第23話:的確すぎる編成替え(コンサルティング)
私が空間に展開した『新しい部隊編成表』のホログラムを見て、待機室のパイロットたちはポカンと口を開け、やがて信じられないものを見たように一斉に怒りの声を上げた。
「おい、ふざけてんのか! なんで俺が、後衛でちまちまライフルを撃っていた奴の『風属性・高機動機』に乗り換えないといけないんだ!」
私に掴みかかろうとしていた金髪の青年が、ホログラムの自分の名前を指差して激昂した。
「俺は敵陣に突っ込む前衛だぞ! そんな紙装甲の機体に乗ったら、一発被弾しただけでミンチになっちまうだろうが!」
「ええ。ですが、あなたは現在の『氷属性・重装甲機』に乗っていて、すでに何度も死にかけていますよね」
私は一切の表情を変えず、手元の端末を操作して彼の過去の戦闘記録を空中に投影した。
「見てみなさい。敵の攻撃が来た瞬間、あなたの『操縦桿を避ける方向に倒す反応速度』はコンマ二秒です」
映像の中で、彼の機体に敵の炎が迫る。
「ですが、氷属性の重装甲機体は、あなたの魔力波長と相性が悪く、さらに機体重量のせいで実際の『回避運動の初動』までにコンマ五秒のラグが発生している」
「なっ……」
「つまり、あなたの優秀な反射神経に対して、機体の性能が完全に『重り(ブレーキ)』になっているんです。無理やり機体を動かそうとして関節系に負担をかけ、結果として回避が遅れて被弾している」
私はホログラムの数値をハイライトさせ、冷酷な事実を叩きつけた。
「あなたの適性は、瞬発力と近接格闘です。装甲など必要ありません。風属性の高機動機に乗り換えれば、機体とのタイムラグはゼロになり、被弾する前に敵の懐に潜り込めます。……紙装甲でも、当たらなければただの鉄の塊ですよ」
「当たらなければ、だと……? そんな曲芸みたいな真似……」
金髪の青年は反論しようと口を開いたが、コンマ一秒の自らの反応速度が数値化されたデータを見せつけられ、ぐうの音も出ないようだった。
(……やれやれ。自分の身体のポテンシャルすら理解してねえとはな)
(だが、実戦でコンマ二秒の反応ができる奴は、傭兵の世界でもそう多くはねえ。こいつは鍛えれば、あの『亡霊』のステップにだってついていける逸材だぜ)
心の中のおっさんは、泥の中に埋もれていた原石を見つけて獰猛な笑みを浮かべていた。
「あ、あの……レイ管理官、様」
次に声をかけてきたのは、部屋の隅で縮こまっていた気弱そうな小柄な青年だった。
「ぼ、僕は後衛の狙撃手なんですが……どうして、彼が乗っていた『重装甲機』で、しかも前衛の『盾役』なんて死地に回されているんですか……?」
彼は泣きそうな顔でホログラムを見上げている。
無理もない。遠くから安全に魔法を撃っていた人間を、一番敵の攻撃が集中する最前線の壁に据え置くというのだから、普通なら狂気の沙汰だ。
「あなたの狙撃手としての才能が、絶望的に皆無だからですよ」
「うっ……!」
「ですが、あなたの『索敵の視野』は部隊で一番広い。……ドラレコの記録を見る限り、敵が岩陰から飛び出してくる予兆を、あなたは他の誰よりも早く『視線』で捉えています」
私は彼が後衛でオロオロと周囲を見回している映像を再生し、その視線の動きを赤いラインで可視化させた。
「敵の射線を誰よりも早く読める。なら、その広い視野を活かして、敵の攻撃が来る場所に『一番初めに分厚い装甲を置く』役割が最適です」
「で、でも、前衛で魔法のシールドを展開するなんて、僕の魔力じゃすぐに弾き飛ばされて……」
「魔法のシールドなど展開しなくて結構です。魔力の無駄遣いですよ」
私のその言葉に、待機室の全員が「は?」と間抜けな声を漏らした。
「い、いやいや待て小娘! 盾役が魔法のシールドを張らないで、どうやって敵の魔法を防ぐんだ!」
「物理的な装甲で防ぐんです。機体の動力をシールド展開ではなく、すべて『姿勢制御』と『前進』に回しなさい」
私は手元の端末で、重装甲機の図面を展開し、その分厚い左肩のパーツを強調した。
「敵の攻撃が来る直前、機体を斜め四十五度に傾け、一番分厚い装甲で攻撃を受け流す『避弾経始』の姿勢をとる。魔法の威力を正面から魔力で相殺するから押し負けるんです。物理的に弾き飛ばせば、装甲の表面が少し焦げるだけで済みます」
「装甲で、魔法を物理的に弾く……?」
「そうです。あなたの広い視野で敵の攻撃を予測し、味方の前に出て物理的な壁になる。……それが、あなたがこの部隊で唯一生き残るためのロジックです」
魔法が絶対の彼らの常識からすれば、私の提案は完全に教範から逸脱した異端の戦術だ。
だが、私の提示するデータと、それに裏打ちされた物理のセオリーには、彼らの魔法至上主義の反論を許さないだけの圧倒的な『説得力』があった。
(魔法使いってのは、見えないパワーで全部を解決しようとするから、自分の立ち位置や物理的な重量ってもんを疎かにしやがる)
(適材適所。個人の癖と機体の特性を完全にリンクさせる。……これこそが、最前線で部隊を生き残らせるための傭兵のコンサルティングってもんだ)
「……その他にも、指示があります」
私は呆然としているパイロットたちを見渡し、さらに非常識な命令を下した。
「炎属性の機体に乗る者は、明日から『攻撃魔法の詠唱』を一切禁止します」
「なっ!? 攻撃魔法を撃たないで、どうやって敵を倒すってんだよ!」
「倒す必要はありません。あなたの役割は『攪乱』です」
私は図面に作戦のラインを引きながら淡々と告げる。
「攻撃魔法に回すマナをすべてスラスターに集中させ、敵の陣形をかき乱すように走り回りなさい。敵が詠唱に入ったのを見たら、魔法陣が完成する前に機体ごと『質量弾』をぶちかまして詠唱をキャンセルさせるんです」
「た、体当たりしろってのか!? そんな泥臭い戦い方、軍の教範のどこにも載ってねえぞ!」
「教範通りに優雅に魔法を撃ち合って、あなた方は今まで何人生き残れたのですか?」
私の静かな、しかし絶対的な冷酷さを含んだ問いかけに、パイロットたちは言葉を詰まらせた。
「教範があなた方の命を救ってくれるなら、私はこんな地下の待機室まで出張してきていません」
私は可憐な少女の瞳に、歴戦の傭兵としての凄みと、有無を言わせぬ威圧感を宿らせて彼らを睨みつけた。
「プライドに縋って教範通りに死体になりたいなら、どうぞ勝手にしてください。……ですが、明日という日を生き延びて、自分をゴミ扱いした上層部の連中を見返したいのなら、私の『論理』に従いなさい」
静まり返る待機室。
酒の匂いと絶望に満ちていた空気が、今、明確な『生存への渇望』へと形を変えようとしていた。
彼らは理解したのだ。
目の前にいるのは、ただの魔力を持たない小娘ではない。
彼らの戦闘記録をコンマ一秒まで見透かし、誰も教えてくれなかった「生き残るための物理法則」を叩き込んでくる、戦場の支配者なのだと。
「……分かったよ。どうせ死ぬ命だ、お前のその狂った『論理』に乗ってやる」
先ほどの金髪の青年が、乱暴に頭を掻きむしりながら立ち上がった。
その瞳には、先ほどまでの死んだ魚のような光はもうない。
「だがな、もしお前の指示通りに動いて全滅したら、あの世で化けて出てやるからな!」
「幽霊の戯言に付き合う趣味はありません。……さあ、無駄口を叩いている暇があるなら、格納庫へ向かいなさい。明日の夜明けまでに、機体の再設定を終わらせてもらいますよ」
私の号令とともに、パイロットたちが一斉に動き出した。
彼らの顔には、まだ半信半疑の色が残っている。だが、その足取りには確かに、絶望の泥沼から抜け出そうとする『熱』が宿っていた。
(……ふん。やっぱり、死に物狂いの連中の顔ってのは悪くねえな)
(さあ、まずは小手調べだ。明日のお遊戯会で、俺の叩き直した『物理のロジック』がどれほどの威力を発揮するか……見せてもらおうか)
私はパイロットたちの背中を見送りながら、手元の端末の電源を静かに落とした。
最前線のポンコツ部隊は今、魔法至上主義の常識を脱ぎ捨て、泥臭い「実戦部隊」へと生まれ変わるための最初の第一歩を踏み出した。
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次回お楽しみに。




