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価値観

次の日の朝、炎嘉は宴に出るためもう一日残ると言ったが、維心は維月を連れて帰ることにしていた。

なので十六夜は、朝から大氣に会いに出掛けていた。維心が早く帰りたいので、さっさと聞いて来るようにうるさいので、起きていきなり部屋を出て来たのだ。

なので少し不機嫌な状態で、十六夜は大氣と維織の対の部屋の戸を開いた。

「大氣、聞きたいことがある。」

大氣と維織は、朝の茶を飲んでいた。大氣は、ため息をつくと十六夜を軽く睨んだ。

「主は何ぞ、昨日今日と。碧黎はもう心配ないぞ。ゆっくりさせてくれぬか。」

十六夜は、お構いなしにずかずかと入って来て大氣の前の椅子へと座ると、言った。

「教えてくれれば帰る。お前なら知ってるだろうと思ってな。命を繋ぐってどういうことだ?」

大氣は、絶句して茶碗を落とした。維織が、慌ててそれが床にたたき付けられる前に受ける。だが、茶は床へとこぼれてしまった。

「まあ…どうなさったの?常は絶対に落としたりなさらないのに。」

侍女が気取って、慌てて布を手に入って来て、床をせっせと拭う。大氣は、言い訳するように言った。

「ああ…すまぬ。気を抜いてしもうたわ。」と、立ち上がった。「話をしたいのだの?ならば主らの部屋へ参ろうか。込み入った話になりそうであるし。」

十六夜は、きょとんとした。

「いや、ここでもいいぞ?維心が帰る前に聞いて来いってうるさいから、聞きに来ただけなんでな。」

維織が、少し怪訝な表情でこちらを見ながら茶碗を片付けている。大氣は、仕方なくまた座った。

「そうよな、心を繋ぐようなものかの。ちょっと違うところがあるゆえ、普通の神には難しい。我らのような命でなければ無理かの。」

十六夜は、ふーんと身を乗り出した。

「だから、親父は自分だけとか言ったのか。でも、オレにも出来るんだよな。」

大氣は、緊張気味に頷いた。

「主になら出来るであろうの。だが、やり方も知らぬのにするとお互いに大変なことになるやもしれぬし、勝手にするのはやめた方が良いぞ。」

十六夜は、考え込むような顔をした。

「いや…ま、心なら維心のやり方真似て繋いだことあるし知らないやり方でしようとは思わねぇ。維月に親父は大丈夫なのかって聞いたら、命を繋いだって言うからよ。親父は他の誰とも繋ぐなって言うらしいし、維月はいまいち意味がわからねぇみたいだから、聞きに来たわけだ。維心が、どんなつもりで親父がそれをしたのか知りたいから、意味を聞いて来いとうるさいし、オレも気になってな。大氣なら知ってるだろうってさ。」

大氣は、頷いた。

「まあ、知らぬでやったら危ないことも、碧黎は知っておるゆえ。それで己だけだと申したのではないかの。深読みする必要などない。」

十六夜は、少しホッとしたような顔をして立ち上がった。

「そうか、ならいいんだ。邪魔したな、大氣。ゆっくり休んでくれや。」

大氣も、ホッとしたように力を抜いた。

「そうか。分かってくれたなら良いのだ。ではの、十六夜。」

十六夜は、機嫌よく出て行く。それを見送ってから、維織は新しい茶を入れた茶碗を大氣の前に置いた。

「…お祖父様は、大変に危ない状態であったのですわね。父も、これでここ数週間の物思いがなくなったようでよかったですわ。」

大氣は、茶に口を付けながら頷いた。

「何事も、丸く収まってくれたのなら良かったことよ。我には、やはり未だに神世とは価値観が違う所もあるしの。あれらが何を案じて何が平気なのか、分からぬ所も多い。」

維織は、大氣の横に腰掛けながら言った。

「でも、大氣様は我と心を繋いだことがありませぬわね。お父様も龍王様も、お母様とは繋いでおるとか…。あの、私も父と母の子でありまするし、大氣様と同じ命ではありませぬか?ならば、お祖父様がなさったという、命を繋ぐことも、出来るのでは?」

維織は、何気なく言ったことだったのだが、大氣は、それを聞いて体を硬くした。手に持った茶碗がカタカタと震えている。維織は、急に大氣が身を強張らせたので、びっくりして言った。

「大氣様?!いかがなさいました?」

大氣は、知らずにつめていた息を、ふーっと吐き出すと、茶碗をテーブルへと置いた。

「いや…驚いただけぞ。我は…心を繋ぐことはあまり。なぜなら、我の記憶は膨大で、心を繋いだ相手がそれを処理しきれずに発狂する恐れもあるしの。主にそんな思いはさせたくはない。維月は、戦って来た女。他の女神に比べて、かなり強い精神力を持っておる。だが、主は違うからの。やめた方が良い。」

維織は、少し複雑な顔をした。

「確かにお母様は大変にお強いかたでいらっしゃいまするけれど…。」

大氣は、突然に立ち上がった。

「では、我は碧黎の様子を見て参る。いくら大丈夫だと言うてあんなことがあった後、気になるゆえな。」

維織は、いきなりのことに驚いたが、大氣はもう歩き出している。仕方なく、頭を下げた。

「いってらっしゃいませ。」

しかし、頭を上げた時には、もう大氣はそこには居なかった。


十六夜は、維心の対へと向かった。居間へと入って行くと、そこには維心が一人、座っていた。

「あれ?維月はどこ行った?」

維心は、憮然として言った。

「主が帰って来る前に、蒼の様子を見て来ると言うて。あんなことがあった後なので、気になるのだとか。」

十六夜は、苦笑した。

「仕方ねぇよ。蒼だって維月の前世の息子なんだからな。心配なんだよ。」

維心は、十六夜に座るようにと身振りしながら言った。

「分かっておるわ。して、どうであった?早かったの。」

十六夜は、椅子へと座ってそっくり返った。

「ああ、やっぱり心を繋ぐ、別の方法なんだってさ。だが、親父のやり方は維心のやり方とは違うらしいんだ。何でもオレ達みたいな命でないと出来ねぇらしい。難しいから、間違えたらお互い大変なことになるから、やり方を知らないならオレにもしないほうがいいって言っていた。」

維心は、ふむ、と考えるように手を顎に当てた。

「だから己だけと碧黎は言うておったのか?…しかし、維月は婚姻のような心地もしたとか言うてはおらなんだか。我はそこが気になっておったのだが。」

十六夜は、手を振った。

「おいおい、体は繋いでねぇだろうが。親父の気が維月に残ってなかった時点で、そんなに心配する必要なんてなかったんだよ。」

維心は、まだ何か気になるようだったが、慎重に頷いた。

「そうなのだが…。」

十六夜は、そんな維心を見てふふんと笑った。

「ほんとにお前は心配性だな。心配しなくても、親父は約束は守るんだ。婚姻なんて、親父はしようとは思ってないんだよ。いいじゃねぇか、心を繋ぐぐらい。それで親父が落ち着いててくれるなら、安いもんだ。」

維心は、仕方なく頷いた。

「主がそう申すなら…。」

するとそこへ、維月が蒼を連れて入って来た。

「あら、十六夜?早かったのね、まだ時間があるのかと思って、蒼が維心様にご挨拶をと言って。連れて来たのよ。」

維心が、ぱっと明るい顔をして、維月に手を差し出した。

「おお維月。主こそ早かったの。今、十六夜と話しておったところぞ。」

蒼が、入って来て維心に頭を下げた。

「維心様、お帰りになる前にご挨拶をと思いまして。」と、維月が維心の手を取って隣りに座るのを待って、続けた。「いろいろありましたけれど、今日宴を催して、焔殿には明日の朝こちらを発つようです。」

維心は、頷いた。

「ま、此度は有意義であった。焔とも、充分に交流出来たしの。我も、父のことでいろいろわだかまっておったのを少しは軽減出来たかと思う。」

維月が、横から十六夜に言った。

「それで、大氣は何と言っていたの、十六夜?」

蒼は、眉を上げて十六夜を見た。

「え、朝から大氣に会ってたのか?」

十六夜は、頷いた。

「昨日、親父が維月に命を繋いだとか聞いたから、その意味を聞きに行ってたんだ。」蒼は、見るからに仰天して十六夜を見た。十六夜は、怪訝そうな顔をした。「なんだ?」

蒼は、焦った。命を繋ぐの意味を、大氣は十六夜に話したのか?

「い、いや、何でも。それで、大氣は何て?」

十六夜は、何でもないように答えた。

「今維心にも話してたんだが、オレらの命だけが出来る心を繋ぐってことらしい。神には出来ないんだってさ。オレも、やり方をしらねぇのにやったらお互いに大変なことになるから、しないほうがいいらしい。ま、オレは維心の方法で維月と心を繋いだことがあるから、わざわざそんな方法知らなくてもいいしよ。」と、維心を見た。「維心にも、それで親父の気が済むんだったら、いいじゃないかって今言ってたところだ。」

蒼は、ホッとしたように肩の力を抜いた。

「そうか。あの…変なことだったらどうしようかと思ったよ。」

十六夜は笑った。

「お前も心配性じゃねぇか。心配しなくても、親父は維月を娶るつもりはないんだよ。約束したことだしな。」

蒼は、慎重に頷いた。知ってる。だって、碧黎様には娶る・婚姻=体を繋ぐ、だから。その体を繋ぐ以上のことだからこそ、碧黎様には婚姻なんて意味がないことなんだってば。

だが、蒼はこう答えた。

「そうだな。碧黎様は母さんと婚姻するつもりないってはっきり言ってたからね。」

十六夜は、また笑った。

「だろう?」と、維心と維月を見た。「心配するこたねぇんだって。」

維心は、幾分ホッとしたように維月を見た。

「そうか。我の取り越し苦労であるの。」と、立ち上がった。「では、我は宮へ。政務が途中であるし、放って置けぬ。もう戻る。」

蒼は、慌ててまた頭を下げた。

「では、またご報告致しますので。」

維心は、軽く会釈した。

「頼んだぞ。」と、維月の手を取った。「さ、参ろう。」

そうして、維心と維月は、龍の宮へと帰って行った。

その姿を、蒼はホッとしたように、十六夜は穏やかに見送ったのだった。

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