32話 突風のような二人
「この部屋だよ」
レイターに連れられ三階の音楽室の前に到着したグレンデル。
昨日来たことのある部屋だったが、レイターには言わないでおいた。
「失礼します」
「……失礼します」
レイターの入室に倣って音楽室に入る。
どうやら上級の生徒たちはまだ来ておらず、レイモンド一人のようだ。
部屋の中は昨日と同じで楽器だらけ。やっぱりホコリひとつないところを見るに丁寧に手入れをしてるのを感じる。
「あら、レイターさん。今日は早いですね」
「はい。新入生の案内もあったので」
「なるほど。あなたですね。お名前は?」
まるで初めて会ったかのように挨拶をするレイモンド。
レイターが隣にいる為の判断だろう。それをすぐに察知したグレンデルも初対面のように応じる。
「グレンデルです。えっと、よろしくお願いします」
軽く頭を下げて挨拶をする。
「ええ。よろしくお願いいたします。レイターさん、あなたは朝練の準備を」
レイモンドも軽く頭を下げ、レイターに声をかける。
「わかりました!」
元気に返事をしたレイターは隣の部屋へと消えていく。
「さて、グレンデルさん。まずはありがとうございます」
手で案内されたテーブルに進みながら話す二人。
昨日も座った椅子が置いてある。
「えっと、どういたしまして?」
椅子に座りながらグレンデルは首をかしげる。
「ふふっ。なんでお礼を言われているか分かっていない様子ですね」
「うん。分かってない、です」
首を傾げっぱなしのグレンデルは素直に頷く。
「グレンデルさんが本当に私の教室に入ってくれたからですよ」
「え?」
「すぐわかります。ひとまずここで座って紅茶でも飲んでてください。皆さんが集まるまで待ちましょう」
「え? は、はい」
グレンデルの返事を聞いて満足そうに頷いたレイモンドは立ち上がってレイターが行った隣の部屋へと向かう。
「失礼します」
「しつれーしまーす!」
一人取り残され、やることがないグレンデルが紅茶を一口飲んだ頃、二人の生徒が教室に入ってきた。
丁寧なあいさつをした男子生徒は黒髪をきっちり七三分けにして、服も皺一つない新品のような襟付きのものを着ている。
なんだか仲良く出来なさそうな印象を受けた。
もう一人間延びのした挨拶をしたのは茶髪の毛をお団子にまとめた女の子。
とにかく元気そうな印象。ダボダボのパーカーにタイトなズボンを履いている。元気そうと言ってもリューシュの様に暴れまわるような感じではなく活発な女の子といったところ。こっちは仲良くなれそうかも。とグレンデルは思った。
「あれ? 君見ない子だね? 新入生?」
「こら、教室で走るなって」
すぐにグレンデルを見つけた女の子は男の子の注意を無視してグレンデルに駆け寄る。
「すっごく綺麗な髪ね! それに綺麗な瞳!」
「うわ……。えっと、その……髪は……」
「ちょっと、急に話しかけたら困るでしょ。名前すら知らないんだから」
男の子は片手でグイっと女の子をグレンデルから引きはがした。
「もう離してよヨハン。こんな可愛い子がいたら飛びつくのが当然でしょ?」
「そんな常識のないこと大声で言わないの。ごめんなさいウチのベリーニがうるさくて」
ヨハンと言われた男の子は軽く頭を下げながらベリー二と呼ばれた女の子の頭を無理やり下げさせる。
そんな手を跳ね除けベリーニはグレンデルをまっすぐ見る。
「私ベリーニ! よろしくね!」
「んんっ、僕はヨハンです」
「「君の名前は?」」
見事にシンクロした二人。仲がいいんだなぁとぼんやり思うグレンデルは
「グレンデルです。よろしくおねがいします」
とだけ答えた。
「良い名前ね!」
「今後ともよろしくお願いします。では僕たちは準備をするので」
と、まるで突風の様に二人は隣の部屋へと去っていった。
またおいて行かれたグレンデルは紅茶を一口。
「なんだか、すごい人だったな……」
とぼんやり独り言。
「みんなに名前言うの面倒だから名札作ってもらおうかな……」
と続けるのであった。
最近筆が乗るので今日も更新です。
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