百合小説【第72話】生放送のカラオケ大会⑤
その男性が放った一言が、最後の五文字が、この空間を混沌へと包み込んだ。あいしてるの5文字のみ、曲の音源が終わって発せられた言葉で、拍手のタイミングを見失っていた。ガチ恋口上と呼ばれるものであるが、まさかここで聞くとは思わず、口をぽかんと開けたまま静止した。
「いやーコール凄かったねぇ」
「みんなの熱い思いが届きましたぁ〜奥でサイリウム振ってる人もいて、あんな即興でできるもんなんだって感心しましたぁ〜」
何事も無かったようにインタビューをはじめる。後方列では、オタ芸サークルの人達が椅子席の通路を使いオタ芸を披露して盛り上がっていたが、観客も私同様の顔の人がちらほらといる。
「みんな見てくれてありがとぉ!!!!」
「さゆりーーーーーん!!!」
会場を間違えているよ、と内心ツッコミながら、例の人が会場から追い出されようとしている。出る杭は打たれるとはまた別の話だろうか。
「ちょっと待って警備員さん!」
西条さんが声をかける。
「彼別に悪いことはしてないじゃない。誰かにちょっかいかけた?私の事応援してくれたわけで、何も悪いことはしてないよね?」
いまさっきまで黒い話でざわついていた会場は途端に静まりかえり、光と影の中に、2人だけの空間が生まれた。
「だから、その手を離してあげてよ」
警備員がその手を離し、その空気を一瞬で歓声に変えてしまった。まるでフィルム映画のワンシーンを見ているような高揚感をこの場全体で共有した。配信を見ると、8000人という学祭では考えられない程異常な数字の同時視聴者がいる。西条さんは鉄渋というアカウント名が即座に特定され、放送録画と共にアカウントIDが拡散されている。壇上に立っている人とSNSの投稿の差に落胆するものと好感を持つものが二極化している。私は落胆も好感も持たず中立だが、少しだけ寒気がしたのは心のポケットに閉まっておく。しかし、これが狙って行われたのか、司会者のアドリブなのかは定かではない。西条さんのおかげでいい感じに締められ、その後残りの参加者4人が歌唱し、終幕にかかろうとしていた。参加者達が壇上へ一同に集まり、座談会のような、雑談会のようなものが繰り広げられている。投票はその場で即座に行われ、カラオケの点数、投票率、そして総合3部門で表彰が行われるため、嘉陽田さんに2票ずつ入れ結果発表を待っていた。
「皆様、大変長らくお待たせいたしました。第31回渋谷学園新宿中学高等学校灯篭祭カラオケ大会結果発表です」
場が静まり、緊張感が走る。その結果を私事のように感じ、静かに目を閉じて息を飲んだ。




