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意味

弦は、焔が気になって小会議場の中を伺った。ここまではついて来れたが、ここから先は焔に許されなかったのだ。しかし、あのように大きな力を持つ王達と共に、まだよく分からない世であるのに、王をたった一人で置くのは気になって仕方がなかった。

確かに偉大な王だが、しかしまだ300歳にもならないのだ。

その入り口に膝をつき、じっと中を伺いながら座っていると、黒髪に明るい青い瞳の龍が、近寄って来た。これは…先程目の覚めるような立ち合いの動きをしていた軍神。終わりの少ししか見れなかったが、その一瞬で弦も、絶対に敵わないと思ったほどの手練れだった。

「焔様の軍神か?我は、龍の宮筆頭、義心。主、いつまでそこに居るつもりよ。」

弦は、険しい顔で義心を見た。そうか、龍の宮筆頭か。ならばその気の説明はつくの。

「…我が王がお戻りなるまでぞ。我は、鷲の宮筆頭、弦。」

義心は、やはり、と少し表情を緩めた。

「弦殿。ならば我らと立ち合いでもどうか?焔様はまだ出て来られまい。戻られる時にここへお迎えに参れば良いではないか。鷲の剣技、興味があるものよ。」

弦は、心が揺れた。確かに一度手合わせしてみたい。宮の中には、自分を越える腕を持つ神はいなかった。王には全く敵わなかったが、王はあまり相手をしてはくれないからだ。

だが、そもそもまだ、弦は龍も月も信用しきれていなかった。そんな所で、お一人にするわけにはいかぬ。

「いや、我はここで。立ち合いの機会は、これからいつなりあるであろう。今は、王のお側に。」

義心は、弦の心を悟って苦笑した。

「そうか。早よう打ち解けてもらえればの。立ち合える日を楽しみにしておる。」

義心は、去って行った。弦はその背を名残惜しげに見たが、すぐに表情を引き締めてまた、中を伺ったのだった。


炎嘉が、口を開いた。

「どういうことぞ?何の意味か?そもそも主は幾つなのだ。」

焔は、答えた。

「我は250。」驚く蒼を横目に焔は続けた。「そうか、我は要らぬ事を案じておったのだ。誰も信じぬとな。だが、主らならば信じよう。維心、炎嘉。我は生まれ出た時にあまりに大きな気が、伝え聞く曾祖父のようだと父が同じ名をつけた。父は間違っていなかった…我はその、焔。三千年前に引きこもる事を決断した、焔の生まれ変わりなのだ。」

維心が、唸るように言った。

「…そうか…ならば知っておるのも道理よ。記憶を持って参ったのか。」

焔は、頷いた。

「強く願った。あちらから引きこもってあの小さな土地から出ない我が一族を解放したいと。なので、青い髪に青い瞳の強大な気を持つ男が訪ねて来て、転生するかと聞いた時、迷わず頷いた…この記憶も共にとの。」

…碧黎か。

維心も蒼も、炎嘉も思ったが何も言わなかった。

「記憶を留めることを、その男は許したのか?」

焔は、首を振った。

「いいや。全て忘れると。だが、力のある神はどうにかしてそれを持って来る事もあると。真に願うなら、主もやってみたらどうだと言われた。」

やはり、と維心と炎嘉は顔を見合わせた。碧黎は、自分でやれと言ったのだ。

「我は、世を助けるのだと訴えて、不自然な転生の仕方をした。なので主のような苦労は無かったが、生まれでる苦しさを経験したがの。」

焔は、炎嘉を見て苦笑した。

「その転生の仕方もあるとは言われた。だが、そうすれば王として戻れぬ。さすれば出来ることも限られよう。普通に転生すれば、(せん)の子として生まれることが出来ると聞いて。さすれば皇子であるから。」

炎嘉は、顔をしかめた。

「煽とは?」

焔は、ああ、と言った。

「煽は今生の父よ。我が子、(じん)の息子。つまり今の我にとり曽祖父が焔、祖父が煁、父が煽。我は、その曽祖父の焔の生まれ変わりであるのだ…話そうぞ。これまでのことを。」

焔は、転生してこれまでのことを話し始めた。



焔は、大きな気の皇子として、第三皇子であったにも関わらず、生まれ出たその時から世継ぎの皇子だと皆に言われて育った。

父の煽が、まるで伝え聞いた祖父のような強大な気だとそれは喜び、赤子の焔にその名をつけた。その時点で、焔は王位に座る皇子だと決められた。

兄達は面白くないようで、自分達に100年以上遅れて生まれた弟を、遠巻きにするだけで相手にしなかった。なので、焔はいつもたった一人で居た。側に付けられた、まだ若い軍神だった弦が付いて来るだけで、皆遠巻きにしていた。

焔は、最初から記憶を持っていたのではなかった。

何もかも、全く知らずに育っていた。

幼い頃より新しいものが好きな焔は、なのでよく外へと父の結界を抜け出して行き、外の世界を見て一人で遊んでいた。

そこは、本当に広い世界だったのだ。

それなのに、鷲は皆、父の結界の中に居て、外へ出る気配がない。焔は、ある日弦に聞いた。

「弦、なぜに鷲は、父上の結界から出ぬ?」

幼いながらもしっかりとした口調の焔に、弦は答えた。

「は、焔様の曽祖父に辺りまする王が、神世とは隔絶されたこの地で、鷲は平穏に過ごすのだとお決めになられたのでございます。それ以来、皆それに従い、こうして平和に過ごしておりまする。神世には、戦もございまするゆえ。」

人で言うと五歳になるかならないかという幼い姿の焔は、弦を見た。

「だが今の世には、大きな戦などないようぞ。我だって、戦が大きな気のぶつかり合いであることは、知っておる。それが、無いではないか。」

弦は、焔があまりに利口なのでいつも困るのだが、今も困っていた。

「は…しかしながら、今の神世になる前には、戦国でございました。龍が鳥と共に平定し、そうして力で押さえつけて今の世にしたのだとか。鷲は、戦国に巻き込まれずに済んだのでございます。二代前の王の、英断でございまする。」

焔は、眉を寄せた。違う。なぜだが、心の奥で何かが違うと叫ぶ。英断などでは、ないのだと…。

「違う。」焔は、言って飛び上がった。「曾お祖父さまは間違っておった!」

弦は、慌てて後を追おうと焔を見上げた。

「焔様!お待ちを!」

しかし、焔は幼くてもかなりの力を持っている。

瞬く間に父王の結界を抜けて、飛び去ってしまった。

「焔様!!」

弦は、必死に探した。それでなくても、結界外へ出ること自体が禁じられている。それなのに、焔はいつも簡単に出てしまう。慌てて連れ戻して事無きを得ていたが、このままでは王に気取られてしまう!

「焔様ー!!お戻りを!!」

弦は、必死に警備の者に混じって結界外へと出て、焔を探して飛び回った。


焔の行方は、ようとして知れなかった。

こうなると、王に知らせるよりなかった弦は、斬られるのを覚悟で煽の前に膝をついて頭を下げた。

「申し訳ありませぬ、王よ。我には、焔様をお止めする力がございませんでした。」

それを聞いた煽は、困ったようにフッと笑うと、首を振った。

「主には無理ぞ。我にも無理であるのに。」弦が驚いて顔を上げると、煽は立ち上がった。「あれはあの幼い姿であっても驚くような気を持っておる。あれに敵うものなど、最早鷲には居らぬわ。だが、まだ子供であることも確か。探しに参る。軍神を結界外へ出せ。」

そうして、鷲の軍神達は四方へ、他の神に隠れながら焔を探しに出たのだった。


焔は、その頃飛んで飛んで、気がつくと海が見える場所まで来てしまっていた。こんな所まで来たのは初めてだ…。

しばらく、ぼーっと海に夕日が沈んで行くのを見てそこに浮いていると、不意に声がした。

「…困った奴よ。父の言うことは聞かねばならぬぞ?まだそのように身が幼いのだからの。」

知らぬ声!

焔は、慌てて構えて振り返った。

構えたと言っても、刀など挿していない。何しろ、まだ幼いのだ。なので、気を放とうと手を構えたのだ。

すると、そこには青い髪に青い瞳の、どこか見覚えがあるような、懐かしい、しかし驚くほどに大きな気の男が浮いて、こちらを呆れたように見ていた。

「主は…誰か?」

相手は、困ったように顔をしかめた。

「そうか、覚えておらぬか。失敗したかもしれぬの。」

焔は、首をかしげた。

「失敗?何に?」

その男は、焔をひょいと抱くと、言った。

「かつて知っていたことを、ここへ留めることにだ。」と、焔の頭を撫でた。「だが、のちに思い出すやもしれぬ。我が子達は細工をしておって、成人した頃に思い出した。なので、主もそうやもしれぬな。だが、ならば尚更、今は幼い。このような父の守りもないような所へ、気軽に出て参ってはならぬ。」

焔は、なぜかホッとするような気の持ち主の男に、言った。

「我は、あのような場所に留まるのは嫌だ。曾お祖父様は間違っておったのに。鷲達は、皆英断だとか申す。父上だって疑わぬ。なぜに?王も…間違うことはあるのに。」

そうだ、間違ったのだ。だが、なぜにそう思う?

焔は、幼い心にそんなことを思って、胸を掴まれるような後悔の念を感じた。どうして自分がこんなに後悔するのか、焔には分からなかった。

男は、フッと息をつくと、苦笑して言った。

「そうか、やはり覚えておるの。焔、主は後悔しておるのだな。」と、額に手を当てた。「ならば手を貸してやろうぞ。主の心が己の記憶に耐えられる大きさに成長した時、主の中の知識が主の中に開くよう。よう精進するのだぞ。さすれば主が知りたいこと、全てこの中に蘇えるであろう。」

額が、薄っすらと熱くなったかと思うと、焔は気を失った。

そうして、次に目が覚めた時は、おろおろとする乳母達や、必死の表情の弦、そしてホッとしたような父王の顔が覗き込む、自分の部屋の寝台の上だったのだった。

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