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父親

維月は、維心を待って王の居間で月を見上げていた。月には、十六夜の気配がある。十六夜のお蔭で、維月は一人の時も、一人だと思ったことが無かった。それは、前世今生合わせてずっとそうだった。

「十六夜。」

維月は、声を掛けた。十六夜の声が、答えた。

《どうした?お前、一人か?》

維月は、頷いた。

「ええ。維心様は炎嘉様と、お酒を飲んでいらっしゃるから…。」

十六夜の声は、少し驚いたようだった。

《ふーん。お前を置いて酒を飲みに行くなんて、あいつらしくねぇな。だが、最近のあいつは結構活発で人付き合いもちゃんとしてるみたいじゃねぇか。あれでこそ、普通の神の姿なんじゃねぇか?》

維月は、また頷いた。

「そうなの。炎嘉様の所へお話に行っていらして、戻って来られてからそうなのだけれどね。きっと、今生を生きていらっしゃるのだから、その歳に相応しいように、生きて行こうとなさってるんじゃないかなあ。前世は、あれで1800歳であられたから、それは落ち着いていて、どっしりしてらしたでしょう。今の維心様は、何に対してもとっても堂々としてらして、自信ありげでいらっしゃるの。若い行動的な神って感じ。あれはあれで、とっても魅力的でいらっしゃるから、私は別に良いのだけれど。」

十六夜の声は、穏やかに言った。

《いいんじゃねぇか?新しい生を生きてるんだし、お前がいいならそれで。自信があるのは、当然なんだよ。今生は苦労って苦労してねぇだろう。大事に皇子として育てられて、嘉韻とお前を争って無事に勝ち取って、正妃にして子供も三人生まれて。長い年月一緒に来たから、お前に対する信頼もある。安定したこの生活に、疑問なんてないのさ。前世とは境遇が違う。不幸に不幸を重ねた上にたった一人で居て、初めて愛したお前をやっと手にして、お前しかないんだから失うことがどれほど怖かったのか分かるだろう。執着もするさ。》と、息をついた。《良かったじゃねぇか。落ち着いて普通の神になってるみたいで。》

維月は、それにも頷いた。

「そうね。私も、変に嫉妬なさったりしないから、とても楽よ。気を遣わなくていいから。」

十六夜の声は、維月に気取られないように、少し探るように言った。

《まあ…だからって誰と仲良くしてもいいってことじゃねぇと思うぞ?あくまでお前が居るからこそ、ああして落ち着いてるってことで。お前の心を信じてるんだよ。》

それを聞いて、維月はしばらく下を向いた。十六夜は、維月が何と答えるのかと、固唾を飲んで見守った。すると、維月は月を見上げた。

「ねえ、十六夜…。私ね、十六夜のことは、前世も今生も、ずっと赤ちゃんの時から一緒に来て愛してるし、信頼してるから、絶対に離れられない。維心様だって、ずっと愛して来たから、ああして今生で変わられてもまだ魅力的であられるし、愛していて離れられない。二人で、私の心はいっぱいなの。だからね、これ以上誰かを愛するということは、必然的に誰かが押し出されることになると思うの…だから、お父様のことは、お父様がおっしゃるように、父親としての場所に、収まっていた方がいいと思うの。」

十六夜の声は、緊張していた。

《それは…つまり、今まで通りに親父は親父として愛情を持って行く、ってことか?それって、心をどうにかできるわけじゃないだろう。お前、今は親父のことどう思ってるんだ?》

維月は、首をかしげた。

「相変らず分からないわ。でも、確かに父親を愛する娘の感情ではない何かがあるような気もする。だから、考えないようにしているの。これって、お父様が言うように、接しないでいた方がいいのよ。本当にお父様を愛してしまったら、大変なことになってしまうわ。皆がつらい…私も含めて。だから、しばらくお顔を見ない方がいいと思って。月の宮には、お父様もお帰りになりたいでしょうし、しばらく里帰りはやめておくわ。十六夜、そうお父様に伝えてくれる?安心なさってと。私は、大丈夫ですからって。」

十六夜は、維月が無理をしているのでも、嘘を言っているのでもないのを、その表情と声から知った。維月の事なら、ずっと見て来て分かる。維月は本当にそう思っているのだ。

《そうか、わかった。親父にそう伝えておくよ。》

維月は、微笑んで頷いた。

「困らせてしまってごめんなさいって言っておいてね。ほんとに私ったら、どうしたのかしら。結蘭のこととかあって、すごく近くに過ごしたから、きっと誤解したのね。お父様ってね、時々維心様とそっくりな事をおっしゃったりなさるの。だからかなあ、その度に意識しちゃったりして。育てて頂いた時とは、姿も違ってお若いでしょう。余計に混乱しちゃう。」

十六夜は、それを複雑な思いで聞いていた。確かに維心と碧黎は、いろいろなところで似ているのだ。同じ事を言う、と思うこともよくある。思えば近くに過ごせば、維月が惹かれて行くのも道理なのだ。維心と重なるのに、維心よりも無欲なのだ。

《…親父は、親父だよ。》十六夜は、言った。《オレ達の親だ。姿が変わろうと、中身は変わらねぇ。オレだって親父が好きだ。シャクだけど。》

維月はそれを聞いて、目を丸くした。そして、次の瞬間キャッキャと笑った。

「まあウフフ。やだ十六夜ったら、真面目にそんなこと。私には分かってたけど、絶対認めなかったのに。」

十六夜は、慌てて言った。

《こら、維月!オレは別に…お前に合わせようと…》

維月は、フフンと首を振った。

「好きなのよ、小さな頃から。私、知ってるわ。十六夜は、いつもお父様みたいになろうと一生懸命真似てたわ。お父様も、それに付き合ってよく私を置いて、飛んでいらしたもの。最初は私も一緒だったけど、すぐについて行けなくなったから。たまに私を抱いて飛んでくださったけど、十六夜は追い付いて来れなくて…お父様、いつも合わせてスピードを落としたりなさって、ついて来れるように気遣ってらした。覚えているわ。」

十六夜は、言われて思い出していた。碧黎に憧れて、どうにかして追い付こうと必死だった。維月を守れるような男に早くなりたかった。碧黎は、目標だった。だが、他の神と同じように年頃になると、それが気恥ずかしくて反抗した。話し方も碧黎でなく人の世に居た神達を真似た。その方がしっくり来た。そのうちに自分は成長し、気が付くと碧黎と肩を並べて飛んでいたのだ。

《…だから、親父は親父なんでぇ。》十六夜は、答えた。《信頼してるんだ。いつでも追って来た。今でもそれは変わらねぇ。》

維月は、頷いた。

「そうね。私も小さな頃、お父様と十六夜以外は男だと思っていなかったわ。力もだけど、能力だって同じぐらいの神でなければ、同じ命として認められなかったかもしれない。だから、恋愛とか、全く分からなかったのかも。」

十六夜は、前世の記憶が戻っていなかった維月を思い出した。そして、苦笑した。

《確かにそう言われてみればそうかもな。だとしたら皆気の毒なこった。そんな神、維心以外は居ないんだからよ。》

維月はふふと口を押さえて照れたように笑った。

「だから、維心様をとても愛してるのかも。もちろん力だけではないけれど、お父様や十六夜と同じように、安心して自分を任せられるんだもの。」

十六夜の声は、からかうように言った。

《へ~。今の維心には言うんじゃねぇぞ。あいつすっかり前世を押さえ込んで今生の維心になって自信満々なのに、更に調子に乗るかもしれねぇじゃねぇか。》

維月は、いたずらっぽく頷いた。

「ええ。言ってあげない。あれだけ自信満々だと、少し心配して欲しくなるのは我がままかな?」

十六夜は、声を立てて笑った。

《ははは、いいんじゃねぇか?だが、ほどほどにしとけよ。また拗ねて離縁だとか言い出すから。今生は意地っ張りなところがあるからな~。》

維月も、つられて笑った。

「そうね!ほどほどにしておくわ。」

そうして、十六夜と維月はそれからも、取り留めの無い話で夜遅くまで話したのだった。

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