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枯淡  作者: 水原伊織


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23/40

23.『好き?』と聞かれて、全部が崩れた夜

一ヶ月ぶりの織の身体だった。

玄関を入ってすぐに、織に抱きつかれ、そのまま、和室の布団に潜り込んだのだ。


毛布を剥ぎ取り、露わになる織の身体を、隅々まで確認するように触れていく。

織の吐息と、裕介の呼吸だけが、静かな和室に響き渡る。


避妊具をつけるのは、いつぶりかわからない。少なくとも十年、いや二十年以上は使っていない。


彩を抱く時には、当然避妊具など使わずに、口や腹に出していた。


俺は、ここまでして、織の中に出したいのか、と思った。


ぎこちなく装着する。

すぐに、織とひとつになる。

準備は出来ていた。

だが、やはり、違和感しか無かった。

織も、すぐに気づいたようだ。


「…外していいよ」

「…やっぱり?」

「うん、なんか、変」


裕介は、一度織から離れると、避妊具を外し、再び覆いかぶさる。


直接との違いがありすぎて、裕介はすぐに達していた。


織の前に膝立ちになり、解放しつづける。


織の下腹部に、拡がっていく。


----


織は、それを指で掬いあげた。


「…多くない?量」

「一ヶ月分だから」

「…ホントに?」

「…ああ」


織は、微笑みながら、ティッシュを手に取る。

布団の脇には、裕介のTシャツと、Tバックが無造作に置かれている。

織は、全てを拭き取り終わると、丸く纏めて、寝ながらの体勢でゴミ箱に投げ入れる。


「…後始末、面倒」

思わず、そうつぶやく。

その言葉に、裕介が苦笑いしている。

「それすらも、面倒なんだね」

織は、頷きながら、裕介を見る。

裕介はまだ、織を見下ろすようにして、覆いかぶさる体勢を維持している。


まだ、元気そうだった。


「ねえ、裕介」

「…何?」


「…私の事、好き?」


はっきりと聞くのは、初めてだった気がする。

裕介は、つかの間の沈黙の後に言った。


「ああ、大好きだ」

「本当に?」

「本当に、だ」

「じゃあ、もう中でいいから」


裕介は、その言葉に何かが突き動かされたようだった。

何かから、ふっきれたのかもしれない


「織」


名を呼びながら、再び重なってくる。

そんな裕介の背中に手を伸ばした。


裕介の背中に触れた瞬間、織は、自分の中で何かがほどけていくのを感じていた。

一ヶ月の空白が、触れ合うたびにゆっくりと埋まっていく。

裕介の呼吸が近づくたび、胸の奥に沈んでいたものが、少しずつ浮かび上がる。


織、織と、名前を呼ばれるたびに、ああ、やっぱり——と、織は思う。

求めていたのは、言葉よりも、理由よりも、この瞬間に触れている“確かさ”だったのだと。

やがて、裕介の体温が内側から弾けるように、熱い奔流となって織の芯を打った。


二人の動きが静かに落ち着いていく。

和室の空気は、冬の名残のようにひんやりしているのに、布団の中だけが、ゆっくりと温度を取り戻していた。


裕介は、織の肩に額を預けたまま、しばらく動かなかった。

織もまた、腕を回したまま、何も言わずにいた。

言葉を交わすよりも、この沈黙のほうが、ずっと正直だった。


----


「私、中に出されたの裕介が初めて」

裕介の呼吸が、ほんの一瞬だけ止まった。

その変化が、織の胸にじかに伝わる。


「……え?」


驚きというより、戸惑いに近い声だった。

織は、ゆっくりと顔を上げる。

裕介の目が、まっすぐ自分を見ている。


「今までの人は、ちゃんとしてたし、だから私、この間、裕介に聞いたの」


言いながら、織は自分でも気づく。

これは責める言葉でも、期待でもない。

ただ、事実を差し出しているだけだ。


裕介は、しばらく何も言わなかった。

けれど、その沈黙は重くない。

むしろ、慎重に言葉を探しているようだった。


「…織」

名前を呼ぶ声が、さっきよりも低い。

胸の奥に落ちてくるような響きだった。


「そんなこと……言われたら、俺……」

言いかけて、裕介は言葉を飲み込む。

代わりに、織の頬に手を添えた。

その手が、少し震えている。


「……大事にしたいって思うに決まってるだろ」


織は、目を伏せた。

嬉しいとか、怖いとか、そういう単純な感情ではない。


「…困るよ、裕介」

「困らせたいわけじゃない」

「わかってるわよ」


織は、裕介の胸に額を戻した。


「…私、本当に、まずいかも」

「何が?」

「本気になっちゃうかも」


裕介は、何も言わずに、織の背中に腕を回し、そっと抱き寄せた。

その抱きしめ方は、欲よりも、確かさのほうが強かった。


和室の静けさの中で、二人の呼吸だけが重なっていく。

さっきまでの熱とは違う、もっと深い温度が、ゆっくりと二人を包んでいた。

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