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ウクライナ終戦

 ナザイリ・フリン臨時大統領はロシア連邦政府の代表としてNATOとウクライナ大統領とのビデオ会談に出席していた。ロシア各地の軍管区から反乱に鎮圧しようとする軍人たちが大挙して押し寄せてくる可能性があるため、モスクワにはモスクワ軍管区と南部軍管区の部隊を最大限動員して、非常線が張られていた。厳戒態勢のクレムリンの執務室で、彼は会議に出席している。実際に条約を結ぶこととなる大臣はすでにジュネーブに向けて専用機で出発し、到着していた。フリンがつい1日前までGRU副長官であったことが、どれほど西側諸国に知られているのかは分からなかった。しかし、諜報機関のスパイとして働いてきたことは相手の心情を読む能力を向上させ、それは大統領職に大いに役に立っていた。今、話しているアメリカの大統領は明らかにロシアが生まれ変わったことに対して疑問を抱いているようだったが、それを信じてもらわなければならない。西側諸国にロシアの進化を信じさせることこそフリンの大事な任務だった。アメリカの大統領にフリンが答える番になった。机の上の水の入ったグラスで口を潤すと、はきはきと喋り始めた。フリンはもちろん、英語に堪能だったが会談の程を崩さないためにあえてロシア語で喋り、話を聞く時はイヤホンから聞こえてくる、通訳がロシア語に翻訳した英語やフランス語を聞いていた。

「確かに我々、ロシア連邦やその祖であるソビエト連邦は、世界に対して大きな損害をもたらしてきました。アフガニスタン侵攻や、シリア内戦への介入がその顕著な例でしょう。しかしそれは共産主義者の名を借りた、独裁者が政権を握っていた時のこと。今は真の共産主義者の政権です。今までの独裁者とは違う。」

ここでフリンは次の言葉を印象づけるために一呼吸置いた。

「西側の国でもそういった国がありましたよね?ドイツやイタリア、日本がその例です。彼らは国が変わったから許されて西側にいるはずですね。我々も同じです。国が変わりました。だから我々の言うことを信じず、懲罰を続けるというのは彼らを否定することになります。過去の姿ではなく、現在の姿で裁かれるべきではありませんか?」

これにはEUの面々は同意せざるを得なかった。EUの加盟国にはかつて独裁国家だった国の体制が変化して、加盟が許された国も多くいる。ロシアとの停戦および制裁の解除に同意しなければ、それらの国々を認めないことになってしまう。EUの代表は、発言した。

「1つ確認しなければならないことがあります。本当に政権が変わったのか、我々は独自ルートで確認しなければなりません。国連の監視団が撤退を確認するのを許可しなければ停戦は支持できません。」

アメリカの大統領はしばらくうつむいた後、決心したようにカメラを見つめて口を開いた。

「私はこの停戦を支持する。彼らは生まれ変わったようだし、戦争をやめるのがいいことであるのは明白なことだ。」

ウクライナの代表は、それを見計らって発言した。

「我が国も停戦および和平は喜んで受け入れる。ロシア連邦が望むならば、今日この場で締結し全世界に連名でそれを公表したいのです。」

フリンは満面の笑みを浮かべたくなるのを我慢して、落ち着いた声で答えた。

「そちらにいる全権大使が署名いたします。署名ができ次第、終戦を発表しましょう。これができて本当に光栄です。ではまた後ほど。」


 この会談から3時間後、世界は衝撃的なニュースを受け取った。あのロシア連邦の独裁政権がクーデターによって打倒されたことは全世界に衝撃を与えた。しかし、それ以上に衝撃的だったのはウクライナ侵攻の終戦だった。新政府は戦争を放棄し、すでにロシア軍は戦場から撤退しているとのことだった。大祖国戦争よりも長く続いた戦争の終結に全世界は安堵に包まれた。

 しかし、フリンにしてみれば終戦の成功は単なる通過点にすぎなかった。彼らの究極の目標は偉大なる祖国を取り戻すことであるのに変わりはなかった。フリンやシュレンコフは計画を次の段階へと進める準備をするため、クレムリンの地下にある危機管理センターで会議を始めた。

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