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DistancE-KANA  作者: 蒼原悠
終章 bistable――未来――
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episode57 epilogue-2 「私達、一緒だよね」

 打ち上がるたび、地面が揺れる。


 山吹色の浴衣を着たその少女は独り、砂浜の先の桟橋の上に立っていた。

 本当は、独りではない。心の中で、こんな会話をしている。相手はもちろん、あの人物だ。

 ──ねぇ。あなた、ホントは知ってたんじゃない?こんな、悲しい結末……。

 ──『なんでそう思うのさ?』

 ──あなたは何があっても、私がどんなに不安だったり悲しい気持ちになってても、いつも落ち着いてた気がするの。でも予め未来を知ってるなら、気持ちにも余裕が生まれるんじゃないかなって思って。

 「もう一人の自分」の明るい笑い声が、花火の爆音に重なる。

 ──『なかなかいい目の付け所だね。じゃ、あたしの正体もそろそろ分かるんじゃない?』

 あまり自信はなかったが、こくっ、と佳奈は頷いた。


 ──あなたは、亡くなったユースケくんのお母さんなんじゃないかな。


 ──『大当りだよ! あんた今日は(・・・)冴えてるねー!』

 ムッとする佳奈。今日だけじゃないもん。

 ──思い返してみると、あなたって私がユースケくんの事を考えてる時に限って出てきたような気がするの。だから、ユースケくんと近しい人なんじゃないかって思って。ユースケくんが藤沢事件でお母さんを亡くしたって聞いて、ピンときて。

 パチパチ、と手を叩く音。無論、誰も叩いてはいない。

 ──『ホント、よく分かったね。確かに全部あんたのいう通りだ』

 また一頻り笑う声が、花火の連射に重なった。

 ――『あたしの名前は、伊勢原(いせはら)(ふゆ)()。ユースケはあたしの、たった一人の息子だ。今は天界から見下ろす立場だ。過去の全てを見通すことができるし、あんたの見立て通り未来を知る事だって、出来る。

本当は、この結末も知っていたよ』


 頬を、一筋の涙が駆け下りていった。

 ──なら! なんで先に私に教えてくれなかったの!? 私がそうと知っていれば、ユースケくんは、ユースケくんはっ……!

 心の中で泣き叫ぶ佳奈。が、返ってきた答えは冷酷なものだった。

 ──『甘いね。人生ってのは先を知りながら進んでいくものじゃない。自分で1から作り上げていくモノなんだ。ズルをしては、いけないんだよ。あの南足柄とかいう教授は例外だ。あんたも予知(アレ)は使えるだろうけど、出来るなら使わない事だね』

 「でもっ……!」

 つい口に出てしまった。白い視線を避けるように慌てて口を塞ぐ佳奈。その頬を、再び一滴の涙が流れてゆく。


 ──あんな事に、なるなんて……!


◆  ◆   ◆


 ――あの日。気づいた時、私は病院のベッドの上だった。

 時計を最後に見てから、きっかり三時間が経っている。ベッドの傍らには、お父さんとお母さんの姿があった。

 「カナっ……!」

 起き上がる前に、お母さんに抱き付かれた。「生きてて……良かったっ……!」と声を詰まらせるお父さんの顔は、隠れて見えなかった。

 けれど私の目が一番鮮明に捉えたのは、壁のフックにハンガーでかけられた、見覚えのある制服だ。

 赤黒く汚れ、あちこちが裂けている。見るも無残なそのブレザーこそ、三時間前の私の服装だったんだ。

 瞬間、全ての記憶が戻ってきた。看護師さんに私は訊ねた。「もう一人は」って。


 「集中治療室(ICU)」

 そう聞いたときのショックと言ったら。


 次の日。副院長を名乗る人から、私はユースケくんの容体を聞かされた。

 保護された時、私とユースケくんは折り重なるようにしてドアの前に倒れていたのだという。私の周りには一片の瓦礫も見当たらなかった代わりに、ユースケくんは頭部に瓦礫の直撃をいくつも受けていた。損壊したドクターヘリの中では治療もままならず、この病院に担ぎ込んで直ぐ様手術を開始したけれど、もうその時には手遅れに近かったのだそうだ。結局、何とか一命は取り止めたものの、意識は終ぞ戻らないままだ。

 図書館の一階で助けたあの六人は全員復帰できたのに、なぜ。

 涙が止まらなかった。お見舞いに来てくれたユースケくんのお父さんに深々と頭を下げられ、警視総監賞の授賞式でも優しい手で握手され、そのたびに私は耐え切れなくなって号泣してしまった。いろんな人に心配をかけ続けた、一か月だった。

 先に、知っていれば。ユースケくんは植物状態になんかならなかったのかもしれない。何度も何度も自分を責めた。そんな時慰めてくれたのは、お母さんとお父さん。それにユアやアヤちゃんや、友達みんな。そしてたまに来てくれた、磯子さんだった。親身になって、聞いてくれた。このひと月、私が正気を保っていられたのは、みんなのおかげだった。サイキックだって、一人じゃ生きていけないんだ。

 それでも、後悔せずにはいられない。あの時ああしていれば。何をしていても、そう考えてしまう。

 だから────



 ──『なに独り語りしてるのさ』

 その呆れ声で佳奈は我に返った。見る間に顔が火照っていくが、よく考えれば周りの人たちには聞こえてないか。

 ──『あんたが放っとくと自虐に邁進していくのは経験で分かったけどさ、そろそろマイナス思考は止めたらどう? キリがないよ』

 ──でも……。

 唇を噛む佳奈。その耳元で微かな吐息が漂ったかと思うと、


 ──『あたしは寧ろ、感謝してるんだよ。あんた──カナに、ね』

 そんなセリフが、聞こえてきたのだ。


 え?


 ──『……あたしが死ぬまでのユースケは、もっと普通の子だったんだよ。だけど、あたしの死がよっぽどショックだったんだろうねえ。あの日を境に、すっかり人が変わってしまったんだ。その結果が、あの几帳面キャラなんだよ。

でも、あんたのお陰でユースケは少し軟化したと思う。あんたの天然がユースケの角を取ってくれ、恥じらいがためらいを打ち消してくれる。上手くいかないはずがないと思った。あんたとユースケの組み合わせが一番である事を知ったから、あたしはあんたの意識に同居することを決めたんだ。

 あのままあんたたちの関係が続いてくれればって、あんな未来を知っていながら願うのはなかなかに辛いことなんだよ。あんたには、分からないだろうけどねえ……』

 ぐすん、と鼻を啜る音が耳元で響いた。目の奥が少し、温かくなる。

 ――やっぱり全部、決まってた事なんだ。だけど決して動かせない事実と分かっていながら、この人は私の事を見守っていてくれたんだ……。

 泣きたかった。だけどなぜか、泣いたら負けなような気もした。


 畳み掛けるように、声は続く。

 ──『そういう訳で、あたしがあんたの心の中に入ったのは、三年前だった。あんたが好きだった子に振られたのも、ぜんぶゼロ距離で見てた。おかげで今じゃあんたの性格も行動パターンも、完璧に把握したつもりだよ。だからこそ、思う。あんたがその気になりさえすればこの先はどうにでもなる。少なくともあたしはそう思ってるよ。ただ一つ足りないものがあるとするなら、自信じゃない?』

 ──自信……。

 ──『あんたは自分が思ってるよりもずっと、顔も性格も頭もいい子なんだよ。それに、超能力まで持っている。謙虚さはもう充分過ぎるくらいだから、そこにあと自信さえあればあんたは最強なんだ。今は自分に恋なんてできないなんて古い了見は捨てて、新しい一歩を踏み出す時なんだよ』

 ──そっ……そうなのかな……?


 俯く佳奈を優しく包み込むように、声が染み渡ってゆく。

 ──『頑張りな。あたしも、応援してるよ』



 赤色に輝く二つの花火を、佳奈は見上げた。腕でこすると、ぼやけていた視界が少し晴れた。



 私の恋は、一瞬。花火と同じ、煌めいた後は夜の闇に消えていってしまう。


 そんな事ない。


 結局告白する事は出来なかったけど、私の想いはきっと伝わってると思う。ユースケくんの気持ちも、知る事が出来たから。気づかなかった。私達、両想いだったんだね。

 あれから、もう一か月。今も眠りからは覚めていないけれど、記憶の彼方ではきっとまだ憶えていてくれている。そう信じたいし、私は信じてる。忘れてたっていい。その時は私がまた、伝えればいいんだから。


 ──ねぇ、もう一つ聞いていい?

 ──『何?』

 ──未来が見えるんだよね。ユースケくんが昏睡状態なのに、あなたは平然としてる……


 ──『さあ、どうだろうね?』

 「もう一人の」──いや、冬香はただ微かに、笑っただけだった。


 ドーンッ!

 最後の一発が、すっかり草臥れたこの町に力を伝えてゆく。

 目映いその光が散る前に、佳奈は問いかけた。


 「ユースケくん。私達、一緒だよね…………」


 答えのないまま、光は次々と海面に没していった。


 答えなんて、本当は求めてなかったくせに。

 そう言って笑ったのは、正真正銘「別の自分」だ。

 佳奈は黙って、煙の漂う空を見上げ続けた。その顔も、笑っていた。


 もう、距離(ディスタンス)なんてない。


 「カナー、いつまでそこで独りで黄昏れてんのよ!」

 「帰ろうよー」

 振り返ると、八人の友人達の姿がそこにあった。目をちょっと背後に向けると、土手の上で刑事たちが談笑しているのが見えた。


 私はもう、独りじゃない。


 「みんな、」

 佳奈は、笑顔で言った。

 「ありがとね」


 「何、どしたの突然」

 訝しげに訊ねる絢南。ううん、と首を振った佳奈は、前を向いて目尻をちょっと拭った。







 その夜空は、これまで見てきたどんな空よりも、綺麗だった。















fin.






「DistancE」は、これにて完結です。


ここまで二十一万字読んで下さったそこのあなた。すばらしい忍耐力をお持ちですよ。ぶっちゃけ長いと思うんですが……。


主人公、二宮佳奈が超能力事件を起こした犯人──「特殊条件下超能力者」だったこと。

そして、伊勢原雄介とは両想いだったこと。

それが、この作品の二つの柱でした。

超能力世界には、まだまだ深い設定が潜んでいます。目立たないですが、すでにフラグはバラ撒いておきました。佳奈という名前にも、ちょっとした仕掛けを施してあるんです。

続編「COLORs」は、まだ先になる予定です。そして、このシリーズは全部で六作になる予定。遠大な話ですが、実は既に骨子は纏まっています。

全てに共通するのは、

・異常な超能力者が登場

・主人公は恋をする

この二つです。どこかでまた、佳奈や雄介も登場するはず。

シリーズ名は、

「サイキック・カナ」。


最後に、

ここまで読んでくれた全ての方に、最大限の感謝を。


ありがとうございました!!




;;;;;;;;;;;;;


本作「DistancE」は、いずれかの段階で公開を中止し、某ライトノベル賞に応募します。

まだまだ至らぬ作品ですので、ご意見ご感想を募集中です。

どんなに辛口でも構いません。一層の向上のため、宜しくお願いします。

その際、レビューもついでに書いていただけたら泣いて喜びます!!


;;;;;;;;;;;;;


続編「距離と引き換えに、手に入れたもの」公開開始しました。






蒼旗悠

2014.01.03

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