百合小説【第71話】生放送のカラオケ大会④
嘉陽田さんの歌唱が終わりほっとしたように壇上から掃けた。『夏空の導き』の故人のように、声も出さず見つかることもなく長い5分が終わったことを後悔する。いつもと違う嘉陽田さんを、いつもの私を捨てて声を出せば、手の1つ振って貰えただろうか。そんなことを思いながら感情をハンカチを握りしめた。
2番目、3番目と続々に歌い終わり、SNSで反応を追いながら見ていると、嘉陽田さんの話題とは別に、1番人気のなさそうな目立った巨体の男の子に投票しようと悪ノリが拡散されている。私も昔は参加していたけれど、友人が絡んでくるとあまりいい気分にはならない。1人何回でも投票できることが仇になり、投票を自動で行えるプログラムを開発しようと企んでいる輩もいるようだ。
そうして5番目になった青髪の少女は壇上に立って、マイクを持って手を振った。
「みんなーーーーーげんきーーーーー????」
「ゆりえちゃーーーーーん」
男性の野太い声が会場に響く。
後ろの方からの歓声に振り返って見ると男子がサイリウムを振って声を上げていたようだ。その直ぐに隣に西条さん神庭くんが恥ずかしそうに男子の袖をつかみ揺らしていた。それをに気がついたのか、西条さんが手を口元にやり嘲笑するようにニヤついてるのが分かる。
「見に来てくれてありがとぉーーーーエントリーナンバー5番!国際学系1年の西条友里恵16歳です!」
嘉陽田さんと違って、男子の声がよく響く。SNSで有名なのは知っていたが、まさか本人自体もここまで目立っていたのは知らなかった。
「西条さん言えば、Twitterの鉄渋さ」
「何それーーーーー僕頭わるいからわかんないなぁーーーーー」
「可愛いぃぃぃぃぃぃぃ」
SNSの活動名を唐突に出されすぐさま切り上げるこのレスポンス力と、それに反応するさっきのことは別の子に挟まれ、アイドルのライブ会場に紛れ込んだようなそんな気分が体を巡る。私が配信をしている時は冗談とはいえもっと辛辣な発言ばかりが見えるのに、目の前にいるのは、大衆が思い描く偶像化されたアイドルそのものだ。普段から多義的にませた発言しかしない西条さんから想像もできない聖女が憑依していた。
「えぇ〜〜本日歌ってれるのは」
混沌とかした空間に西条さんが何を歌うのかと思えば、今4年前放送された理系ラブコメの主題歌である。SNSでも話題に上がっていたその歌は、そう知らない人は多くない。この歌にはコールがついてるため、サビ終盤で知ってる人は一斉にコールをしていたが、私は胴体をメトロノームのように右へ左へ揺らすのが精一杯だ。黄色い光が、体育館の天井を動き後ろに振り返ると、オタ芸サークルの人達が椅子席の通路を使いオタ芸を披露している。その終盤にかかり後ろから思い盛らぬセリフが飛び交った
「言いたいことがあるんだよ!やっぱり友里恵は可愛いよ!好き好き大好きやっぱ好き!やっとみつけたお姫様!俺が生まれてきた理由!それは友里恵に出逢うため俺と一緒に人生歩もう世界で1番愛してる!!あ!い!し!て!るぅぅぅ!!!!」
「???????」
1人のコールが体育館を包み、それに見事に反応した西条さん。静寂と共に、ひとりの拍手から全体に広がり多方面から投げかけられる歓声に西条さんは手を振った。