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mission20 ノワーレ救出戦

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mission20 ノワーレ救出戦

…………

 戦況を確認しています……


 西側エリア 確認不能

 北側エリア 確認不能

 南側エリア 確認不能

 東側エリア 確認不能


 戦線を放棄しました。

 防衛陣をオートモードに移行しました。


 近接戦闘を開始します。


「ノワーレ」行動不能 選択不可

「ニーナ」生存値70%

「クラウナー」生存値90%


 誰を操作しますか?

…………

 ニーナは迷わず海に飛び込みノワーレを探した。自身が壊した絶望の槍(グランギニョル)の遺骸は海底まで続いており、崩れながらも黄金色に鈍く明滅している。息は、出来る。何故かはわからない。けれど、別に不思議なことでもないように思えた。そもそも自分がなんであるかすら知らないのだから、今更どうということもない。


 海の中は暗い。流氷が海を押し留める代わりに、女神の威光すら届かないからだ。海で光るのは絶望のみ。ノワーレは黄金の触手に引き摺り込まれた。ならば、黄金の輝きを探せばノワーレに辿り着くはずだ。


 ニーナは絶望の槍(グランギニョル)の遺骸を海底へ向かって辿っていく。海は冷たい。命が存える場所ではない。


 真っ直ぐ海底に辿り着き、ニーナは目を伏せる。脳を女神の視界に接続し、海底全域を精査する。崩れた建物、槍の遺骸、災厄獣の骸が転がる中に升目が引かれ、行けるところ、行けないところが区別され、ニーナが向かうべき場所に赤い点が記された。そこに、ノワーレがいるはずだ。


 女神は自分を産み、ノワーレの隣に居ろと預言した。

 こんなところでノワーレが死ぬはずがない。

 ノワーレの輝きを、女神が見過ごすはずがないのだ。


 ニーナは目を閉じたまま歩き続ける。遠く、クラウナーの声が聞こえている。どんなに女神の視界に接続しても、クラウナーの声があれば帰れるだろう。ノワーレさえ連れて戻れれば、たとえ自分がおかしくなっていたとしても、ノワーレとクラウナーがなんとかしてくれる。菓子やら茶やらで「ニーナ」という存在を取り戻してくれるはずだ。


 海底を歩く。女神の視界は自動で進むべき道を示すから、ニーナは足を動かす以外にやることがない。こんなに簡単なのに誰も海に潜ろうとしないのは、きっと、ニーナの方がおかしいからなのだろう。


 じゃあ、ノワーレもおかしいのかもしれない。


 だって、ニーナはノワーレが生きていると確信している。人は海に落ちたら絶対に死ぬのだという。ならば、ニーナもノワーレも、人間じゃないのかもしれない。


 だからどうした。

 人間じゃないくらい、どうってことないはずだ。


 ノワーレは流氷の上に生まれた。

 自分も、気がついたら流氷の上で災厄獣と戦っていた。

 似た者同士なのかもしれない。ニーナには何もわからないけれど。


 ノワーレを示す赤い目標点と、自身を示す青い点が近づいて、ニーナは目を開けた。自分の視界で目の前を確認し、ノワーレが、細い槍に胸を貫かれ、海底に縫い止められているのを見た。


 ノワーレ!


 叫んだはずだが、声は海に呑まれて届かない。


 ニーナは駆けた。海水が邪魔で碌に走れない。足元は何かの瓦礫が堆積したようで、足が取られて進みにくい。苛立ちながらなんとかノワーレに近づき、ノワーレを縫い止める槍を壊そうと氷を出そうとして、出ないことに気づいた。海底には女神の威光は届かない。だから氷の槍も出せないのだ。


 ニーナは焦る。自分はノワーレのような礎石武器(ラルム)は持っていない。どうやってあれを壊せばいい。


 ニーナはとりあえず槍を素手で掴む。手のひらに稲妻のような衝撃が走る。乾いた氷を素手で掴んだときのような痛みが走る。だからなんだ。痛みくらいどうってことない。ノワーレが足掻いている。目を閉じたまま、きっと意識もないのだろう。無意識だけで自身を貫いた絶望に抗おうとしている。今すぐ助けてあげる。ニーナは槍を引き抜こうするが、びくともしない。どうして。自分は救世主なのに。救うために生まれたのに。ノワーレひとり助けられないなんて、そんなの救世主じゃない。泣きそうになったとき、自身の首に、小さな礎石が下がっていることに気づく。


 ノワーレがくれた、何の役にも立たないくらい小さな礎石のお守り。


 ニーナは礎石をひっつかむ。紐を引きちぎり、必死になって念じる。武器になれ。わたしの槍になれ。目の前の絶望をぶち壊す強大な武器になれ。お前を光らせたノワーレが死ぬぞ、わたしに使われろ!


 果たして小さな礎石は応えた。ニーナの手の中で輝き、ニーナの意思を受け、めきめきと唸りながら巨大な槍になる。ニーナの身長すら超える槍だ。海を呑み、吸収しながら、ニーナの意思を受けて虹色に輝く。


 吠えた。


 ニーナは、ノワーレを貫く槍に向け、自身の礎石武器(ラルム)を全力で突き込んだ。


 海が悲鳴を上げた。


 耳を弄する甲高い悲鳴だ。女の声にも男の声にも聞こえる。海に落とされた命たちが、いや、命になれないものどもが叫んでいる。


 知るか。


 救世主が救うのは命あるものたちだ。

 命を羨み嘆くものたちまで救ってやる義理はない。

 そんなの神々がやることだ。


 ノワーレの胸を貫いていた黄金の槍が、砕け散った。


 ニーナはノワーレに屈み込む。ノワーレの胸に残った槍の欠片を抜き去り、ノワーレを抱え起こす。


 ノワーレが咽せた。


 海の中に血が迸った。赤い血だ。黄金の血だ。真っ黒な海水にノワーレの赤い血と、絶望の槍(グランギニョル)の黄金の血が混じり合って流れ出す。血を止めないと。ニーナは慌てて礎石武器を戻し、祈る気持ちでノワーレの胸に押し付ける。礎石武器はノワーレの血を吸って胸に留まった。とりあえず、血は止まった。

 

 ノワーレを陸へ上げないと。


 ニーナはノワーレを背負った。ノワーレの方が頭一つくらい背が高いから、足を引き摺る形になる。ニーナの目的地を示す赤い点は、いまはクラウナーの位置を示している。クラウナーが歌っている。待ってて、いまノワーレを連れていく。上にさえ戻れれば、ノワーレもきっと助かる。世界はノワーレの死を許さないはずだ。


 上へ向かおうと海底を蹴ったとき、背後にぞっとするような視線を感じた。


 ニーナは思わず振り返る。瓦礫に満ちた海底に、誰かが倒れている。気づけば海底には黄金色に輝く絶望の槍(グランギニョル)が満ちて、ニーナとノワーレを取り囲んでいる。黄金の檻だ。


 一際太い絶望の槍(グランギニョル)の根元に、誰かが倒れている。


 うつ伏せの、若い男だ。ニーナと同じ、虹色に輝く黒銀の髪が、真っ黒な海水に揺れている。背中を槍に貫かれ、海底に縫い止められている。


 男が、顔を上げた。


 少年と言っていいほどの若い面差し。虹色に輝く目が、ニーナを見た。


 殺意だ、と思った。


 思った時には逃げ出していた。海面に向けて必死に足を動かした。ノワーレは動かない。けれど胸は上下している。自分と同じ、海の中でも息ができている。大丈夫、死んでいない。ノワーレは生きている。


 背中に絶望の視線が焼きついて、ニーナの心をひび割れさせる。絶望の槍(グランギニョル)が悲鳴を上げている。男にも女にも聞こえる怨嗟の叫び。聞いちゃだめだ、心を持っていかれる。クラウナーの声だけを聞け。ニーナは泣きそうになりながら、叫び出しそうな恐怖と共に必死に海を昇る。背後で、男が自身を貫く槍を抜いた気配がする。


 黄金の血が、海水の中に漂い始める。


 海面に、光。


 ニーナは必死で手を伸ばした。流氷の隙間から、海中に僅かに光が差し込んでいる。クラウナーの歌が聞こえる。背後に不穏な気配。ニーナは流氷の縁に手をかけて、背後の殺意から逃れようと、泣きながら必死に這い上がる。


※※※※


 ユーリが自身の銀狼を走らせ絶望の槍(グランギニョル)の遺骸にたどり着いた時、ミゲルは彼の狼とガルディエーヌと共に、流氷の裂け目の前で立ち尽くしていた。隣ではクラウナーが目を伏せて聖杖に縋りつき歌っている。クラウナーの頬や喉には聖紋が蔦模様となり七色に輝いており、服の上からでも全身に聖紋が満ちているのがわかった。


「ミゲル……状況を」


 ユーリが問うと、ミゲルは淡々と話した。ノワーレが海底から現れた黄金の触手に攫われ海に落ちたこと。ニーナは一度後陣に撤退させたが、クラウナーと共に戻ってきて海に飛び込んだこと。クラウナーはニーナを待ち、ずっと歌っていること。


「……落ちたか」

「うん、落ちた」

「親父殿には?」

「団長にも、もう報せは届いているはずだよ。誰も寄越さないってことは、わかってるはずだ」

「なるほどな」


 ユーリは狼から降りると、右手の武器を細く反った剣へ変えた。人の首を断つのに適した刃。重さと鋭さで断つ武器だ。


「……親父殿に、これ以上、家族の首を落とさせるわけにはいかないからな」

「そうだね」


 ミゲルもまた、隣に突き刺した剣を抜き、ユーリと同じ刃へ変えた。


 ニーナはノワーレを連れて戻るだろう。あの子が諦めるとは思えない。

 だが、ノワーレが戻ってきたとして、それはもうノワーレではない。


 人型の災厄獣が現れたら、真っ先に首を落とさなくてはならない。

 情に負けてしまえば、人類に危機を及ぼすことになる。


※※※※


 ニーナは流氷を攀じ登り、背負ったノワーレを流氷の上にずり落とした。ノワーレは咳き込み何度か血を吐いて、更に真っ黒な水を吐いた。流氷の上で胸を押さえて蹲る。


「ノワーレ、ノワーレ!」


 ニーナが泣きながら喚いている。ノワーレは痛みに悶えながら思う。うるさい。大丈夫だからいちいち泣くな。


 喉に海水だか血だかが張り付いて咳き込むのが止まらない。ニーナに背を撫でられる。クラウナーもまた歌を止めて駆け寄ってきた。ノワーレは水だか血だかわからないものを吐きながら、痙攣するように痛む胸を押さえる。穴が空いているはずだ。自分は確かに貫かれた。なのに、なぜ生きている?


「ニーナ、クラウナー、離れろ」


 ユーリの冷徹な声が聞こえた。


「それはノワーレじゃない。首を落とせ」


 ニーナが、咳き込むノワーレを抱えて激しく首を振った。


「違う……ノワーレだよ、災厄獣じゃない!」

「ノワーレ、返事をして」


 クラウナーが震える声で言う。ノワーレは声も出せない。喉が、胸が焼けつくように痛む。手も足もまともに力が入らない。息をするだけで喉から血が吹き出すようだ。


 ユーリが剣を構える気配がする。

 隣の足音はミゲルか。


 ピエールとフェリーチェの気配がない。きっといないのだろう。いなくてよかった。自分の首が落とされるところなど、部下に見せたくはない。


 私は、首を落とされるのか?


 海から這い上がってきた私は、災厄獣なのか?


 ニーナがしがみついてくる。クラウナーがユーリとミゲルの前に立ちはだかる。


「やだ、ノワーレだよ、殺さないで!」

「まだ……まだ災厄獣と決まってません!」


 背後で、海がざわめいた。


 ノワーレは反射的にニーナを突き飛ばした。ニーナが流氷の上に転がり、クラウナーが慌ててニーナに駆け寄る。ざわめく海から黄金の槍の穂先が覗き、兄たちが構えた刹那、ノワーレは槍の後に現れた少年の胸を、自身の礎石武器で貫いた。


 ニーナと同じ、虹色の目と目が合った。

 少年は、笑ったように見えた。


 少年の体が真っ黒な破片になり海に飛び散った。流氷が動いて海を閉ざし、ニーナとクラウナーが駆け寄ってくる。


「ノワーレ、大丈夫?!」


 ニーナに答える前に、今度こそノワーレは血を吐いた。胸から真っ赤な血が溢れて流氷を染め、兄たち二人が戸惑って剣を下ろすのを視界の端で捉える。クラウナーが何か言っている。


「ノワーレ、何か話して!」


 災厄獣は言葉を持たない。命を模した紛い物だからだ。だから、何か話せば人間だと証明できる。クラウナーはそう言っているのだろう。


 蹲るノワーレの喉元に、ユーリの刃が押し当てられた。


「お前は……誰だ」


 声は、震えていた。


 私は誰だ? 


 海に落ちた。胸を貫かれた。それでも生きている?


「私、は」


 喉に血が込み上げた。いや、海かもしれない。赤黒い何かを吐きながら、ノワーレは必死に言葉を探す。私は誰だ?


 銀狼に生まれた。だが、本当は流氷の上で拾われた赤子だった。それでも、十八年間、この身は騎士として生きてきたはずだ。


「私は、ノワーレ・ルーアルジャン……銀狼の、姫騎士と呼ばれ……救世主と、女神の写し身を、導く……」


 そこで、限界がきた。


 ノワーレは激しく咳き込んだ。真っ白な流氷の上に真っ黒な血だか海だかを大量に吐き、血を流しながら痙攣して倒れ込んだ。ニーナが何か喚いている。クラウナーが抱え起こしてくれて、ノワーレは滲む視界で二人の顔を見た。


 二人とも、なんて情けない顔をして。


 言おうとしたが、ノワーレの意識はそこで途切れた。

…………

mission20 完了


大規模防衛戦 防衛達成

勝利C


災厄獣撃破数 32体

絶望の槍破壊数 6本

騎士団損耗率 49%

聖歌唱大隊損耗率 23%

「ニーナ」生存

「ノワーレ」生存

「クラウナー」生存 


報酬を計算しています……


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