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治癒

蒼は、月の宮のまだ綺麗な牢の中で、瞑想するように黙って座る慶と脩を気遣わしげに見ていた。抑えきれずに祟り神になってしまった時のために、嘉韻と己多の二人を見張りにつけてはいるが、何が起こるか分からない。先程十六夜が、晃維なら助けられるかもしれないと連絡して来た。元より維心には出来るらしいが、腰を上げてくれないらしい。確かに、本来龍王が簡単に宮を出て、一般の神のために動くなどないので、当然と言えば当然のことだった。それでも、蒼は薄情な気がした…やはり元の維心でないからなのか。

蒼が悶々と考えながらそこでむっつり黙って立っていると、炎託が入って来た。

「瑞姫は落ち着いておる。して、こちらはどうか。」

蒼は、炎託を見た。

「十六夜が、晃維なら助けられるかもしれないと。今西に連れに行っている。」

炎託は、眉を上げた。

「龍の皇子が、治癒の技を?龍王ならば出来ぬ事などないだろうが。」

蒼は、頷いた。

「晃維は昔から治癒の技をよく学んでいたんだ。なので、出来るだろうと。維心様は、動いてくださらないから。」

炎託は、深刻な顔をした。

「まあ、龍王が個人のために動くなど聞いた事はないからの。待てよ、龍王…」炎託は、パッと表情を変えた。「将維は?!あれは六代龍王だったのではないのか?!」

蒼も、パアッと明るい顔になった。

「そうだ将維!忘れていた、ここに居るじゃないか!」と、踵を返した。「行って来る。ここで見ててくれ、炎託!」

炎託は、頷いた。蒼は、宮の北の、将維の対へと急いだのだった。


将維は、北の対で退屈にしていた。最近では、ついぞ世の役に立つようなことをしていない。それなのに、自分の老いが止まって数百年、恐らくまだ責務とやらがあるのだろうが、それが何なのか皆目見当も付かなかった。

今日も、退屈に自分の居間に座って北の庭を眺めていると、侍女が慌てたように声を掛けて来た。

「将維様、王がお目通りをと…」

「将維!」

侍女が言い終わらないうちに、蒼が慌てて侍女を押しのけるように駆け込んで来た。将維は、普段は穏やかな蒼がそんなことをしたのでびっくりして目を丸くした。

「蒼?何を慌てておる。何か不都合でも?」

相変らず維心そっくりの顔で、落ち着いている将維に蒼はイライラしながら言った。

「すぐに来て欲しいんだ!将維は、治癒の技にも長けてるよな?」

将維は、眉を寄せた。

「瑞姫のことは知っておるが、あれは寿命よ。一時持ち直しても、すぐに悪うなるぞ。」

蒼は、ぶんぶんと首を振った。

「瑞姫のことじゃない。瑞姫を治しに来た二人の神が、祟り神の気に当たって飲まれそうなんだ。だから、将維に治療して欲しいんだよ!」

将維は、まだ眉を寄せたままだった。

「祟り神?またなぜにそのようなことになる。ここで祟り神など居らぬだろうが。というよりも、今の世に居らぬ。我もついぞ見ておらぬしの。」

蒼は、将維の腕を引っ張った。

「話せば長いんだ!後で話すから、とにかく早く!飲まれてしまってからでは、遅いんだろうが!」

将維は、渋々立ち上がった。

「しようのない。我も退屈であるし、行っても良いわ。だが、本当に後で理由を話すのだぞ。」

蒼は、ぐいぐいと将維を引っ張りながら、ホッとした表情をした。

「良かった、とにかくこっちへ!」

将維は、何のことが分からないまま、蒼に引きずられるように牢へと歩いた。すると、北の対から奥宮へと繋がる回廊の途中で、十六夜が晃維と共に飛んで降りて来るのと出くわした。

「十六夜!」

蒼が叫ぶ。すると、十六夜は晃維と共に庭の芝の上へと降り立った。

「蒼!晃維をつれて来たぞ!」と将維を見た。「将維?あれ、そう言えば将維ももしかして治癒の技ってのを持ってるのか。」

将維は、憮然として言った。

「ま、我は龍王であったし。」

晃維が、こちらも突然につれて来られたのだろう、怪訝な顔をして十六夜を見た。

「だからなぜに我らを集める必要があるのだ。将維兄上が居れば事足りるであろうが。理由も話さずいきなり連れてきおってからに。兄上に出来ぬことなどないのだからの。」

十六夜は、灯台下暗しとはこのことだと思った。将維は、龍王だったのに。

「忘れてた。将維は最近おとなしいから居ること自体すっかり飛んじまってて。」

将維が、不機嫌に横を向いた。

「どうせ隠居した龍王など役にも立たぬだろうよ。ならば晃維にさせよ。こやつもある程度やりよるわ。我は去ぬ。」

蒼が、慌てて将維の腕を掴んだ。

「待ってくれよ!居てくれた方が心強いんだから!」

将維は、ちらと蒼を見た。

「祟り神の気ぐらい晃維一人で事足りる。急いでおったのではないのか。行って参れ。」

将維は、完全に気を悪くしているようだ。ここに母さんが居たら…。蒼は、本気でそう思った。

「将維、ほんとに後で理由を話すから。母さんだって関係していることなんだ。とにかく、あの二人を治してくれないと。」

将維は、蒼に向き直った。

「維月が?」と、疑うように眉を寄せた。「…解せぬの。ならば父上が出て来られるのではないのか。」

蒼は、将維を引っ張りながら言った。

「維心様は現龍王だから動けないんだ。さあ、こっちへ!」

まだ訳が分からないようだったが、将維はそれでも歩き出した。将維が行くのに晃維も従わないわけには行かず、十六夜と共に牢へと向かったのだった。


牢へと着くと、炎託が心配そうに振り返った。

「先ほどから、二人共に冷や汗をかいてこちらの問いかけに答えぬようになっておる。身の内では、かなりの争いが起こっておるのではないか。」

蒼の後ろから入って来た将維が、それを見て一瞬で表情を険しくした。

「…これは強いの。どこぞの王が祟り神にでもなっておったのか。」

蒼は、頷いた。

「分かるのか?十六夜が聞いて来たところによると、久という王であったらしい。」

将維は、ちらと蒼を見た。

「久?記録で読んだが、あれは700年ほど前の祟り神で、緩く封じられてあったのを父上が滅したと。なぜに今頃久の気になど当たるのだ。」

十六夜が答えた。

「だから、それは後で説明するって!今は消してやってくれ!」

将維は、手を上げた。

「まあ良いが、本当にしっかり納得の行く説明をするのだぞ。面倒なものを抱えおってからに。」

将維から、眩い光が発しられた。それは、慶を包んでがっつりと押さえ込むように強力に縛ると、探るようにその内部へと侵入した。将維は、目を閉じる。

慶は、その途端に暴れだした。

「うおおおお!!」

足をバタつかせているが、気でがんじがらめにされているので、床を転がり回るだけだった。将維は、まだ手を翳して意識を集中している…そして、慶の体から黒い靄のようなものが立ち上ったかと思うと、じゅっと音を立てて消えて行った。

慶は、その途端にぐったりと四肢を投げ出して、将維の気に拘束されるがままに人形のようになった。将維は、目を開けた。

「…何やら大きな恨みの気ぞ。何に対してこれほどに恨みを持つことがあるのだ。あまり良い心地ではない。」

蒼は、将維を見た。

「これで、慶は?」

将維は、手を下ろして頷いた。

「もう気の侵食はない。しかしもう一人は晃維にさせよ。不快な気ぞ。これ以上接しとうない。」

十六夜が、呆れたように言った。

「なんだよ、神助けなのに。お前って変なところまで維心にそっくりだな。まあ、治療してやるだけマシだが。」

将維は、十六夜を軽く睨んだ。

「あのな。主も一度やってみよ。己の気で相手の気を押し潰すのだぞ?つまりは触れねばならぬのだ。相手の気が己の気を侵食しようと触手を伸ばして来るのを消すわけであるから、鬱陶しいことこの上ないのだ。」

晃維が、進み出た。

「では、我が。」

すると、修がいきなり叫び出した。

「おおおおお!!」突然に、気が大きく膨れ上がる。「もはや抑えられぬー!!」

蒼と炎託が、驚いて振り返る。将維が、サッと手を上げた。

「祟り神になる!主らはここより出よ!」

将維から発しられた障壁が修を包む。蒼は、慌てて叫んだ。

「将維!助けてやってくれ!ダメだ、祟り神にしてしまっては!」

将維は、歯を食いしばって叫び返した。

「やっておるわ!早よう出よ!」

それを聞いた晃維が、同じように手を翳して光を発した。

そこは、一瞬にして激しい光と闇がぶつかり合う修羅場と化した。

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