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俺が求める平穏はいったいどこに…  作者: gokazoo
ルドワール学院編入編

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4

 会場はまさかの結果に騒然となっていた。当然だ。あの戦闘講師主任でこの学院でも屈指の猛者であるイリス教官が辛勝するなど予想だにしてなかった。それがこの会場で傍観する全員の共通見解だ。


 編入試験は代々戦闘授業講師総合主任という戦闘に関してのスペシャリストが実技試験の担当試験官として受け持つのが習わしで最初の印象試験にクリアできた一割のうちの99%が何もできないままここで落とされる。ここさえ通り抜ければ余程の馬鹿でない限り編入試験は合格するとまで言われるほどで、実技試験はこの学院の編入試験最難関試験と言っても過言ではない。まして、今代の戦闘主任は王国内でも知らぬ者はいないと言わしめる猛者中の猛者であり、学院の講師の誘いを受けていなければ今頃軍の中枢にすぐさま抜擢されて活躍していただろう。


 私たちはそのようなことを知っているが故にイリス教官の勝利を疑わずにいた。勿論、相手が男であることも含め、どんな余興が起こるのか楽しみにしていた。だが、蓋を開けてみれば、勝利に間違いないが余興は疎か固唾を呑んで見守る激闘が繰り広げられるという結果となった。イリス教官の調子が悪いだとか偶然何かあったわけではない。むしろイリス教官がここ最近すこぶる調子が良いことは知っていたし、それであの男を最初哀れんでしまったぐらいだ。


 私は急いで執務室へ戻り渡された推薦状が入った封筒の裏を見る。そこに記載された推薦者の名を確認するためだ。


 「…フ、フフフ、アハハハ!これは驚きね!まさか、夢にも思わなかった…。あの『ネストアの大魔女』が推薦者だなんて。彼は合格よ。これからが楽しみだわ。トシヒデ=カワヒラ君…。」



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 気付けば俺はベットの上で寝ていた。そして、思い出した。実技試験でイリスさんに負けたこと。そして、試験の合否と場合によっては続きがあるかもしれないということ。外は既に日が暮れ始めている。どうすればいいのだろうか…。


 思案に暮れていたところ、俺がいる部屋のドアが開く。振り向けば、理事長だとわかった。


 「あら、起きたようですね。どうです、調子は。」


 「ええ、おそらく問題ないと思いますが…。それで俺はこの後どうしたらいいのでしょうか。」


 「その件についてなんですが、もう試験は必要ないと判断しました。」


 「え?!…そうですか。わかりました。本日はありがとうございました。」


 不合格か…。当然だよな。勝てなければ意味がないのに…。


 「ええ、おめでとう!あなたは明日からこの学院の生徒よ。」


 「すぐに学院から出ていきますので……え?」


 「学生としては明日からだけど、今日からもう寮に入ってもらいますので。生活に必要な家具は既に揃えてあります。誰かに案内させるけど、何か質問は?」


 「あ、あの…俺負けましたよね?」


 「ええ、そうですね。」


 「仮に負けても採点がD以上だったとして普通は学科試験がありますよね?」


 「その通りです。」


 「それなのに、それをすっぽ抜かして俺は合格扱いになっているのでしょうか?」


 「今から話す内容は学院の編入試験合格基準をばらすことにつながるのであまり言いたくありませんが、広められたところで達成は困難ですから構わないでしょう。…あなたが合格した理由は簡単です。学院が誇る戦闘授業講師総合主任と接戦を演じたからです。」


 「…たったそれだけですか?」


 「ええ、そうです。一応、誤解のないように説明しますがこの学院の戦闘授業講師総合主任、…長いので戦闘主任と皆言いますが、その役職はありとあらゆる戦闘授業を教える数多くの講師の中で最も強い者から選出されます。つまり、猛者である講師たちの中で一番戦闘力に秀でているわけですから学院内でも一位、二位を争う腕前であり、尚且つ今代の戦闘主任を務めるイリス=ハーネスト氏はこの学院を首席で卒業し王宮近衛団の入隊を望まれるほどの猛者です。中等部で彼女とまともに戦える者など全学年で二桁いるかどうか、彼女に勝てる者はおらずあれほどの接戦を行える者は片手の指で数えるだけで事足ります。わかりますか?あなたは現在の能力の高さを示したばかりでなく今後のポテンシャルも魅せてくれたのです。」


 「な、なるほど。」


 王宮近衛団はルドワール王国最強の騎士団であり、名の通り王宮と王族を警護するのが主な役割だ。騎士団を夢見るものにとっては憧れの役職でもある。因みにその下に中央騎士団と薔薇騎士団が同格で存在し、更にその下に並んで東西南北の各騎士団が存在する。


 「それに受け答えからして馬鹿ではなさそうなので学力もそこまで気にする必要はないでしょう。後日、鑑定玉による能力確認はありますが今回の編入試験はこれで終了とします。異存はありませんね?」


 「も、勿論です。本日はありがとうございました。」


 「ええ、あなたを歓迎するわ。ようこそ、王立ルドワール学院へ。一日早いけどあなたはここの生徒として頑張ってもらいます。これからも精進していってください。」


 「はい。」


 「では、案内の者を呼んでくるからしばらくここで待っていてください。私はこれでお暇させていただきますので、何かあれば理事長室まで来てくださいね。」


 「何から何までありがとうございます。」


 そう言って理事長は出て行った。しかし、試験を受ける必要はないと言われたから焦ったが、まさか合格が決まるなんてラッキーだ。それに準備する必要もなくすぐに入寮できるなんて流石王立学院!優秀な人材を得るためなら金を惜しまないわけか。


 そんなことを考えていたら、ドアをノックする音が聞こえてきた。


 「はい、どうぞ。」


 「失礼します。トシヒデ=カワヒラ君で間違いありませんか?」


 「はい、間違いないです。」


 入ってきたのは背の大きい女性だった。ざっと見て190はないだろうか。


 「わかりました。では、早速自己紹介させていただきます。私はジュリエット=ウォーティアと言います。あなたの案内を理事長から頼まれました。来て早々なのですが、もう準備の程はどうでしょうか?」


 背が大きいので威圧感があってもおかしくないが、それを感じさせないような物腰の柔らかい声だ。


 「生活必需品は宿に預けています。ですが、先に部屋が何処にあるか確認したいので案内をお願いします。」


 「はい。わかりました。では、案内するので着いてきて下さい。」


 そう言われて、俺は身の回りに私物がないか確認し、ベットから飛び降りて彼女の後へ着いていった。









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