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男の話を全て信じるならば待ち望んでいた協力者そのものということになる。ただし全ては言葉だけであり、それを信じてよいのだろうか。例えば怪物が人語を使って騙っている可能性があるのではなかろうか。
ここは俺にとって異世界。知っているルールは通用しない。
早く楽になりたい気持ちと疑心で揺れる。
「あ、あのボク達を保護してくれるとのことですが貴方はこの扉を開けられるんですか。その⋯⋯」
「御札のことを懸念されているのでしょうか」
怪物は扉に貼られた御札の効力により体育館に入れなかったに違いない。もし声の主が同じ怪物ならば同じような目に遭うだろう。
そして御札の存在をなぜ彼は知っているのだろう。反対側にもあるのだろうか。
「知っていたんですね。それで貴方はこの御札をどうにかできるのかなーって。保護してもらうにも怖くて触れられなくて」
まひるはできるだけ自然に御札に触らせようとする。
「ご安心ください。そちらの御札は一定以上の霊気に反応し、光と煙に変換するものです。火の概念を経由することにより霊気の消費を早めております。そのため危害を加えることはありません。そして質問への回答ですが私は扉の開放を行えます。お二方が御札に対しまだ不信感を抱いているのでしたら私にお任せください」
こちらの警戒に気がついている上で無視しているのか、そう答えた。
保護しに来た、と男は言ったが最終的な決断はこちらに委ねてくれているらしい。
「効果もそうだが貼られている場所にも詳しいんだな」
「御札は保護活動の過程で漏れが生じた際への備えでございます。所有者、天門志乃の命により私が配して回りました。それらがお二方の助けとなったのでしたら幸いです」
仮定はいらず、幸いだった。御札がなかったらどんな目にあっていたのか分からない。持ち主には感謝していた。言っていることが正しいならばすぐに扉を開け、土下座でもして助けを求めるところだ。
ただ、信じることは重い。決断する側も受け取る側もできれば勘弁したい。
それなのに肩を叩かれ見せられたスマホの画面には一言
「ボクは信じる」
と書かれていた。
何を、誰を。
端的過ぎていて分かるけど、分からない文章。
まひるは初めて会った時から重かった。物理的にも心情的にも。
生まれたてのヒヨコのように初めて見たものを信じてついて回っているだけであることは重々承知している。不完全な信頼であってもそれに答えなくては。その方が格好良い、と俺は判断する。
信じる決断をしてくれたのだ。今度は俺が信じるを押し付ける番だ。
「アンタを信じることに決めた。ここの扉を開けてくれないか」
「かしこまりました」
フワリ御札が扉から離れ、宙を浮かぶ。そして重たい金属の扉が鈍い音を響かせながら動いた。言葉に偽りはなかったようだ。
分厚い雲越しの弱々しい、けれど確かな光が差し込む。
「改めまして自己紹介を。霊術師、天門志乃により所有されております式神、名称を幽和と申します。安全な場所まで護衛させていただきます。どうかご安心を」
光とともに姿を現したのは懸念していた怪物ではなく、また声から想像した老紳士でもなかった。
俺が謎の存在xと呼んでいた人形。それも全く同じものではない。記憶のものよりやや大きい。そして何より槍のような物で武装している。それが恭しくお辞儀をしているのだ。
「あ、ああ。よろしくお願いします」
「⋯⋯はっ。お、お願いします」
想定しきれなかった事態に動揺しながら、協力者(予定)との初対面を果たした。




