7話怪我人に労りを。
「……ここは?」
白い天井を見上げながら呟く。
「そこまでボケたか?お前の部屋だぞここは。」
あぁ、どおりで見覚えがあると思った。横を見ると圓城が呆れたような顔でこちらを見下ろしている。……思い出した、俺は二人目のストーカーに会ってやられたんだ。ようやく頭が回り始め、意識がハッキリしてきた。それと同時に体に酷い激痛が走り回った。
「いたたた!うわっ、身体中が痛い!」
顔から足まで余すところなく痛い!あまりの痛みに身動きがとれない。
「大げさな、肋骨二本のほかは打撲、切傷のみだ……軽症だろ。」
「どこがだ!立派な重症患者だろ。ってか、病院に連れてってくれ!」
俺は自分のベットの上で叫ぶ。体が動かないが圓城を見上げる。
「心配ない、私が手当てした。医者が手を加える所はない。」
よく見ると体には包帯が巻かれており、添え木や止血もしっかりしている。
……マジで完璧かもしれん、微かに薬品臭いし。そこらの医者より丁寧にやってくれているかも。
「圓城、何でこんなこと出来んの?」
「これくらい本を読めばできる。まぁ、流石に治療具はなかったから知り合いの医者から勝手にもらってきたが。」
「それは立派な犯罪だ!」
知り合いって誰だよ?……その人が可哀想すぎる。
「……そんなことより、」
「いや、そんな事違う。」
一緒にその医者の所に謝りに行こう。
「ごめんなさい!」
圓城が深く頭を下げた。
「……へっ?」
えっ、何でこんな真剣に謝ってるんだ。俺にじゃないだろ。……医者にだろ。
「すまなかった。……まさか川がそんな怪我をするなんて。」
……どうやら俺の怪我に対しての謝罪らしい。
「いや、これは自業自得だから。」
「……許してくれるのか?」
圓城が上目遣いで見てくる。正直、美少女にこんなふうにいわれたら、怒っていても許さないわけにはいかないだろ。
「許すも何も俺は怒ってないし。そもそもあのストーカーが……そうだっ!山下さんは無事か?!圓城!ストーカーは二人いたんだ!」
「知ってる。」
「俺はそいつにやられて、だから犯人がまだ!」
山下さんが危ない!
「蒼夜が捕まえて警察につきだしたよ。」
「だから、……えっ捕まったの?」
「あぁ、」
「じゃあ、山下さんは。」
「無事だよ。何も知らず寝てるはずだ。」
「……そっか。よかった。」
俺は内心安堵した。体の力が抜けるのがわかる。まったく、情けない。
……蒼夜にも圓城にも迷惑かけた。俺はもっと強くならないとな。蒼夜が来てくれなかったら今頃、
「……そう言えば蒼夜はこんなタイミングよく助けにきてくれたよな。」
「……あぁ、」
「まるで襲われるのが分かってたみたいに。」
「……まぁな。」「……犯人が二人いたのはわかっていたんだが、片方がどうしても痕跡すらのこさなくてな。」
……こいつら、俺を囮に二重尾行していやがったな!
「つまり、犯人を刺激してあぶり出そうと。」
「あぁ、」
「因みに吸血鬼の話は、」
圓城は明後日の方向を向いた。……嘘か。
なるほど、俺がボコられてるのを黙って見てたわけか。
……まぁ、いっか。
「そっか。助かったよ、圓城。」
「えっ?」
圓城が驚いたようにこちらを向いた。
「圓城のおかげで山下さんのストーカー被害がこんなに速くなくなったんだ。いいことじゃないか。」
「怒らないのか?」
「怒らないって言質とられたからな。それに俺はボディーガードで山下さんについていたんだ。怪我の一つや二つ気にしないよ。」
俺は圓城に笑いかける、
「まぁ、吸血鬼なんて嘘言わずに普通に話してくれたらよかったのに。」
俺が意識しないようにしてくれたんだろうけど。
「……すまない。少しでも速く解決させようと急ぎすぎた。」
当然だ。女の子ならストーカーがいる事事態が許せないだろう。
「このままだと川が山下杏奈に惚れてしまうんじゃないかと。」
「どんな心配してんだ!」
くだらねぇ!
「川は惚れっぽいからな。」
圓城がケタケタと笑う。
「俺ほど一途なやつほかにいないぞ!」
まったく、失礼な。 こいつ全然反省してねぇ。
「……今何時。」
「12時過ぎた所だ。」
もうそんな時間か。
「圓城、悪いなこんな時間まで看病してもらって。もう帰って寝たほうがいい。」
しかし、圓城は首を振る。
「いや、今日はずっと川の側にいる。」
そう言って圓城はあろうことか俺のベットの中に潜り込んできた。
「ちょちょっと!圓城!」
何してんだこいつは!
「私はこれでも反省してんるんだ。」
隣からシップや薬品とは違う甘い良い匂いが漂ってくる。
「……川、私に出来ることなら何でもしよう。」
「いや、何で?」
「……わかるだろ?」
体をこれでもかというほど近付けてくる
「別に誰でもこんなことをするわけじゃないぞ!川が望むなら。……それとも嫌か?」
体と体の距離は零に、微かに震えているのがわかる程。
「……川の、今の素直な気持ちが知りたい。どんな言葉でも受け入れるから。」
「……俺は、」
俺も男だ、いくら駄目だと分かっていても欲望には勝てない。
だから正直に答えた、
「……静かに寝たい。」
「……。」
このあと圓城は日が昇るまで帰らなかった。
翌日、俺は血塗れの包帯に巻かれて発見され。
治療されていたにも関わらず病院に行かなくてはならなかった。