暗殺者、達人と殺し合いをする
「やったか!?」
そこは冒険者ギルドの中。大勢の人がひしめく中、そこにいる全員が一斉に刃物を一か所に投げつけた。
刃物といっても、投げナイフだったり、槍だったり、短剣だったりと様々だが、投げつけられたほうはたまったものではない。間違いなく、全身穴だらけだ。
当然、投げた当人達もそれを見越して様子をうかがったが……。
「い、いないだと?」
刃物を投げた冒険者が見つめる先。
そこには、床や壁に突き刺さった刃物が鎮座しており、そこにいたはずの人間はいない。
あたりを見回しても、見慣れた顔が困惑した顔で首をかしげているところしか目に入らない。
「どこだ!? どこいった!」
「あの刃の攻撃をどうやって躱したんだ!」
「やっぱりドラゴン討伐は伊達じゃねぇよ! 無理だったんだ、この話は!」
そんなやり取りをしている冒険者を俺は見下ろしながら、気づかれないように息を殺す。
そう――。
三百六十度から放たれた刃物。逃げ場はなかった。しかし、唯一抜け道が存在した。それは頭上。天井から何かを投げてくるものはいなかったから、そこだけは抜け道になる。
俺は、咄嗟に天井に飛び上がると、そのまま軒に張り付いた。
まあ不意打ちだったから、何本かは体を掠めて傷もついたが、動くのに支障はない。
話を聞いていると、何か依頼を受けてのことなのだろうか。
だが、それを冒険者ギルドでやるとは……。どういうことだ?
俺は、『流れるもの』にて存在感を消し、そのまま外へと出て行った。
突然命を狙われる。
その理由を考えながら。
俺はギルドの外に出て、そのまま屋敷へと向かった。
頭の中はぐるぐると混乱している。
突然命を狙われる心当たりはありすぎる。
それこそ、前の仕事で殺した相手の身内からは恨まれているだろう。だが、現実的にありえない。
俺は、たくさんの殺しをしてきたが、俺が誰か、知っている人など今までいなかったのだから。
だが、俺がレイと出会ってから。
どういうわけか周囲から認識される事態となった。それが関係して、過去の関係者に俺という存在がばれた?
ない話ではない。
だが、だとしたら冒険者ギルドで一斉に襲われるという事態はどう考えてもおかしい。
あの場で罠をかけられていたということは、冒険者ギルドもグルといことになるだろう。そんな影響力を持つ人間など……一体だれが――。
「いたぞ! こっちだ!」
「やっぱり逃げていやがったか! おおい! 伝令を出せ! こっちだぞ! こっちだ!」
その声とともにならされる鐘の音。
それは、街の中で危険なことが起こったときにのみ鳴らされるもの。
その音は一般人をも巻き込んで、街の中に喧噪を生んだ。
「やばいぞ! 早く逃げるんだ! 家にいるやつは部屋から一歩も出るんじゃない!」
「回り込め! いくらドランゴンキラーっていったって、数であたりゃあやれるはずだ!」
「おい! お前はさっさとギルド長を呼んでくるんだ! 騎士団も! 早く!」
まさか、あのギルド長や騎士団までもがグルだと?
そう思うと、怒りより先に胸の痛みが俺を襲った。
ぐらりとめまいがして、周囲への警戒が薄れてしまう。
今思うと、門兵の様子も変だった。あいつも何か知ってたんだ。
早く街のなかに入れて閉じ込めたかった? そうまでして俺を殺したい理由はなんだ。
そんなことを考えていると、無防備になっていたのだろう。真後ろから突然斬撃が襲う。
「ぐぅ――」
「やった!」
背中に一閃。
傷は浅いが、痛みは走る。
俺は、その痛みを受け入れられないまま、衝動にかられて走った。
ギフトなんて使う余裕はない。
ただ、高いらしい位階の力に身を任せて、ただ走った。とにかく早くレイの顔を見たかった。
こんなにも人から悪意を浴びるのがつらいなんて思わなかった。
孤独だったときよりも孤独だ。
「くそっ! なんなんだ、いったい!」
悪態をつきながら、俺はようやく追っ手をまいて屋敷へとたどり着く。
すると、そこには見知った顔が二人。
ギルド長のエリセオと、騎士団長のクロイツ。二人が肩を並べて立っていた。
「ようやく来たか……」
「待ちくたびれちまったぜ。さぁ、観念するんだな」
エリセオは長い槍を、クロイツは腰にかけた剣を。それぞれがおもむろに手に持った。
殺気だったその様子に、俺はため息をつきながら問いかける。
「二人がそろってどういうつもりだ? エリセオもクロイツも、なぜ俺を狙う」
俺が問いかけると、まずはエリセオが口をひらいた。
「大口からの依頼なんだ。お前に恨みはないが、ギルドとして看過できない情報だったんでな。確認したいことがあるんだが、答えてくれるか?」
「内容によっては」
正直、クロイツはかなり強かった。それこそ、五十代という高い位階にふさわしい力を持っていた。そして、エリセオも強面の風貌にふさわしい風格があり、おそらくは腕利きの冒険者であったことが窺える。
俺は、いつでも動けるように気を引き締めつつ二人を見据えた。
「まだ態度を変えんか。いいだろう。大口からの依頼はお前の殺害。理由としては、お前が暗殺者であり多くのものを殺している危険人物だから、というものだ。これに対して申し開きはあるか?」
「……証拠はあるのか?」
「いや、ない。だからこそ、俺とクロイツと一部の人間にしか、この情報は知らせていない。で、どうなんだ? 本当か? 本当じゃないのか?」
俺はその問いかけに一瞬躊躇したが、すぐに決意を固め言葉を吐き出した。
「本当だ。それがなんだ?」
「そうか……残念だ。殺しは罪。そして、罪人を野放しにするほど俺もぼけちゃいない。お前のことは嫌いじゃないが、覚悟をしてもらおうか」
「そっか。じゃあ、クロイツ。お前も同じ理由で俺を狙うのか?」
「あ? そうじゃねぇ。別に、手配されてもいないんだから俺がお前を付け狙う理由はない。ただな……」
クロイツはそこで言葉を区切ると、にやりと楽しそうに口角をあげた。
「これに便乗したほうが、楽しい戦いができそうじゃねぇか? なあ、シン」
ダメだ。こいつは。
ただの娯楽で来てやがる。
まあ、理由はどうあれ凄腕二人を相手にするには分が悪い。
しかし、こいつらを倒さないことには俺はレイに会えない。
なら、いくら分が悪くとも、勝ち目が薄くとも、俺は立ち向かうだろう。
この街の最強達に勝たなければならない。
娘に会うためには。
俺は決意を固め、短剣を腰から引き抜いた。
そして、大きく一呼吸すると、音を立てずに地面を蹴る。
景色が、横へと流れていった。




