第9話 交渉
服。上質な服。
彼が言うには「春用ジャケット」と言うらしいそれを出してみた。
「ほう。中々の品だな。
冒険者が魔物の革を使って頑丈にした革のジャケットで似たようなデザインを見た事がある。
…回復薬なんかを入れるポケットが多くて機能性も十分。
……素材は見た事が無いが革ではないな。やや光沢を帯びているのも珍しさを引き立たせている。
………縫いは丁寧で熟練の職人が縫ったかのように正確だ。
布がほつれ易い端では金属製のボタンで止められ、工夫もされている。
希少な材質である事から珍品としても扱えるが、機能性で売った方が更に高く売れる逸品だ。」
やる気のなさそうな師匠も一応真面目な顔になる程度の品ではあった。
「これは1枚だけなら珍しさと相まって確かに売れる。相場は金貨10枚~20枚…か。
だが、お前は大量に仕入れる事が出来ると言った。つまり1点ものとして売りたい訳では無い。
うーむ……最初の1枚……最初の1枚か。
最短で100枚仕入れるのにどのくらい時間が必要だ?」
彼は全て同じものでも1000枚くらいなら揃えられると言っていた。
しかも1週間くらいで大丈夫とも。ねっと?というのが何かはよく分からなかったが。
「……仕入れに関して聞かない約束だが、一つだけ教えろ。これだけか?」
これだけか?か……
師匠は気付いている。この世界のレベルを何年も上回る技術で作られている事を。
他にも彼の世界には凄いものがあった。確かにこれだけではない。
ないが…
「今のところは。としか言えません。」
「…そうか。可能性はある訳だな。
分かった。お前の持ってきたそれは金貨200枚で買わせてくれ。
ただし、次回があった場合にはそれも買わせて貰う予約付きだ。どうだ?」
「えー師匠それはぼったくり過ぎですよーせめて金貨300枚」
「なめるな糞弟子。単価の10倍でも御の字だろ。220枚だ。」
「隣町のゼクソンさんて最近あってないですけど元気なんでしょうか?
久々に会いたくなってきましたね。270枚」
「おい馬鹿弟子。ゼクソンのとこだけは持っていくな。それだけはやめろ。
250枚。250枚以上は出さんぞ」
「まいどあり~。流石師匠。ただの服に金貨250枚も掛けるなんて王様並みですね。」
「っち。独り立ちしたばかりの弟子になんてざまだ。
10日後にまず100枚持ってこい。来月以降も同じ枚数。もっと薄手の物で種類を増やせ。」
「了解です師匠。契約期間はいつも通り1年で良いですね?」
「あぁ。その頃には隣町どころか王都でも売ってやる。」
「あいあいー」
師匠から金貨250枚を受け取り、今日の宿へ向かう。
流石に最高級宿ではないが。
彼に早急に会わねばならない。
協力してくれる風ではあったが確約はしていないのだ。
ましてや相手に対価を払えるのか?彼の世界には魔法はなかったから魔道具とかなら
交換材料にかるかもしれない。
まぁこの時間なら彼も私の目からこの世界を見ているだろうから、いろんな店を回って
みるのもいいだろう。
定番の、武器、防具、鍛冶、道具、魔法薬、魔道具と駆け足で巡り、
露店で串焼きなどを買ってストレージに放り込んで宿に向かう。
彼に再び会える事を祈りつつ、お酒を一気に煽って気絶する様に寝るのだった。