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夢屋 胡蝶  作者: 真鶴 黎
胡蝶の羽休め 花火と酒と夢現
22/88

#1

 花火で盛り上がる茜、直人、望を見つめる杏子色の瞳が細められる。

 煌めく火花は激しくも、消えてしまうと煙がくゆるだけ。物寂しくもある夏の風物詩だ。


「楽しそうだな」


「そうだね」


 窓辺に腕を預ける杏介と同じように、周も階下の三人の様子を眺める。花火のセットを買ってきたかいがあった。

 夏祭りの日、杏介、周、茜、直人、望の五人で行ってきた。初めての祭りに直人が大興奮だった。あれが食べたい、これで遊びたい、それが欲しいと見るもの全てが目新しく、右を向いていたと思えば、左を向いていたし、前を指さしたと思ったら後ろを指さしてと興奮していた。直人が一人で出歩かないようにと誰かと必ず手を繋ぎ、絶対に一人にはさせなかった。

 道行く妖怪たちは多い。純粋に祭りを楽しむ者、酒のせいか場の雰囲気のせいかたかが外れたように騒ぐ者、中には窃盗を働く者などなど、多くの妖怪たちがいた。動き回る直人から少しでも目を離せばすぐに見失ってしまう可能性があるため、棗から直人のことはしっかり見ておくようにときつく言われた。そのかいあって、直人が迷子になることもなく、本人も楽しめたようだ。そろそろ帰るぞ、と杏介が告げたときの不満そうな顔が物語っていたぐらいだ。

 祭りの後は花火を、と周と望が人間界で買ってきた花火のセットで遊び始めた。途中、周と杏介は抜け、今は茜と直人と望の三人だけになってしまった。

 周は酒を飲みながら、直人が、二刀流、とポーズを決めているのを見て笑みをこぼす。


「直人君、楽しそうだ」


「本当に。あいつがはしゃぐのは予想してたけど、あんなにはしゃぐとは思ってなかった」


 翡翠の瞳を輝かせ、次はあっちに行こう、と誰かの手を振りほどいて今にも走り出しそうな姿をよく覚えている。無邪気な少年に振り回される身としては疲れたが、ここ最近頑張っていた直人へのご褒美と杏介は思うことにした。

 直人が見習い薬師となって一ケ月が経とうとしている。直人の薬草の知識は、棗と杏介が思っていたよりも基礎が身についていると思った。しかし、我流も多く、一部の知識は信憑性に欠けるものであった。基礎は基礎のままで、きちんとした知識を教えるという方針で今も勉強中だ。覚えが早く、基本的に一度聞いたことは身についている。その物覚えの速さに杏介は感心している。

 薬草に関すること以外にも、杏介は文字の読み書きや四則計算も教えている。そんな直人が苦戦しているのは文字の読み書きだ。平仮名、片仮名、自分の名前の読みはできるのだが、書くとなると怪しくなる。今までは、粘土や葉に刻まれた文字を触って読んでいたため、目で見て読むということに慣れていない。それもあって読むのには時間がかかる。また、漢字が苦手らしく、人間界で買った漢字ドリルを使い勉強している。計算の方は暗算が得意らしく、足し算と引き算は計算が早い。が、掛け算、割り算となると少し詰まる。計算に関しても、算数ドリルを買って問題を解かせているが、やはり文字の読み書きで苦戦している。

 聴覚、触覚での情報処理は早いが、視覚的な情報の処理は苦手。棗と杏介はそう感じている。だが、直人はよく頑張っている。掌に文字を書いてやり、読み方を教える。この方法を取るようになってから、直人の文字の覚えが早いと杏介は感じている。画数の多い文字だと混乱してしまうようだが、小学校低学年レベルの漢字ドリルの制覇が目前という状態になっている。


「生意気な口なのは変わりないが、ちゃんと勉強している姿は先生も感心してる」


「教育係の指導がいいのかもね」


「もっと褒めてくれていいんだぞ、周」


 得意げに目を輝かせた杏介に周はにこりと笑う。


「わー、さすが、杏だね」


「お前……」


 棒読みの周に杏介は舌打ちする。


「もういい!」


 杏介は窓辺にかけた腕を祭りの屋台で買ったつまみに手を伸ばし、口に放り込む。


「杏が誰かに教えるようになるなんて、あの頃は思わなかったなあ」


 杏介は過去に茜の教育係も務めていた。茜は元々薬学の心得があったため、杏介が教えることは少なかったし、何より、茜は手のかからない教え子であった。そのため、本格的に誰かに教えるということは直人が初めてだ。

 薬学以外にも、文字や計算を教える。今までに勉強を教えてほしいという依頼は飛び込んでこないため、杏介にとっては初めての経験となった。


「それぐらいの時間が経ったってことさ」


 杏介は酒を注ぐ。安酒にしては味がよく、酔うのにもちょうどいいものだ。湯冷めもしないだろうと踏みながら、夜風を浴びた湿った髪を軽く整える。


「そういうことだ」


 周は当時を懐かしむようにぽつりと言う。


「あの頃は、お互いこうなるとは思ってなかったよな」


「そうだね。杏が何でも屋としてここまで続くとは思わなかった」


 飽き性の腐れ縁だ。出会った頃は、退屈だ、つまらない、と口癖のように言っていた男。どうせ、棗の元で知識を得て、ある程度の実践を積んだら辞めてどこかへ行ってしまうと思った。薬師を辞めるところまでは周の予想内だったが、満月医院の向かいで何でも屋を始めるとは思わなかったし、助っ人として手伝いに入るとも思ってもみなかった。

 それは杏介も同じで苦笑する。


「周の方が早々に辞めたからな」


「僕は夢売りとして働くつもりだったから」


「それもそうか」


 ほんの少しだけ、周も満月医院、当時は診療所だった満月診療所で働いていた。杏介や茜、直人より知識量は劣るが、周も東洋医学、漢方の知識がある。


「そうだよな。辞めてすぐにまた各地を転々としてさ」


「うん。夢を集めて売ることが夢売りの仕事でもあるし」


 周はいつも転々としている。ふらっとどこかへ行っては、ふらっとまた戻ってくるなんてことはざらにあった。その過程で茜を連れてきたのだ。


「今はひとつに構えてるけどね」


「とか言って、どうせ、また近い内にあそこを去るんだろう?」


「もちろん」


 店を構えて六年。正直、そろそろ移るべきタイミングである。

 周の姿はずっと変わっていない。人ならざる者は人間より長寿であることが多く、姿の変化も少ない。普通、六年も経てば人間は容姿が変わるのだが、周は一切変わっていない。常連客に怪しまれることもあり、のらりくらりとかわしている。しかし、六年経つと限界が近いのだ。


「でも、あの子のことが解決するまではとりあえず今のところにいるかな」


 周は階下を見やる。風に乗って火薬のにおいがする。

 白の生地に蝶の文様。桜色や紫色の蝶が舞う浴衣を着る望はじっと花火を見つめている。


「それもそうか。……お前が今みたいにひとつのところにこれだけの期間留まるって珍しいよな」


「引っ越そうかなって思ってたらあの子が来た」


 夢を見ないという一人の人間。現代ではあまりお目にかかれないほどの見鬼の才を持つ綺麗な目をした人間だった。あの水鏡のような目は周の正体を見抜き、頭を下げてきたのだ。


「僕としても興味深いから」


「それはそうだろうけど」


 周の興味は、夢を見ないという点だけでなく、人並み外れた見鬼を持つということもあると杏介は思っている。杏介としても、妖怪などいないと信じられている時代に彼女のような存在は珍しく、興味を惹かれる。


「それで、肝心の進捗はどうなんだ」


 周が情報屋を雇って情報を集めていることを知っている。客にも尋ねて情報を集めていることも知っている。満月医院にも時々顔を出してはどうだろうかと訊きに来ることもあるぐらいだ。

 また、杏介にも依頼してきたこともあった。杏介としては目ぼしい情報を与えることができず、申し訳なかった。

 周は窓枠から身を引き、酒を一口飲む。


「……望ちゃんを帰した存在と望ちゃんが誘拐された前後で烏を使役する男の目撃情報があった」


 つい二日前、春海から情報を聞いた。春海は依頼した絵と共に情報を持ってきた。

 望の実家辺りに生息していた烏の証言を聞けたそうだ。その証言は望が庭に寝かされる現場を見たというものだった。

 真っ黒な何かだった、と烏は言ったそうだ。望を寝かせると、その黒い存在は烏に化けて飛び去って行ったそうだ。

 望を誘拐したとされる存在も黒という共通点があるのだが、同じ存在かは不明だ。望はよくわからないところに連れて行かれ、黒い何者かに手を伸ばされたところで意識を失い、目が覚めたときは病院のベッドの上だった。そのため、家に帰ってきたときの状況を知らない。警察の調べでは、誰かが侵入したような痕跡もなかったそうだ。烏の証言と警察の調べを照らし合わせると人ならざる者が望を帰したと言えよう。

 もう一点。烏を使役した男の存在。こちらは、望の実家から近い山の烏天狗から得た情報だそうだ。近いと言っても、距離はあるため、烏天狗たちが望が暮らす街に下りてくることは滅多にないそうだ。彼らの耳に情報を入れたのはやはり烏たちだ。烏たちから聞いた情報を烏天狗が春海に伝えてくれたのだ。

 その男は昼は代わり映えのない洋服を着ていたが、夜は闇に紛れる黒い衣を身にまとっていたと言う。長身で、顔立ちの整った男は人目のつかないところで烏を使役し、何やら探している様子だったそうだ。夜になると、とくに動きが活発になっていたそうだ。


「へえ、そんだけの情報が出てきたか」


「ただ、春海殿に言われたんだけど、間に烏や烏天狗を挟んだやり取りだから、一部信憑性に欠ける情報があるかもしれないと言われた」


 烏から烏天狗、春海と経由されている情報だ。場合によっては烏から烏へと伝わった情報もあるため、伝わる際に話が盛られたり、欠けたりしている恐れがあると春海から釘を刺された。


「烏天狗たちから聞いた情報については、彼らが実際に見た情報ではないと言われた。烏から烏天狗へと流れた情報だからね」


「烏は賢いと言っても、絶対ではないからな」


 烏の目を通して烏天狗たちは情報を集める。が、やはり、伝達される過程で何かしらの穴ができてしまうことが多い。烏天狗たちとしても、大切な情報を扱うときは慎重にと烏たちに言い聞かせるし、場合によっては烏の力を借りないときもある。


「その話が全て真実だとして、最大三人か? 望を誘拐した奴と帰した奴と烏を使役した長身の男」


 杏介は指を折りながら話す。


「実際は他にもいたかもしれない。望ちゃんが覚えていないだけで、誘拐犯は一人と決まったわけじゃないから。それと、長身の男はもしかしたら望ちゃんの件とは違う可能性もある」


 長身の男が無関係としたら、何をしていたのかという話にもなる。しかし、無関係となればそこに労力を割く必要はないだろう。


「それもそうか。ちなみに、周は何かしら目星はついたのか?」


「……長身の男はもしかしたらって思う当てがある」


 周は盃に映る自分の顔をじっと見つめる。自分でも気難しい顔をしていると思う。


「お? そうなのか」


「うん。ちょっと説明を省略したけど、長身の男の特徴は他にもあってさ。背が高いって言うのは具体的に言うと、自販機よりも高かったみたいで」


「自販機より高いって……。あれって高さどれぐらいだ? 六尺ぐらい?」


「そう」


 周は目をすがめる。


「涼し気な目元をした二枚目。瞳は黒く、髪は濡羽色」


「へえ」


 杏介は酒を飲む。どんな美丈夫だろうかと想像する。


「一番の特徴が、限りなく人に近いが、人ではない存在。烏たちはそう思ったみたい」


「んあ? 人のようで人でないって?」


「そう」


 これが大きな特徴だ。彼らの野生の勘がそう訴えたそうだ。


「見るからに人間。だけど、人間ではない。それで、烏たちが騒いでいたらしくて、烏天狗たちもよく覚えていたみたい」


「烏天狗たちはそれを聞いてもとくに動かなかったんだな」


「実害がないから。使役されている烏たちは多分式神で、野生の烏たちと接点を持つことはほぼなかったみたい。たまに街に住む烏側がつっかかることはあったみたいだけど、すって消えてしまうんだって」


 何かを嗅ぎまわっているような様子だったが、とくに害のない存在だった。烏が攻撃されたとか、手を出されたともなれば烏天狗たちは動くつもりだったが、むしろ、式神側が烏を避けるような動きをしていると判断した烏天狗たちは静観していた。


「その男が動き回っていたのも三日、四日程度。様子見を兼ねていたら、姿を消したらしい。それ以降、姿を見ていないって」


「なるほどな。で、お前が思うその男の当ては誰だ?」


「杏も知ってる方だよ」


「俺も知ってる?」


「今出した情報で特定しようと思えばできるよ」


「ん?」


 杏介は周が出した情報を思い出す。

 六尺を超える長身の二枚目の男。夜になると活発に動き、烏を使役していた。

 黒い涼やかな瞳に、濡羽色の髪。

 一人の男の顔が浮かび、杏介の背筋が凍る。


「……え、マジ?」


「まだ確定してない。けど、ありえない話ではないと思う」


「けどよ、あの人が望の実家辺りに姿を現す理由がよくわからない。重要な任務でない限り」


 杏介ははっと息を呑む。


「……もしかして、望を誘拐した影を追っていた?」


「可能性はあると思う。だけど、安直に結びつけていいものか」


 影の正体によると思う。その影が男の管轄に該当するのであれば、上手いこと結びつくのだが、如何せん正体がわからない。


「望ちゃんを誘拐した影に関与していても、そうでなくとも、あの人を頼るという手は悪くないと思う」


 関与しているのであれば一連の出来事を覚えているだろう。関与していないのであれば、望の体質のことを訊く。何かしらの情報を持っていそうな御仁だ。何せ、周と杏介より、いや、春海よりも長いこと生きている存在であり、多くの人間や人ならざる者に関わってきた男だ。


「望が夢を見ない原因がわかるかもしれない、と。……ありえると思うけど、あの人がそんな簡単に教えてくれるとは思わないな」


 杏介の脳裏に不敵に笑う男の顔が浮かぶ。あの笑顔を見るだけで、身の毛がよだつ。


「問題はそこなんだよね」


 周は盃をあおる。

 心当たりのある男は曲者だ。口達者で、物言いは容赦ない。涼やかなあの目から光が消え、低い声で淡々と詰められる。想像するだけで恐ろしい。真顔になったときの圧の恐さは忘れたくとも忘れられない。まだ怒鳴られた方がマシだと思うほどの恐怖の与える真顔は見たくない。美人の真顔は本当に怖いと思った例だ。


「望連れて行けば多少はマシでは?」


「人間には何だかんだ言って優しいからね」


 人のようで人でない、と烏たちに言われているが、彼は元々人間だ。現代にもその名を残している。元人間ということもあり、妖怪よりも人間に対してならまだ優しい。


「まずは連絡を取らないと」


「だよな。あの人って今は京都にいるのか?」


「うん。春海殿が言ってた」


 周が思い当たる彼も住処を転々とする。住処と言っても仮ではある。彼の住処は彼に縁のある地であることが多い。よって、ある程度候補地が絞りやすい。


「春海殿から場所も聞いたから、早いところ文を出そうと思う。……あの人が目を通すかはわからないけど」


「忙しい人だからな、あの人」


 彼が生きているときはとくにそうだったと伝わっている。昼も仕事、夜も仕事とよく働いていたそうだ。以前会ったとき、百年以上前に会ったのが最後だったその日も忙しそうにしていた。余計な口を挟むとあの涼やかな目元から光が消えて黙れと圧をかけてきた。


「望のこと、少しは進んだな」


「そうだといいな」


 周は酒を飲む。これまで、望が誘拐された現場のことを中心に探していた周からすると思わぬ情報が出てきたと思った。望自身も、帰ってきたときの記憶がないため、嫌な記憶、誘拐されたときのことばかりを気にしていた。


「うーん……。でも、できることなら、あの人には会いたくないな」


「そりゃあ、そうだろう」


 二人揃ってため息をつく。曲者で、厳しい彼を恐れる者たちは多い。むしろ、彼を恐れない者は彼の上司ぐらいだろう。生前も、恐れ知らずな性格だった。反骨精神を持つことからつけられた異名が良くも悪くも彼の人となりを表しているとも言えよう。


「頼りたいけど、頼りがたいっていうね」


「まあ、あの人も頼られてばかりだと仕事に支障が出るしな」


 千年以上もの時を生きる彼にはその時間に見合った分、もしくは、それ以上の知識を有している。とても頼りになるのだが、頼られすぎて本業に支障が出ることを嫌う彼はそう簡単には協力してくれない。一蹴されることの方が多いのだ。

 何より、本人がかなりの面倒くさがり屋なのが一番大きい。いかに効率よく動くかという点に重きを置いているような男だ。無駄を省いて行動する男からすると、上から与えられた任務に無関係で、ちょっかいをかけてくる妖怪たちは苛立ちの原因になって当然だ。一応、彼の仕事に協力するようなことをすれば、とりあえずは話を聞いてくれる。そこから先は彼次第だ。


「望の件にあの人が関わっているとすれば、無下にはしないと思うけどな」


「そうだったら話は早いけど、そうじゃなかったときがね……。絶対、貘のこと出してくるでしょ」


 夢を見ない事象について教えてくれ、と言っても、貘の方が詳しいだろう、と一蹴されそうだ。間違いなくあの男ならそう言ってくる。


「貘の長老でもわかりませんって話ならまだしもな……。なあ、周。本当に望のことはお前だけで解決するつもりか?」


 杏介の言葉に周は目を伏せる。


「そのつもりだよ」


「他の貘の手を借りるつもりはないと」


「うん。望ちゃんには悪いけど、僕は彼らの手を借りるつもりがない。……いや、彼らは」


 盃を持つ周の指先に力が入る。


「僕が尋ねたところで答えてくれないと思う。話を聞いてくれるだけならまだいいけど、話も聞かずに追い出されてしまうかも」


 苦笑した周は酒を一気に飲み干す。酒が通った喉に熱が残る。


「……周、お前の探し物の手がかりは相変わらずなしか?」


「ないよ。今まで探し回っているのに、ずっと見つからない。近しいものなら見つかったけど、それでは駄目なんだ」


 どれだけ探し回っても見つからない。手がかりすら見つからない。望の件が十数年超しに進展しようとしているのに、周の探し物については数百年もまともな手がかりがない。


「……お前も苦労性だよな」


「あはは。それだけのことを僕がしてしまったって話さ」


 周は盃に酒を注ぐと、それをまた勢いよく飲み干す。


「周」


「何?」


「……悪い酒の飲み方をするなよ」


 杏子色の瞳が周を捉える。いつもは軽々しい杏介の口調は重い。らしくない腐れ縁の口調に周は自嘲するように笑う。


「まだ酔ってないよ」


「これから酔う」


「昔とは違って、酒や喧嘩に逃げようとはしてないよ」


「酒の力を借りて吐き出したいことがあるなら、俺が聞いてやる。けど、悪い飲み方だけはよせ」


 杏介の言葉に周は目を閉じる。


「ありがとう、杏。君のような友人を持てて、僕は幸せ者だよ」


 周はまた酒を注ぐ。今度は一口飲む。

 風が入り込む。夏の熱を持った風は花火のにおいも一緒に運んできた。

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