16話 悪辣な餌
幾つもの無惨な死体が転がる教会で先程まで化物に姿を変えていた中年の男を調べていたサリスとリューシュ。明らかに異常な現象を目の当たりにした二人だが冷静に分析を始めていた。
「ん〜、そもそも、どうして人間が化物に変わったんだろうね〜??」
糸目を寄せ考え込むリューシュ。
「こういうカラクリは敵を調べりゃ出てくるもんさ。おっさん少し漁るが仇は討つ。許してくれ。」
そう言うとサリスはブードゥー教徒の亡骸をガサガサと漁る。
「持ち物は首飾りと・・・これは教典か?あとは、」
サリスは首に掛かった妖精を象った飾りを一瞥し、懐から分厚い本を取り出した。
「ん?これは何だ。頭髪がおかしい?」
再度亡骸を調べたサリスは男の頭髪の一部が明らかに人の髪ではないことに気づく。毛先の部分がまるで獣の体毛の様になってる。触るとそれは針金の様に硬く、ネットリと脂がかっていた。
「サリス君、独り言が多いねぇ。さすがの私も気になっちゃうよ〜??」
しゃがんだ体勢のサリスの横までズイっとやってきたリューシュはため息混じりにサリスが触っている頭髪の方を見る。
「わぁ!これは凄いね〜。人間の髪の毛の先っぽが何故か獣の毛みたいになってる。」
「アベンチュリンの見解も聞きたい。少し髪を切って見てもらおう。」
と言いサリスは片手剣で毛先の部分を切り取る。
すると、切り取った硬く脂で纏まった毛はすぐに黒の煙に包まれ人間の髪の毛に変化してしまった。
「ん?人の毛に戻った。それにあの煙は化物を倒した時と同じだ。」
「不思議なこともあるもんだね〜。元の人の毛に戻っちゃったよ?せっかくの手掛かりなのに・・・」
あぁ、と嘆くリューシュをよそにサリスは
「見つけたぞ。手掛かり。」
ニヤリと微笑んだ。
◇
「・・・ってなわけで種も仕掛けも全部分かった。あとは敵と決戦をするだけ。倒したらフナブに借りもできるし良いことずくめってことだ。」
「ふぁ・・・」
西の教会から出たグレンデル、サリス、リューシュ、アベンチュリンの四人は一旦宿へと戻ることにした。道すがらサリスは決戦に備える為先程の調査について語った。
グレンデルは左目を擦り欠伸をしている。眠気との戦いが最優先だ。
「なるほど、それがサリスが見つけたこの街を襲う連中についてか。しかし話を聞く限りだと相手は相当用心深いと見える。決戦にまで持ち込む事は出来るのか?」
アベンチュリンはグレンデルと見張りをしていて化物の亡骸を直接調べていないので少し考え込んでいる様子。
「それは大丈夫〜!サリス君がおびき寄せる為のエサを用意するみたいだよ!!」
いつの間にグレンデルをおんぶしているリューシュはサリスとアベンチュリンの間に割り込みサリスに「ね〜?」と問う。
「あぁ、用意している。このエサは使ってみてのお楽しみってやつだな。」
四人が宿についたのは夕方の頃。部屋から見下ろす街はだんだんと賑わい始めている。今夜もあちこちで国民たちが喧騒の中で一日の疲れを癒そうと街に集まっているところだ。
「やっぱりベッドもふもふ、寝心地いい。」
「グレンデルちゃんはここのベッドが好きなんだね〜!」
部屋につくやいなやグレンデルはリューシュの背中から降りベッドに寝転がる。
「グレンデル様。僕の宿のベッドがお気に入りなようで、なんだか嬉しいね。」
「グレンデル。寝るのも良いが作戦会議だ。アベンチュリンも聞いてもらえるか。」
ため息を吐きつつリューシュ達を集めたサリスは三人の前にあるものを取り出した。グレンデルはベッドの上にうつ伏せになったままサリスの手を眺める。そこには人のものと思われる髪の毛が人束握られていた。
「これが先程言っていたエサ、化物の髪の毛か。しかし、見た目は説明通り人間の髪の毛だな。」
アベンチュリンは腕を組んだままそれを見つめている。
「普通の髪の毛に見えるが、コイツには髪の毛を構成する以外の魔素が含まれている。」
「ふむ。」
「なるほどねぇ!だからエサになるとか言ってるのか〜」
リューシュとアベンチュリンは大きく頷き納得がいったようだ。
しかしグレンデルは疑問が残ったままといった様子。
「ドクター。詳しく言ってくれないと私よく分かんない。」
「あぁ、悪い。少し説明が必要だったな。少し魔法の勉強だ。」
サリスは頭を掻きながらグレンデルの前に歩み寄る。
「邪神の恩恵と魔法の特徴は覚えているか?」
「うん。覚えてる。直接魔素に干渉するから呪文が必要ないんだよね?」
グレンデルはサリスの顔を見て答える。
「あぁ、そうだ。よく覚えていたな。でも、もう一つ大きな特徴として自分が干渉した魔素の有無が感知出来るという特徴もあるんだ。」
「うん。」
グレンデルはそのまま頷く。
「俺の推測だが、この街を襲う敵は魔素を強制的に変換出来る邪神の魔法を使う奴だと思う。だから人間があんな化物になった。そして、その化物を倒し魔法を詠唱した時の魔素が含まれた髪の毛を俺達が持っていると分かっているとしたら。」
「魔法を詠唱した人が勝手にやってくる?」
首を傾げるグレンデル
「そういう事だ。こっちが誘き出したいタイミングでこの毛を燃やす。すると異変を感じ取った敵は自ずとやって来る。だからコイツはエサになるんだ。」
「おぉ。そこまで考えつくドクターってやっぱり凄いね。」
パチパチと手を叩くグレンデル。
「昔よくやったやり方だよ。覚えておくと便利だ。」
「問題はいつおびき寄せるかだね。僕はなるべくフナリスの人間には被害がない方が良いと思う。」
この街に住むアベンチュリンにとっては国民への被害を懸念しているようだ。
「確かに怪我人とかは出したくないよね〜!それには私も賛成だよ〜!!皆寝た後の夜とかどうかな〜??夜が良くない?」
リューシュは大きく手を挙げて提案する。これからの戦いに興奮気味なようだ。
「夜の決戦は俺も賛成だ。少々視界が悪いが人が多い中で戦うよりは良いだろう。各自夜まで自由時間だな。戦いに備えてくれ。」
こうして一旦四人は夜まで過ごすこととなった。
サリスはそのまま部屋で時間を潰し、グレンデルとリューシュは部屋へ、アベンチュリンは宿の仕事へと戻る。
「グレンデルちゃん!今日は夜に戦うみたいだけど大丈夫??」
部屋に戻る途中、リューシュは隣で歩くグレンデルをのぞき込むように尋ねる。
「リューシュの背中で寝たから大丈夫。それよりお願いがあるの。」
「ん〜?何かな?私に出来ることなら何でも言ってね!」
と会話をしつつ部屋へと入っていった。
◇
「さて、夜だ。どんな奴がエサに釣られるかねぇ。」
フナリスの街の隅、少し開けた広場に来た四人は各々獲物を手に炎に包まれる髪の毛を見つめる。
「リューシュ、何か聞こえるか?」
「ううん、何も聞こえないね〜もう少し待ったら来るかもね〜?」
『ウイン・ソール』を詠唱し聴覚と移動速度が一時的に上昇しているリューシュはあたりの索敵をするが辺りには何も変化はない。
「ねぇドクター、来ないのかな?」
「いや、来る。必ず魔素が消えて無くなった異変に気付いているはずだ。」
片手剣を弄び『フレイ・ランタ』であたりを照らすサリス。
そこにリューシュの声が響く。
「サリス君、あそこから複数足音がする。なかなか大きいやつみたいだ。」
リューシュが指をさす左前方から人間より二回り程大きい影が歩み寄るのが見える。
炎の光に照らされ見えてきたのは全身を黒のドレスで飾った女。それを囲う様に西の教会でみた化物に姿が似た生物が六体ほど歩いている。
「あらあら、坊や達が私の可愛い犬を殺した犯人かい?」
お互いの顔が確認出来るまで女が近寄るとサリスの方を向き声をかける。
「あんな化物が犬なんてあんた医者に診てもらった方がいいぜ?俺はヤブ医者だからお前は診ねぇぞ。」
サリスはヘラヘラと片手剣を右手で持ち女に切っ先を向け構える。
「あら、レディーに対する言葉遣いがなってないのね。少しお仕置きが必要かしら?」
ニコニコと笑ったままの女は手に持った身の丈程の杖をサリスに向けると後ろで構えた化物が一斉にサリスに向かって突進する。
化物は凄まじい足音を立てある者は頭に生えた角を向け、ある者は口からはみ出た牙を剥き出しサリスを殺すための軍勢と化す。
そんな光景をまえにサリスは何一つ身動きをせず化物を見たままヘラヘラと笑ったままだった。
「おい女。そんなに物事が上手く行くと思うなよ?」
と一言。化物を睨み片手剣を振る。
すると化物の群れは一体もサリスにたどり着く事なく、切り刻まれ肉片を散らし、岩で出来た棘で貫かれ、燃やし尽くされ炭となった。
「俺は相手が悪なら男だろうが女だろうが関係なく殴れる。お前はこの街の人間を化物に変え、願ってもいない仲間割れを引き起こし命を奪った。それは命を侮辱することだ。俺は命を侮辱する奴を悪だと断定する。生きて帰れると思うな。」
フナリスの片隅でこの国を守る為の戦いが始まろうとしていた。




