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百合小説【第20話】友達以上で恋人未満

「はい!」

嘉陽田さんの家に到着し、玄関を上がろうとすると、通さないと言わんばかりに私の前に立ち塞がる。

「まず座りましょう」

「私を倒さねばここを通さ」

「ヒェッ…」

頬に手を置き今度は私からした。戸惑ったのか嘉陽田さんの腰が抜け、尻もちをついていた。

「そこに座ってください」

「ハヒ」

声が裏返り、情けない声で返事をする。そんな形で机の前に2人対面になり、空気を悪くしてしまったと反省している。嘉陽田さんの部屋は先日片付けたばかりだと言うのに、服や下着更には制服やカップ麺の箱までもが散らかっている。緊張した空気が漂っているこの空間が不思議に感じる。ここからは冷静に、昂らないようにと心がける。

「あ、あのぉー飲み物なにか飲みますか…?お茶とグレープありますけど…」

「グレープで」

「あ、はい」

ここから空気という空気はますます重く、凍りついていく。何か面白い小話のひとつでも出来ればと思ったが、そんな特技はなく、ただ空気には重圧感も混じっていく。嘉陽田さんはコップを注がれた机に置き私をじっと見つめながら、とこか不安げな表情をしていた。

「あの…さっきのは…」

「こっちのが手っ取り早いと思いまして」

「なんて大胆な」


「で、好意があるんですよね、厚かましくてすみません」

彼女なりに、私に気持ちを伝えるのが怖かったのかもしれない。いつも大胆に見える彼女が、今は少しだけ脅えているように見える。

「そそそう…ですね…へへ」

先程の問いを正した。この場を収めるのに何が正解かははっきりしている。ただ私はそれを望んでいないし、いい伝え方はと模索してもどれも結末は悲惨に感じる。伝え方が分からず沈黙を貫いて待った。

(……んんんんんあ゛ぁ゛)

心の声で叫び、頭を掻きむしり始める。自傷では無いが、精神的な疲労は限界に達していた。

「何悩んでるの」

「考えれば分かりますよね、私ちょっと怒ってるんです」

「ごめんて」

嘉陽田さんは、照れくさそうに笑いながらも、その目は少しだけ悲しげだった。反省していないふりをしているけれど、彼女も少しは後悔しているのだろうか。

「反省してないですよね、、そんな素振りして振り回して、友達いなくなりますよ」

「…」

友達がいないのは私の方だった、発言した今気が付き、自分で発した言葉が自分に返ってくる。何が何だか分からなくなり情緒がおかしくなっていく。

「…さっちゃん」

「はい」

「さっちゃんはどう思っているの?」

「恋愛がよく分からなくて、私嘉陽田のこと今まで友達としか見てなくて…」

そんなことを言いながら、内心嘉陽田さんに振り回されることが嫌では無い。

「急だもんねぇそれはそうなるか」

嘉陽田さんがこの退屈な日常にどれほどの色をつけてくれたか。嘉陽田さんの気持ちを、嘉陽田さんのことをもっと知りたいと言う気持ちに戸惑いながらも、その気持ちを認めざるを得なかった。

「もう少し嘉陽田さんのことは…その…理解してみたいと思っていて…」

「え」

「嘉陽田さん一方的で、人の気持ちなんて1ミリも考えてないし、けど」

「それって付きあ」

「違います」

勘違いをする前に早めに正した。これでよかった。

「えぇ」

「こうやって都合よく解釈するし、けど、嘉陽田さんに振り回されてから景色に色がついたんです。」

「その…また…相手して欲しいなと思いまして」

「いいよ、それでもいいの!」

席から立ち上がり、私の胸元に手を置いて体を委ねてくる。少し湿っぽく、濡れているのが服の上から分かる。優しく手を巻いて嘉陽田さんを撫で始める。それに呼応してから、手を巻き付け、服の上から右肩を噛んでくる

「あの!や!やめ!」

抵抗したが辞めることもはなく、しばらく噛んできた。ただゆっくりと眠るように抱きしめて、泣き止むまであやし続けた。

「約束なんですけど」

「ん?」

「前みたいな感じで手は出さないで欲しいです。」

1度交合って、されることにあまり興味のないことに気がつく。発情期の兎のようにすぐ触ってこようとするので、今のうちに釘を打っておく。

「あぁ…あれは本当に申し訳ない。けどイヤだね」

「うぅ…そういうのあんまり興味無いんです」

「とか言いながら?」

「うるさい」

「ね」

こうやって人のペースを乱してくる。

金曜日の夜、私は嘉陽田さんと友達以上で恋人未満の関係になった。

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