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俺の知らない物語・地糸 修地②

『三節棍のアシガ』との戦いから早数日。

 あれほどの激戦を繰り広げた俺たちも普段は普通の高校生。

 他の16歳の少年少女と同じように学校に通い、授業を受け、帰宅しようとしていた。


修地しゅうじ……」


 俺の名を呼ぶ声が聞こえる。

 そちらを見ると、小柄な体格に強気そうな顔をした少女……津出つで 緋色ひいろが帰る支度を整え、こちらを見ていた。

 その表情は真剣そのもので、いつもの談笑しながら帰るクラスメイトの表情ではなく、『異能力者』の仲間として何か重要なことが起こったときの顔をしている。

 ついに侵略者の正体が分かったんだ。何かその対策の話だろう。

 俺が帰る支度をしていると、津出に三人の女生徒が話しかけた。


「あ、緋色ちゃんも今から帰る?」

「私たちこれから歩斗ほとも誘ってゲーセン行こうとしてんだけど」

「……来る?」


 武里樹ぶりき 結愛ゆあ田井夢たいむ 理富りふ折岩おりいわ 聖華せいか。クラスメイトの女子たちが緋色を遊びに誘った。


「ううん。せっかく誘ってくれて悪いけど、今日は用事があるの。ごめんね」


 緋色はそれを断り、俺の支度が済むまで彼女たちと談笑を始めた。

 それにしても……緋色もクラスに馴染んだものだ。

 緋色は『異能力者』としての仕事でこの学校に転校してきた。

 もともとお嬢様ということと、その自分勝手な性格で友達ができるか不安だったが、今やこうして遊びに誘ってくれる友達までできている。

 特に折岩とは席が近くということもあり、よく話しているのを見かける。

 俺の準備が済むと、3娘と別れ、俺と緋色は帰路に着いた。


「でね、修地。私はイチゴを持っていったのに、みんなして反対するのよ」


 帰り道では、クラスメイトと話したことでそっちの顔になった緋色が嬉しそうに学校であったことを話した。

 何か重要なことがあったのではないか。

 楽しそうに語る緋色の話を遮るのは少し気が咎めるが、俺は自分から切り出すことにした。


「それで、緋色。クラスの話もいいんだが、何か話があって俺を待ってたんじゃないのか?」

「あ、そうだったわね、つい……」


 緋色がゴホンと咳払いして、楽しそうな顔から真剣な表情へと変えた。

 仕事の顔。俺ら『異能力者』の仕事をするときの顔だ。


 俺と緋色は特殊な超常現象を操る『異能力者』と呼ばれる者だ。

 異能力者は他にもいて、それぞれ組織を作っている。

 その中で俺たちのいる組織は、主に異世界から現れる謎の生き物『モンスター』の討伐を使命としていた。

 俺もみんなの日常を守るため、自分の力を使うことを決意した。


 緋色や他の仲間たちと世界を守る戦いを続けていき、徐々に敵の姿が見えてきた。

 敵はなんと、異世界に住む人間だった。彼らはモンスターを使い、この世界を侵略しようとしていたのだ。

 そんなこと、こちらの世界の人間として許すわけにはいかない。

 俺たち異能力者と侵略者……『暗黒剣士団』との戦いが始まった。


 異能力者と暗黒剣士団の戦いは熾烈を極め、ついに俺らは敵の幹部『三節棍のアシガ』を倒した。

 だが、まだ戦いは終わらない。

 暗黒剣士団の幹部はそれぞれ違った武器を持つ。皆違った武器だが、幹部の持つ武器は必ず暗黒剣士団の紋章が入っているため分かりやすい。

 その幹部は分かっているだけでも『戦鎚』『双槍』『手斧』が存在している。まだ把握していない幹部もいる。

 それらを倒し、追い払ったときが、俺らの勝利と言えるだろう。


 緋色が真剣な表情をしている。

 新たな幹部が判明したかとも思ったが、なにやら表情が暗い。

 これは悪い予感がするな。


「実は……ぬいがやられたの」

「なんだと……! 『氷のサイコロ(アイス・ダイス)』の縫がか……!?」


『氷のサイコロ【アイス・ダイス】』の鎌瀬かませ ぬい。俺らと同じ異能力者の仲間で、俺も一度戦ったことがあるが、多少運に左右される能力ではあるものの、決して弱い異能力者ではなかったはずだ。

 そんな彼女が……やられた……!


「縫は無事なのか!?」

「ええ……命に別状はなく、意識も戻って、今は病院で休んでいるわ」

「そうか……よかった……。それで、縫を倒したのは、やっぱりあいつらなのか?」


 俺の質問に緋色はコクリと頷いて言葉を続けた。


「縫から話は聞いた。間違いないわ。縫をやったのは異世界人よ」

「くっ……」


 仲間がやられた。

 異世界人との戦いは激しさを増していく。

 このまま戦いを続けていけば、仲間は傷つくだろうし、いずれ関係ない人まで巻き込むかもしれない。

 そうならないためにも俺は強くならねばならない。

 はたして縫を倒した異世界人に俺は敵うだろうか。みんなを守れるだけの力が、俺にはあるのだろうか。

 悔しい……。弱い自分が悔しい……!


「修地……」


 悔しさで拳を握り締めるところに、緋色の持っている携帯の音が鳴り響いた。

 この音は……異世界からモンスターが現れたときに鳴る音だ。正確には、向こうの世界とこちらの世界を繋ぐ『ゲート』が出現したことを教えてくれるから、異世界人が現れる可能性もある。でも、大半はモンスターだ。


「修地! こっちよ! どうやら近くにいるのは私たちだけみたいね」


 携帯を確認した緋色が、『ゲート』が出現した場所に走りだし、俺もそれについていく。

 細道を通り、裏路地を抜け、角を曲がって、人気のないところへと進んでいく。

 そして、今にも崩れそうなボロボロの廃工場にそれはいた。


 それぞれに鋭い爪を持ち、四つ脚で歩く大きな体。凶暴そうな強面に、口からはキラリと牙が見え隠れしている。

 それは一見ライオンのような生物だった。しかし一般的なライオンとは大きく異なっている。

 頭の周りを覆う体毛はメラメラと燃える炎であり、体にもところどころ炎が出ているのが見える。

 こんな生き物が自然界に存在するはずがない。異世界から来たモンスターだ。


「フレイムライオン……!」


 目の前の燃えるライオンを見て、緋色が驚愕の表情を見せた。


「どうした、緋色。もしかして強いのか?」

「当たり前よ! ……モンスターにはランクがあるって話はしたわよね」

「ああ、したな」


 モンスターにはそれぞれAからEまでのランクがある。一概にそうとは言えないが、基本的には上にいくほど強い。

 俺も個人ではDランクまでは倒せるが、C,B辺りは単独で倒すのは難しい。


「フレイムライオンのランクは最高ランクのA……! この前みんなで倒したBランクのフライキリンよりも強さが上なのよ!」

「なんだと……!?」


 Bランクモンスターですら、みんなで協力しなければ倒せなかった。

 それより強いモンスターを、緋色と二人だけで相手をする。しかも、緋色の異能『炎は友達【フレイム・フレンド】』では、同じ炎属性のモンスターに大きなダメージは与えられないだろう。

 とても勝機があるとはいえない。今すぐ逃げるのが得策だ。


「どうする? 逃げるか、緋色」

「逃げられるわけないでしょ。ここで私たちが逃げたら、誰があいつの相手をするのよ。誰が町を守るのよ」


 緋色は両手に『炎は友達【フレイム・フレンド】』の炎を生み出し、戦闘態勢に入った。

 俺も『想像創造【イマジネイト・クリエイト】』で剣を創造して、緋色の横に並び立った。

 緋色が「それに」と呟き、


「どうせ、あんたも逃げる気なんかないんでしょ。私が逃げるって言ったら、私を逃して修地ひとりで戦う気だったでしょ」


 俺は緋色の質問に、言葉を発さずニヤリと笑うことで応えた。

 緋色は「まったく、あんたって人は……」とぼやくが、表情はどこか嬉しそうだった。

 グルルとフレイムライオンが喉を鳴らし、緋色が緩んだ表情を引き締める。


「応援が来るまで早くて20分。それまでここで足止め……ううん、倒す気でいくわよ!」

「おう!」


 俺は叫び、左前方向へ走りだした。同時に緋色は右前へと駆け、俺らは二方向に別れる。

 フレイムライオンは俺と緋色、どちらを獲物にするか選ぶように見たあと、俺の方へと体を向けた。


 やれやれ。俺を指名か。指名されたとならば、相手をしてやらないとなっ!

 俺は走る足を止め、炎の獅子へと向きなおった。

 大きな牙や爪を持つ獣が、それだけで相手を射殺せそうな視線で俺を見る。こちらに向けられる脅威に恐怖心が溢れ出す。

 俺は恐怖心を抑えるため歯を噛み締め、ライオンに向かって地を蹴った。


 剣を強く握りしめて特攻しながら、攻撃する箇所を思案する。

 メラメラと燃えるたてがみは触れたら火傷じゃ済まなさそうだ。俺はライオンの足に向かって、握りしめた剣を横に払おうとした。


 対するフレイムライオンは近寄ってきた俺に鋭い牙で噛みつこうとした。

 俺はライオンの攻撃を後ろに跳んで避けた。そのせいで自身の攻撃も浅くしか入らず、ダメージはあまり入らなかった。


 だが、それでいい。

 俺の目的はフレイムライオンと戦い、こいつの注意を引くことだ。

 俺の視界……フレイムライオンの後ろに、緋色の姿がある。俺が戦っている間にライオンの後ろから近づいていたのだ。


「『炎は友達(フレイム・フレンド)』ーー〈フレイムショット〉!」


 緋色の手から放たれた火の塊が、それに気づかなかったライオンに直撃した。

 しかし、ライオンはまるで何もなかったかのように、俺の方に近づいてくる。


「くっ、この! このっ!」


 緋色は攻撃を続けるが、ライオンは無視して俺へ前足を振り下ろした。俺は横に回転して、それを避ける。

 フレイムライオンは爪で、牙で俺に攻撃を続けた。まともに食らったら一撃でアウトだ。俺は跳んで避けたり、剣で逸らしたりして、なんとか致命傷は回避する。

 どうにか避けているが、攻撃ができない。このままじゃ防戦一方でジリ貧だ。見かねた緋色が俺のフォローに入ろうとこちらに走ってきた。


「修地!」

「…………!」


 防戦を続けながら、こちらに走ってくる緋色にライオンが視線を移したのが見えた。

 やばい。緋色は、攻撃しても無視されたから、ライオンにとって自分のことは眼中にないと思ってる。


「緋色! 危ない!」

「え?」


 俺はライオンが爪を下ろした緋色のところに走った。

 ギリギリのところで緋色を抱えて横に避け、対象を失ったライオンの攻撃は地面を砕いた。


「くっ……!」

「きゃあ!」


 衝撃で受け身も取れず、緋色と一緒に地面に転がる。

 痛い……が、戦えないほどではない。


「大丈夫か、緋色」

「ええ、大丈夫よ、ありがとう」


 俺たちは急いで体勢を立て直し、フレイムライオンを見た。

 すると、炎の獅子はこちらを見下ろし、大きく息を吸っていた。徐々にたてがみの炎が大きくなっていく。

 やばい。急いで避けなければ。いや、間に合わない!


「『想像創造イマジネイト・クリエイト』ーー〈大盾〉」


 俺は目の前に、俺と緋色が隠れるぐらい大きな盾を創造した。

 息を吸い終えたフレイムライオンは俺らに向かって灼熱の息吹を吐き出す。

 辺り一面が炎に包まれる。盾の後ろにいる俺と緋色はなんとか炎から逃れた。

 ほっと息をついたのもつかの間、続けざまにライオンは前足で攻撃を繰り出した。

 俺は盾を抑えて防御しようとしたが、先ほどの火炎で消耗していた盾は獅子の猛攻を防げず砕けてしまった。


「ぐああああぁぁぁ!」

「きゃあああぁぁぁ!」


 つ、強い……! これがAランクモンスター……。想像以上の強さだ。

 早く体勢を立て直さなくては。次の攻撃がくる。回避か。防御か。


 戦いはすでに敗色が濃厚だった。こっちの攻撃は通らない。あっちの攻撃は防げない。フレイムライオンは傷一つなく、俺らはすでに満身創痍だ。

 絶望的な状況に、せめて緋色だけでも逃がす方法はないかと考えながら辺りを見渡す。

 脱出経路、注意を俺に引く方法、使えそうな資材。

 なんて言えば緋色は逃げてくれるだろうか。言って素直に逃げるような性格じゃないからなぁ。


 ……そのときだった。

 フレイムライオンの上、廃工場の天井から何かが降ってくるのが見えた。

 古くなった屋根の一部や部品かと思ったが、違う。アレは……人だ!?


「……【ハンマー】スキル〈ランドインパクト〉」


 突如上から降ってきた人影はそのまま勢いよくフレイムライオンの上に落下。ライオンは叫び声を上げて倒れ、辺りに衝撃が響いた。


 突然の出来事に俺も緋色もあっけにとられる。

 な、なんだ……? 一体何が起こった?

 人が降ってきた? あのフレイムライオンを一撃で? 一体誰なんだ? 俺たちを助けにきた異能力者の増援か?

 落下の衝撃とライオンが倒れたせいで辺りには砂ぼこりが舞っており、謎の人物の姿は隠れている。

 砂ぼこりの隙間から、謎の人物が大きなハンマーを持っているが見えた。上からハンマーで攻撃したのか。それならあの衝撃も納得だ。いや、それよりも……、


「…………! 修地……!」

「ああ、分かってる……」


 砂ぼこりの隙間から見えたハンマー。それにある紋章が入っているのが見えた。先日戦ったアシガの武器の三節棍にも刻まれていた紋章。『暗黒剣士団』の紋章だ。

 つまり、あいつは……暗黒剣士団の幹部……『戦鎚』だ!


 くっ……なんでこんなところに。何が目的だ。なぜモンスターを倒して、俺たちを助けた。

 いろいろと疑問は浮かぶが、現れたのが味方でないと分かった俺と緋色は再び戦闘態勢に入った。

 緊張感が辺りを包む中、徐々に砂けむりが晴れ、『戦鎚』の姿が明らかになる。


「え…………」


 “彼女”は緋色と同じ鹿雄かおす高校の女子制服を着ていた。

 あの大きく重そうなハンマーを使ったのが女性だということ。その女性が俺たちと同じ制服を着ていること。

 そんな驚きよりもさらに大きな衝撃が、俺と緋色の目の前に存在していた。


「う、嘘……そんな……、どうして……あんたが……」


 緋色が信じられないものを見るように彼女を見ていた。

 この世界への侵略者、暗黒剣士団。彼らの行為は許されるものではなく、俺たち異能力者にとっては倒すべき敵だ。

 その侵略者の幹部、『戦鎚』。その正体は……その名前は……、


「折岩……聖華……」


 クラスメイトであり、緋色の友達であり、俺の前の席の女子だった。

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