17話
自然を活かし、自然と共存している亜人の国とは打って変わって、魔族の国は石造りの建物が多く立ち並び、中でも防衛都市としての役割も担うアパルクライスは正に堅牢な都市だった。
都市を囲む城壁は三重になっており、壁内はいざという時の拠点やシェルターになるように空洞が設けられている。
もちろんその分強度は下がるが、それをカバーするのがアパルクライスの街を統治する魔族たちだ。
街の太守でもある魔族たちは、城壁の強度をあげるための魔方陣を定期的に張り直し、いつなん時人間達がこちらに火を噴いたとしても都市内の者達を逃がす時間を稼げるようにしているのだ。
そんなアパルクライスに、この度晴れて初となる学園が建設されることになった。
子供が生まれる事が少なく、発生したとしても自由気ままに生きることのできる魔族達はこれまで先人達の教えを学ぶことを重視していなかった。
しかし亜人との協力関係ができ、職人や商人が多数やってきた時に明らかな能力差があった。
亜人の国からきた職人や商人はみな一様にある一定の基準を満たしているのにも関わらず、魔族側は能力に差がありすぎたのだ。
魔族側はそれを気にしてはいなかったのだが、亜人側の特に職人が素晴らしい技術や、それを創り出した者の名が残らないのはやるせないと申し出、それを残し伝えていく学園を作ることになったのだ。
もちろん魔族側の職人達は他の魔族と同じように名を持たないのだが、そこは亜人との関係改善の結果と言うべきか腕を認めあった職人同士で名を付ける行為が流行った。
これにより主に技術職に特化した学園が実現し、幅広い知識を教えるアコルハイトにある学園の分校という形でミネルバが管理、運営する学園ができたのだ。
さらに、魔族の国と亜人の国との行き来をより増やすために留学制度が設けられた。
魔族が亜人の国を訪問することは多くなったが、未だに亜人の中には魔族の国を怖がる声もある。
そこで知識に貪欲な亜人の国の生徒達を魔族の国に留学させることによりそのイメージを払拭しようという運びとなった。
「おいティア!!!見てみろよ!!あんな石造りの建物亜人の国じゃ見れねーぞ!!どうやって出来てんのかな……?」
「クレド……っ!これ、美味しいっ!!ソフィー、食べる……?」
「わー!!ティアありがとーっ!!」
「おいテメェら!!!俺たちは遊びで来てんじゃねーんだよっ!!おら、さっさと学園に行くぞコラっ!!」
初めて見る石造りの建物に興味を示すクレドや屋台で買い食いをするユースティアナとあの妖精王の側近の1人であるソフィー。
そしてそんな自由気ままな面々をまとめるのが、これまた妖精王の側近の1人のキルロスだった。
「チッ。久しぶりにミネルバ先生からの依頼だから受けたのになんでこんな子守りしなくちゃなんねーんだよ。」
「しょーがないよぉ!だってぇ、留学の希望者がいなかったんだもん!!」
「はっ!それでわざわざ卒業生の俺と鳥女を送るってか?もっと別に行きてーやつくらい居ただろーがよ……。」
がしがしと頭をかき乱すキルロスの服をユースティアナがクイッと引っ張る。
「キルロス……魔族の国、嫌い……?」
初対面でキルロスがクロノスに攻撃を仕掛けた件からはじめはあまり仲良くなかったふたりだが、何だかんだ面倒見のいいキルロスと人の悪意にも好意にも敏感なユースティアナはすぐに打ち解けた。
キルロスの直情的な性格はちょくちょく暴走するのが玉に瑕だが、裏表のない性格をユースティアナは好んでいた。
「別に嫌いじゃねぇよ。ただ俺は別に職人の技を学びたいわけでもねぇし、魔族の国はハインリヒ様のお供で来てるから今更留学って形で来る必要性を感じなかっただけだよ。」
むすっとしているくせにしっかり答えてくれるあたりがキルロスの人の良さを表している。
「キル!ティアー!!そろそろ学園行こーよー!!クレドくんも建物見るのは後だよぉ!」
「誰が言ってんだ、コラ!!」
さっきまで食べ歩きをしていたやつのセリフとは思えねぇ。なんて悪態を付きながらも未だに石造りの建物を見ているクレドを脇に抱えてもう一方の手でユースティアナの腕を引いてやる。
「やあ、よく来たね。僕はオスクロハイトとシェーンオールの民、ダークエルフとエルフのハーフのアペレスだよ。君たちに神の加護があらんことを。」
訪れた学園の学長室に座るのは紫の髪に黄の瞳を持った男だった。
すっと空を切った左手からは黄色と紫の魔力がうねるようにユースティアナとソフィーだけを包み込んだ。
「げ、変態……。」
隣にいるキルロスが心底嫌そうな顔でそう言うと、アペレスは苦笑いを受かべる。
「キルロス……、何度も言うが僕は変態じゃない。博愛主義なんだ。ただし男は除く。」
「うるせえ多フェチシズム野郎!」
言い合う2人にどうしていいかわからずに困惑するユースティアナとクレドにソフィーが耳打ちをする。
「アペレスはねぇ、キルの先輩なんだけど女の人が大好きなんだよぉ。」
「ソフィー!それは語弊がある。僕はただ人よりも女性のいいところを見つけるのが上手いだけだよ。それに付き合っている人がいるのにほかの人に手を出すような不義理もしない!!」
キルロスと言い合っていたアペレスがソフィーの言葉を拾って言い返した。
「こんな人がミネルバ学長の代わりかよ……。」
呆れたように呟いたクレドに切キルロスとソフィーは複雑そうな顔をする。
「確か君はクレドくんだったっけ?僕は元々ミネルバが最初に学園を作った時からの協力者で、これでも学会の栄誉教授だよ。だから安心して学ぶといい。」
学者気質の者が多い亜人の中で学会の名誉教授になるのは容易なことではない。
それだけでもぽかんと口を開いて驚くだけの衝撃はあるのに、さらにキルロスが追い打ちをかける。
「ちなみに、初代妖精王第一補佐官……国のNo.2の人物だぞ…………。」




