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厄介事が舞い込みそうな予感が頭にこびりついて振り払えずにいる中、現在、理事長に連れられておそらくは試験会場へ向かっている途中である。
ふと、気になったことがあったので理事長に尋ねる。
因みに、理事長は名をセシリア=プロトコリーといい、外見は大層若く、おっとりとした雰囲気を漂わせている。ただ、さっきの編入試験の説明をしている時は全くそれを感じさせない、むしろ、鋭く冷徹な雰囲気が窺えた。伊達に理事長の座に就いているわけではなさそうだ。
「一つ伺いたいことがあるのですが、よろしいですか?」
「なんでしょう?」
「推薦状は読まなかったようですけど、ここって推薦状は必要なかったんですか?」
「ええ、必要ありません。見られるのは主に受験者そのものです。推薦状は合格ライン上にいる場合ぐらいしか用いません。まあ、推薦状なんて余程の大物のものでなければ開かれませんし、それで合格できる時は面子を潰さないように相手に配慮する時だけですよ。他の有象無象の輩と判断され一切考慮に入りませんので、要は形式美ってやつですね。書いてきて持ってくるだけ無駄ですよ。」
「そうなんですか。ありがとうございます。」
推薦状を大事に持ってきた意味は?
そう思って、試験前にテンションが下がってしまった。聞かなければよかった。
下降気味のテンションを引っ提げて、試験会場へ辿り着いた。試験会場は古代ローマの円形闘技場を彷彿させるコロシアムだった。どうやら、まず最初に実技試験を行うみたいだ。
「予想できていると思いますが、まずは実技試験です。一対一であなたの戦闘力を測ります。一応、評価基準はA、B、C、D、Eという段階でEに評価された時点で次の試験に入ることなく編入試験は終了しますから注意してください。それでは健闘を祈っていますね。」
理事長から説明を受けてステージへ赴く。ステージへと出ると……、人、人、人、いや、女、女、女と辺り一面制服姿をした女子たちが観客席一杯に座っていた。俺がステージに出てきたことに気づくと、一気にざわめき始める。
なぜ、こんなにも人がいるのか、何が何だかわからず混乱して立ち止まっている俺に声がかかる。
「おや?来た来た。こっちだ、早く上がっておいで。」
ステージの上には既に先客がいたようだ。声に従ってステージへ上がる。観客席にいる女子たちのざわめきが一層大きくなる。
「君が編入試験を受けに来た猛者だね。名前は確か、トシヒデ=カワヒラだったかな。初めまして、私の名はイリス=ハーネスト。この学院の教員を勤めさせてもらっている。」
自己紹介をしつつ、握手を求めてきたので差し出された手を握り返す。ふと、喧騒が止んでいることに気付いた。疑問に思い周りを見渡すと女子たちが呆然としている。そこで、イリスさんの方を見ると、それはもうリンゴのように真っ赤な顔をしてワタワタする女性教員が一名。勿論、イリスさんである。
はて、何かおかしなことをしてしまったのだろうか?握手していないもう片方の手は物凄い勢いで空を切っている。肩の可動域広いな。皆、右手を見つめているので、握手が問題なようだ。いつまで握手していても仕方ないし、手を離す。
「「「あっ」」」
イリスさんも含めて女性陣から声が漏れる。問題は握手じゃなかったのか?
「い、いや、すまなかった。癖でつい手を差し出してしまった。気分を害してしまったのなら謝ろう。」
「?いや、別に気にしてませんけど、握手がどうかしたんですか?」
「い、いや、も、問題ない。うん、大丈夫だ。…大丈夫だが大丈夫じゃない。男性と正面で手を握るなんて人生で初めてなのに……………。」
問題はないらしい。未だにぶつぶつと何かつぶやいているが、大丈夫なようだ。ただ、イリスさんも含めて観客の女子たちのほとんどが顔を赤らめ、もじもじして何かを呟くさまはたいへん悍ましい。鳥肌が立ってきた。
「コホン、さて、いつまでもこうしている訳にはいかない。早速だが試験を始めよう。用意はいいかい?」
「えーと、俺、何も説明を受けないままここに来たのですが…。」
「そうか、それはすまなかった。じゃあ、大まかな説明をしておこう。まぁ、見ての通りここは闘技場だ。つまり、ここでは実技試験が行われる。ここまではいいね?」
予想していたので、頷きで返事をする。
「では、ここで何をするのか。実技試験は教員との一対一による決闘だ。つまり、君と私がここで決闘を行い、戦闘結果次第で君の判定が決まるわけだ。この決闘では、相手の殺害と重度の損傷を与えることを禁止している。逆を言えば、それに該当しないのであれば何でもありだ。戦闘方法は限定しない。君の戦闘術を見せてくれ。以上が説明だが、質問はあるかな?」
「では、お言葉に甘えて、なぜ、観客がいるのですか?」
「ああ、それはね、どうやら誰かが言いふらしたらしくてね。男が編入試験を受けること自体が前代未聞なこともあって、一目見ようと授業を放り出してここにきているだけだ。私も実際のところびっくりしていたよ。これほど人を呼び寄せてしまったんだ。頑張ってくれよ。」
「そうですか。ありがとうございます。ただ、一つだけ言わせてもらうと、呆気なく終わるみたいな言い様ですが舐めてかかったら痛い目を見るのはイリスさんの方だと思いますよ。」
「フフ、大抵の場合、皆そう言うが私の手にかかって言葉を訂正した者は数知れないぞ。いいのか、そんなこと言って?……どうやら、本気のようだね。いいよ、そういうやつは嫌いじゃない。では、始めようか。」
イリスさんが刃を潰した訓練用の剣を構える。俺も構える。俺の獲物?ないです、はい。体術戦闘が基本なので、強いて言うなら拳かな。さあ、集中集中。
両者が構え、睨み合ったので、審判と思わしき女性が銅鑼を鳴らす。開始の合図だ。さあ、勝負を始めよう。
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私はイリス=ハーネスト。ルドワール学院の戦闘授業講師総合主任を任されている。要は戦闘授業に携わる教員の中で一番偉いし、それに見合うぐらいには強い。実際、私は戦闘に関して言えば卓越している。学院関係者の中でも勝てない者は片手の指の数で事足りるほどだ。
だが、なんだ、この男は?なぜ、全力ではないにしろ、私の攻撃に対応できる?まして、攻撃を仕掛けるなど、同じ中等部でも50人はいない。そもそも、拳で私の剣術を捌くなんぞ、高等部でも滅多に見られないことだ。本当に男か?
…どうやら、本気を出さねば、この男は私の眼前に拳を突き出しているかもしれない。いくら手加減していたとしていても負けることは癪だ。まして、生徒でもなく、男である彼には負けられない。
すまなかったな、どうやら先程の会話、訂正するのは私の方だったようだ。悪いが、本気を出させてもらおう!
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その後、拳と剣の激しい交わりは100合を超えて漸く終え、ステージの上に立っていたのはボロボロになった女性だった。




