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スライムには負けるけど魔王には勝ちます  作者: すふぃ~だ


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蘇る魂の道しるべ㉖

「ふふふ。配達将軍ね。面白いじゃない」

 不気味に笑うエクレアの姿がそこにはあった。



⇨



 ガタリヤがエクレアの財政調査を受けていた時と同じ日。ククラーソン村は朝から活気づいていた。

 何故なら、ベヒーモス騒ぎで村で足止めを食らっていた商人や冒険者などがババリオン国の聖都やスワップの街へと出発するからだ。


 というのも2日前に正式に『安全宣言』が聖都から発出されたので、各街からは既にククラーソン村へと馬車が出発しており物流が始まっている。今日の夕方近くには続々と馬車が到着するだろう。

 今まで止まっていた影響で、通常よりも多くの物資や商人、冒険者などがククラーソン村に到着すると思われる。

 なので、混乱を避ける為、午前中に足止めをくっていた馬車のほとんどを出発させて駐車スペースを確保しておこうという考えのようだ。


 それに伴って、駐在していた兵士も午前中にはほぼ出立する見通し。本来なら警備の面で空白の時間を作ってしまうのは良くないだろう。

 しかし、このククラーソン村周辺においては、盗賊が出たという話は全く聞いた事すらない。

 何故なら盗賊が活動する深夜はバジリスクの活動時間なのでリスクが高すぎる。昼間は昼間で暑すぎる事、荒野が広がっているので目立たない行動が出来ない事が影響して活動しづらい。

 近くにクオーツの森林はあるものの、この森は比較的、強いモンスターが多いので、ここに身を潜めるのも難しい。もし、この森で活動できる腕前なら、盗賊など辞めて貴族の護衛などをした方がよっぽど金になる。

 故(ゆえ)に、ここ数百年、盗賊が出たという話は聞いたことがないほど治安は良いのだ。


 そして、駐在兵士達もベヒーモス騒ぎで唐突に足止めを食らってしまったので、本来の任期期間はとっくに過ぎている。早く家族の元に帰りたいと思う者も多いはず。

 又、先程も言ったように夜にはバジリスクが出るので、なるべくなら早めに出立しておきたいというのが本音だろう。

 なので、ほとんどの冒険者、商人、そして兵士達は次々と出発しており、ククラーソン村は、その準備で活気づいているのだった。



「ルメルテおじさん。気をつけて」

「んお、フローリア。見送りありがとう。エゼノアの分までしっかり生きるんじゃぞ。そして幸せになっておくれ」

「はいっ。ミールさんと幸せになりますっ。いつか2人でマルリの街へ遊びに行きますねっ」

「ふぉっふぉっふぉ。それは楽しみじゃな。2人・・・ではなく、3人になりそうじゃの。ふぉっふぉっふぉ。お若いの。どうかフローリアを宜しく頼む」

「はははは・・・院長。色々とご教示ありがとうございました」

「いやいや。ワシも良い刺激をもらった。まだまだ若い者には負けられんからな。次会った時はワシも結界を使おうかの。ふぉっふぉっふぉ」

「あ、院長・・・えっと・・・」

「分かっておる、分かっておる。ソナタの事は秘密にしよう。安心するが良い」

「ありがとうございます。助かります」

「ふむ。しかし、ガウディの見立ても間違ってなかったという事じゃな。世の中は広いわい。ではな。良い修復士になるんじゃぞ」

「はい。ありがとうございます」

「ルメルテおじさん、またっ!」

「うむ。ではな」


 ルメルテ院長はゆっくりと乗り合い馬車に乗り、ルーン国方面へと出発した。


「さて、フローリアさん。今夜に向けて買い出しをしましょうか。あと今後の準備も必要ですね。明日の朝には出発するので装備の手入れも今日のうちに済ませときましょう」

「はいっ。分かりましたっ」


 今朝出立したローランちゃん達も夕方には戻ってくる。そのまま子供園で『お別れ会』をしてもらい、明日の朝にミール達はドルグレム方面へ、ローランちゃん達はガタリヤへと出発する予定だ。


 子供達も張り切ってお別れ会の準備をしている。


 あらかたの馬車が出発したお昼過ぎ、そして各街から出発している馬車が到着する夕方までの空白の4時間くらい。


その僅かな時間に事件は起きたのであった・・・




【重要なお知らせ】



 ここからしばらく、非常に残酷なシーン、性的な演出が続きます。

 本当に・・・本当に、悲惨で、悲しく、不条理な結末を迎えます。


 本来であれば、こういった展開は書きたくない。


 しかし、最初にお伝えしたように、この物語は異世界で実際に起きた出来事を記載させて頂いている。

 読者の皆様と『あの存在』との繋がりを作るためにも、嘘偽りなく記載する必要があるので、悲惨な結末を書くのも仕方がないと思うしかないのだろう。


 だがしかし。


 それでも書くのを躊躇(ちゅうちょ)してしまう。そう思ってしまうほど、自分にとっても悲しい結末だ。


 もしかしたら、この展開を受け入れられない人もいるだろう。

 こんな作品だとは思わなかったと見切りをつける人もいるだろう。


 人それぞれ価値観は違うので当然の思考だと思う。

 リアルの息抜きで読んでるのに、わざわざ悲しい、暗い気持ちになる作品なんて読みたくないっ!と思う人も多いはず。

 そんな方は、ここで一旦立ち止まって、別作品へ移行した方がいいかもしれない。


 だが、もし少しでも考える時間を作って頂けるのであれば、この結末は決して絵空事などではないのだと感じてほしい。


 実際に貴方方の世界でも起こりうる悲劇。

 そう思いながら読み進めて頂ければ幸いである。


 悪意は唐突に現れるのだ。貴方の前にも・・・





 ミールがフローリアとお別れ会で用意する食材を購入していたお昼の時間。

 普段は賑わいを見せる宿屋などが建ち並ぶ通りも閑散としていた。ほとんどの冒険者、商人、そして兵士達は既に出発しており、ここに残っている者は村の住民ばかり。買い物をしているのもミールとフローリアだけだ。

 しかし、お店の人達はこれから訪れる多くの人達を迎え入れるために準備に追われており、忙しそうにしている。


 そんな中、一人の男が話しかけてきた。

 作業着に身を包み、頭にはタオルを巻いている。ニコニコと笑顔が印象的な若い男だった。


「やあ、フローリア。何してるんだい?買い出しかい?」

「あ、レギンス・・・うん。まあ、そんなとこ」

「ふ〜ん。そっちの冒険者さんは旅立たないのかい?もう直ぐ最後の馬車が出るよ?」

「うん。私達は明日出発するの」

「へ〜。そうなんだ。いま発掘してるって人達も明日でるのかい?」

「そうよ。だから今日はお別れ会なの」

「そうかい、そうかい。なるほどね。おっと。親方にお使い頼まれてるんだった。それじゃあ、また」

「うん・・・」


 フローリアは気乗りのしない返事をしてレギンスを見送る。


「フローリアさんのお知り合いでしたか」

「あ、えっと。2年前まで子供園で暮らしていた孤児なんです、彼も。今はこの村で大工見習いをしています」

「へ〜・・・そのわりにはあまり親しくないような・・・」

「えっと・・・彼はあまりエルフを好きじゃないみたいで。避けられたっていうか。ほとんど会話した事ないんです」

「え??めっちゃフレンドリーに話しかけてきてましたよね??」

「そうなんです。なんか最近、急に親しげに話しかけてきてて。ちょっと戸惑ってます・・・」

「へえ・・・今更、フローリアさんの魅力に気づいたんですかね?」


「///」

 相変わらず、チョロい反応をするフローリアさん。しかし、直ぐに真面目な顔に戻る。


「いえ・・・なんかそんな感じではなくて、凄い子供園の事とか聞いてくるんです。今、子供は何人いるのかとか、ローランさん達は何時頃帰ってくるのかとか・・・あ、ダメですよね、警戒したりしちゃ。彼も社会に出て、ようやく子供園の存在価値を理解してくれたのかもしれないですし」

「ふむ・・・」

「さあ、ミールさんっ。引き続きお別れ会の食材を買いましょう。あとは何が必要ですかっ?」

「そうですね。あらかた買ったので、最後はやはりデザートですかね?ケーキとかフルーツとか。ケンカしないように多めに買いましょう」

「やっぱりそうですよねっ。みんなに行き渡るケーキを出せるなんてっ。ちょっと前までは想像すら出来なかったですっ」

「まずはモンブランですね。ホールで買いましょうっ」

「あははっ。ミールさん、本当にモンブラン好きなんですねっ」

「モンブランは正義です」

「ふふふ」


 しばらくして・・・

 ミールとフローリアは腕に抱えられないほどのケーキを購入して、子供園に向う。


「沢山買いましたねっ。子供達、びっくりすると思いますっ」

「モンブランの種類が複数あるのは盲点でした。今日は食べ比べですね」

「うふふ。これで買い出しは完了ですか?」

「そうですね。あとは旅立ちの準備ですかね。衣類や結界石、水も補給もしときたいです。装備の手入れも今日中に済ませときましょう」

「はいっ。いよいよ旅立ち・・・なんかドキドキしますっ」

「そうですね。先ずは馬車でドルグレムまで向かいます。その後はドルグレムで冒険者登録をしてしばらく依頼などをこなしましょう。慣れてきたら今度は船で海外へ向かいます。フローリアさんは船旅は初めてですよね?」

「はいっ。初めてですっ。船旅かぁ・・・いったいどんな世界なんだろう・・・ワクワクしますねっ」

「そうですね。天候が良ければ最高に気持ちいいですよ。天候悪いと船酔いで最悪ですけど」

「へええ。ミールさんって・・・っ」



 ミールとフローリアの何気ない会話。未来への道筋。明日への希望。



 その穏やかな日常を馬車の車輪の音が浸食していく・・・



 皆さんも明日が来ると当然のように思っているだろう。

 夕食を食べながら談笑する日常。お風呂に入り、歯磨きをして明日に備える日常。おでかけの前日は友達、あるいは家族と予定を携帯でやり取りしてワクワクしながら眠りにつく。 

 テレビでは当たり前のように明日の天気の予報が流れ、殺人事件のニュースや戦争の報道を何処か他人事のように捉え、明日が来る未来を信じて疑わない。この生活が唐突に終わるだなんて夢にも思わない。

 それが悪い訳ではない。むしろそれが普通なのだ。当然の権利なのだ。

 その権利は他人に迷惑をかけて奪うものでは決してない。

 しかし、一部の自分勝手な者達によって、その権利は、幸せは、明日への希望は、度々無残にも破壊されてきた。




 皆さんは、今、唐突に知らない者が家に乱入してきて、訳もわからずナイフで刺されたらどう思いますか?




 平穏なククラーソン村に大きな音をたてて、砂煙を上げて迫ってきている馬車が現れる。

 馬車といっても、以前少し説明させて頂いたが、この地方を走るのは馬ではなく地上を走るタイプの鳥だ。暑さに強く従順な性格、そして何よりこの荒野においては馬よりも早く走る事が出来るので重宝されているのだ。


 馬車の数は3台。


 一目見ただけでおかしい事に気づく。乗り合い馬車や物資運搬馬車はあんなにスピードを出して砂煙を上げて村に来たりはしない。そして、もし複数の馬車が同時に到着した場合は縦に並んで順番を待つのが普通。

 以前、少し説明したが、『乗り合い馬車革命』がババリオン国で起こり、現在は乗客などを一人一人しっかりと管理している。なので一台一台、村に入る前に駐在兵士にチェックされるので、縦並びになるのが普通。あのように横並びで走る馬車はまずいない。



「なんだ?あれは・・・」

「おかしくない?」

 準備に忙しそうにしていた住民達も、手を止めて馬車の行方を見つめる。



「不審馬車3台!警戒しろ!」

 駐在兵士は直ぐに異変に気付き、槍を構えて身構えた。




  ガラガラガラガラガラッ!!




 村に突撃してきた馬車から直ぐに複数の盗賊らしき者が飛び出てくる。そして、駐在兵士と交戦。あっという間になぎ倒す。


 遠くからでも首が飛ばされた兵士の血飛沫(ちしぶき)が確認できた。

 村に残っていた僅かな駐在兵士を片付けた盗賊達は、直ぐに笑いながら村の中心部目掛けて突っ込んでくる。


「きゃあああぁあぁぁ!!」

「うわぁぁ!に、逃げろおぉぉ!」

「盗賊だあぁぁ!」

 悲鳴を上げて逃げ出す住民達。


「おっしゃあ!警備兵は片付けたぞ!」

「うっしゃあ!イケイケイケぇ!」

「男は全部殺せぇ!!ババアも子供もだぁ!若い女だけ残して全員殺せぇぇ!」

「二班、三班はそのまま村を制圧!全部で58人だ!1人も残すな!一班はエルフ確保最優先!」



 ミールは瞬時に山のように買ったケーキを投げ捨て、フローリアの手を取り、迷わず走り出す。



「ミ、ミールさん?!」

「逃げますよ!フローリアさん狙われてます!」


 1直線に突き進み、子供園の敷地に足を踏み入れる。


「フローリアさん!子供達と森の中へ!早く!僕は少しでも時間を稼ぎます!」

「はいっ!」


 フローリアは子供園に突っ込んでいき、大声で叫ぶ。


「みんな!盗賊がきたわ!直ぐに森へ逃げるわよ!早く!」

「え??なになに?」

「どーしたのぉ、お姉ちゃん」




「早く!早く走ってえぇぇ!!」




 お別れ会の準備をしていた子供達はキョトンとしていたが、フローリアの絶叫に状況を悟ったのか、泣きそうになりながらも必死に走り出す。


 ミールも畏怖のお面を取り出す。

 盗賊はしょせん社会の溢れ者。例えるならば高校でお山の大将の如くイキっているヤンキー。素人相手にイキっている暴走族みたいなモノ。プロ相手には手も足もでない。十分『畏怖のお面』で対応できるはず。


 そんな考えの元、お面を装着しようとした・・・が、その瞬間、頬に衝撃が走る。

 あまりの唐突の衝撃に目の前が真っ白になりバランス感覚を失う。そして、そのまま地面へ倒れ込んだ。カラカラと畏怖のお面が地面へと転がっていく。

 直ぐに左頬へ激痛が走り、誰かが自分の背中に乗ったのが分かる。どうやら左から棒のようなモノで刺突攻撃を食らったようだ。

 顎を揺らされて脳しんとうを起こしたようで視界がぼやける。未だハッキリしない意識の中、馬鹿にしたような男の声が後頭部に響いてくる。



「なんだよ。冒険者が1人残ってるって黄色ランクのコイツかぁ?がははっ。警戒して損したぜ」

「お頭(かしら)、やり過ぎっすよ!コイツ白目むいてるぜ!」

「ぎゃははっ。だっせー!」


 背中を踏みつけられている感触はあるが、未だ意識がハッキリしないミール。大勢の嘲笑をボーっと受け止める。


「ミールさんっ?!」

 なんとなくフローリアだろうと思う声が響く。そして直ぐに剣を抜く音。


「ミールさんを離しなさい!」


「おおっ!いたぜ!コイツだ!コイツがハーフエルフだ!」

「うっひょー!超美人じゃん!」

「めっちゃカワイイ!」

「早く犯そうぜ!」


「黙れ!」


 キンッ キンッ キンッ


 剣が交錯する音が脳裏に響く。


「フ、フローリアさん・・・」

 ようやく意識を取り戻したミールは少し顔を上げる。直ぐ間近でフローリアが盗賊と戦っている姿を目にした。


「うおっ。マジでつえーぞ!」

「油断するな!」

 盗賊達と互角の戦いを見せる。


 いや・・・どうやら盗賊ではないようだ。明らかにレベルが違う。

 1人1人の力量も、統制の高さも、身につけている装備も。そこら辺の盗賊とは比べようがない。

 どうやら彼らは殺人ギルド。人殺しを生業としたチームのようだった。

 紫や黒ランク相当の実力者が多数いると思われる。


 しかし、それでも銀ランク並の実力を持っているフローリアは、徐々に襲撃者達を押し返していった。


「お姉ちゃーん!頑張れえぇ!」

「負けるなぁ!」

 園長を中心に1箇所に集まっている子供達も、必死に応援する。


「くっ、コイツヤベえぞ!」

「慌てるな!囲め!囲め!」



 ブオオオオオォォォオオオォォンンンン・・・



 唐突に紫色に光る魔法陣が地面に発生し、暗黒騎士が具現化した。ミールの使役モンスターだ。未だハッキリとしない意識の中で、なんとか呼び出すことには成功したらしい。

 フローリアも一瞬怯むが、直ぐに敵ではないと感じ取ったようだ。一緒になって襲撃者達を撃退していく。


「うおおおっ?!」

「なんだっ?!なんだコイツは?!」

「ひいいっ!」


 暗黒騎士の具現化により、形勢は一気にフローリア側へと傾いた。襲撃者達を何人か倒している。


 しかし・・・・


 直ぐに暗黒騎士の身体は薄く透明になっていく。やはり結界内での召喚は長くは保てないようだ。


「なんだ?!消えちまったぞ?!」

「よくわからんけどチャンスだぜ!」

「囲め!囲め!」


 襲撃者達はフローリアに対して複数で取り囲む・・・・・が、それでも素早いフローリアは立ち位置を上手く変えながら徐々に襲撃者達の数を減らしていく。


「ダメだあ!コイツつええ!」

「お頭ぁ!助けてくだせえ!」


「ったく。しょーがねーなぁ」


 ミールの背中を踏んづけていた男は咥えていたタバコをペッと吐き出す。

 そして、青いバンダナを巻いている『お頭』と呼ばれていた男は、姿勢を低く中国武術のように棍を背中に構えてフローリアに突進していく。



  キンッ コンッ カンっ カンッ



 フローリアの長細い剣と、お頭(かしら)の棍が、軽い音を響かせながら乱れ合う。


「くっ・・・」

 周りの男共とは一段格上の攻撃に、顔をしかめるフローリア。

 しかし、よく善戦している。正に一進一退の攻防を繰り広げていた。



「おっとぉ!お嬢ちゃん!コイツがどうなってもいいのかなぁぁ??」



 黄色のパイナップルヘアーの大柄男は、1箇所に集まっていた子供達の中からガバッと1人を掴み上げる。


「うわぁぁ!離せぇ!」

「ペータ!」


 首根っこを掴まれたペータは空中で足をバタバタさせている。


「おらぁっ!剣を捨てろぉ!さもなくばコイツを殺すぞ!」

「く・・・」


「ダメだ・・・フローリアさん・・・戦うんだ・・・全員殺されるぞ・・・」


「お前は黙ってろ!」


 お頭の側近と思われる緑色のモヒカン頭はミールの顔面を蹴飛ばす。そして馬乗りになってミールの後頭部の髪を引っ張った。グイッとエビ反りになったミールの喉元に短剣を突き出す。


「ミールさんっ!」

「オラッ!コイツも殺すぞ!剣を捨てろ!」


 フローリアは唇を噛みしめるが、言う通りに剣を地面に捨てる。


 お頭(かしら)は足でフローリアの剣を後ろに蹴飛ばすと、人数を数え始めた。


「ひい、ふう、みい・・・おし。情報通り、ちょうど20人いるな」


 お頭はタバコに火をつけると、ニヤァっといやらしい目つきでフローリアに命令する。


「服を脱げ」

「!」

「早くしろ。子供を殺すぞ」

「ぎゃははっ!流石お頭だぜ!」

「オラオラァ!早くしろぉ!」



「・・・・・・」

 フローリアは唇を噛みしめながら、眉間にシワを寄せながら、静かに服を脱いでいく。



「うっひょー!めっちゃ白い肌!たまんねえ!」

「めちゃくちゃスタイル良いな!こりゃスゲーぞ!」

 大興奮の襲撃者達。


「早くしろ!下着も脱げ!子供殺すぞ!」


 フローリアは目に涙を溜めながら、全裸になる。お昼の太陽の光を浴びた身体は、透けているのではないかと思うほど、白く輝き、透明感に溢れていた。


 お頭はゆっくりと歩いて行き、フローリアの胸を鷲づかみにする。顔をしかめるフローリア。お頭はそのままフローリアの後頭部の髪を引っ張り、上を向かせて唇を奪う。


「い、いやっ!」


 拒否するフローリアにお頭は冷たい言葉を投げ捨てる。

「抵抗するなら子供を殺すぞ」

「・・・・・」


 静かになったフローリアの唇を貪るお頭。フローリアは目をギュッと瞑り耐えている。


「お頭ぁ!早く突っ込んでくださいよ!後がつかえてるんですからっ!」

「まあ待て。報告書を読んだ時から、やってみたい事があるんだ」


 そういうとフローリアをミールの目の前に移動させて四つん這いにさせた。


「や・・・やめろ・・・やめろ!」

「おい!暴れんな!大人しくしとけっと」


 必死に抵抗するミールだったが、緑色のモヒカンに腕を後ろにロープで縛られてしまった。それでも暴れ続ける。涙を流しながら。


 お頭は、そんなミールの姿をニヤニヤと笑いながら、欲望をフローリアの身体にねじ込む。


「・・・・んっ・・・・」

 苦痛のうめきを出すフローリア。


「くっくっく。がっはーはっ!ほらほら、どうした?!愛しの女が俺に寝取られてる姿は?!ギャハハ!最高だぜ!最高に気持ちいいぜっ!オラオラオラッ!」


「うううっ・・・み、ミールさん・・・み、見ないで・・・うっうっ・・・見ないでぇ」

 フローリアは大粒の涙を流しながら、お頭に突かれている。


 ミールも涙を流しながら視線を逸らす事しか出来ない。しかし、それを許すまじと緑のモヒカンはミールの髪を掴み、強引に顔を上げさせる。


「ひっひっひ!オラ!ちゃんと見ろ!だっせー!自分の女が犯されてんのに、何も出来ねーでやんの!ひーひっひっひ!」


「うひょー。これだったんですね!お頭のしたかった事!だから冒険者を殺すなって言ってたんだ!こりゃいい!俺も興奮してきましたぜ!」

「ああ!たまんねーな!」

「流石お頭だぜ!早く変わってくださいよ!」


「まてまて!もう直ぐだ!もうすぐ・・・うおおおっ!上がってきたぁ!上がってきたぁ!うっ!出る!」


 お頭は濃厚な欲望をフローリアに流し込む。


「ふひ〜。満足、満足。気持ちよかったぁ」

「おっしゃあ!次、俺な!」

「バカヤロー!俺だ!」

「ジャンケンだ!」


 襲撃者達は楽しそうにジャンケンしている。全く悪いことをしているといった感情はないようだ。



「貴様らぁ!絶対に殺す!絶対に殺してやる!」



「ギャハハ!やってみろってんだ!」

「口だけ男が!ばぁぁかぁぁ!」

「いいよ、いいよぉ〜!もっと抵抗してみろ!もっと泣き叫んでみろ!その方が興奮するぜ!」

「ガハハっ!ほらほら!この女も気持ちよくなってきてるぜ!お前の小さいのじゃ満足できないんだと!うひょー!マジで気持ちいいぜ!いく!」


「はい!交代!次俺ね!」

「くそ!もう我慢できねー!俺は口でいいや!」

「俺は髪使うわ!」

「俺おっぱい!」

「バカヤロー!お前が跨ったら俺はお前のケツしか見えねーだろ!」

「ギャハハ!」


 襲撃者達は次々とフローリアを欲望の捌け口にしていく。



「お姉ちゃぁん・・・」

「お姉ちゃんをイジメるなぁ!」

「お前らなんて嫌いだぁ!」

 子供達は涙を流しながら必死に叫ぶ。



「うるせーな。オイ、何人か殺してこい」

「やめて!あの子達に手を出さないで!」

 フローリアはベタベタになった身体を起こして優しく笑顔を子供達に向けた。


「みんな・・・んっ・・・大丈夫だから・・静かにして・・んんっ・・・良い子だから・・・んっ」


「そうそう!静かにしとけよっと!オラァ!うひょー!マジで気持ちええ!」

「お姉ちゃぁん・・・」

「お前達!黙るんじゃ!声を出してはならん!目を閉じるんじゃ!」

 園長もマルチネスもサーシャも、必死に子供達を抱きしめている。


「うおおっ!めっちゃ興奮するぜっ!」

「流石お頭だ!久しぶりにめっちゃくちゃ楽しいっす!」

「そうだろ?中々目の前に彼氏がいるって状況は無いからな」

「お頭ぁ!そりゃ、男を先に殺しちまってるからでさあ!」

「ギャハハ!ちげーねぇ!今度から多少は男を生かしておきましょうぜ!」

「お前ら、ハマりすぎだろ」


『ギャハハ!がっはっはっは!』



「殺す!殺す!殺す!殺す!お前ら全員跡形もなく殺してやる!殺してやる!」

 ミールは血走った目で襲撃者達に怒りの声を浴びせる。



「だからやってみろってんだよ。バーァーカ」

 緑のモヒカンがミールの前にしゃがみ込み、唾を吐きつけた。



「貴様ら!なんでこんな事をする!なんでこんな事をして平気でいられる!なんでこんなにも簡単に相手を傷つける事が出来るんだ!」



「はああ??そりゃ楽しいからに決まってんだろが」

「ぎゃははっ。即答っ」


「なんで人の幸せを平気で踏みにじる事が出来る?!自分達さえ良ければいいのか?!人を殺すことがそんなに楽しいのか?!」


「ああ、楽しいね。楽しくてしかたないね。特にお前みたいな口だけの奴を力で蹂躙するのがたまらなく楽しいね。結局世の中は『力が正義』なんだよ。悔しかったらお前がこの状況を覆してみろよ。できねーだろ?ばーぁぁか」


「ぎゃっはっは!そうそう!俺達なーんにも悪いことしてねーし!俺ら正義だし!」

「そうだぜ!だいたいお前らが仕事を独占してるのが悪いんだ!つまんねールールを作って俺らを蔑(ないがし)ろにしやがる!全部お前らが悪い!」


「それはお前達が逃げてきたからだろ!楽をしてきたからだろ!みんな辛くても頑張ってきたんだ!勉強も仕事も頑張ってきたんだ!お前らは逃げてきただけだろ!少しでも辛かったら面倒くさかったら直ぐ逃げる!その結果がこれだ!人のせいにしてんじゃねーぞ!負け犬が!」


「はーん。なんかコイツ、ムカツクなあぁ・・・」

 緑のモヒカンはミールの顔を踏んづける。そしてグリグリと踏みにじる。その瞳は冷たい氷のようだ。


「お頭ぁ。コイツ、うるせーからもう殺しちゃいましょうぜ?」

「そうだ、そうだ。うぜーから殺そうぜ」

「だな。俺達に説教たれるなんて100年早いってんだ」

「ああ、好きにしろ。もう十分楽しんだからな」


「いや・・・決めた。コイツは最後にする。ここにいる全員殺して、命乞いをさせる。手も、足も、目玉も潰していたぶってやる」


「あーあ。お頭ぁ。参謀キレちゃいましたよぉ」

「ほっとけ。アイツのドSっぷりは今に始まったことじゃない」



「よおおぉぉしし!よぉぉやく俺の番だなっ!」

 先程ペータを人質にとっていた大柄な男は「フンス、フンス」と鼻息荒く近づいてくる。



「いや、悪いがもう時間だ。ここらで仕事を終わらせる事を優先する」

「えええぇ?!そりゃ無いっすよぉ!お頭ぁ!」


「悪いな。まだ村の中には大勢の女がいるはずだ。それで我慢してくれ」

「ちくしょー!なんで俺はジャンケン弱いんだあぁ!」


「おい。冷凍箱を持ってこい」

「うっす」


 お頭は静かに命令すると腰に差していたダガーナイフを抜いた。その顔は、なんの感情も湧いていない・・・そんな表情をしていた。


「やめろっ!やめろおぉぉぉ!!」

 ミールはいち早く察して大声を上げる。


 お頭は全く躊躇なく、犯されまくって絶望しているフローリアの腹にナイフを突き刺し、そして上に伸ばしていく。



「ぎゃああぁあぁぁあああぁあああぁぁああぁ!!」



 フローリアの絶叫が子供園に響く。


 よくお腹を刺されていても、そのまま戦うバトル漫画やアニメなどがあるが、それはあくまで作品としての演出上のこと。けして本気にしてはいけない。

 刺されるだけなら箇所によっては多少動けるが、ほとんどの場合は身動き一つ出来ない激痛が伴う。それが開腹のように上や横に切り裂かれるとなると、どんなに精神力が強かろうがショック死や心停止をするほどの激痛が起こるのだ。


 フローリアはピクピクと痙攣しながらも、必死にミールに手を伸ばす。

 ミールはうつ伏せにされ、手を後ろで固定されているのでフローリアの手を握る事が出来ない。しかし、必死に、精一杯手を伸ばした。


「ミールさん・・・・だい・・すき・・・・・」


 胃をザックリ切られているので大量の血が口から出てくる。それでも懸命に言葉を残すフローリア。そして、プルプルと伸ばした手はガクッと力なく地面に落ち、涙に溢れた瞳は輝きを失った。



「フローリアアァァァ!!」



 ミールの涙が、雨のように地面に降り注ぐ。


 お頭は、何の感情も湧いていない表情のまま、構わずフローリアの身体を開胸していく。ザクッブチッ・・・と、筋や骨を断ちきる音が無情に響いてくる。



「貴様ぁ!殺す!殺す!殺してやる!殺してやるぅ!」



 後ろに手を固定されているので、ミールはそのまま噛みついてやろうと、蛇のように身体をくねらせる。


「おら、暴れんな!大人しくしとけ!」

 緑のモヒカンはミールの顔面を蹴飛ばして黙らせた。


「見ちゃいかん!見ちゃいかんぞ!」

 園長もマルチネスもサーシャも必死に子供達の顔を身体で隠す。


 その間も、お頭は手を止めずにフローリアの身体を解体していく。ミールや園長の絶叫など全く聞こえてないようだ。

 そのままグッグッっと刃を突き立てて臓器を切り離す。手のひらで掬い上げたのはフローリアの心臓。まだ赤々とテカり弾力があった。


 お頭は持ってこさせた『冷凍箱』と呼ばれた箱の中に心臓を収めていく。

 そして今度は更に力を込めてグッグッグと刃を立てて、フローリアの頭部を切り離した。その頭部も冷凍箱に収納する。


「血液も少し入れとくか。依頼主はこういうのも飲み干すらしいからな」

「きっしょ!金持ちのする事はよくわかんねーわ!」

「がはは!」

「ったく。お前らが汚したせいで少し精液が混じってるかもしれねーな。まあいい。バレんだろ」

「ぐひひ。逆に良い効果がでるんじゃね?」

「ぎゃははっ。お肌がツヤツヤになるかもな!」


 お頭はフローリアの開胸された部分に溜まっている血液をお椀で掬い水筒に注ぐ。それはまるで、湧き出ている地下水を水筒に注いでいるような、ゾッとする光景だった。

 一通り収納したお頭は、冷凍箱に付属している魔石に魔力を込める。直ぐに冷凍箱の中身はカチコチに凍り付いた。


「おしっと。お仕事完了だな。これを持っていけば当分遊んで暮らせるぜ」

「割の良い仕事で良かったっすね!」


「ああ、そうだな。だがこれで満足すんじゃねーぞ。もっともっと殺して稼いでいくからな」


「うっす!俺達お頭に付いて行きますぜ!」

「もっともっと奪って殺したいぜ!」

「人殺しができて金も稼げる!これだから殺人稼業は辞めらんねーんだよなっ!」

「がっはっは!」


「お頭ぁ!」

 遠くから1人の男が走ってくる。


「おう。どうした」

「とりあえず村人の殺しは終わったっす!女を除いて全部で58人!リスト通りだったっす!」

「そうか。早かったな。良くやった」

「うっす!そんで、めぼしい金品も奪ったんで、あとは女を犯すだけっす!」


「了解了解。んじゃ、俺は入り口の方に行ってるからお前らは自由時間だ。ココにいる奴等を始末したら後は好きにしろ。ただし、後1時間くらいしたら出発するからな。夢中で腰振って遅れんなよ」

「ぎゃはは!」

「あいあいさー!」


「お頭ぁ、この怪しい魔道具はどーしやす?何か色々置いてありますけど」

「ほっとけ。下手に持ってって足が付いたら目も当てられん。今回はコイツでたんまりと稼げてるんだ。持ってっても売れるツテもないしな」

「うっす!了解っす!」


 お頭は薬の救急箱を一回り大きくしたような冷凍箱の取っ手を掴み、その場を立ち去る・・・と思っていたら、何を思ったのかミールの目の前まで引き返してきた。

 そしてニヤァっと満面の笑みを浮かべて、うつ伏せにされているミールを見下ろす。



「散々偉そうなこと言って、ざまあねえよなぁ。彼女は寝取られ、身体を切り刻まれても、お前はなーんにも出来ない。ただ泣くことしか出来ない。騒ぐことしかできない。本当に『力が無いってのは罪』だよなぁ。くっくっく。ありがとよ。お前の彼女、最高に気持ちよかったぜ」



「貴様ぁ!絶対に呪ってやる!絶対に殺してやるからな!」



「がーはっはっはっ!またザコが騒いでるぜ。がーはっはっはっ!」

 お頭は大笑いしながら村の入り口に歩いていく。



「おしっと。んじゃ、サッサとコイツら殺して村の女達を犯しにいこーぜ」

「だなだな。子供じゃ何一つ楽しめねーからな」

「おいおい。世の中にはこんな子供が良いってヤツもいるんだぜ?」

「かー。マジかよー。意味わかんねー」

「がっはっは。第一入らんだろ?こんなヤツ相手にどうやって・・・・んん??」


 襲撃者の一人が固まっている子供達を見て、何かに気づく。


「おいおいおいっ!女がいるじゃねーかっ!女だ!女だ!」

「マジだ!全然気づかなかったぜ!」

「んんん?まだガキじゃね?」

「いやいや!全然イケるだろ!しかもぜってー処女だぞ!価値が大幅アップだ!」

「うおお!俺が一番だ!」

「馬鹿言うな!ジャンケンだ!」


「待て待て待て!今度こそ、俺だろ?!ずっと我慢してるんだから!」

 手を上げたのは大柄なパイナップル頭の男。先程、お頭に時間切れを伝えられた者だった。


「うーん。まあ、しょうがないか」

「こりゃ、使い物にならなくなるな」

「もったいねーなー。折角の処女なのによお」

「ちぇ。んじゃ俺は村人犯してくるわ。後は任せた」

「あ、俺も俺も」


 大柄な男が相手にすると、どうなるのか。それを予測できる襲撃者達の大半が、お頭が向かった方向へ歩いていく。


「うおおおっ!やっとできるぜ!こっち来い!」

 パイナップル頭はサーシャの手を掴み、鼻息荒く強引に引っ張る。


「きゃああっ!」

 サーシャは怪力に何も抵抗する事が出来ず、引きずられるように引っ張られる。すると、今までサーシャが抱きしめていた、おそらく子供園で最年少と思われる、1才くらいの子供が泣き始めた。



「うるせー!!」



 パイナップル頭は、その子供の両足を片手でグイッと掴むと、なんと力任せに思いっきり壁にぶん投げた。

 鈍い音を響かせながら子供は、まるで熟れたトマトが投げつけられたようにグシャっと潰れて壁に張り付く。そしてゆっくりとズルズルと下に落ちていった。内臓や目玉などを壁に残しながら。



「ひいいっ!!」

「きゃああぁ!!」

「うわあぁぁ!」

 子供達から一斉に恐怖の叫びが噴出する。



「あああっ!うるせーなっ!俺は今、気が立ってるんだ!静かにしねーなら殺すぞ!」

 パイナップル頭は更に子供達を潰そうと一歩踏み出す。



「駄目じゃ!静かにするんじゃ!見てはいかん!喋ってはいかん!」

 そんな子供達を必死に抱きしめる園長。



 園長の対応に満足したのか、パイナップル頭は拳を下げる。


「そうそう。大人しくしとけってんだ。おい、ジジイ。しっかり見張っとけよ」


 パイナップル頭はサーシャの足を乱暴に持ち上げ、逆立ちにさせる。そして股間の匂いを嗅ぎ始めた。グリグリと自分の鼻を擦り付ける。

「むほっ、むほっ。良い匂いっ」


「きゃああっ!いや!いや!いやぁ!」

 サーシャは必死に抵抗するが全く効果がないようだ。それはまるで、カマキリに捕まった蝶が必死に羽をバタつかせているようにも見える。



「サーシャから離れろぉぉ!!!」



 大声を上げながら突進したのはマルチネス。隠キャの彼には到底、太刀打ちできるような相手ではなかったが迷いはなかった。

 絶対にサーシャを守る!

 決意の瞳で、『お別れ会』の準備で使用していたハサミを持って突撃する。


「あ〜ん??」

 パイナップル頭はチラッとマルチネスを見ると、片手で簡単にマルチネスの両手を掴む。そして、そのまま地面に叩きつけた。


「ぐはっ!」

 柔道の背負い投げを、受け身を取らずに食らった感じ。呼吸が止まるほどの衝撃を受けて目の前が真っ白になるマルチネス。

 しかし、彼が再びサーシャをその瞳に写すことは叶わなかった。脳震とうを起こしたマルチネスが意識を回復する前にパイナップル頭の大きな腕がハンマーの如く上から振り下ろされ、彼の頭蓋骨をかち割ったのだから。

 マルチネスの脳みそや眼玉が辺りに飛散して、サーシャの頬に付着した。



「きゃあああああぁぁぁ!!マルチネスウウウ!!マルチネスゥ!!嫌ああぁぁぁ!!」



 唐突に大好きな彼を失い発狂するサーシャ。


「あ〜ん??なんだあ?もしかして、コイツが彼氏だったのかよ?!ぐはははっ!そりゃいい!俺も男の前で女を寝取る事が出来るって事だなっ!」

「馬鹿言え。もう死んでんじゃねーかっ」

「お前はいつもやりすぎなんだよ!」

「ギャハハ!」


「いーひっひっひ。それじゃあ、いただきまーすっ!」

「嫌ああぁあぁぁ!!嫌あぁぁぁ!誰か助けてぇ!!ヤダヤダヤダァ!!」


 サーシャは精一杯抵抗するが、体格が違いすぎる。太い腕に押し付けられ、全く逃げられない。


「うひょー!流石処女は違うぜぇ!!気持ちいーい!」

 パイナップル頭は夢中で腰を振っている。サーシャの首を絞めながら。


「マルチネ・・・ス・・・マルチ・・・ネス・・・」


 サーシャは意識が遠のくのを必死に堪えて、腕をマルチネスの方向に伸ばす。まるでマルチネスの意思が宿ったかのようにハサミは右手に吸い込まれた。


「マルチネスの仇ぃぃ!!」


 サーシャは自分の手が切れるのもお構いなしに、思いっきりハサミを突き立てる。


   ピシッ


 ハサミはパイナップル頭の左眼にあと僅かで突き刺さる所だったが、寸前に身を起こした男によってその刃は躱されて、代わりに頬に浅い傷をつけた。


「何しやがんだ!クソ女があっ!―」


 逆上したパイナップル頭は思いっきり拳を顔面に振り下ろす。


「おらぁ!」

何度も。

「クソ女がぁ!」

何度も。

「身の程をわきまえろ!カスがぁ!」

何度も。


 そして・・・最早、人の原形を留めていない身体に欲望を流し込む。


「ふい〜。気持ちかったぁ」

「何してんだ。もう使えねーじゃねーか」

「げへへ。悪い、悪い」

「あーあ。こんなことだと思ったぜ」

「ちぇ。あとはガキだけか。つまんねー」

「だな、俺はお頭のとこ行くわ」

「俺もー」

「女を殺した罰としてお前がガキ共を始末しとけよ」

「わーったよ。やりゃあいいんだろ」

「参謀はどーしやすか?」

「そうだな。俺もそろそろ飽きてきたな。ここらで・・・」


「・・・・・・くれ」


「あん?」

「参謀。コイツなんか言ってますよ」


「もう・・・・・・くれ」


「もう・・・なんだってぇ??」


「・・・もう・・・許して・・・くれ・・・」


「・・・・・」


「ぷっ」

「ぶわっはっはっはっ!だっせー!」

「ギャハハ!超ウケる!超ウケるわあ!」

「散々偉そうな事言って、最後これかよー!」

「見ろよ、コイツ!涙流してるぜ!ギャハハ!ママ〜。たちゅけてぇ・・・てか?!」

「ヒー!ヒー!ヤベェ。腹痛え!」

 大爆笑の襲撃者達。



 次々と殺されてしまう現状にミールは完全に絶望してしまった。

 いつもこうだ。

 いくら命がけで悪魔種と戦っても、結局は世界から争いが無くなることはない。

 いくら邪神すら退ける力があっても、肝心な時に何の役にもたたない。

 偉そうなことを言っといて、結局自分の大切な人さえ守れないじゃないか。


 もう沢山だ。もうやめてくれ・・・


 大笑いしている襲撃者達を前に、泣いて懇願するミール。



 もう少し先の、今回の結末の時に詳しく説明するが、結果的にミールが自分の能力に絶望して心が折れたのが幸いした。

 もし、あのまま憎しみに駆られ、憎悪に心が支配されていたら世界はとんでもない事になっていたのだから・・・



「あ〜。めっちゃ笑ったわぁ。これよ、これが見たかったのよ。きっひっひ。ばぁぁか。結局、この世の中は『力が正義』なんだって言ったろ?弱ええクセに粋がってんじゃねーぞ。ボケがァ」


 緑色のモヒカンはミールの顔面をグリグリと足裏で踏みつける。


「きっひっひ。さあて、これからが本番だぜえぇ。俺様を馬鹿にした償いをさせねーとなぁ。きっひっひ」

 参謀と呼ばれた緑のモヒカンは、ゆっくりと歩いて地面に落ちていた剣を拾い上げる。フローリアが使っていた細長い剣だ。


 緑のモヒカンは容赦なく、それをミールの肩甲骨辺りにブッ刺した。


「ぐわああぁぁあぁ!」


「どうだい?愛する女の剣で殺されるのは?気持ち良いだろ?ホレっ」

 今度は腹辺りをブッ刺す。


「ぐぎゃああぁぁ!」


「おお。良いじゃん、良いじゃん。良い鳴きっぷりだぜ。ホレホレ。もっと鳴いてみろ」

 そのままお腹周辺をズブズブと刺していく。


「ぎゃああぁあぁぁ!」


「ぎゃはっはっ!流石、口だけの男は鳴き声も違うねぇ。オラオラ。まだまだ続くよぉ??」


 今度は右腕に剣を突き刺す。どうやら直ぐに殺すつもりはないようだ。


「あーあ。参謀のいつものヤツ始まったわ。今回は長そうだな」

「だな。前回は爪を全部剥がして、目玉くり抜いたからな」

「今回は歯も全部抜きそうだな」

「道具あんのかよ?」

「あるある。参謀が拷問道具を忘れる訳ねーじゃんか」

「それもそうか。俺は村の女犯してくるわ。あれ見てるとメシが不味くなる」

「だな。俺も行くわ」


 更に数人が抜けて、この場にいるのは緑のモヒカン、パイナップル頭、その他2名の計4人となった。


「おーし!俺も参謀に負けてられんな!今回の依頼達成を盛大な花火でお祝いしてやろう!」

 パイナップル頭はフンフンと鼻息荒く子供達に近づき、固まってうずくまっている輪から1人の子供を首根っこを掴んで持ち上げる。


「うわ〜!離せぇ!」

 子供はバタバタと手足をバタつかせるが、予想通り、全く逃げられない。

 

 パイナップル頭は無造作に子供をワキに抱えると・・・

 なんと頭を掴んで、力任せに引きちぎる。


 ブシャアァァアァァァ!!と大量の血が、首の無い身体からシャンパンのように噴出した。


 その血は子供達が固まっている場所に大雨の如く降り注ぐ。



「・・・・・・・」



 もうここまでくると、悲鳴すらあげられない。

 あまりに普段とはかけ離れた現実。子供園では全く想像できなかった光景。

 首の無いフローリアの死体。原形を留めていないサーシャやマルチネスの死体。壁には叩きつけられた肉片がへばり付き、辺りは文字通り、血の海と化している。


 圧倒的で理不尽な暴力。抗うことのできない力による支配。そして、生きてきた意味を無価値なモノに変える残忍な行い。


 小さな子供達の心では、とても受け止めきれる大きさではなかった。


 こんな事があっていいのだろうか。

 何故、こんな目に合わなくてはいけないのだろうか。

 フローリアは懸命に生きた。差別されようが、懸命に生きた。

 母のために命をかけて里を探し歩いた。

 そしてこれからようやく自分のやりたい事を目指して生きようとしていた。


 子供達も親がおらず、寂しい思いをしているのに一生懸命生きている。

 助け合って励まし合って懸命に生きている。

 大好きなお姉ちゃんを送り出そうと、頑張ってお別れ会の準備をしている。

 サーシャもマルチネスも、子供達の成長を願いお世話をしている。結婚を誓い合い、将来の生活のために適性を獲得しようと頑張っている。そこに打算や僻み、相手を陥れようとの気持ちは一切ない。純粋に相手の事を思い頑張っていた。



 何故、こんな目に合わなくてはいけないのだろうか。



 以前にも述べたが『究極の自己中』の犯罪は非常に身勝手な理由だ。

 全く同情の余地は無いし、本人達も悪いとは思っていない。

 だからこその究極の自己中なのだ。


 遊ぶ金が欲しかった。ギャンブルの金が欲しかった。キャバクラに行く金が欲しかった。借金が返せなくなったから。チマチマと働きたくなかった。楽して儲けたかった。スリルを楽しみたかった。女をレイプしてみたかった。人を殺してみたかった・・・etc


 こんな理由で、唐突に、平穏に食事をしている貴方の前に知らない男達が乱入してきたらどう思いますか?

 今の時代、そんな事あるはずないでしょ?・・・と思う者は少ないだろう。


 何故なら闇バイトに応募した連中がいきなり家に乱入して金品を奪う事件は実際に起きている。ガムテープで縛られ拘束されるならまだしも、殺されるケースも実際起きている。


 闇バイトだけではない。


 一人暮らしの女性が帰宅した瞬間を狙い、知らない男性が部屋に押し入り、レイプされて殺される事件は実際に起きている。

 道を歩いていたら面識のない者に刺されて殺される事件は実際に起きている。

 青信号になったから横断歩道を渡っていただけなのに、暴走してきた車に跳ね飛ばされ殺される事件は実際に起きている。


 その者達に取り調べすると、『可愛かったから』『死刑になりたかった』『信号無視はしていません』『スピードは出してません』『ブレーキが効かなかった、車の故障』と平気で言う。

 現行犯にも関わらず『人違いです。自分はやってません』と言うヤツもいれば、『全く記憶にございません』と政治家のような発言をする者までいるのだ。

 世の中には数多くの『究極の自己中』で溢れている。


 そして何故か、その被害に遭うのはいつも善良な人達だ。


 もし、貴方が被害に遭い、命を落とし、そして下界の様子を見れたとして、その犯人がこのような発言をしていたら、貴方はどう思うだろうか。


 以前、自分は『この世の中は正直者が馬鹿を見る世界』と伝えさせて頂いた。


 何故このような考えに至ったのかは、こういった実体験による所が大きい。


 何故、フローリアが、サーシャが、マルチネスが、子供達が、このような目に合わなくてはいけないのか。

 彼らが一体何をしたというのか。


 何故、権力や暴力で人の権利を侵害しても平気な者がいるのか。

 何故、自分さえよければ他人に迷惑をかけても良いと思っている者がいるのか。


 どうか、誰か教えてほしい。


 何故、数々の異世界へ転移しても、世の中は理不尽さに溢れ、究極の自己中が存在している世界なのだろうか・・・



 

「がーはっはっはっ!中々良い花火だろ!参謀!」

「ったく。こっちまで血が飛んでくるだろが。向こうに向けてやれ。きたねーだろ」

「ちぇ。この花火の美しさが分からんとはなぁ・・・」


 パイナップル頭はちょっと残念そうな顔をするが、気を取り直して別の子供を輪の中から掴み上げる。


「うわあぁぁ!ヤダヤダヤダ!離せええ!」


「がっはっは!そんなに喜ぶなって」


 パイナップル頭は先程と同じように子供を脇に抱えると、頭蓋骨と身体を引き離す。


   ブシャアアアアァァ!!


 更に子供園に血の雨が降り注ぐ。


「ぐひっひっひ。たまんねーな。やっぱ子供は脆いから簡単に花火が出て楽しいなっ」


 パイナップル頭は、まるで子供が無邪気におたまじゃくしを潰して遊んでいるように、アリンコを潰して遊んでいるように、罪悪感など全くなく、子供を掴み上げて殺していく。


 なんで逃げないの??


 そう思う方もいるかもしれないが、まだ小学校低学年くらいの子供達が大人のように逃げる事は難しい。

 蛇に睨まれたカエルのように、目の前で起こっている悲惨な現実、理解が及ばないほどの恐怖、そして、どうすることも出来ない絶望感により身動き一つとれないのだ。


 唯一出来る事は、その惨状を見守ることだけ。

 涙を流しながら、いや、涙を流していることすら感じられなくなるほどの恐怖を目の辺りにして、血の雨を浴びながら、ただ、ただ、大柄な男の動きを口を開けて見ていた。


「さあて、今度はどうかなぁ」


 パイナップル頭はイッシッシと笑いながら次のオモチャを手に取る。

 掴み上げられた子供は全く抵抗しない。小刻みに震えながら、パイナップル頭の脇に抱えられた。


  プシュウウゥゥゥ・・・


 今までの血しぶきとは違い、力無く流血して、その生涯を終える子供。



 皆さんの血管には動脈と静脈と呼ばれる血管がある。

 腕や足、首筋などに見えている血管は全て静脈だ。動脈はもっと深い部分を通っている。

 この二つの違いは、動脈は心臓から血液を送り出して身体の隅々まで栄養を運ぶ血管、静脈は身体の隅々から帰ってくる血管。

 大きな違いは、動脈は血を送り出すため心臓から『圧』が大きくかかっている事。つまり動脈が切れたりすると、勢いよく血が噴き出す結果となる。なので、頭蓋骨を切り離された血管からはシャンパンのように勢いよく血が噴き出しているのだ。


 しかし、先程の子供は、生きる事を途中で放棄してしまったのであろう。

 パイナップル頭が首を引きちぎる前に心臓は鼓動を止めてしまったので、今回はあまり血が噴き出さなかったという訳だ。



「うん??これはハズレだったかぁ。まあ、こんなこともあるわな。ひっひっひ」

 パイナップル頭はまるでガチャでも回しているかのように、次のオモチャを掴み上げる。


「やだよぉ。なんでこんなひどいことするのぉ・・・やめてよぉ」

「がっはっは!なんでだろうなあ!多分楽しいからじゃないのかなあ?!」



  ブシャアアアアァァ!!



「ひっひっひ!いいねえ!良い花火だよお!さあ、ドンドンいこーか!・・・・・・うん??」



 パイナップル頭の視線の先にはプルプルと震えながらも必死に立っている子供がいた。

 おそらく、最年少の子供が壁に叩きつけられた際に割れたと思われるガラスの破片を、剣のように握りしめながらも必死に男を睨んでいる。



「ぼくが、まもるんだ・・・・ぼくがみんなを助けるんだ・・・・ぼ、ぼくはえーゆーになるんだ・・・えーゆーになってみんなを・・・こども園をまもるんだっ!」



 子供はプルプルと震える手を必死に鼓舞してガラスの破片を握りしめる。手のひらから血が滴り落ちた。


「ペータ!やめなさい!」

 泣き虫ペータといつも揶揄(やゆ)していたリーナが泣きながら叫ぶ。



「わあああぁあああぁああああぁああああぁぁぁ!!」



 ペータは大声を上げながら一生懸命、全身全霊で突進する。


「はーぁーい。ざーんねん」

 パイナップル頭は軽々とペータを掴み上げる。


「コイツめえ!コイツめぇ!」

 しかしペータは怯むことなくガラスの破片を必死に振り回して一撃を喰らわそうと頑張っている。


「ほらほらぉ。そんなに振り回したら危ないだろお?」


 パイナップル頭はペータの腕を無造作に掴むと、バリバリブチッっと強引に引きちぎる。


「ぎゃあああぁああぁあああぁ!!」


「悪い子にはお仕置きしないとなぁ。ぐひっひっひ」


 パイナップル頭はペータの両足を掴んで逆さにする。そしてそのまま足を左右に引き延ばす。バリバリブチブチッっと左足が股間から裂けて切り離された。


「ちぇ。やっぱチーズみたいに綺麗に裂けたりはしないんだなぁ。残念、残念」

「・・・・あ・・・・あっ・・・・」


 ペータは白目をむいて痙攣している。あまりの激痛に小さな身体は耐えられなかったようだ。

 パイナップル頭はポイッと、何事もなかったかのようにペータを投げ捨てると、次のオモチャに手を伸ばす。その手はリーナへと向かっていた。


「い、いやっ・・・・」

 反射的にリーナは後ろにいた子供を壁にして後ろに隠れる。


「えっ?り、リーナ!や、やめてっ」

 前に押し出される形になったサラは太い腕に捕まってしまった。



「やだああぁ!リーナ!ひどいよ!ひどいよぉ!ヤダヤダヤダ!死にたくない!死にたくないよぉぉ!誰か助けてぇ!誰かぁ!」



 パイナップル頭につまみ上げられたサラは泣き叫ぶ。そんなサラをリーナは絶望の表情で見上げていた。



「ご、ごめんなさい・・・ごめんな・・さい・・・ごめん・・・なさい・・・」

 豪快に血しぶきを上げているサラに、リーナはうわごとのように『ごめんなさい』を繰り返している。



「がっはっはっ!コイツは中々だな!良い花火だったぜえ。さてさてぇ、次はぁ・・・あーん。お前、何持ってるんだあ??」



 パイナップル頭は、リーナの隣で必死に祈っているポンタを見て尋ねる。確かにポンタは手に何かを持って必死に願いを込めているようだった。

 パイナップル頭は怪訝な顔をして、ポンタの手に持っているモノを奪い取る。



「や、やめろー。返せー。返せぇ」

「あーん。がっはっは!ぎゃっはっは!おい!コイツ、コンドームに祈りを捧げてるぜ!」

「おいおい、マジかよ!」

「コンドームの神様ってか?!」

「ぶっ・・・ぎゃはは!ダメだ!笑いを堪(こら)えきれん!バカヤロー。俺は拷問で忙しいんだ、笑わすな!」

「ぐわっはっは。わりーわりー。おい、坊主。これが何だか知ってるのかぁ?」


「これはお守りなんだっ!フローリアねえちゃんが毎日お祈りをしてればかみさまが守ってくれるっていってたんだっ!返せー。返せぇ!」


「がっはっは!そうかそうか。そりゃ悪かったな!よしよし。それじゃあこれは坊主に返そう」

 パイナップル頭はポンタにコンドームを返すと、そのままポンタをつまみ上げる。


「それじゃあ俺と勝負な。本当にコンドームの神様が守ってくれるか見てみよう。いっひっひ」

「がはは!そりゃいい!見てみようぜ!」

「必死に祈ってて笑うわ!」

「ったく。お前が笑わすから俺の拷問の気分も薄れちまったじゃねーか。まあいいか。十分楽しんだしな。んじゃ俺も殺すか」



「おねがいします・・・おねがいします・・・・おねがいします・・・どうかみんなを助けて・・・かみさま・・・おねがいします・・・おねがいしますっ・・かみさまっ・・・どうかっ・・・どうかっ・・・みんなを助けて・・・どうかっ・・・おねがいしますっ・・・・おねがいします・・・かみさまっ・・・」

 必死に祈りを捧げるポンタ。



「がーっはっはっは!さあっ!どっちが正しいのかなああぁ?!?!俺様とコンドームの神様。神様は本当に守ってくれるのかなぁ?!?!」



 大笑いのパイナップル頭はポンタの頭を大きな手で掴む。緑色のモヒカンもミールの喉元に剣を突き立てた・・・・


 園長も子供達も、数秒後の絶望の光景を頭に浮かべていた。ミールも完全に心が打ち砕かれており、剣が喉に突き刺さるのを無抵抗に受け入れていた。

 正に絶体絶命と思われた、その瞬間。


 ポンタの手の中にあるコンドームは光りの中へと消えていく・・・










           奇跡











 閃光のような・・・



 轟音のような・・・



 かまいたちのような・・・



 ここにいる誰しもが反応出来ない速度で、白く光るミールがポンタの頭を掴んでいた腕を切り離していた。


「はあぁ???」


 あっという間の出来事に、まだ脳まで感覚が届いていないのであろう。パイナップル頭は間抜けな声を出す。

 しかし、直ぐにダクダクと流血している腕を見て、大声をあげる。


「ぬああぁあぁぁ!痛え!痛えぇ!!」




    ビュワシュンッ!




 更にミールが剣を振るう。いや、振るっているように感じた。それほど、凄まじいスピードの動きに目が追いつかない。


 その一振りはアッサリとポンタを抱えていた腕も切り落としていた。ドサッと地面に落ちるポンタ。


「ひいいっ!やめてくれ!助けてくれっ!」


 両腕を切り落とされたパイナップル頭は尻餅をついて後退る事しか出来ない。そんな命乞いをする大男をミールは冷たい瞳で見つめていた。


 ミール自身、かなりのダメージを負っていると思われる。全身に刺し傷があり、血がポタポタと地面に滴り落ちていた。

 後ろに固定されていたロープも強引に引きちぎったようで、手首の皮がめくれている。

 爪も何枚も剥がされているので手のひらも血まみれだ。

 呼吸も荒く、普通に見れば瀕死に近い状態。

 しかし、そんな状態にも関わらず、圧倒的な力を示すミール。


 それは正に『奇跡』と呼ぶに相応しい状況であった・・・




 皆さんは『奇跡』という言葉を聞いてどんなイメージを持つだろうか。




 何の連絡もしてないのにデパートで出会ったっ。奇跡だっ!・・・と、単なる偶然の出会いに使う人もいれば、最初の10連でSSRが出たっ、奇跡だ!・・・と、低確率ガチャで当たりが出た際に使う人もいるだろう。

 偶々コンビニに寄ったお陰で事故に巻き込まれず寸前の所で助かった。奇跡だ・・・・と九死に一生を得た経験の時に使う人もいれば、ずっと昏睡状態だった人が意識を取り戻した、奇跡だ・・・・と、ほとんど症例がない状態からの復活に使う人もいる。


 このように人によって度合いに大きな幅があるのが奇跡という言葉だろうか。



 では、『神の奇跡』と言う言葉ではどうだろうか。



 この言葉でも人によって幅はある。

 


 今日、この馬券が外れたら無一文だ。お願いします、神様・・・やったー!神の奇跡だ!・・・と、言う人もいるだろう。


 高校の購買。いつもは売り切れの焼きそばパンが残ってた!これこそ神の奇跡だ!・・・と、言う人もいるだろう。


 ただ、多くの人は、人間にはどうしようもない現象が覆った場合に『神の奇跡』と言う言葉を使うのではないだろうか。


 例えば追っ手に追い詰められ万事休す。しかし、何故か海が開けて向こう岸までの道が出来ていた。これこそ神の奇跡・・・という現象だったり。


 例えば、普段は雨の降らない乾燥した荒野。見晴らしがいいので隠れる場所もない。このままじゃ追っ手に見つかってしまう。しかし、あれよあれよという間に辺りは大雨になり姿を隠せて逃げきれた。これこそ神の奇跡・・・という現象だったり。


 だがしかし、知識や技術が上がると、神の奇跡と思われた現象も、ただの必然だったのが分かったりもする。


 海が開けて道が出来たのは、たまたま干潮だから海が干上がっていただけで、いつも起こっている現象だと分かったり。


 乾燥した荒野も、レーダーを見ると、明らかに雨雲が近づいていただけで、その時間に雨が降るのは必然だったと分かったり。


 こう考えると『神の奇跡』とは、もっと非現実的な現象の事を指していると思った方がいいのかもしれない。


 例えば、干潮で道が出来た・・・ではなく、明らかな海がカパッと開き、巨大な海水の壁の中を進むような。


 例えば、真っ青な青空で、入道雲が発生しないような穏やかな気候なのに、唐突にモクモクと真っ黒な雲が現れ、大雨が降ってきたような。


 科学的に説明がつかない現象が起こった時、人々はその現象を『神の奇跡』と呼ぶのではないだろうか。



 では、次に、具体的にどのような条件が揃うと神の奇跡が起こるのかを考察していこう。



 ヒントは前回のお話で邪神と戦った場面にある。


 実はあの時、『神の奇跡』は起こっているのだ。


 え??どの場面??と思うだろう。

 

 あの邪神との戦いの際、説明できない現象が3つ起こっているのにお気づきだろうか。


 1つは、大ダメージを食らったミールをリリフ達が抱きしめ、一気に回復した場面。


 2つ目は、邪神が最後に使用した暗黒の渦。それが消えた場面。


 3つ目は、暗黒の渦との激突で体力がほとんど残っていなかったミールだったが、急にグングンと力が湧いてきて、邪神にトドメを指す事が出来た場面だ。


 この3つの中で、どれが神の奇跡だろうか。


 ここでもう一つヒントを出そう。


 ミールがコクリトと一緒にロゼニーニャと対面した時、こんなやり取りがあった。


『ええ、残念ながら神々の力を潤す程の陽のエネルギーは、まだまだ時間がかかりますわ。先日もこの近くで邪神が現出したのですが、その時も最後に少し力を与える事しか出来ませんでしたの』

『なるほど・・あの時の湧き上がる力はそれだったのか・・・』


 この言葉が示す場面は、3つ目のグングン力が湧いてきた時を示している。

 なので、3つめの場面はロゼニーニャの助力だったという訳だ。

 まあ、ロゼニーニャは神の眷属なので3つ目も『神の奇跡』と言えなくもないが・・・今回は別扱いとしよう。


 では、残りは2つ。さて、どちらが神の奇跡だろうか?


 正解は2つ目、暗黒の渦が消えた場面だ。


 あの暗黒の渦は、人々の『負のエネルギー』を利用して莫大な力を生み出す、邪神にとっての奥の手といえる技だ。

 その増幅率もズバ抜けており、その周辺で少しでも負のエネルギーがあれば、全てを飲み込む暗黒の渦を具現化する事が出来る。そして負のエネルギーがある限り、決して消える事はない。例え聖都が全て飲み込まれたとしても。例え邪神自身が飲み込まれたとしても。例え、全ての生命が飲み込まれたとしても。


 つまり、その渦が消えたとなると、あの場面で、200万近くの人々がいた聖都で、一切負の感情は無かったという訳だ。


 邪神も『バカな?!負のエネルギーが全く無いと言うのか?!ありえない!』と驚いていた。

 そう。以前にも少し説明させてもらったが、人々の意思を統一するのは不可能。絶対に無理な事なのだ。

 人間にはポジティブな人もいれば、ネガティブな人もいる。優しい人もいれば、嫌がらせをする人もいる。そして当然、『究極の自己中』も必ず存在する。

 そんな人々の意思を統一するのは不可能。ミールも言っていたが、あの場面でも絶対に『このまま聖都が滅んでほしい』と思っていた者は必ずいるのだ。


 又、大災害や戦争などが起こって著しく法の秩序が機能しなくなると、その瞬間を狙って盗みを働く者や、レイプなどの性犯罪に手を染める者が出てくるのは、どの世界でも同じ事。

 このように様々な考えを持つ者が混在する世界で、負のエネルギーが一切出ないというのは何と表現すればいいだろうか?


 負のエネルギーというのはなにも僻みや妬みのような思考だけではない。

 人々の『恐怖』や『絶望』も勿論、エネルギーとなる。

 ご存知の通り、邪神の巨大ビーム砲で聖都には莫大な被害が出ている。その影響で家族や恋人を亡くした者も数え切れない。

 そういった多数の遺族の人達からも、あの瞬間、悲しみや絶望の感情が生まれていないのだ。


 これは一体何と表現すればいいだろうか?



 そう。それこそが奇跡・・・・いや、これこそが『神の奇跡』というべきものだろう。



 邪神との戦いの中で、神の奇跡がどういう効果をもたらしたかはお分かりになったと思う。

 では、実際、何が発動条件、トリガーになっているのだろうか。


 当然だが、神の奇跡はほとんど起こらない。故に、かなりのレアな事象が条件になっていると思われる。


 あの時起こった事象を整理してみよう。


 まずは強烈な人々の応援があった。数多くの声援があった。

 そして願いがあった。祈りがあった。


 この『願い』の気持ちが非常に重要。それも純粋な願いであればあるほど、奇跡が起こる確率は上がる。

 またまた、以前のお話に戻ってしまい申し訳ないのだが、この物語が始まった時、自分は『ある存在』が創り出した扉に入って転移を果たした。

 その時に『その存在』がこう言っていたのを覚えているだろうか。



『願いを叶えるには非常に大きな変革の願い、呆れるほどバカ・・・純粋な想い、そして行動力。これがなによりも必要なの。だからそういった本物のバカ・・・素質がある者の前にしか扉は開かれない』と。



 元々『あの存在』は口が悪いので気づかなかった人も多かったかと思うが、実はそれが『キー』になっている。

 つまり、端から見ると『バカ』に見えるほどの願い、そして想い。それは時として非常に強力な力となる。現世の理(ことわり)を変えるほどの力を生み出すのだ。


 この作品も、読んでいると転移の扉が開いてしまう事がある・・・と、記載している。

 その言葉を信じられるかどうか、という事なのだ。


 ただの設定でしょ?・・・と思う人の前には絶対に扉は開かれない。

 

 いい歳して何言ってんだと笑われるだろう。いい加減、夢ばかり見てないで現実を見ろと呆れられるだろう。絶対無理だと否定されるだろう。

 それでも、バカ正直に純粋に信じきる事が出来る人にのみ、神の奇跡が起こる可能性があるという訳だ。


 しかし、純粋な思いだけでは扉は開かれない。もう一つ、非常に重要なアイテムが必要になってくる。


 それは『神器』と呼ばれるモノ。つまり神への供物が必要となってくるのだ。

 この世界では大きな力を得るには代償が必要になってくる。つまり『神の奇跡』を得るには代わりに捧げ物が必要だという訳だ。


 では、どんなモノが神器となるのだろうか。あの時の邪神との戦いを振り返ってみよう。


 あの時は特にめぼしい品物は無かったのでは?・・・と思うかと思うが、実は一つだけ、光に包まれて神へと捧げられた品物がある。

 それはアーニャがミールから貰った、草で作られた腕輪だ。それが暗黒の渦が消えるのと同じタイミングで光りの中へと消えている。


 実はあれはミールが『ある種族』から教えてもらった、特別な編み方で作りだした腕輪なのだ。その種族は神と同系統の力を持つと言われている。それゆえに元々あの腕輪には神器になる『素質』があったのだ。

 そして、その腕輪をアーニャはミールから貰ってからずっと身につけていた。その際にアーニャの純粋な思いを吸い取っていたのであろう。なので、ただの草の腕輪は『神器』へと昇格したというわけだ。


 つまり、神器となる『素質』がある品に『純粋な想い』が注がれると、その品は『神への供物』へと変化するという訳だ。


 なので、ここで言う『神器』とは神が創り出した品、神が使用する品・・・という意味ではなく、供物として捧げられるモノ。つまり神にとっての『ご馳走』というべき品の事なのだ。


 神のご馳走は純粋な願いや想い。その感情を沢山吸収した品が大好物。

 

 ローランちゃんからコンドームを貰ったフローリアは、それが大切なお守りだと信じて大事に保管していた。子供達もコンドームが大切なお守りだと信じて祭壇を作って毎日お祈りをしていた。毎日、毎日、日替わりで大切に管理して純粋な想いを捧げ続けた。

 

 そしてコンドーム自体も、神に近しい存在のエルフの血を引いているフローリアが関わった事、そしてエルフの里で沢山の陽のエネルギーに触れた事で『素質』を手に入れたのかもしれない。


 なので、一般的には聖なる品とは真逆の、いかがわしい部類に入る避妊具だが、フローリアや子供達からお守りとして扱われ、沢山の『純粋な想い』を吸収したお陰で、神様が大好物な『神器』、つまり供物へと昇格したというわけだ。


 そのため、コンドームは光りの中へと消えて、代わりに奇跡がもたらされた。

 その奇跡とはミールが白く光っていた事で説明がつく。おそらく何らかのスキルが与えられたのであろう。完全に絶望していたミールだったが、自身に白い光が包み込んだ事、そしてもの凄い力が湧いてきた事で、何らかのスキルを獲得した事を瞬時に察した。そして、その力を使い、絶体絶命のピンチを乗り越えたという訳だ。



 最後に1点だけ。まだ取り残された疑問があるだろう。



 結局、リリフ達が抱きしめて発動した強力な回復魔法は誰が使ったの??・・・という疑問だ。それに関しては、説明は別の機会にさせて頂く。いずれ必ず説明する時は訪れるので、どうかその時が来るのを楽しみに待っていて欲しい。




「ひいいっ!一体なんなんだ!お前は一体なんなんだっ?!」



 ミールは答えずに、また腕を横に振るう。ブワァ!っと真空の刃がパイナップル頭の足に襲いかかり、両足をあっさりと切断した。

 両手両足を切り離された大男は、仰向けにされて腕や足を引っ込めた亀のように身体をグワングワンと揺らす。大量の血が周囲に撒き散らされた。

 ミールはそんな大男の股間部分を足で踏み、冷たい目で見下ろす。そしてゆっくりと、まるで剣を鞘に収めるように下腹部を突き刺す。


「ぎゃあぁあ!やめてくれえ!やめてくれぇ!」


「・・・・楽しいんだろ?・・・」

 悲鳴を上げる大男に対し、ミールは無感情に呟く。


「お前言ってたよな?楽しい、楽しいって。子供の首を飛ばして楽しい、楽しいって。花火みたいで楽しい、楽しいってな」


「わ、悪かったっ!俺が悪かったあ!ゆ、許してくれえ!」

「まあまあ、そんなに喜ぶなよ。嬉しいのは分かってるって」


 ミールはなんの感情もないまま、再度、男の腹に剣を突き刺す。


「ちげぇ!違うって!喜んでねーって!やめてくれぇ!」

「あははは。そんなに大声出さなくても分かってるって。楽しいんだもんな?嬉しいんだもんな?」

 ミールは無表情のまま、何度も剣を突き刺す。その瞳は『狂気』の二文字が宿っていた。


「だから嬉しいわけねーだろ!おかしいんじゃねーのかっ!お前!」


「あはははは。冗談ばっかり。だってお前自身が言ってたじゃないか。なんでこんな酷いことするのって言ってる子供に楽しいからさって。俺には全く分からん感情だが、人それぞれ感じ方は違うからな。お前はこれが楽しいんだろうよ」


「わ、分かった!お、俺が悪かった!楽しくねぇ!ちっとも楽しくねぇ!」


「分かってる。分かってるよ。それも逆の意味なんだろ?嫌だ、やめてと叫んでる子供に、そんなに喜ぶなよって言ってたもんな。そこまで喜んでもらえると俺も嬉しいよ。そんじゃあ大サービスだ。お前が大好きな血で溺れさせてやるよ」


 ミールはそう言うと、ゆっくりと大男の首元に剣を突き刺す。


「悪かった・・・ゆるし・・て・・・げっふっ・・・げっふっ・・・・ひゅぅぅ・・げっ・・・」


 大男は直ぐに息苦しい感じになり、呼吸が出来ないように悶え苦しむが、目を血走らせながら動かなくなる。最後の表情は苦痛に満ちていた。


 窒息。


 この大男の死因だ。


 皆さんも飲み物が気管に入り、むせ返った経験はあるだろう。

我々人間は喉に気管と食道へと分かれる弁がある。この弁が閉じたり開いたりして誤嚥を防ぐ事が出来ているのだ。

 しかし、この大男のように弁の先に刃を入れられると、血は気管を通り、あっという間に肺を自身の血で満たす。その結果、呼吸出来なくなり窒息死するのだ。

 窒息は皆さんの想像以上に苦しい。少しでも苦痛を味合わせて殺したいミールにとってこれ以上ない殺し方なのだ。


 沈黙した大男から剣を引き抜き、少しだけ横に払って付着した血を飛ばす。そして冷たい目で生き残りの襲撃者達を見る。

 ここにいるのは参謀と呼ばれた緑のモヒカンと他2名の計3人だ。3人はミールの唐突の覚醒に未だ戸惑っている。



「テ、テメェ!一体何をしやがった?!」

「なんかのトリックだろ!アイツがあんな簡単にやられるはずがねぇ!」

「一体何が・・・」


 動揺する襲撃者達。この状況を受け入れられない2人は直ぐにミールに向かって襲いかかる。


「うらああぁ!死ねぇ!」

「黄色冒険者があぁ!舐めんなぁ!」


「落ち着け、お前ら・・・っ」


 参謀の言葉を遮り、ビュッと閃光が走る。直ぐに他2名の腕が空中に飛ぶ。


「ぎゃあぁあぁぁ!腕がぁ!腕があぁぁ!」

「ひいいぃ!痛え!痛え!ゆ、許してくれえぇ!」


 ビュワブオンッ!!


 低い唸り声のような閃光。今度は足や下半身を雑に薙ぎ払う。足や腸などの臓物が辺りに四散する。


「ぎょええぇぇ!!」

「ぎゃあぁああぁ!!」


 悲鳴を上げながら転がる他2名。ミールは直ぐに剣を口に突っ込む。


「ゆっ・・・ゆるひ・・・てく・・ひゃい・・ぎょええっ」

 涙目になって許しを乞う他2名に、剣を食わせて命を断ち切る。



「テメェ・・・一体何をしやがった・・・何故、そんな力が・・・」

 参謀は剣を構えて身構えるが、ミールは変わらず冷たい目のまま。表情を変える事はない。



 てっきり、ブチ切れ過ぎて逆に冷静になっている、もしくは感情が『殺す』という殺意のみになっている・・・と思っていたが、違うようだ。

 いや、多少はそういった事も影響しているかもしれないが、今はなによりも『瀕死状態』なのが大きい。

 完全に余裕がない、命の灯火が今にも消えそうな状態。故に感情を込めて相手に怒りをぶつける余裕もないので終始冷たい表情をしているようだった。


 そしてミールも、自身の延命などは一切頭になかった。

 高級スポーツカーがガソリン切れになりそうな感じ。圧倒的な馬力を持っているが、いつ止まるとも分からない。


 せめてコイツだけは殺そう・・・


 ミールは残り少ない時間を殺害に使う事を躊躇なく決定した。


 

 こんなミールに幻滅した人もいるかもしれない。

 やはり主人公はなんやかんやあっても殺人だけは犯さない。それが少年誌の王道なのだから。

 しかし、法の秩序が機能しない場所が多く、モンスターや盗賊が襲ってくるこの世界で不殺さずを貫くのは容易な事ではない。少しでもスキを見せたらこっちがやられる。一瞬の油断や情けが命取り。

 実際の戦場では綺麗事では済まされない現実があるのだ。



「ぬああああぁぁ!!」

 参謀がわめき声を上げながら突進してくる。そして剣を振り下ろした。


 ミールは全く視線を動かすことなく、正面を見据えたまま、ただ剣だけを横に振るう。乱雑に。無感情に。


 ブシャアアッッ!!っと宙を舞う参謀の両腕。切り離された・・・というより、吹き飛ばされたと表記した方が適切かもしれない。


「うぎゃあああぁぁあああぁぁ!!」

 悶絶して倒れる参謀。


 そんな参謀の股間を踏みつけながら、剣を腹に差し込む。更に悲鳴を上げる緑色のモヒカン。


「痛い痛い痛い!ゆ、ゆゆゆるしてくれえ!殺さないでくれええ!!」


「おいおい、随分と笑えない冗談だな。お前は今まで数多くの人間を拷問してきたんだろ?爪を剥がし、歯を引っこ抜き、目玉をくりぬいたんだろ?泣こうが叫(わめ)こうが関係なくいたぶってきたんだろ?」


 ミールは剣をそのまま下へと移動させる。腹から股間までザックリと割れ目が出来た。


「ぐぎゃああぁああぁああぁ!!」


「なあ、教えてくれよ。これのどこが正義なんだ?お前言ってたよな?『力が正義』だと。これのどこが正義なんだよ?なあ、マジで教えてくれよ。一体どこが正義なんだ?こんなにも罪の無い子供を殺し、女を性欲のはけ口にする。ただ遊ぶ金が欲しい、楽して儲けたい、力で他者を蹂躙するのが楽しくて仕方ない。こんな理由で力を使って他者を虐げる。これのどこが正義なんだよ。相手の人生をめちゃくちゃにしといて何にも感じないのか?自分さえよければ良いのか?相手の命を奪う事がそんなに楽しいのか?どんな生き方をすればお前らみたいに自分勝手な人間になれるんだ?なあ、教えてくれよ、なあ、なあ」


 ミールは引き続き、太股当たりを執拗に刺しまくる。


「ゆ・・・ゆるじでぐだちゃい・・・だずけでくだぢゃい・・・わ、わるがっだでず・・・じびゅんが・・・わるがっだでず・・・だずげてくだざい・・・」


 緑色のモヒカンは涙目で命乞いをする。


「いやいや。質問に答えてくれよ。この暴力のどこら辺が正義なんだ?俺は強者でお前は弱者。お前らから言わせたら俺が正義なんだよな?強者は弱者を一方的にいたぶっても良いんだよな?命を奪っても問題ないんだよな?だって俺が正義なんだから。しかもお前らはこんな暴力が楽しいんだろ?俺には全く分からないね。これの何が楽しいんだ?」


「いやじゃあ・・・ずびまぜん・・・ごろじゃないでぐだちゃい・・・じにだくないでしゅ・・・じにだくないでしゅ・・・」


「やれやれ。散々殺してきた奴ほど、いざというとき往生際が悪いもんだな。こうやって命乞いをしてきた連中を笑いながら殺してきたんだろ?力のない者達を拷問していたぶってきたんだろ?嫌がってる女を笑いながら犯してきたんだろ?だったら俺もお前をいたぶれるだけいたぶって殺してやるよ。もう殺してほしいとお前が願うくらいにな」


「ゆるじでぐだちゃい・・・だずけでくだぢゃい・・・じにだくない・・・じにだぐないでしゅ・・・だずげてくだざい・・・だじゅげでぐだちゃい・・・」


 繰り返し命乞いをする緑色のモヒカンに段々と怒りが込み上げてくる。


「ふざけるなよ・・・・・ふざけんじゃねええ!!」

 ブスッ!

「お前はっ!」

  ブスッ!

「散々!」

   ブスッ!

「そうやって命乞いをする人間をっ!」

      ブスッ!

「無様に!」

         ブスッ!

「非情に!」

  ブスッ!

「残酷に!」

 ブスッ!

「殺してきたんだろ!」

     ブスッ!

「お前が言うな!」

        ブスッ!

「お前が言うな!」

 ブスッ!

「お前が言うなぁぁ!」

  ブスッ!ブスッ!


 ミールはブスブスと剣を目に、口に、首に、胸に、腹に、ありとあらゆる場所に刺しまくる。


「何故お前のようなヤツが存在してるんだ!サーシャもマルチネスも一生懸命子供のお世話をしていた!自分のことを二の次にして頑張っていた!将来結婚しようと未来に向けて頑張っていた!子供達も寂しさを見せずに頑張っていた!英雄やケーキ屋さんを開くんだと夢を語っていた!みんなで助け合ってワガママ言わずに頑張っていた!そしてフローリアは差別を受けながらも懸命に生きた!母を想い、子供達を想い、優しくみんなを助けていた!何故死ななければならない!何故こんな目に遭わなくてはならない!何故お前のようなヤツに殺されなければならない!お前が死ね!お前が死ね!お前が死ねぇぇ!」


 完全にグチャグチャになった緑色のモヒカンに対して、いまだ怒りが収まらないミールは、何度も何度も剣を刺し続ける。


「冒険者さま・・・」

 園長が子供を抱きしめながら心配そうに声を掛ける。


 ハアハアと荒い息づかいをしていたミールだったが、ガクッと膝を折る。血が地面へと滴り落ちた。


 どうやらここらが限界のようだ・・・・

 出来ればお頭と呼ばれたアイツを殺したかった・・・

 このままではここにいる園長や子供達が再度犠牲になってしまうだろう。

 しかし、もう身動き一つ出来そうにない。

 怒りと憎しみに駆られて我を忘れてしまったが、自分の回復を優先した方が良かったのかもしれない。



 やはり冷静さを失うとロクな事にならんな・・・



 ミールは少し笑みを浮かべると、そのまま仰向けに大の字で倒れ込む。


 ホントらしくなかったな。こんな世界だと分かってたはずなのに・・・

 しかもあの質問。思い出しただけで笑えてくる。


『なんでこんな事をする?!』


 何でと問いつめた所で何も変わらん。いくら正論を言っても伝わらん。相手は自分が悪いなんて1ミリも思っていない。そんな事分かってたはずなのに・・・

 我ながらバカな質問をしたもんだ。



「はあぁぁ・・・」



 ミールは出来る限りの小さなため息をする。大きく息をするだけで痛いからだ。

 全身からダクダクと血が流れているのが分かる。もう助からん。



 ここまでか・・・



 結構気に入ってたんだけどなぁ。この世界。

 


 まだまだ元気に照らしてくる太陽の光と重なり、記憶が走馬灯のようにフラッシュバックする。



 リリフは元気にしているだろうか。セリーは今の時間だったら何か食べてるだろうな。ルクリアは勉強中かな。ブルニやリューイはすっかり人間の生活に慣れたな。アーニャは正式な領主となって忙しい毎日を過ごしてるだろう。ピコルにザクトーニ。ピエールにグワンバラ。そしてクワレルにピッケンバーグ。


 ここ最近の出会いに感慨深い想いが湧き起こる。


 これだけの大惨事だ。きっとこの村の事件は世界中に広まるだろう。犯罪者はもちろん、犠牲者も一人一人確認されるだろう。犠牲者の中にルーン国籍の者がいた。その情報は直ぐに聖女に伝わるはず。そして聖女からアーニャやリリフ達に伝わるだろう。


 どんな顔をするのかな?

 泣いてくれるだろうか。悲しんでくれるだろうか。

 クワレルは怒りそうだな。


 ああ、もうダメだ。もう考える事も出来そうにない。




 最後に美しい女性が微笑んでいる姿が、脳裏に浮かんでくる。




 楽しかったな・・・・






      ピュイイイイイインンンン・・・







 ミールが一筋の涙を流しながら瞳を閉じた、正にその時。唐突に説明のつかない緑色と黄色の光に包まれた。

一気に意識が回復し、傷も塞がっていく。


「?!?!?!?」


 状況が理解出来ないミールは少しだけ頭を上げる。するとそこにはフワフワとしたエレメント系の物体が浮かんでいた。その小さな物体は心配そうにミールを覗き込んでいる。



「あれ・・・お前は・・・」

 ミールの脳内が彼の名前を検索しているよりも早く、ミールの名前を呼んで駆け寄ってくる者達が現われた。



「ミール君!大丈夫かっ?!」

「ミールの旦那!無事でやんすかっ?!」

「先生っ!」

「だ、大丈夫ですか・・・ね。僕は何の戦力にもならないですけど・・・」


「ミールさん、一体何が・・・っ・・・」


 駆け寄ってきてくれたのはローランちゃんやカイン達。しかし全員、子供園の敷地に入るなり、ギョッとする。


 それもそのはず。辺りには大量の血の水溜まりが出来ており、顔の無いフローリアらしき死体、顔がグチャグチャになったサーシャやマルチネスの死体、首が引きちぎられた多数の子供達の死体・・・

 辺りには沢山の生首、血しぶき、そして異臭に溢れている。

 正にこの世の地獄のような光景だった。


「こっ・・・」

 あまりの悲惨な光景に、ローランちゃんも言葉を失う。


「そうか・・・今のはスパーチクの魔法だったのか。流石だな。触媒なしでここまで回復できるとは」


 ミールの言う通り、流石は第4眷属の魔法だ。人類が到達できない回復力で、瀕死のミールは普通に話せる程度には回復できていた。

 しかも、傷口はもちろん、緑のモヒカンに剥がされた爪もすっかり元通りになっている。

 修復魔法には『触媒は必須』という人類の常識をあっさりと覆(くつがえ)したスパーチク。

 いや、もしかしたら系統自体が違うのかもしれない。人間が扱う回復魔法よりも強固な魔法式が組み込まれているように感じた。


「ありがとな、スパーチク。お陰で助かったよ」

 ミールはゆっくりと立ち上がりお礼を言う。スパーチクはエッヘンとドヤ顔をしていた。

 

「師匠。帰ってくる時間、早くないですか?まだ15時前ですよ」

 ミールは隅で転がっている『畏怖のお面』を拾いながら尋ねる。


「いや、カイン君に園長から通話が来てね。したら、1コールだけして直ぐに切れたと言うじゃないか。カイン君が折り返しても全く出ない。何かの間違いかとも思ったが、また1コールだけして直ぐに切れた。再度、折り返しても反応無し。そこで僕はミール君に通話をかけたのだよ。そしたらミール君も出ないじゃないか。これはオカシイと相談していたら、また園長から1コールさ。これは『SOS』の合図だと確信してね。発掘を切り上げて村へ引き返してきたという訳さ」


 なるほど。通話はお互いに繋がった時に初めて魔法膜が張られる。つまり、コールするだけなら比較的バレずに行うことが可能だ。なので、園長はスキを見てコールを繰り返し、カイン達に危機を伝えようとしていたようだ。


「そうですか。すみませんでした。怒りに我を忘れてしまっていたので師匠のコールに気づかなかったようです」

 ミールはふらつきながら、地面に転がっているフローリアの細身の剣を拾い上げる。


「ミール君・・・大丈夫か?・・・」


「僕は大丈夫です。師匠達が来てくれて本当に助かります。お昼頃に殺人ギルドからの襲撃を受けました。ヤツらはフローリアさんが狙いだったようです。師匠、そしてカインさん。悪いですが、子供達の事、宜しくお願いします。僕はヤツらを処分していきますので」


「いやいや。ミールさん、アンタは見たところ重症だ。そんな身体で殺人ギルドの連中を相手にするのは流石に危険だ。オレが行こう」

「そうだぞ、ミール君。第一、君は人間相手には力を発揮できないじゃないかっ。気持ちは分かるがここはカイン君に任せたまえっ」


「いえ。奴らは・・・アイツらだけは僕が皆殺しにしないと気が済みません」

 ミールの言った『皆殺し』という言葉に、ゴクリと唾を飲み込むローランちゃんやカイン達。


「カインさんはこの園を守って下さい。奴等は村人全員を殺すつもりなので再度ここに来る可能性があります。そんな時に師匠だけでは太刀打ち出来ないでしょう。ここは結界内ですからね、師匠の魔法も効果は薄いですから」


「し、しかしミール君。それは君も同じじゃないか。能力を制限されている君が殺人ギルド相手に戦えるとは思えんぞっ」


「大丈夫です・・・」

 ミールはポツリと呟くと、なんと自身にフローリアの剣を突き刺す。深々と刺さった剣からは大量の血がボタボタっと流れ落ちた。


「?!?!?!?!?」

 意味が分からないローランちゃんやカイン達はビックリする。直ぐにスパーチクが回復するべくミールに魔力を込めたが、それを力強く拒否するミール。


「スパーチク!待て!」

「ど、どうしたと言うんだっ?!ミール君!このままだと死んでしまうぞっ!?」


「ス、スパーチク・・・いいか、よく聞け・・・はぁはぁ・・・俺を・・・この状態で維持してくれ・・・回復し過ぎずに・・・この『瀕死』の状態を維持するんだ・・・俺は当然動き回る・・・それに合わせて回復するんだ・・・かなり難しいと思うがお前なら出来るはず・・・どうだ?いけるか?」



 ミールは確信していた。

 自分の能力、新たなスキルは『瀕死状態』が発動条件になっているのだと。

 何故なら、あれほど溢れ出ていた力がスパーチクから回復魔法を受けた瞬間、消え去ってしまったのだから。そして現在、瀕死状態になった途端、再度、力が無限に溢れ出てきている。

 このスキルに名前を付けるとしたら『瀕死時、能力覚醒』・・・いや、『瀕死時、能力爆発』というべきか。それほど、筋力、俊敏性、魔力。全ての能力が桁外れに上がっていた。



 ミールに問われてスパーチクは真剣な表情でコクリと力強く頷いた。


「よし。流石は第4眷属様だな・・・頼むぜ、相棒っ!」

 ミールは拳を突き出す。スパーチクもそれに合わせてグータッチをした。


「よしっ!行くぞ!ついてこい!」

 ミールの呼びかけに力強く頷いたスパーチクは、猛スピードで走り出したミールに付いていった。

 その背後から大声が飛んでくる。



「召喚主は私なんですけどおおおぉぉぉおぉぉ???!!!」





 ミールは駆け出して村の中心部へと入っていった。

 思ったよりもずっと悲惨な光景だ。ありとあらゆる場所に死体が転がっている。

 道具屋の主人も店先で倒れている。ケーキを大量に購入した店内では、人柄の良さそうな笑顔を浮かべる店主さんがショーケースの中でケーキと一緒に血まみれで倒れている。ルルの看病でお世話になった宿屋の女将さんも、裏手の倉庫の扉にもたれかかるように息絶えている。その近くで一生懸命、宿屋のお手伝いをしていた女の子は犬を庇(かば)うように背中にザックリと傷を負って共に倒れている。


 見回したところ、襲撃者達の姿は見えない。


 入り口の方向に集まっているのか?


 しかし、家の中から若干、人の気配がする・・・


「いやぁぁぁ・・・・いやあぁぁぁ・・・」


 微かに女性の悲鳴が聞こえてきた。ミールは躊躇なくバタンと大きな音を立てて家に入っていく。

 扉を開けて直ぐの右側の床で女性が3人の男にレイプされていた。女性の両手をそれぞれの男が拘束し、1人がだらしない顔をしながら行為に及んでいる。

 女性は涙を流しながら弱々しい声で嫌がることしか出来ないでいるようだ。


「なっ!なんだテメっ・・・」

「ひっ!」


 いきなり入ってきたミールを見て、威嚇の声を上げようとする襲撃者達と恐怖の表情を浮かべる被害女性。何故ならミールは『畏怖のお面』を装着していたからだ。

 女性からすると、いきなり『恐怖の魔神』が恐ろしい殺気を放ちながら家に入ってきたように見えたことであろう。

 ミールからしたら被害女性とはいえ、自分の能力や存在を知られるのは避けたい。

 これから多くの兵士達が訪れる。当然、この事件はババリオン国の威信にかけて捜査されるだろう。その時に、被害女性が助けてくれた人にお礼をしたいからとミールのステータスを読み取ってしまったら、その情報は捜査に携わる全ての人に伝わる。そうなると能力がバレる恐れがあるので、ミールは畏怖のお面を装着して恐怖で女性の心を支配し、ステータスを読み取る暇さえ与えないように行動しているのであった。


   ブオォッ!!

「きゃああぁあぁぁ!」


 ミールは声を上げる襲撃者達に最後まで言わせる暇を与えずに、閃光のような鋭い剣が男達の命を断ち切る。女はいきなり真っ二つになった男達の死体が血しぶきと共に自分にのしかかってきたので悲鳴をあげた。

 しかし、ミールは血まみれな女に気遣いの言葉を残すことなく、直ぐにバタンと音を立てて家から出て行く。



「はあ・・・はあっ・・・はぁっ・・・」

 ミールの呼吸も荒い。当然だ。今、正に瀕死状態なのだから。


 ゲームの世界と大きく違うのが、瀕死状態ではいずれ何もしなくても死ぬということだ。

 ゲームではHPが1あれば、HPゲージが1ミリでも残っていれば、問題なく行動できる場合が多い。 攻撃力や回避力も減ることはないし、ダメージを喰らわなければ死ぬこともない。


 しかし、現実世界で目の前に瀕死の人がいたらどうするだろうか?

 当然、直ぐに救急車を呼ぶだろう。何故ならほっとけば死ぬからだ。

 又、瀕死状態で動き回れば、敵の攻撃を食らわなくてもダメージを負う。傷口が開いたり、血が内部に溜まって臓器を圧迫したり。もちろん大量の出血はそれだけで死因になりうる状態だ。

 なので、回復魔法で『瀕死状態』を維持するのは非常に困難。ミールの動きに合わせて回復度合いを調整しなければならないからだ。

 正に人類を超える存在、スパーチクだからこそ出来る芸当だろう。



 正面の角の家からも人の気配。バタンと音を立てて入っていき、いきり立つ襲撃者達を内臓ごと吹き飛ばす。『ギャアアア!』と救出された女の悲鳴が聞こえてくるが構うことはない。直ぐに次の襲撃者達を探す。



 くそ。思ったよりも散らばっている。これでは効率が悪すぎるな。



 ミールは少し考えてからダメ元でクルッピを呼び出してみた。


 クルッピの能力は敵の存在を知らせてくれる『アラート』だ。

 クルッピ自身が気まぐれなので精度は今一つだが、もしかしたら襲撃者達の位置を教えてくれるかもしれない。

 あまりこういう呼び出しをしたことが無かったので出来るかどうかは不明だが、出来たら儲けもん・・・程度の期待度で呼び出してみることにした。


 久しぶりに呼び出されたクルッピは元気いっぱいに出てきたが、直ぐにスパーチクを見てムッとしたように見えた。スパーチクほど具現化精度は高くないので表情などは読み取るのが難しいが、そんな感じに見える。

 スパーチクはスパーチクで、クルッピを見下したように偉そうに腕を組んでフワフワと浮かんでいる。

 プッチーンっと音が聞こえてきそうなジェスチャーをしたクルッピは、スパーチクの前に飛んでいき睨んでいるようだ。かなりスパーチクをライバル視しているように感じる。


 互いの目線からバチバチっと閃光が放たれていた。


 おいおい。相手は第4眷属様だぞ?・・・分かってるのか?


 圧倒的な立場の違いを、ものともせずにケンカを売ろうとしているクルッピに一抹の不安を覚えるミール。気を取り直してクルッピに呼びかける。


「クルッピ。すまんがこの村を襲撃している奴等の場所が分かるか?出来れば全滅させたいんだが、散らばっていて上手く場所が分からないんだ。どうだ?出来そうか?」


 ミールに言われてピクンと縦に揺れたクルッピだったが、直ぐにムムムーっといった感じで力んでいるように見える。色もほんのり赤みがかかっているので、どうやら頑張ってくれているようだ。

 そして直ぐにピコンッと白く点滅して『こっちこっち!』と言わんばかりにミールを誘導し始めた。


「お?!いけそうか?ナイス!」

 ミールはクルッピについていく。直ぐ近くの家の2階部分で上下に激しく揺れるクルッピ。


 この家の2階ってことか?

 ミールはちょっと不安げに扉を開けて階段を登っていく。直ぐに人の気配がしてきた。

 奥の部屋で男が女の髪を掴んで、まるで道具のように強引に性欲を満たしているのを発見する。直ぐにフローリアの剣を男の頭から1直線に下に振り下ろして始末した。

 解放された女は放心状態。全身に男の血を浴びながら悲鳴すら上げられないようだ。


 とはいえ、クルッピの索敵能力はかなり高いようだ。ミール個人だったらこの場所は中々見つけられなかったであろう。

 クルッピの能力が信頼できるモノだと分かったミールは、直ぐにその場を離れて次の現場に向かう。


「いいぞ!めっちゃ良いぞ!クルッピ!そのまま全員見つけてくれ!」


 クルッピは『了解しましたっ』という感じに見えるジェスチャーをしながら直ぐに別の場所に飛んでいく。


 クルッピの協力もあり、確実に着実に襲撃者達を始末していくミール。


 襲撃してきた馬車は3台だった。あの大きさから考えて、1台にだいたい10名前後が乗っていたと予想できる。つまり殺人ギルドの人数は多くて40名くらいだろう。


 だいたい8割は潰したな。あともう少し。絶対に全員、フローリアの剣で血祭りにあげてやる。お前らの生き血をこの剣に吸わせてやる。

 ミールは憎悪の炎を宿した瞳で剣を振い続けた。


 クルッピはかなり優秀で、ピコンッピコンッと機敏に動いて正確に位置を教えてくれている。もしかしたらスパーチクに対抗意識を持ったお陰で、いつも以上に能力を発揮できているのかもしれない。


 クルッピは村の入り口付近の方向を指差す(指は無いが・・・)


 入り口の広場には10人ほどの襲撃者達が、村の女を集めて襲っていた。女達はかなり乱暴に扱われているので、もしかしたら最後は殺すつもりなのかもしれない。

 絶望の表情を浮かべた女達は、涙でぐじょぐじょになった顔で必死に耐えていた。



 突風のような。


 稲妻のような。


 しなるムチのような。



 ミールの怒りの剣は唸りを上げながら撒き散らされ、襲撃者達を一瞬の間に肉塊へと変えた。女性達の悲鳴が上がる。


 ミールは直ぐにその場を離れて、結界外の村の入り口へと向かった。


「どうだ?クルッピ。まだいるか??」

 ミールの問いかけにしばらくムムムーっといった感じで頑張っていたクルッピだったが、フリフリと首を横に振るようなジェスチャーをした。もうこの村には襲撃者はいないようだ。



 しかし・・・・



 アイツがいない。


 そう。フローリアの心臓と頭部を持ち去った、お頭と呼ばれた男がいなかった。


「ホントか?!少なくとも、もう1人いるはずなんだ!お頭と呼ばれた青いバンダナを巻いた男がいるはずなんだ!頼む!クルッピ!頑張って探してくれ!」


 ミールの必死の呼びかけにクルッピは再度、ムムムーっといった感じで左右に揺れている。色がかなり真っ赤になっているので相当頑張っているみたいだ。


 そこでミールは気付く。


 馬車が2台しかない。3台あったはず・・・


 そうかっ!


「クルッピ!外だ!既に結界の外に出ているんだ!この近くで馬車で逃げてる奴はいないか!この村に向かってきている馬車じゃない!逃げている馬車だ!」


 クルッピはピコピコと点滅して目を回しているようなジェスチャーをしている。どうやら範囲外のようだ。



「頼む!クルッピ!お前だけが頼りなんだ!頼む!」



 ミールの真剣な言葉にクルッピは小刻みに震える。武者震いをしているかのように見えた。そして再度、ムムムーっといった感じで必死に索敵し始めた。色が赤紫色になっているのでかなり必死に、限界を超えて索敵しているように感じる。


 しばらくしてピコンッと白く点滅して『こっち!こっち!』というジェスチャーをするクルッピ。


「見つけたかっ!ナイスだ、クルッピ!よし!スパーチクも行くぞ!」


 大きく頷くスパーチク。直ぐにクルッピが対抗するかのようにスパーチクの前でミールを誘導した。スパーチクも負けじとクルッピの前に出る。

 競い合う二体のエレメントに引き連れられ、ミールはグングンと進む。今は能力が飛躍的に上がっているので馬車よりも速いスピードで走る事が出来ていた。


 2〜3分くらい猛スピードで走っていると、地平線の先に馬車らしきモノを視界に捉えた。ミールは更にスピードを上げたのでスパーチクも必死にフォローしている。



「いやあ、お頭。先に出発しちゃって良かったんですかい?」

「問題ないさ。後は参謀に任せとけばいい。それよりもこのブツだ。コイツを絶対に依頼主に届ける。これが最優先事項だ。万が一、早めに聖都から輸送隊が到着でもしたら何が起こるか分からんからな。慎重に行動するに越したことはない」


「お頭って案外真面目っすよねぇ」

「ぎゃははっ。そうそう!カタギの冒険者みたいだぜ!」


「バカ言え。お前らが不真面目すぎんだよ。とはいえ、そりゃ今回みたいな依頼だったら慎重にもなるさ。報酬が破格だからな」

「前3億、後に5億でしたっけ?確かにオイシイっすね」

「だなだな。中々、前金で3億出す依頼者は少ないっすよね」

「ああ。こんな金払いの良い依頼主は中々いない。だからこそ、ここで名を売って今後も使ってもらわねーとな。こんな依頼をする奴だ。絶対に1人で満足するはずがねぇ。次は混血じゃなくエルフ本体を狙う可能性もある。そん時の為に、ここでパイプを作っとけば次も依頼してくれるはずだ」

「うっひっひ。今度は10億とかの仕事も来るかもっすねっ」

「うひょー。たまんねえ。人殺しが出来て、更に金貰えんだからよぉー。生きてて良かったぁ」

「まだまだこれからだぜ。このまま名を売っていけば『青の霹靂』のように海外からもバンバン仕事が入ってくるようになる。そうなれば使い切れないほどの金が手に入るぞ」

「うひぃー。お頭の野望、ハンパねえぇ」

「ぎゃははっ。カタギの社長みたいだぜっ」


「あ~~ん??」

「どうした??」

 今まで会話に加わらずに馬車の御者をしていた男がいぶかしげな声を上げた。それに反応するお頭。


「いや・・・目の前に・・・」


 続けて『人がいる』という言葉を言う前に、ミールのジャンプ攻撃、馬車と鳥の連結部分を切り離す。


「クワワアアァアァァ!!」

 突然切り離された二羽の鳥はびっくりして何処かへと逃げていった。


 動力を無くした荷車部分はガタンガタンとバランスを失い横に倒れる。お頭を含めた4人の襲撃者達は馬車から放り出された。


「なんだっ?!どうしたっ?!」

「なにがあったっ?!」

「どーなってんだっ?!」

「い、いやっ!人がっ・・・ぐえぇっ」


 御者をしていた男が説明しようとしていた矢先に、後ろから剣を串刺しにする。男は自身の首から剣が突き出ている状態が理解できずにプルプルと剣を触るが、そのまま息絶えた。


 ヒュンっと横に振り、そのまま首を落とす。そして頭の無い身体をドンッと足で蹴飛ばして襲撃者達を睨んだ。


「お、お前は?!」

「テメエは黄色冒険者!なんてことしやがる!」

「弱ええくせに、とんでもねー事してくれたなっ!殺してやる!」


 直ぐに剣を抜いてミールに襲いかかってきた。しかし、その振り上げた腕めがけて荒ぶる真空が牙を向く。


「ぐぎゃあああぁぁぁ!!」

「うぎゃああぁああぁぁぁ!」


 あっさりと腕を吹き飛ばされた男達の悲鳴があがる。切り離された腕は遙か彼方まで飛んでいた。


「ひいいっ!!な、ななななんだよこれは!」

「た、たた助けてくれっ!ひいいぃぃ!」


 腕を吹き飛ばされた男達は恐れをなしたのか後ろを向いて逃げ出すが、その足を横薙ぎで切り落とす。


「ぎゃああぁぁああ!!足があ!足がぁぁ!」

「嫌だああぁ!嫌だあぁぁ!痛い痛い痛い!」


 コイツらは俺の事を知っていた。つまりあの場でフローリア殺害に関与した者達ということだ。

 簡単に殺してたまるか。もっともっと苦痛を味合わせてやる。

 そんな憎悪の心に支配された瞳で、手足のない男達を見下ろしていた。


「ううう・・痛え・痛えよぉ・・お頭ぁ・・・助けてくだせえ・・・」

「嫌だあぁ・・・死にたくねえよぉ・・・」


 ミールはトドメを刺さない。このままじっくりと死に近づいていく恐怖を味合わせてやろうといった魂胆だ。


「テメエ・・・何があった?・・・身体中ボロボロじゃねえか・・・それで何故動ける・・・どうやってその力を手に入れた?・・・」


 ミールはお頭の問いには答えずに、転がっている冷凍箱を拾い上げマジックポケットに収納する。


 そして覇気のない瞳でフローリアの細身の剣をお頭に向けた。

 お頭もミールを睨みながら、ご自慢の棍を構える。ググッと低い姿勢になって、最短で棍を突き出してきた。


 ビュッ!   ビュビュッ!  ビュッ!


 お頭の流れるような、踊るような、全てが次の動作に繋がっている攻撃がミールに襲いかかる。

ミールはだらんと手を下げた棒立ちの状態。表情も覇気が無く、ぼーっとしているようにも感じる。ミールはその場からほとんど動かず、僅かに後ろや横に身を翻(ひるがえ)しながらお頭の攻撃を躱しているが、棍の連撃が凄まじく、完全には躱しきれていなかった。ミールの顔や腕などにアザが刻まれていく。


「うおぉぉ!お頭ぁ!」

「いけー!」


 死を待つだけの輩(やから)から声援が上がる。



       ビュイブオンッ!!



 そんな微かな希望を吹き飛ばすように、棒立ちだったミールの腕が突如、下から上へと風圧を伴って振り上げられた。

 まるでスローモーションのように空中高く舞い上がったお頭の腕は、ドサッと地面に着地する。


「ぐわあぁぁあぁぁっ!!」


 お頭は、あまりの激痛に棍を捨てて、切り離された箇所を手で圧迫する。腕は右肩からザックリと無くなっていた。

だが、まだ闘争本能は失っていないようで、キッとミールを睨む。しかし、その瞳に映し出された光景は、振り上げた剣を、今まさに振り下ろそうとしていた瞬間であった。


「まっ、待てっ!」


 お頭は左手を前に出し、ミールを止めようとするが、効果なし。振り下ろされた剣は左の手のひらを真っ二つに、そのまま左腕を見事に二枚に下ろしていた。


「ぎゃああああぁあぁ!!」


 先程よりも大きな悲鳴が上がる。

 真っ二つに切断された、お頭の左腕は骨が剥き出しの状態で、ピンク色の筋肉は筋の断面が綺麗に見えていた。


「痛てぇ!痛え!痛え!痛いっ!痛いっ!」


 お頭は左腕を動かして傷口を押さえようとするが、ボロンっと骨が筋肉から外れる。だら〜んと、ブラブラと、力なくぶら下がる左腕。



「や、やめてくれっ!お、俺が悪かったっ!お、おお俺が悪かったぁ!」



 お頭は迫り来る死の恐怖を受け入れる事が出来ずに、尻餅をついて後退(あとずさ)る。そんなお頭の右足、太もも部分をグサっと突き刺さす。


「うぎゃああぁあぁぁっ!」


 悲鳴を上げてのたうち回る。

お頭のピンチだが、先程まで声援を送っていた男達の声は全く聞こえてこない。

 当然だ。何せ腕や足を切断されているのだから。


 あれから既に2〜3分が経過している。既に大量の血液を失っている。成人男性の場合は3分の1程度の血液を失うと死に至る。動脈を切られた場合、止血しなければ3分ほどでその量に達するだろう。

 なので、先に倒された2人は既に意識が朦朧としており、このまま死ぬという事実を受け入れ始めていたのだ。


 少し前にも説明させて頂いたが、身体中には動脈が張り巡らされている。その動脈が切られたりすると大量の出血を伴う。

 それは心臓から圧がかかっているからで、近い部分、首などが跳ね飛ばされると子供のように血が吹き出すことにもなるし、腕などが切り離されると心臓の鼓動に合わせてダクダクと血が出てくる事になるのだ。

 また、血液がダダ漏れになればなるほど、身体中の血圧はドンドン下がっていく。

 例えばホースで水やりをしようとしても、蛇口部分の接続が上手くいかず、水が漏れている場合は、勢いよく散水する事が出来ないだろう。それと同じで漏れている部分を塞がない限り、ドンドンと圧力は下がっていき、身体中に血液が行き届かなくなる。

 もし心停止が起こっても、心臓マッサージや電気ショックを与えると蘇生する事が可能。しかし、3分ほど脳に血液が行き届かない状態が続くと後遺症が出てくるし蘇生率も50%を下回る。10分を越えた蘇生率はほぼ0%だ。従って、早急に止血する必要がある。

 しかし、両手、両足を切断された男達は圧迫止血をする事が出来ず、出血性ショックを起こしているという訳だ。


 もちろん、こちらの世界では回復魔法や修復魔法、そして蘇生魔法が存在するので貴方達の世界とは少し違うが、基本的な身体の作りは同じ。


 つまり、アニメや漫画で大量の出血をしても戦い続けているシーンや、腕や腹など明らかに動脈が損傷していると思われる場合でも戦い続けているシーンがあるが、それはあくまでも作品としての演出上の事。実際にはあり得ない事なので、皆さんが、もし現実でそういった場面に出くわした場合は、まず止血を優先する事をオススメする。



「た、たたた助けてくれっ!助けてくれぇ!」



 お頭は顔面蒼白でミールに懇願する。

 ミールはマジックポケットから魔石を取り出した。


「これが何か分かるか?高度な回復魔石だ。お前が依頼主を吐けば、これを使って助けてやる」

「い、依頼主?!そ、それはスワップの街の貴族だっ!本当だ!前金もソイツから貰ったから間違いねぇ!」

「名前は?」


「な、名前・・・は分からん・・・い、いやっ!違うんだ!護摩化(ごまか)そうとかじゃなくて本当に知らねーんだ!だが、アイツなら知ってる!俺達ギルドの連絡係になってるヤツだ!アイツが窓口で今回の依頼が来たんだ!名前はアイザック!アイツが仲介役で俺と向こうの代理人が直接会って、そんとき前金を受け取ったんだ!本当だ!間違いねぇ!」


「ソイツは今どこにいる?」


「スワップの街だ!東地区の『ローゼリアの酒場』で落ち合う予定だ!本当だ!通話してもいい!信じてくれ!」

「いや、通話は盗聴や追跡魔法を使用される恐れがあるから裏稼業の奴等はしないのが常識だろ?下手に今通話したら不審に思われる恐れがある。それよりもアイザックとやらの特徴を教えろ。ステータスの名前もだ」


「アイザックのステータスは『カルクーン』って名前だ!ボサボサの黒髪、口髭も黒だ!あとアイツは酒が飲めねえ!酒場でミルクを飲んでるヤツがいたらソイツがアイザックだ!間違いねえ!」


「そうか。なるほどな」

「うう・・・痛えぇ・・・痛えよぉ・・・は、話したぞ。ぜ、全部ホントの事だ・・・は、早く回復・・・してくれ・・・」


「は?なんで俺がお前を助けなきゃならないんだ?バカじゃねーの」


「なっ?そ、それは卑怯だっ・・・お前言ったじゃないかっ・・・話せば助けるってっ・・・」


「嘘に決まってんだろ?何でフローリアを犯して、殺して、生首を持ってった奴の命を助けなきゃならんのだ?逆に俺はお前がそう思う理由が知りたいね。お前は助けるのか?自分の大切な人を殺したやつを」


「ううう・・・分かった・・・1億・・・出すから・・・頼む」


 お頭は魔法通貨をミールに提示してくる。ミールは目の前に表示されている透明なウインドウに並ぶゼロの数を見てため息をついた。


「お前、この金を手に入れるのにどれだけの人を殺したんだ?そんな金受け取れるか、ふざけんな」


「わ、わかった・・・全額、これで全部だ・・・頼む・・・」


 ウインドウの数字が変わる。2億4583万9004グルドと表示されていた。ミールは最初に1億提示した男の思考にウンザリしながら返答する。


「全然足りねーよ。バカじゃねーの」


「ううぅ・・・分かった・・・この仕事を終えたら5億入るんだ・・・そこから1億渡すから・・・早く・・・」


「はあぁ・・・オーケーオーケー。分かった分かった。んじゃ、その金を被害者達に土下座で返してこい。そうしたら助けてやるよ」


「ううう・・・頼む・・意地悪しないでくれ・・・俺には妻も子供もいるんだ・・・頼む・・・二人目はまだ生まれたばかりなんだ・・・ここで死ぬわけには・・・いかないんだ・・・お前にも大切な人がいるだろ・・・分かるだろ、この気持ち・・・頼むから約束を守ってくれ・・・」


 ミールは深い、深いため息をする。


「ホントお前らってすげーよな。他人をバカにするが自分がバカにされるのは嫌。他人のモノを奪うが自分が奪われるのは嫌。他人を殺すが自分が殺されるのは嫌。そしていざ不利な立場になると『悲劇のヒロイン』ぶって自分の権利を主張する。相手が悪いと言い放つ。何でそうなったのか。原因は自分にあるとは一切思わない。本当にお前らの自分勝手さには呆れるよ」


「ううう・・・こんなに苦しんでるのに・・・弱い者イジメして楽しいのか・・・」


「ははは。よく言うぜ。お前言ったよな。わざわざ俺の目の前まで来て言ったよな。『弱いってのは罪』だよなって。てことは、お前は今、罪を犯してるんだよな?お前らの理屈だと悪いのはお前なんだろ?なあ、死ぬ前に聞かせてくれよ。これの何処が罪なんだ?みんなコツコツ努力を重ねている。辛くても逃げずに頑張っている。みんなお前らなんかよりもずっと強い人達だ。それなのにお前らはルールを無視して暴力を振う。そして自分らは強いと言う。だから自分らが正義なんだと言う。全く意味が分からない。お前らは弱い者イジメしてるだけだろ?本当に強い者には向かっていかずに弱い者ばかり狙って偉そうにしてるだけだろ?俺から言わせればお前らこそ本物の弱者だ。お前らこそ臆病者の負け犬だ。お前ら『偽物の強さ』こそが罪なんだよ」


「ああ・・・ううう・・・約束を・・・守らない・・・卑怯者・・・全部喋ったのに・・・嘘つき・・・悪魔め・・・絶対に・・・呪ってやる・・・」


「ふぅ~。ま、そうだよな。結局お前らと話すだけ無駄なこと。自分が悪いと思ってない奴に幾ら言っても無意味だもんな」


 ため息交じりにそう言うと、ミールは意識が朦朧としているお頭の目の前でしゃがみ込む。


「なあ、どんな気持ち?今どんな気持ちよ?腕や足を切り落とされて身動き一つ取れない。依頼主の事も仲間の事もぜーんぶ喋ったのに助からない。結局騙されて家族を残して死んでいく。本当に『バカでアホでマヌケな奴は罪』だよなぁ。ぷぅ・・クスクス」


「あ・・うう・・・あ・・・」


「そうだ。お前の家族も後で殺しといてやるよ。無様なお前の最後を伝えてな。くっくっく。ついでにお前の奥さんレイプしといてやる。あ~あ。バカな夫を持つと大変だよなぁぁ」


「や・・・め・・・・うう・・・」


「ほらほら。悔しかったら抵抗してみろよ。ねえねえ、もしもーし」

 ミールは剣でグリグリとお頭の身体を突っつく。しかし、彼の瞳からは既に光りが失われていた。


 ミールは立ち上がり、再度ため息をする。


「はぁ・・・やり返すってのは相手と同じ土俵に立つという事。それは自分の格を下げる事になるぞって師匠も言ってたなぁ・・・」


 ミールは剣を鞘に収めてマジックポケットに収納する。


「スパーチク、すまんが普通に回復してくれ。やっぱ瀕死はキツいわ」


 スパーチクは『おk!』と親指を立てて回復魔法を発動する。濃い緑色の光、そして薄い黄色の光に包まれた。

 じっくりと見てみてやはり確信する。どうやら人間が使う回復魔法とは少し何かが違うようだ。


 ミールは瀕死状態を脱出してウーンと伸びをする。この死体はこのまま放置だ。おそらく直ぐにモンスターが、遅くとも夜にはバジリスクの餌食になるだろう。


「さてと。とりあえずククラーソン村に帰るか。スパーチク、そしてクルッピ。本当に助かったよ、ありがとう」


 二体は『これくらい軽い軽い』てな感じでドヤ顔していたが、直ぐに互いに『俺の方が活躍した!』『いや!俺だ!』と言っているかのように、視線をバチバチさせながら飛び回っている。


「さて。帰りは歩きか・・・もう能力は解放されてないから結構かかりそうだな・・・おや?」


 ミールの視線の先には元々馬車を引っ張っていた2羽の地上を走るタイプの鳥が、少し離れた場所からミール達を見ていた。


「あれは馬車の鳥か。こっちに来てくれるかな・・・おーいっ」


 ミールはダメ元で鳥に向かって手を振って呼びかけてみる。

 動物使いの適性を持っているならまだしも、ミールはこの鳥からすると全くの他人。しかも血まみれだし、さっきまで争っていたしで、気に入られる要素はまるでない。

 案の定、何となくだが、1羽はこの場所を離れたがっているように感じた。しかし、もう1羽はミールの元へと進もうとしているようだ。

 互いに手綱で連結されているので『嫌だよ!怖いよ!』『大丈夫だって!行ってみようよ!』といった感じの綱引きが繰り広げられている。

 2羽はしばらく『クワックワッ』と鳴きながらお互いの意見を言い合っているようだったが、しばらくして首を上下に動かし近寄ってきた。


「おー。よしよし。偉いぞ」

 ミールが頭や首を撫でると嬉しそうに喉を鳴らす。『ほら、大丈夫でしょ』『ホントだ。さっきの人間と違って優しい』と言ってるようだ。何となくピンク色のトサカを持つ鳥が積極的で、水色のトサカが臆病な感じがする。


 元々馬車を引っ張っていたこともあり、鞍は背負ってなかったが手綱はある。ミールはピンク色トサカを持つ鳥の背に搭乗した。フワフワとしており温かい。背中も普通に胡座(あぐら)がかけそうなほど平面で座り心地も良かった。


「よし。そんじゃ、ククラーソン村まで頼むな」

「クワワァァ・・・」


 鳥さんはまるで言葉が分かっているかのように走り出した。そして10分ほど経って村に到着する。どうやらまだ聖都からの馬車は到着してないようだ。


 ミールは入り口方面を避けて裏手側から孤児院へと直接入っていった。


 すると園長や生き残りの子供達、そしてローランちゃんやカイン達が孤児院から少し出た先の廃材置き場の前で座り込んでいた。

 理由は直ぐに分かる。

 なにせ孤児院の敷地はまるで地獄のように死体が転がっている。血の池が出来ている。こんな場所に留まってしまったら、いつまで経っても心を落ち着かせることは出来ないだろうから。


 子供の人数は15人から8人まで減っていた。

 1人だけコクリトに抱きついて泣いているが、残り7名は無言。誰1人、口を開かない。

呆然としているような、絶望しているような、なにも聞こえてないような、なんともいえない表情をして座り込んでいた。

 一緒に暮らしていた子供達の血の雨を全身に浴びて髪はベタベタ。ほっぺには乾燥した血の跡が涙の筋を刻んでいる。

 そんな子供達をクエンデルとルルが、唇を噛み締めながら水タオルで拭っていた。


 

 よくテレビの報道で、ミサイルの爆撃を受けて唐突に家や両親を失った子供の映像を観たことがある人も多いかと思うが、その時に見せる子供達の表情そのものだった。



 ここから少しだけ、完全に個人的な考えで、物語には全く関係のない内容を語らせて頂く。

 語る内容も非現実的な事なので笑い飛ばしてもらって結構だ。

 ああ、また筆者がぼやいてるわ・・・とでも思ってもらいたい。



 こういう呆然とした子供の顔を見るといつも思う事がある。


 それは、戦争はやりたい人達だけが集まってやればいいじゃん・・・て事だ。


 砂漠でも荒野でも平原でも。

 地球上には人間が住んでいない、且つ広大な土地が幾つかある。

 そういった場所にそれぞれ集まってドンパチすれば良いのではないかと思うのだ。


 両者が同意した場合に限り書面で宣戦布告して、半年後にそこに集まって、好きなだけ殺し合えば良いのではないかと。

 互いに勝った場合は何を差し出すのか、見返りを事前に決めて戦えば良いのではないかと。


 そして1番やってほしい事が、必ずその国のトップ、つまり大統領が戦場に参加するという事。


 今まで散々目にしたであろう。

 虐げられている民族を救うためとか、自国の平和を守るためとか都合の良い理由を言って攻撃を指示する大統領を。

 自分は安全な場所にいて攻撃を指示する大統領を。

 民間の学校や病院を爆破しといて、あれは軍事施設だったと言い張る大統領を。


 攻撃を指示するのであれば、自分も戦場に立て・・・という事だ。


 権力を握った大統領が地位にしがみつくために、或いは選挙で支持を得るために、はたまた金儲けのために。こんな理由で戦争を仕掛けられたら、たまったもんじゃない。

 だからこそ、攻めるのであれば、その命令した大統領も同じ戦場に立ち、一般兵と変わらずに等しく命を危険に晒して欲しいのだ。


 この仕組みで戦争を仕掛ける大統領が果たしているだろうか?


 そしてなにより一番のメリットは、民間人が理不尽に巻き込まれる事が無くなる事。


 戦争で被害に遭うのはいつも民間人だ。誤爆や極端な思考を持つ者達の虐殺で死んでいく罪の無い民間人達。未来の希望を奪われる子供達、或いは家族を失い取り残される子供達。

 どんな国でも人種でも、良い人もいれば悪い人もいる。

 それを敵国=全て悪人と決めつけて殺し合う戦争は、いかに残酷な事だろうか。


 戦争を命令する大統領も、それを支持する民衆も。

 もっと戦争の悲惨さを知って欲しい。戦争をする愚かさを知って欲しい。


 しかし人間は気付かない。実際に自分の身に危険が及ばないと気付かない。こんなにも戦争は理不尽に人々の命を簡単に奪っていくのだということを。

 

 そして、自分の方が、自分の民族の方が、自分の国の方が優秀だと、驕(おご)った考えを持つ者達が、また戦争を引き起こす。


 どうか巻き込まないでほしい。


 子供達の平穏な日常を、力による侵略で奪わないでほしい。


 戦争はやりたい人達だけが集まってやる世界にはならないだろうか。

 呆然としている顔を見るたびに、そんな子供じみた考えが、いつも頭に浮かんでしまうのであった。




 子供達は呆然と廃材置き場の前で座り込んでいる。全員無言。ただ地面一点を見ながら時が止まったかのように呆然としている。

 この廃材置き場は子供達の遊び場だった。

 当然、園長からは出入りを禁止されていたが、施設の目の前にある事もあり子供達は内緒でよく忍び込んでいたのだ。

 その時に彼ら彼女らは『お宝』をゲットし、それをフローリア救出の報酬としてミールに差し出したという訳だ。


 つい先日までペータやサラが笑いながらお宝探しをしていた光景が目に浮かぶ。

 耳を澄ませば子供達の笑い声が聞こえてくるような。

 そんな遊び慣れた場所も、今では知らない場所のよう。


 目の前で生活を共にしていた友達を失った悲しみは、小さな心に深い傷痕を残すには十分だった。


 そんな子供達にかけてあげる言葉も見つからず、ただ頭や背中を撫でてあげることしか出来ないローランちゃんやカイン達であった。


「師匠。そしてカインさん。とりあえず襲撃者達は全員始末しました。これ以上被害が出ることはないでしょう」

「そうか・・・」


「皆さん。申し訳ないですが、しばらく子供達の面倒をみてもらえませんか?兵士たちもそろそろ到着するはずなので、その対応もお願いします」

「ああ・・・それは構わないが・・・ミール君はどうするんだ?」


「僕はやることがあるので一足早くスワップの街へと向かいます」

 そういうとミールは孤児院の敷地に入っていく。それを追いかけるローランちゃん。


「ミール君、一体何をする気だ?まさか・・・」


 ミールは首の無いフローリアの亡骸の前に座り、マジックポケットを発動する。開胸されていた事で折りたたみが利き、そして何よりフローリア自身が細身だったこともあり、亡骸はすっぽりとマジックポケットへと収納された。


「ええ。僕はフローリアさんを蘇生できるか試してみます」

「バカな事を言うんじゃない。彼女はもう蘇生できない。残念ながら、あまりにも損傷がデカすぎる。それくらい分かってるはずだぞ、ミール君。落ち着きたまえ」


 ここでは敢えて詳しくは説明しないが、蘇生魔法の特徴を二つだけお伝えするので覚えておいてもらいたい。


 一つは蘇生魔法を使用すると、同時に遺体の修復も行われるという点。

 例えば、お腹を負傷して出血を止める事が出来ずに運悪く死亡した場合。蘇生魔法を使用するとお腹の傷も修復される事になる。しかも、驚くべき事に触媒無しでだ。

 故に、蘇生魔法の系統自体はスパーチクが使用している回復魔法に近いのかもしれない。


 もう一つは、蘇生魔法は100%成功するわけではないという事。


 その成功率に大きく影響を及ぼす二つの事柄がある。

 それは『損傷具合』と『鮮度』だ。


 つまり、損傷が大きいほど確率は下がるし、死んでから時間が経過すればするほど確率は下がっていく。

 

 なので、遺体の損傷が大きい場合は、事前に修復魔法を使用して、ある程度傷口を修復しておく事が成功率を上げるカギとなるのだ。


 修復魔法って遺体にも効果あるの?・・・という疑問が出てくると思うが、これは遺体の鮮度にもよる。


 以前、リリフが腕を切り離された時、修復魔法で繋げた場面があっただろう。その時にマジックポケットから取り出された腕を見たココ院長が『正に今、切り離された瞬間のような鮮度だ!これならイケるかも!』と目を輝かせていたのをご記憶だろうか。

 このように、切り離された患部の修復や、死後の遺体の修復は鮮度が良ければ成功確率も上がっていく。

 逆に切り離された腕や遺体を、そのまま一日近く放置してから修復魔法をかけても成功する確率は低い。何故なら『生気』がほとんど残ってないからだ。


 人間は、死んだ瞬間から、あるいは腕などを切り離された瞬間から、細胞には酸素や栄養が行き届かなくなり活動が止まる。

 そして、1〜2時間後くらいから死後硬直が始まり、2日後くらいから腐敗が始まる。

 

 マルリの街の院長のように腕が良い修復士ならば死後1日経過しても修復は可能だろうが、出来るのであれば最低でも半日くらいの鮮度で修復しておきたい所。


 しかし、中々そう都合よくはならないだろう。


 そこで重要になってくるのが遺体の温度を下げる事だ。温度を下げる事により、バクテリアや細胞の活動を抑える事が出来て腐敗を防ぐ事が出来る。


 なので、損傷が大きい人の蘇生を望むのであれば、なるべく早めに修復魔法をかけるか、もしくは冷凍して遺体を一旦保存、しかるのちに修復魔法をかけて損傷箇所を治療するといった作業が重要になってくるのだ。



 今回のフローリアの遺体は鮮度の面では問題ない。

 頭部も心臓も直ぐに冷凍保存されたし、身体も死後硬直が始まる前にマジックポケットに収納できたので、これ以上腐敗する事はないからだ。


 しかし問題は、圧倒的に損傷が大きすぎる点。

 修復魔法で治療が難しい箇所は、生命維持に直接関わっている臓器の修復だ。

 つまり、心臓や脳などは難易度が非常に高い。

 なので、脳梗塞や脳挫傷、心筋梗塞や心筋症などなど。これらの修復は成功率が低いのが現状だ。

 にも関わらず、今回は胸部が開胸されて心臓自体が切り離されている。そして頭部まで切断されている。

 特に頭部は非常に細かく神経が幾重にも繋がって機能している。

 世界中の治療履歴を確認しても、頭部が切り離された状態から蘇生できたという事例は聞いた事がない。おそらく、おとぎ話の中でさえ出てこないほど現実離れした修復能力が必要になってくるだろう。

 

 だからローランちゃんは無理だと言って止めているのだ。


「僕のマジックポケットは腐敗をしないので、これ以上の損傷は避けられます。そして頭部も心臓も冷凍保存されているので可能性はあると思ってます。もちろん厳しいとは思いますが、気長に方法を探し続けていこうかなって」


「しかしっ・・・・・・そうか。分かったよ、ミール君。やれるだけやってみたまえ」


 ミール自身も充分、蘇生が難しい状態なのは知っている。しかし、今はどんなに微かな希望であっても縋(すが)りつきたいのだろう。

 そう感じたローランちゃんは否定するのを止めてミールの背中を押す。


「では師匠。僕はもう行きますね」

「待ちたまえ。それなら慌てる必要はないではないか。もう少し子供の側にいてあげてもいいんじゃないのかい」

「いえ、僕は他にやることがあるので」

「やること?・・・ハーフエルフ君の事以外になにかあるのかね?」

「ええ。まだこんな事をさせた依頼主が生きてますので。そいつも処分します」


「バカ言うんじゃないっ!これほどの大それた事を計画する者だぞ!かなりの大物だ!下手をするとミール君が消されるぞ!」

 ローランちゃんは珍しく語気を強めてミールを諭す。


「大丈夫ですよ、師匠。どんな事になっても最悪相打ちにはしますから」

「それがダメだと言ってるんだ!君が死んだらハーフエルフ君の事も全て水の泡だぞ!第一どうやってっ・・・・・」


 ローランちゃんがミールを説き伏せている最中。唐突にカインが結界方面へと走り出す。そして直ぐに若い男の腕を後ろで拘束しながら連れてきた。


「どうしたんだい、カイン君」

「この男がコソコソとこっちの様子を嗅ぎ回っていたからな。念のため拘束しといた」

「あ・・・この人は確か・・・」


「レギンスっ・・・・」


 ミールの言葉を遮り、園長が驚いたような声を上げる。

 午前中にフローリアと買い出しをしている時に話しかけてきた、元こども園の孤児だった。確か今は大工見習いとして働いていると言っていたが。


「なにをするっ?!俺はここの元孤児だぞ!心配になって見に来て何が悪い!」

「そうなんですか?園長」

「ええ。その通りです、カイン様。レギンスは2年前までこの園で一緒に暮らしておりました」

「そうか・・・それは悪かったな。あまりにコソコソしてたんで勘違いしたようだ」

「いや・・・カインさん。まだ手は離さないでください」

 手を離そうとしたカインをミールが止める。


「なんだ!お前には関係ないだろ!いいから手を離せ!」


「お前。最近よく嗅ぎ回っていたみたいじゃないか。フローリアから聞いたぜ。子供達の事、俺やカインさん達の事、そして村人の人数まで調べていた。ケーキ屋の主人も最近お前が村人の家族構成とかをよく聞いてくると言っていたぞ。なんでだ?」


 ミールはローランちゃんやカイン達と会話する時とは別人のように、冷たい表情をして質問する。


「し、知らん!俺はなにも関係ない!」


「殺人ギルド達は村人の人数まで正確に把握してたよ。なんでだと思う?」


「だから知らないって言ってるだろ!俺は関係ない!」


「村の中を見たか?見事に全滅しているぜ。若い女以外はな。事前に情報を知ってなきゃこうはならんだろ」


「だから!それと俺がなんの関係があるってんだ!」


「分からんか?そんなに把握されてるのに何でお前は生きてるんだ?」


「そ、それはたまたま出会わなかっただけだっ!」


「ほう。それはオカシイな。奴等は全滅させるつもりで動き回ってたぞ?ちなみに何処に隠れてたんだ?」


「そ、それは・・・」


「大方(おおかた)、自分でドーラメルクの結界を張って結界外で隠れてたんだろ?そうでもしなきゃ、あんな唐突の襲撃から逃げ切れないだろうからな」


「そんなのお前の勝手な想像だろ!俺はたまたま出会わなかっただけだ!それだけだ!」


「1番オカシイのが・・・」

 ミールは更に圧を強めて言葉を続ける。


「殺人ギルド達は全員殺したと言っていた。58人全員な。リスト通りだったって言ってたよ。オカシイよな。何故お前はリストに載ってないんだ?ずっと孤児院に在籍していて、2年前から大工見習いで働いている。普通なら間違いなくリストに載ってるはずだ。なのに乗ってない。つまりお前が情報を流していた張本人だからってことだろ?」


「!!」


「別に否定してもいいぜ。もうすぐ聖都の兵士が到着する。その時に重要参考人として引き渡そう。さてさて。これだけの大事件を引き起こした男がどんな刑になるのか楽しみだな」


「は、離せ!離せぇ!」


「おいおい。まさかこれから逃げようってのか?止めとけ止めとけ。無駄だよ。もうお前の人生は終了だ。しかし・・・まあ、正直に話すなら考えてやってもいいぜ」


「流石ミールの旦那でやんす。尋問がハンパねーっす」

「先生はドSなんですぅ」

「外堀を埋めながら追い込んでいくタイプですね・・・恐ろしい」


 レギンスはプルプルと震えていたが、このままだと本当に引き渡されてしまうと考えたのか自白を始めた。


「わ、分かった。話せばいいんだな?!その通りだ!俺が情報を渡した!」


「なんてことだい・・・世も末だね」

「レギンスっ!お前というやつは!」

 ローランちゃんは呆れて、園長はレギンスを叱る。


「だが、俺がしたのは情報を渡しただけだ!他の事は一切関与してない!第一、こんな襲撃になるとも思わなかった!俺は悪くない!」

「嘘だね」


 ミールの即答に動揺するレギンス。


「どういう事になるか分かってたはずだ。駐在兵士の状態。村人の人数。冒険者の数。邪魔になりそうなカインさん達の情報。何故、このような情報を欲しがっているのか。この情報を渡せば村はどうなるかは分かっていたはずだ。嘘をつくなら、やっぱり解放は無しだな」


「わ、わわわかった!そうだ!その通りだ!俺は分かっていた!逆に襲撃して皆殺しにしてくれるって聞いたから俺は協力したんだ!」


「レギンス!お前というやつは!子供達が可哀想だとは思わんのかっ!」


「全く思わないね。寧(むし)ろ俺はこの園のせいでマトモな職に就けなかった!みんな孤児院出というだけで差別してくる。もうウンザリなんだよ!」


「それはお前が頑張らなかっただけだろ?勉強はしたのか?努力はしたのか?」


「うるさい!お前に俺の気持ちなんてわかるか!大工見習いになって、二年経っても何も任されずに雑用ばかり。親方は『見て覚えろ』とか、『お前にはまだ早い』って言うばかり。結局、何もさせてもらえなかった!これなら兵士になった方が何倍もマシさ!」


「君ぃ。何もさせて貰えないと言うが、この二年間、君は何をしたんだい?時間はたっぷりあっただろう。その時間を使って親方の仕事をマネしたりしたかい?道具の手入れはしたかい?上手くなろうと自分から努力はしたのかい?言われた事しか出来ない者は、どんな仕事に就いても上手くはいかないだろうさ。君が兵士になっても10日でギブアップだろうね。舐めすぎだよ、兵士の仕事を」


「うるさいっ!うるさい!うるさい!うるさーい!お前らなんかに俺の気持ちが分かるもんか!もうウンザリだ!こんなチンケな村にいるから俺まで苦労する羽目になった!俺はもっとビッグになるんだ!なれるんだ!だから情報を売った!皆殺しにするって言ってたから協力した!フローリアも、親方も、俺をバカにした連中も、全員死ねばいいんだ!そうすれば俺は自由になれる!そして俺はこの金で街に行ってビッグになるんだ!」


「随分と安直な考えだな。お前みたいな世間知らずが街に行ったら、あっという間に食い物にされるだろうよ」


「レギンス・・・お前というやつは・・・孤児院の頃からお前はそうじゃった。下の子の面倒も見ずに自分の事ばかり。あまつさえフローリアに対しても厳しく当る。何回も言ったであろう。世の中は助け合いなのじゃと」


「うるさい!うるさい!ジジイが偉そうな事言うな!なんで俺が見返りもないのに世話をしなきゃならないんだ!ウンザリなんだよ!俺がこんなにも苦労してるのに誰も助けてなんてくれなかった!なのにアイツはエルフってだけで国から金が出る。エルフの血を引いてるってだけで優遇される。エルフは良いよな!なーんにもしなくても金貰えるんだから!ずりーよ!」


「馬鹿もんが。フローリアやエゼノアがこの孤児院にどれだけ寄付をしていたのか知っておるのか!補助金のほとんどを孤児院に入れて自分達は貧しい生活。それなのに子供達に笑顔で接してくれていたんじゃぞ!お前が『基礎魔法』を習得するために街へ行く渡航費もフローリアが危険な森へ何回も入り、薬草採取の仕事をして何とか捻出したんじゃぞ!フローリアが1度でも自分のためにお金を使った事があったか?!それに引き換えお前はなんじゃ!自分のことばっかりで感謝もしない!お前はなんと愚かな事をしたんじゃ!」


「うるさい!なんで貧しい生活してるなんて分かるんだ!そんなの分からないじゃないか!裏で良い思いをしてるに決まってる!それに楽(らく)して稼いでいる事は事実だ!俺は不公平が嫌いなんだよ!」


「君ぃ。不公平は嫌いって言ってるけど、君のは単純に自分が損をするのが嫌いってことではないのかい。他人がどうなろうが知ったことではない。でも他人が得をしているのは許せない。自分だけが得をしたい。正に発想が子供だね。幼児だよ、君は」


「うるさーーいい!所詮お前ら低脳な奴等なんかには分からないさ!でもアイツは分かってくれた。俺の事分かってくれたんだ!」


「アイツ?」


「そうだ!俺が酒場で飲んでたらアイツが来たんだ。そして言ってくれたんだ。お前は損をしているって。正当な評価をされてないって。過小評価されてるって。俺はもっとビッグになれるとも言ってくれた。だから、こんな村捨てて俺と一緒に成功を勝ち取ろうって言ってくれたんだ!だから情報を渡した!俺はアイツと一緒に成功をつかみ取るんだ!」


「やれやれ。おめでたい奴だ。まんまと誑(たら)しこまれやがって」

「悲しいでやんす。あっし、姐さんよりも酷(ひど)い人を初めて見たでやんす」

「コクリトさんよりも自分勝手な人っているんですね。ビックリです」

「ちょっとっ!私の評価、おかしくないですかっ?!ねえっ!ねえっ!」


「とにかく早く離せ!正直に話しただろ!俺は連中と共に街に行くんだ!待ち合わせしてるんだ!早くしないと出発しちゃうだろ!」


「全員全滅してるよ」

「なんだと?!」


「良かったな、君ぃ。合流してたら間違いなく、途中のフィールドで始末されてたぞ。おそらく、リストには載せずに待ち合わせにしたのは、死体の行動ログを読み取らせないようにする為だろうね。連れて行ってフィールドの途中で殺して死体を放り投げれば、あとは勝手にモンスターが食べてくれて証拠隠滅できるからね」


「そんな事はない!アイツは味方だ!アイツだけが俺を分かってくれたんだ!」


「アイツってボサボサの黒髪黒髭で、酒場なのにミルクを飲んでるカルクーンってヤツだろ?」

「な、なんで知ってるっ?!」


「通話してみろよ」


 ミールの冷たい言葉に、直ぐに片手を耳に置き、魔力を込めるレギンス。しかし、みるみるうちに顔面蒼白になる。


「ほらな。繋がらないだろ?向こうから通話登録解除されてるんだよ。騙されたんだよ。利用されたんだよ、お前は」


「そんなはずはない!そんなはずはない!」

 レギンスは諦めきれずに通話を繰り返す。しかし、通話どころかコールすらされない。完全に登録が解除されているようだ。


「やれやれ。襲撃は元々計画されてただろうが、こんなアホな奴のせいで数多くの村人が殺されることになろうとは・・・・僕はやりきれないよ」

「ううう・・・ワシが・・・ワシが育て方を間違ったのじゃろうか・・・すまん・・・すまんのぉ」


「いや。どうみても園長のせいではないだろう」

「そうでやんす。姐さん以上の自己中、誰が育てても一緒でやんす。いや、もっと酷くなるでやんす」

「なにせコクリトさん超えのモンスターですからね。手に負えないです」

「んんん~。確かに園長さんのせいでは無いと思うんですがぁ・・・なんか釈然としないんですけどぉ!しないんですけどっ?!」


「嘘だっ!お前らがグルで騙してるんだろ!俺は信じないぞ!」


「勝手にしろ。お前が信じようが信じまいが関係ない。後は兵士がやってくれる。カインさん。これでコイツの腕を縛ってください」

「ああ」

「なんだと?!ふざけんなっ!俺は正直に話しただろ!約束を守れ!」

「おいおい。俺は正直に話したら考えるって言ったんだぜ?釈放するとは一言も言ってない。考えたすえ、お前を解放するメリットが感じられなかった。それだけだ」


「ふざけるなあぁぁ!俺はこんな所で終わる男じゃねーんだ!離せぇぇ!離せえぇ!」


「カインさん。うるさいんで、これでコイツの口も塞いでください」

「そうだな」

 カインはミールから受け取った布で後ろから縛り、口に猿ぐつわをする。


「ムー―――!!ムウゥーーゥーーーゥゥーー!!」

 尚も何かを必死に叫んでいるレギンス。


「さてと。それじゃあ僕は行きますよ。皆さん、後のことは宜しくお願いします。お元気で」


「待つんだ、ミール君。君を行かせる訳にはいかない。僕の唯一の弟子をみすみす死なせる訳にはいかないんだ」


「ありがとうございます、師匠。でも僕もちょっと冷静になってきました。必ず依頼主を暴いてみせますが、なるべく合法的に裁いてもらうように心掛けたいと思います。師匠の言う通り、フローリアさんの蘇生が第一ですから」

「そうか・・・うん、それなら良かった。けして道を踏み外すなよ、ミール君」


「はい。肝に銘じます・・・・そういえばスパーチク。お前って俺が収納した女性の修復って出来そうか?頭部を繋げたり、切り離された心臓を繋げる事は出来そうか?」


 スパーチクは迷いなく、フリフリと首を横に振る。どうやら全く見込みがないようだ。


「そうか・・・やれやれ。第4眷属様でも出来ない修復をしなきゃならんって事か。先は長そうだな・・・」


「全く・・・バカな弟子を持つと苦労するよ。ほら、ミール君。受け取りたまえ」

「?」


 ミールが首を傾げると、ローランちゃんから魔法通貨が振り込まれてきた。

 5億グルド。

 流石のミールも驚く。


「いや、師匠。流石にこれは・・・」

「何を言ってるんだ。それだけ高難度の修復だ。触媒だけでもかなりの金額になるだろう。それに蘇生魔法をかけてもらうだけでも大金がかかる。これはその時に使いたまえ」


「ありがとうございます・・・・」

 ミールは深々とローランちゃんに頭を下げる。


「ではカインさん、色々ありがとうございました。また何処かでお会いしましょう」

「ああ、ミールさん。こちらこそ本当に助かった。ありがとう」


「クエンデルさん、ルルさん、そしてコクリト。皆さんもありがとうございました。すみませんが子供達の事宜しくお願いします」


「うわーん。せんせぇ。今度絶対に結婚してくださぁいぃ」

「ミールの旦那。本当にありがとうごぜえやした」

「僕の命を救ってくれて感謝します。いつかこのご恩はお返しします・・・いつか・・・どこかで・・・たぶん・・・」


「スパーチクもありがとな。ここでお別れだ」

 スパーチクは思いっきりフリフリと首を横に振る。


「ははは。そんな事言うなって。またいつか会えるって。それまでコクリトを支えてやってくれ。情緒不安定で大変だと思うが、根はいい奴だからさ」


 スパーチクは観念したかのようにスススーとコクリトの肩まで飛んでいき、チョコンと腰掛ける。


「うわーん。なんか釈然としないけどぉ・・ぐっすっ・・・先生ぃ、お元気でぇ」


「園長もこれから大変だと思いますが、頑張ってください。どうか子供達をその笑顔で導いてあげてください。気休めですが、悪い事があれば、良い事もある・・・と、僕は思ってますから」

「冒険者様。本当にありがとうございました。貴方がいなければこの子供達が助かることもなかった。まだ私自身、頭の整理がついてませんが、今後はワシも含めて、子供達と生き残った意味を見いだしていければと考えております」


「では師匠。色々とありがとうございました。出来れば兵士達には僕の事は秘密でお願いします。最後まで手のかかる弟子ですみません」

「ふ~。分かったよ、ミール君。いいか、必ず生きてまた会おう。その時にお金はキチンと耳を揃えて返してもらうからな」

「いや~。返せるかな・・・」

「ふっふっふ。ではしょうがない。何年も僕の助手としてこき使ってあげよう」

「ははは・・・」


 ミールは大人しく待機している2羽の鳥さんに話しかける。


「さてと。そんじゃあ出発だ。スワップの街までお願いできるかな」


「クワワアアアーーー」

 ピンク色のトサカの鳥さんは、待ってましたとばかりに鳴いて座り込む。

「クワアァァ・・・」

 それに対して、水色のトサカは若干気乗りのしない感じで鳴いている。


ミールが背中に乗ると、ピンク色の鳥さんはご機嫌に立ち上がり、勢いよく走り始めた。


「ミールの旦那ぁ!お元気でえぇぇ!」

「また会いましょーー!」

「お達者でえぇ!」


 コクリト達の別れの言葉に背中を押されながら、ククラーソン村を旅立つのであった。



  続く

次回は10月下旬頃に投稿予定です。

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