新生ロシア
ロシア連邦臨時大統領のナザイリ・フリンはウクライナ侵攻の終戦2ヶ月後、ウクライナの大統領ウラジミール・ゴチャロフスキーとキーウで会談を行なっていた。今回の会談の目的は、賠償責任を果たすためにロシアが果たすべきことを決めることだった。ウクライナは初め、陸軍の総兵力を20万人まで削減することを求めてきた。しかし国の性質上、防衛拠点が多いため、ロシアとしては認めることができなかった。フリンはできるだけ穏便に事を済ますため、あらかじめ大統領府で側近たちと、第5案までを考えてきていた。その中の1つが海軍の縮小であった。ウクライナ侵攻によってロシア海軍の戦闘艦は少なからず損害を受けていた。黒海艦隊に至っては、旗艦であったミサイル巡洋艦モスクワが沈没している有様であった。現在の国力と造船所の生産力を兼ねて考えると、今後10年間は大型艦の新造は不可能であろう、というのがロシア連邦軍参謀本部の見立だった。それを踏まえてウクライナに対して海軍の縮小を約束したとしても、それは現状とほぼ変わらないため問題はなかった。
「あなた方、新ロシア政府はなぜそれほど思い切った提案をされるのですか?」
フリンの提案を聞いたゴチャロフスキーが尋ねた。
「今、我々の国は国際社会からの制裁により国力を大きく削がれている。独裁者が作り出した地獄で、自らの同志を助けるためには、軍備なんぞは捨てるしかないんですよ。」
それを聞いたゴチャロフスキーは何かを感じ取ったかのようにしばらく黙って空を見つめていた。沈黙を破ったのはゴチャロフスキーだった。
「分かりました。ウクライナ政府からの要求は次のとおりです。まず第一に、ウクライナ国境の警備は最小限にしてください。具体的には国境から後方100キロに展開する陸軍を1個旅団に留めてください。次に海軍の方ですが、大型艦の新造を15年間やめてください。掃海艇やフリゲート艦は認めましょう。そして、最後に。これが1番重要なことですが、ウクライナに対して二度と侵略戦争を起こさないことを約束してください。これらを条約で確認したのちに、あなたと私の連名で、共同記者会見で発表します。」
フリンはその要求を考えるように腕を組み、窓の外を眺めた。外では、ウクライナの復興のための工事車両がひっきりなしに行ったり来たりしていた。幼い子供が母親と手を繋ぎ、道を歩く。その単純な光景でさえ、フリンにしてみれば神聖で侵し難いものだった。意を決して話し始める。
「分かりました。すぐに署名しましょう。お互いが受けた傷をしっかり癒さなければならない。大変なのは我々の方かもしれないがな。」
スーツに身を包んだ白髪の大男は乾いた唇に微笑を浮かべた。
ウクライナでの共同記者会見を終えたフリンはモスクワへの帰路に着いていた。今ではロシア国内は正常化され、モスクワの戒厳令も解除されている。フリンは自らが国内のさまざまな場所を訪れ、祖国の受けた傷を癒す様を見るのが楽しみだった。




