十三話 始まりの家
魔王の残滓が消滅したとき、私もシルヴィアも教皇もヒイラも全員瀕死であった。シルヴィアは徐々に崩れていくからだを引きずりながら、ある場所へ向かおうとする。どこであるか察した教皇とヒイラも重い脚を動かしその後に続く。私ももはや馬の姿を維持できず、人の姿となって彼らの後を追う。
やがて教会を離れて見えてきたのは小さな家であった。
家の横には小さな墓が建てられていたが名を刻むことは許されなかったのか、名前は彫られていなかった。
家の鍵をヒイラが重そうにあける。
「お母さん・・・みんな、みんな揃ったよ」
そう言って涙を流すシルヴィア。私は家族の団らんには邪魔であろう、家の外へ向かおうとするもヒイラに首根っこ捕まれ戻される。
「いや、私家族水入らずには少し邪魔だなって」
「何逃げようとしてんだ・・・お前も俺の娘だろ・・・なぁシルヴィア」
「あら兄さんの子供になってたなんて、私妬みますよ」
そう言ってシルヴィアが笑う。ヒイラも笑う。
「初めて会った孫がここまで大きくなっているとはね」
そう言って教皇も静かにほほ笑む。
幾分時間が経っただろうか、ヒイラはその生命活動を終える。柱にもたれていたがそのまますっと息を引き取った。
次いで教皇もその命に幕を下ろす。一見外傷がないように見える彼であったが、封印に際し魔王の残滓からの攻撃をすべてその身で皆に代わって受けていたのだ。そのことを誰にも気づかせなかった彼はさながら最後に父親としての維持を通したとでも言わんばかりの誇らしい顔であった。
机に突っ伏すように倒れこむ。
「二人になっちゃいましたね・・・ペル」
そういうとシルヴィアは私を抱き寄せる。
「旅は楽しかったですか?」
「楽しかったよ・・・レインっていうクレント族の子供とまるで兄弟のように過ごした時もあったし・・・なによりヒイラとは本当に長く旅をしたよ」
私がそう返事をするとシルヴィアは嬉しそうに頷く。
「私たち、今度こそ魔王を討伐出来たということでいいんですよね」
シルヴィアがつぶやく。本来倒すべき相手だった魔王どころかその黒幕だった先代魔王の残滓までしっかりと消滅させれたのだ。大勝利に決まっている。
「勝ったんだよ・・・主人」
私がそう返事をするとこれまたシルヴィアは嬉しそうにうなずく。しかし、彼女もその体を構成する魔力はもう残っていなかったのだろう。胸に穴が開き大量の血が流れだす。
「今度は・・・一緒に旅でもしようか」
そう言ってシルヴィアは息絶える。
私ももう視界がかすんでほとんど見えない。それでも家の各地で倒れていたヒイラと教皇をシルヴィアの近くまで運ぶ、今度は私が何かしなくてもきっと誰かが供養してくれるだろう。
思えば大変な旅であったが、クレント族の差別を終わらせ、帝国の内戦を終結させ、冒険者として人の役にも立ったのだ。十分人助けの旅だったのではないだろうか。
「私は・・・よく頑張ったよな」
『あたりまえです。さっ行きましょうか』
そうして息絶えた私の体は人の姿から元の馬の姿へと戻っていく。のちにこの家まで探しに来たロレーヌたちが見た光景はあの日魔王城で馬が主人を抱えて眠っていた様子そのままであった。




