暗殺者、達人と殺し合いをする②
ギフト、『流れるもの』。
川を流れる葉のごとく、淡々と生きることができる力。
だが、この力はレイと出会って弱まってしまったようだ。認識される機会も増えたし、意識しないと効果も及ばない。明らかに、俺は俺として認識されてしまう。
だからといって能動的に使うと解決するかというとそうでもない。
以前、クロイツと模擬戦をしたときはなぜだか殺される寸前まで追い込まれた。
つまり、このギフトも完全ではない。
――ならどう戦うか。
今、俺は特にギフトを意識して使っていない。
だからだろう。案の定、エリセオの唸る槍が、俺の喉元をめがけて突いてきた。
俺は、それをぎりぎりのところで躱すと、お返しにとばかりに短剣を前に突き出した。
が、咄嗟に槍を離して地面へと体を伏せたエリセオ。俺の短剣は空を切る。
体制を崩したエリセオに追撃を、と思った瞬間、真上から、クロイツが一撃必殺の斬撃を繰り出した。
「てええぇぇぇい!」
俺は、そのまま前に飛び込んで転がると、すぐさま姿勢を整える。すると、すでに距離を詰めていたクロイツの剣と刃を交わした。
一閃、二閃と繰り出される攻撃を、いなす形で処理していく。
クロイツの攻撃は重く、速い。
一歩間違えば、短剣ごと吹き飛ばされるか、はたまた剣に押し込まれて切られてしまう瀬戸際。俺は、その一つ一つをなんとか潜り抜けていく。
「いい腕だ! やっぱり騎士団に入らないのか!?」
「殺し合いが趣味の人間と一緒に働けるか!」
「ははっ! 趣味ではない! 生きざまだ!」
「余計に――悪い!」
タイミングをみて、俺はクロイツの後ろに流れすり抜ける。
そしてそのまま背後から切りつける。そと思ったら、後ろに控えていたエリセオが槍で俺を切りつけた。
咄嗟に身をよじるが躱しきれない。
薄皮一枚。そう表現するにふさわしい程度の皮を切り裂いていった。
首元から血が滴る。
だが、そんなものに気を取られないように後ろに飛ぶと、ようやく振り返ったクロイツが重い一撃を繰り出した直後だった。
俺が立っていたところに、小さなクレーターができたと思うと、衝撃波が襲ってきて予想よりも大きく距離をとることになった。
地面に降り立った俺に視線を向けると、クロイツは笑い、エリセオは顔をしかめた。
「ははっ! 楽しいな、シン!」
「やはり、ドラゴンキラーは伊達じゃない、と」
俺としてはギリギリの戦い。だが、百戦錬磨の二人にとっては余裕みたいだ。
息切れもせずにたたずんでいる。
だが、それは俺も納得のいくところだ。なぜなら、二人がギフトを使っているところを見ていないのだから。
「それなら、そろそろ本気で行くとしようか。なぁ、クロイツよ」
「あ? 俺ははなから本気だぜ? まあ、どんどんこれから上がっていくがな」
俺は二人の様子を窺いながら、少しずつ移動する。
隙あらば、二人の意識から逃れたい。しかし、それを簡単には許してくれない。――化け物め。
俺が地面を蹴ると、二人もそこから迫ってきた。
一撃一撃が重く速いクロイツの攻撃はすさまじい。だが、やや単調なそれをいなすことはできなくもない。
エリセオの攻撃は、クロイツの隙間をついてくる。サポート役に徹しているようだが、そのタイミングはえげつない。
俺は二人の猛攻撃を交わしつつ考えた。
どうすればいいか、を。
このまま二人を行動不能にするのはなかなか難しい。
だが、俺がこのまま二人をすり抜けレイに会ったところで二人はすぐに俺を追ってくるだろう。
ならばこのまま一人で街をでる?
否。
レイから離れるなんてこと、絶対にしたくはない。じゃあどうすればいいか。
順当に考えると、現在の状況を変えること。追われる原因になった出来事をどうにかすること。それに尽きる。
しかし、元々のきっかけが俺の過去の暗殺者業だったとしたらそれは難しい。
では、一体、どうすれば――。
考え事をしながらエリセオの槍を躱す。
何度も見ていると、エリセオの槍も見慣れてはきた。鋭いがそれだけだ。
横目で槍先を見ながら踏み込む。そしてそのまあエリセオへ切りかかろうとしたその時、躱したはずの槍が目の前に迫っていた。
「なっ――!?」
不意打ちにも近いそれを、無理やり体をよじって躱した。
槍は俺の頬を裂いた。
血が、頬から後ろに飛びちった。
何事かと思っていると、再びエリセオが俺に槍を繰り出した。
同じように躱すも、やはり同じように槍が襲ってくる。一撃が二撃に。重なるようなその攻撃に、思わず俺は距離をとった。
「……ギフトか」
「消耗が激しいからあんまり使いたくなかったんだがな。『重なるもの』。それが俺のギフトだ」
「厄介なギフトだな」
「違いない」
エリセオはそう言いながら、再び俺に攻撃を始める。
毎回ではない。
タイミングを見て繰り出されるギフトは、俺の体力を必要以上に削っていく。
来るかと思ったらこない。気を抜いたところにまた槍がやってくる。
必要以上の安全策をとらないといけないこの状況に、途端に俺は追いつめられる。
「やっぱりエリセオのギフトはえげつねぇな!」
「何を言う。お前のほうが厄介だ。少なくとも、俺ならお前と戦いたくはない」
味方同士で軽口を言い合ってる姿には余裕が見える。
くそ! こっちは、せっぱつまってるっていうのによ!
なんとかエリセオの槍から避けていると、だんだんとクロイツの攻撃も鋭くなってきた。
いや、鋭いという表現では生ぬるい。
明らかに、戦いはじめよりも動きがよくなっていた。攻撃をなんとかいなしていたが、それも難しくなってくる。
「な、んで! 急に!」
「シン。こいつのギフトは長期戦向きでな。戦えば戦うほど強くなっていくんだ。それこそ、無尽蔵に」
「何俺のギフトをばらしんてんだよ! まあ、ばらされても、まったく支障はないがな。だからこんなになっちまったんだ。孤独はつれぇよな」
思わず、俺は顔をしかめた。
なんだそれ。戦うほど強くなる? そんなの、反則だ。おかしい。
俺がそんなことを思っていると、目の前のおっさんは獰猛な笑みをさらに深めていった。
「ギフト、『強くなるもの』。俺はこの力でどんな敵も葬ってきた。さぁ、シン。お前はいつまで耐えられるかな?」
この戦闘狂が!
二人の達人がギフトを使いはじめたせいで、戦いはどんどん苛烈になっていく。
一歩間違えば死。
そんな状況がすでに数分は続いている。
既に俺は防戦一方だ。重なる槍を交わし、人間離れした動きの剣をいなしていく。
どんどんを削られていく体力を意識しながら、俺はすぐそばにある屋敷の中へ思いをはせた。
レイに会いたい。
その想いが通じたのだろうか。
屋敷の中からレイの声が聞こえた。だが、その声は心を綻ばせるいつもの声ではない。
引き絞られて、張り詰めて、そんな悲痛な声が屋敷の外に響きわたった。
「お父さん! 助けて! お父さん!」
「レイっ!?」
俺は叫ぶ。
だが、目の前のおっさん二人に阻まれて屋敷の中に入ることはできない。
「くそっ!!」
強引にクロイツとエリセオから距離をとると、俺はそのまま屋敷の中へと入っていく。
屋敷から入った広間。
そこにはアンドレイとヤーナが立っていた。相対するのは知らない男。その男がレイを小脇に抱えている。
「レイ!」
「お父さん!」
真っ青になった顔と目が合った。
その助けを求める視線に、俺の中の血液が沸騰した。




