百合小説【第70話】生放送のカラオケ大会③
「1番を引き当てた方」
その長い手を天を仰ぐように上に真っ直ぐその腕を伸ばすと、スポットライトが1人の女性に集中する。
「白石杏里だぁああああ!!!!」
歌唱順で最初をひきあて先程の歓声が戻ってくる。マイクの持ち手をもう片方の手で重ね、緊張を誤魔化すように正面を見続けた。いつも隣にいた人が、ここまで認知されている人だと再認識されて、喉に唾が絡まる。その後も続々と発表され、西条さんは数えて4番目になる。
「白石杏里さん、最初ということになりますが今のお気持ちはいかがですか?」
「大勢の前で歌うのは久しぶりのことなので、とっても緊張しています。」
「そうなんですねぇ、芸能界復帰後初めての歌唱ということでカメラの前の視聴者もかなり多くの方が見ておられます。」
そう言われて灯篭祭の生放送を見ると、チャンネルの登録者に見合わない4000人近くの視聴者がおり、更に増えるような形で伸びている。
「会場にお越しの皆さん、そしてモニター前で視聴している皆さん。誠心誠意心を込めて歌わせて頂きます。本日はよろしくお願いします!」
いつもの陽キャラでキャピキャピとした嘉陽田さんではなく、本人の緊張感が伝わるような言葉選びにこちらまで緊張と冷や汗が額から滲み出る。カラオケ大会ということもあり、出場者の後ろにはプロジェクターに投影されたカラオケの採点画面が映される。歌詞は見れるのかと思えばどうやら見えないらしく、その辺は某カラオケ番組を模したようなシステムだ。
「白石杏里さんで『夏空の導き』です」
朝ドラで1度流れたとされる劇中歌。15歳のシンガーソングライターが作詞作曲を手がけたことでも話題になったが、MV公開後にそれが朝ドラで流れることがなかった。聞き心地の良い声と見えない故人を星を辿って見つけ出す少女を書いた歌詞は、悲哀に満ちた私を連れ戻すような感覚に陥る。視界を遮断し、その声に見とれていると、四方から鼻をすするような音が聞こえる。それにつられて心からじわりと温かさが篭り、頬を伝って水滴がしたたる。歌い終わると、クラッピングと歓声が飛び交う。後ろの座れなかった人達は、体育館1杯に敷き詰められ、来場者制限がかかっているはずの学園祭のはずなのに体育館が外まで人が溢れていた。
「白石さん、歌い終えましたがどうでしたか」
「歌っている途中、この歌の歌詞に感情移入して途中泣きそうになりましたが、最後まで歌いきることが出来ました。このような場を提供して頂き、そして、多くの方々に見ていただいてとても嬉しいです。」
キャッチに捕まっただけなのだけれど、過程がどうあれここまで規模を大きくできる嘉陽田さんという存在が眩しく思える。無縁だと思っていた人が気がつけば隣にいて、今壇上に立って多くの人をここまで感動を与えている。生身の人達に囲まれて、こうやって見る側の視点に立つと私を大事に思っている人を大事にしないとと感じさせられた。
「改めまして今回、カラオケの点数と、インターネットによる投票数、その合計の計3部門で表彰がございます。今ご視聴になっている皆さんも最後まで楽しんでくださいね!」
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