていたが、王命は断れない。

紗蘭は誇らしげに微笑み、「みんなが持ってきてくれるまで、私食べないから」と圧をかけた。


女官たちがバタバタと動いていると、「お食事中失礼致します」と白蓮が王室に入ってくる。

(今日も美男子ね…)


「おはようございます、お食事を食べながらで良いので、本日の予定の確認に参りました。」

「おはよう、まだ食べてないから大丈夫」

「…何かあったのですか?」

女官がバタバタと走り回っている様子から、白蓮は何か悪いことがあったのでは?と思い辺りを見渡した。

しかし、目の前の王は笑っているので不思議な顔をした。

「皆でご飯食べようと思って準備中なの。良かったら白蓮もどうぞ」


白蓮が首を傾けたので、紗蘭はふふっと笑ってみせた。

「えー…王よ、とりあえず私は予定の確認をしますよ。」

「ええ」

「まず、食事が終わりましたら正装に着替え、民への挨拶。その後昼食が済みましたら、再度お召し物を着替え、同盟国との晩餐会になります。民への挨拶の分は私が作成しましたので、ご確認ください。」

「わかったわ、ありがとう。で、白蓮は朝食どうする?」

白蓮は少し目を細めて「いえ、私は結構です」と言うと王室をあとにした。

(皆で一緒に食べれば良いのに…)

紗蘭は少し残念そうにした。


その後女官たちと食事を取ったが、女官たちがあまりにも緊張しているので、ギクシャクした朝食となった。



――――――――――――――――――――――――

紗蘭の正装の準備が整うと、翡翠が昨日の宮殿のバルコニーまで案内をした。扉の前には白蓮が待ち構えていた。

「王よ、準備はよろしいですか?」

「ええ、準備万端よ」

(白蓮が準備してくれたカンペも完璧に頭に入れたし、大丈夫よね)

返事とは裏腹に紗蘭は緊張して手が震えていた。白蓮が声をかけようとすると、翡翠が「紗蘭様」と話しかけた。

「これは我が家に伝わる、私の名前にもある、翡翠でございます。我が家ではお守りとして代々受け継がれております。紗蘭様、どうかこれをお持ちになってください。この翡翠が守ってくれるはずです」

翡翠はそう言って、紗蘭の掌に翡翠の指輪をそっと置いた。

「こんな大事なものを…っ」

「民への挨拶が無事終わりましたら、お返しいただければ幸いです。勿論、そのまま紗蘭様が持っていただいていても構いません」


(どうして、会ってまもない私にこんなに親切にしてくれるかしら)

「ありがとう、翡翠」

翡翠はにっこりと笑った。

紗蘭は指輪をはめると、ぐっと胸の前で手を握った。

(私ならできるはずよ、紗蘭)


紗蘭が白蓮を見て頷くと、昨日と同じく軍喇叭が大きく鳴り響いた。

朱塗りの大扉が重々しく左右に開かれ、溢れんばかりの太陽の光が紗蘭を包み込んだ。

「これより、新王・紗蘭様の御前である! 全員、()を低くせよ!」

白蓮の朗々とした声が、宮殿の広場に響き渡る。

紗蘭が一歩、大理石のバルコニーへと踏み出した瞬間、広場を埋め尽くす、何万という寅の国の民の熱気に圧倒された。

「皆、面をあげよ」

紗蘭のその一声で、一斉に民は頭を上げ、視線が紗蘭に集中する。

「おおお……!」

「あれが、新たな虎の王……!」

民は皆獣の耳や尻尾が生えている。虎の耳以外も見られ、寅の国が閉鎖的な国ではないことはそれだけで理解できる。

(……一歩でも引いたら、私の負け。民の期待を裏切らないようにしないと。)

紗蘭は、深紅の絨毯をしっかりと踏みしめた。

今日の彼女が纏っているのは、昨夜のゆったりとした室内着ではない。最高級の赤い絹に黄金の虎が刺繍された、重厚な王の正装だ。風にたなびく衣の裾は、まるで燃え盛る火炎のように鮮烈だった。

頭上には、冕冠が載っていた。

紗蘭はゆっくりと右手を掲げ、民衆を見下ろした。

その仕草一つに、名門一条家で叩き込まれた「完璧な作法」と「美しさ」が宿っている。昨日から王になったと誰が信じられるであろうか。

白蓮が背後で、満足げに目を細めるのを隣の翡翠は見逃さなかった。

紗蘭はすうっと息を吸い込み、あえて優雅に、けれどすべての民の芯に届くような声で告げた。

「虎の国の民たちよ。私が、天に選ばれし新たな王、 紗蘭だ」

彼女の凛とした声が広場中に響き渡る。

「前王の崩御により、民の不安もさぞ大きいだろう。しかし、この私が王になったからには寅の国のさらなる発展と、平和を実現していきたいと考えている。」

言葉の端々に、王としての苛烈な覇気を混ぜ込む。

その瞬間、民衆の間に一拍の静寂が訪れ――次の瞬間、爆発するような歓声が沸き起こった。

「王様万歳!!」

「寅の国に栄光あれ!!」

「女で務まるのか!?」

「どうせまた、見捨てるんだろ!」

割れんばかりの拍手と咆哮の中、野次も多く聞こえてきた。白蓮が野次を止めようとしたとき、紗蘭は白蓮の前に手を伸ばし、制御した。


紗蘭が再度右手を掲げると、民は一斉に静まり返った。

「私がもし国を見捨てるような真似をしたときは、私を処刑しなさい。私はそれぐらいの覚悟だ。」


紗蘭のその言葉に、野次を飛ばすものは誰一人いなかった。紗蘭は民衆の拍手喝采を背に、宮殿の中へ足を踏み入れた。


扉が閉まり、民の声が遠くなったところで紗蘭はしゃがみ込んだ。

「紗蘭様!大丈夫ですか?!」

翡翠がすぐに紗蘭に駆け寄ると、紗蘭は「大丈夫よ」とすぐ立ち上がった。

「緊張してて少し疲れただけよ。ありがとう、翡翠」

紗蘭は翡翠に借りていて指輪を翡翠に返し、また歩き始めた。その後ろでは白蓮と翡翠が顔を見合わせ、心配そうに紗蘭を見つめていたが、紗蘭は気づく様子はなかった。


「翡翠、晩餐会まで王にはゆっくりしていただくように」

「はい」


―――――――――――――――――――――――

部屋に戻ると、紗蘭は重い正装の袖をそっと撫で、大きなため息をつきました。

(……みんなの前では見せられないけれど、本当に心臓が止まるかと思ったわ。でも、王としての意地だけは通せたかしら)

バルコニーで見せた凛とした王の姿から、いつもの「一条 紗蘭」に戻った紗蘭の背中は、どこか小さく見る。

「紗蘭様、お召し替えを。それから、晩餐会まで少しお休みになってください。お疲れを癒やす特製の甘味とお茶をご用意いたしますね」

翡翠が、緊張をほぐすような優しい笑顔で近づいてくる。正装を脱がせてもらい、再びあの柔らかな白い室内着に袖を通すと、張り詰めていた肩の力がようやく抜けました。

「ありがとう、翡翠。あなたの入れてくれるお茶、とても落ち着くわ」

「そう言っていただけて光栄です。我が王がお倒れになっては、民が泣きますから」

「そうね、少し休むわ。」


(平気だと思っていたけど、思いのほか緊張で疲れたわね…)

紗蘭が横になると、翡翠はそっと部屋を出て、王が起きたときにするべきことを考えていた。


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