13話 屈辱の青年の想い
『妖精の泊まり木』の一室。グレンデルは大きなベットの上で寝転がることなく座っている。
大きな窓から見えるフナリスの景色。朝日が登ってからそれ程時間も経っていないが、既に街の人々が忙しそうに働いている。
魔法を駆使して新たな建物を建てる人。
魔法車に荷物を乗せて運搬する人。
あれは確か・・・昨日の夜街灯を付けて回っていた警護団の人達、だっけ。
「みんな街のために頑張ってる。でもやっぱりこの街はおかしい。」
グレンデルの脳裏に昨夜のサリスの言葉が響く。
「ドクターの言う通りこの街には・・・」
◇
サリスの言葉でその場の空気が凍りつく。
「サリス君、冗談だよね・・・?この街が、滅びる??」
リューシュはなんとか声を出すがグレンデルはサリスの言っている事が正直分からなかった。
今日歩いて、買い物をして、ご飯を食べた街。それが突然に滅びると言われても、分からない。
分からないからグレンデルは聞く。
「ドクター、どうして?私が今日過ごしたこの街はどうして滅びるの?」
とても不安そうな声色にサリスはやってしまったと少し頭を抱える。
「あ〜、まずこの国の異常についてなんだが、この国に入ってから俺達はあるものを目にしていないの分かるか??
この街には子供が居ないんだ。これがまず一つ。次に二つ目。これが一番おかしな事なんだが、ブードゥー教徒の様子がおかしい。結束力が売りの宗教では考えれない事だ。これを踏まえると間違いなく第三者の介入が考えられる。だが、ごめんなグレンデル。滅びるのはこのまま何もしなかったらってだけだ。それを食い止めるために俺が居る。」
自室に篭っていただけでかなりの情報を手に入れ大胆な推測を立てるサリス。しかしリューシュとグレンデルも異変、特に二つ目は目撃している。2人は納得した様子だ。
「も〜!!ビックリしたじゃん!相変わらず最悪の結果を言っちゃうんだからサリス君は友達出来ないんだよ〜!!」
「おい、友達出来ないのは関係無いだろ・・・」
グレンデルそっちのけで口喧嘩を始めてしまう二人。
「ドクター、リューシュ、滅びるんじゃないの?大丈夫なの??」
グレンデルの一言に口喧嘩をやめ、二人は同時にグレンデルの方を向く。
「あの魔術師!サリス君が『俺が居れば大丈夫』って言ったって事は〜!誰かを斬っちゃえば解決するって事だからね〜!!サリス君って喧嘩っ早いから、敵を倒せば何とかなる主義なんだよね〜??」
「だいたい合ってるがそこまで暴力に身を任せた覚えはねぇよ・・・あとその呼び方やめろっての。」
サリスは大きいため息をつく。
「ねぇ、ドクターってなんで時々魔術師って呼ばれてるの?リューシュも言ったし、この前の終焉徒?だっけあの人もそう呼んでた。」
疑問ついでにグレンデルはサリスにずっと気になっていたことを聞いてみた。
この疑問でもう一度部屋の空気が凍りつく。しかし凍った雰囲気はすぐに壊される。
「えぇ!?サリス君って討伐隊の事も話してないの!?って言うか、グレンデルちゃんよく今までその疑問我慢出来たね!?」
「いつかは言われると思ってたが遂に来てしまったか・・・自慢話みたいになるから嫌なんだよなぁ」
信じられないといった様子のリューシュと両手で頭を抱えるサリスを交互にキョロキョロ見るグレンデルはポカーンとしている。
そんなグレンデルの前に立ったリューシュは
「せっかくだから昔のサリス君のお話教えてあげるね〜??」
とニヤニヤ。
サリスはそんなリューシュの肩を後ろからつかむと
「いい、俺から話す。お前は変な事言いかねんからな。」
真剣な面持ちでそう言った。
「へぇ、サリス君も素直じゃないねぇ〜」
ニコニコと目を細めるリューシュはグレンデルの隣へ。
「一緒に聞こうね!!グレンデルちゃんっ!」
「う、うん。ちょっと楽しみ、かも。」
そしてサリスはベットに腰掛けゆっくりと自分の過去を話し始めた。
「ひとまず昔の俺より先に知っていて欲しい存在がある。それは『終焉帝』についてだ。」
「終焉帝この前ちょっとだけ話してくれたやつ?」
「あぁ。この世界の絶対悪にして世に混沌をもたらす存在だ。かつては神界に居たとか、すべての魔法を使いこなせれるだとか、立っているだけで辺りの魔素を自分のモノにしてしまうとか、そんな事も囁かれる程の悪。それが終焉帝。」
「凄く悪いヤツなんだね。」
グレンデルは疑問符を浮かべつつ彼女なりに理解しているようだ。
「まぁ、その解釈で、いいだろう。そんな終焉帝が6年前この世界を自分のモノにする為各地域を攻撃し始めた。最初は一つの国が手中に落ちるだけだったのだが、その後から国の人々ごと滅亡させられた国も出始めた。これを食い止めなければならないと決心した神が居たんだ。そいつがフレイだ。奴は人間の中でも特に戦闘において力を発揮する人を集めた。そして出来上がったのが『終焉帝討伐隊』。その中に俺も居たんだ。その時に会ったのがリューシュやアベンチュリン達だ。俺が頼っている旧友は皆元討伐隊の人間だよ。」
「おじさん昔そんなことしてたんだ・・・それにドクターやリューシュは神様に認められたんだね。」
「あぁ、お陰様でな。そして俺は討伐隊の主軸、一番隊の隊長になったんだ。実質討伐隊のリーダーだな。で、その時ついた二つ名が魔術師。理由は一つ。俺がスキャナーだからだ。」
「スキャナーって、私と同じで他とは違うんだっけ?」
グレンデルはサリスの手術室での出来事を思い出していた。
「そう。お前がドライバーであるように俺はスキャナー。だから俺も魔石を握れば白い光が出る。そしてスキャナーの特徴は唯一つ。攻撃色、創造色、強化色、治癒色、4つ全ての色の魔法が使いこなせれる事だ。スキャナーである俺は誰よりも魔法が使えたし戦いじゃ敵なしだった。」
グレンデルの顔を見て話していたサリスは下を向き「だが、」と続ける。
「終焉帝はそんなに甘くは無かった。終焉帝との最終決戦、終焉帝の魔力によって強化された軍勢に仲間達は次々と殺されていった。あの時の俺は正直、魔術師とか呼ばれて自信に満ちていた。嘗めてかかっていたよ。何とか終焉帝の軍を壊滅させた時、討伐隊は精鋭を残して他の奴らは死んでいた。不幸中の幸いで終焉帝は魔力の使いすぎで俺達を殺すまで出来なかった事だ。しかし残された俺達にはもっと酷い仕打ちが待っていた。討伐は失敗に終わり、それぞれ自分の国に帰った時、終焉帝を殺しはしなかったものの抑え込んだ者としてはやし立てられたんだ。何も出来なかったのに英雄として持ち上げられた。俺には耐えきれなかった。だから俺は最終決戦の地をそれ以上は進めない、誰も景色を見たことが無い【最果て】と名付けた。それからは人里を離れて医者なんかしてたんだ。」
「話は終わりだ。」とサリスは最後に付け加えた。話すにつれて死んだ仲間の顔が脳裏によぎっていた。思い出すだけでも悔しさが蘇り膝の上に乗せた手を強く握る、死んだ仲間を想うと目頭が熱くなるのがわかるほどだった。
暗い顔をするサリスの話を黙って聞いていたグレンデルはサリスの元まで歩み寄り、サリスの両手を掴む。
「ドクター、ずっと辛い思いしてたんだね。リューシュも、アベンチュリンさんもきっと私には分かんないくらい悲しい事だと思う。でもドクターはまた最果てに向かって旅をしている。負けても立ち上がってる。それは、多分凄いことだと、思うよ?それに!今は私がついてるよ。私はドライバー?なんでしょ?多分私強いんだよね?だから大丈夫だよ。ドクター。まだまだ前を向いて歩こう?」
両手を握られ、グレンデルが言い終わるまで下を向いたままだったサリス。ゆっくりと顔を上げるとグレンデルと目が合う。右目は眼帯で覆われているが今目が合っている左目は確かに輝いている。
「記憶無くて疑問だらけの励ましなんて説得力ねぇよ。バカ。」
サリスはフフっと笑うとグレンデルも笑う。
笑顔のままのグレンデルは力強く、だが、優しく
「フナリスの街も、救おう。ドクター。」
と、言ったのだった。
これをニヤニヤと隣で見ていたリューシュ。突然グレンデルに抱きつくと
「まったく〜!サリス君がしんみりしちゃうから私まで励まされちゃったよ〜??嬉しかったけどね〜!!それにしてもグレンデルちゃん良くあそこまで言い放ってやったね〜!!最高だよっ!!」
リューシュの大きな胸に顔が沈み込んでいるグレンデルは
「私記憶無いから、思った事を言っただけだよっ!!・・・っ!息、出来ない・・・」
と腕をバタバタ。割と見慣れた光景になってきた。
いつも通りの空気になった2人を見てサリスは
「無知ってのは意外と最強なのかもな」
と呑気な事を呟いていた。
◇
「ドクターの言う通りこの街には子供が居ない。それに、所々喧嘩も起きてる。」
リューシュより先に起きたグレンデルは窓から街を見下ろし、そして出かける準備を始める。今日は忙しくなりそうだ。
「もし、悪い事してるのが終焉帝の仲間なら、許さない。」
昨晩から密かに怒りの感情を燃やすグレンデルは独り言を呟きサリスとリューシュの起床を今か今かと待つのであった。




